【Web版】大家さん、従魔士に覚醒したってよ(書籍タイトル:俺のアパートがダンジョンになったので、最強モンスターを従えて楽々攻略 大家さん、従魔士に覚醒したってよ)
第896話 疑わしきは罰するのが私の流儀だよ
第896話 疑わしきは罰するのが私の流儀だよ
階段を上って天国に移動した藍大達だが、地獄との雰囲気の変わりように目を奪われていた。
「長閑だな」
「悲鳴が聞こえないね」
「というか静か過ぎ」
『ちょっと走りたくなって来たよ』
「まだここは入口なのじゃ。もっと先に進めば変わるじゃろうて」
藍大達が本当にここが天国なのかと疑いたくなるのは当然だ。
何故なら、階段を上った先は青空が広がる何もない草原だったからである。
リルが走りたそうにしているから、藍大はリルに役割を与えることにした。
「リル、善人の魂が集まる場所まで俺達を運んでくれるか?」
『任せて!』
リルは尻尾を振ってご機嫌な様子で元の大きさに戻り、藍大達を背中に乗せた。
日々のダンジョン探索で強いモンスターの魔石を取り込んだ結果、藍大達全員を背中に乗せることぐらいどうってことないサイズになっているから、誰か飛んで行かなければならないなんてことはなかった。
乗る順番は伊邪那美、サクラ、藍大、舞になった。
舞とサクラが藍大に密着したいと言ったことから、藍大を挟む形で乗ることはすぐに決まったけれど、サクラが藍大の後ろに座ると当ててんのよを含めて悪戯しそうなのでサクラは藍大の前になった。
伊邪那美は一番前か一番後ろに乗るしかないので、どうせなら視界の良い一番前に乗った。
「それじゃリル、思う存分走って良いぞ」
『出発進行~!』
リルが全速力で草原を駆ければあっという間に善人の魂が集まる場所に着くだろうと思っていた。
ところが、いつまで経っても景色が変わらないので藍大は不思議に思った。
「おかしい。伊邪那美様、天国ってこんな何もない草原が続くの?」
「いや、そんなことはないはずじゃ。これは何者かに干渉されてると考えて良さそうじゃ」
「それなら話が早い。私の出番だね」
サクラはそう言って<
その直後、藍大達の周囲の光景がパリンと音を立てて割れ、藍大達は観光スポットになりそうな巨大な門の前にいた。
リルが止まっても藍大達はリルの背中から降りなかった。
何が起こるかわからない以上、このまますぐに移動できた方が良いからである。
「どうやら妾達は天国に入った瞬間から無限ループの結界に囚われてたようじゃの。サクラがその運命を捻じ曲げた結果、強制的に結界から脱出できたようじゃ」
「私達にとって良からぬ運命があったから全力で正してやった。多分、結界を仕掛けた奴はその反動で少なくないダメージを受けてるはず」
「流石はサクラ。偉いぞ」
「エヘヘ、もっと強く抱き締めてくれても良いんだよ」
サクラのリクエストに応じて藍大は後ろからサクラを強く抱き締めた。
突然、リルがピクっと反応して空を見上げたため、藍大はそれに気づいて同じように空を見た。
その視線の先には地獄で遭遇した分体のサイズの倍以上ある悪樓がいた。
「あれも分体か」
『5体分の分体が集まった個体みたいだね』
「二手に分かれる。舞とリルは騎乗戦闘。俺とサクラ、伊邪那美様は後方から攻撃だ」
「「『了解!』」」
「わかったのじゃ!」
藍大の指示に従ってリルの背中から藍大とサクラ、伊邪那美が降りて後ろに下がると、リルは舞が乗るのに適したサイズまで小さくなる。
そして、リルはダイブして来る悪樓の側面に回り込んだ。
「オラオラオラァ!」
舞は雷光を纏わせたミョルニルを握り締めて三連続で殴りつけた。
「ギョギョォォォ!?」
地獄では悲鳴を聞くこともなかったけれど、舞の三連撃を受けても辛うじてHPが残っていた悪樓はあまりの痛みに悲鳴を上げた。
「一体いつから攻撃がこれで終わりだと錯覚したの?」
サクラは舞の攻撃でバランスを崩した悪樓に対し、無数の深淵の刃で全方位から追撃を仕掛けた。
舞の攻撃で大ダメージを負っていたため、悪樓の分体はサクラの全方位攻撃に耐えられず消滅した。
「一丁上がりだね~」
「ただ合体しただけで私達を倒せると思ったら大間違い」
舞とサクラがドヤ顔で言ってのけた。
「お疲れ様。って、どうしたんだリル?」
藍大は舞とサクラを労った後すぐにリルが浮かない顔をしていたことに気付いて声をかけた。
『あのね、今回の一件はやっぱりロキ様が黒幕だと思うんだ』
「なんでそう思うんだ?」
『地獄で悪樓をじっくり鑑定した時、僕の視界に現れた情報はさっき悪樓を鑑定した時よりも少なかったんだ。それで何が原因なのかって考えたんだけど、今回はサクラが<
「・・・なるほど。地獄ではロキ様が<
『そうだよ』
リルの言いたいことを理解して藍大は困った表情を浮かべた。
リルは”ロキの神子”の称号も与えられており、不本意ながらロキと結びつきが深くなっている。
その結びつきを利用されたんだと主張するリルに対し、果たして状況証拠だけでロキを黒幕認定して良いものか悩んだのである。
悩む藍大の隣でサクラはふぅと一息つく。
「報復完了」
「サクラさんや、もしかしてやっちゃったのか?」
「疑わしきは罰するのが私の流儀だよ」
「それって大丈夫なの?」
「大丈夫。もしも違ったら疲れるけど<
「なんでもありだな」
サクラがロキに報復措置として<
疲れる程度で神罰をなかったことにできると聞けばそうなるのも当然だ。
藍大が伊邪那美の方を向くと彼女は首を横に振る。
「ロキから抗議の声は上がってないのじゃ。それどころか、北欧神話の他の神々に連絡を取ってみてもロキが誰とも連絡を遮断してると言っておるぞよ」
「今回は当たりっぽい?」
「抗議する暇があるなら全力で逃げるという意思表示の時点で当たりじゃな。問題はロキがなんで悪樓を第二の邪神に仕立て上げようとしてるかじゃ。動機を知っておかねば今後の対処に響くのう」
伊邪那美がテレパシーでトールやスカジのような北欧神話の神々に連絡を取った結果、ロキが黒幕であることは確定した。
ただし、何故ロキが悪樓を第二の邪神にしようと企んでいるのかわからなかったので伊邪那美は唸った。
舞とサクラは思いついたことを口にする。
「ロキ様のことだし、平和になって退屈だからじゃない?」
「もしくは物語の黒幕って面白そうとか愉快犯的な考え方でやったとか」
どちらも頷けてしまうため藍大は苦笑したが、自分も思いついたことを口にしてみる。
「それ以外だとすれば、平和になって冒険者を危険視する一般人が増えたから冒険者の価値を高めるためにわざと強敵を用意したとかだろうか」
マッチポンプ的発想で邪神を復活させようというのならば、それは迷惑以外の何物でもない。
『僕、一度ロキ様とじっくり時間をかけてお説教した方が良い気がする』
「それは賛成。だが、悪樓の本体を先に始末した方が良くないか? ロキ様に説教してる間に悪樓が邪神になっても困るし」
『そうだねって、また来たみたいだよ』
リルが言ったように先程現れたサイズと同じ悪樓の分体が現れ、藍大達を丸呑みにしようとダイブして来た。
それを察知して舞とサクラが迎撃する。
「邪魔すんじゃねえぞゴラァ!」
「消えてくれる?」
ミョルニルの投擲で怯んだところに10本の<
「協力者がバレて悪樓も焦ってるらしいな」
『敵わないってわかってて仕掛けて来るのはなんでだろうね?』
「仕方あるまい。藍大、ゴッドスレイヤーを使う許可を出すのじゃ」
悪樓を仕留めるため、伊邪那美は指を鳴らしてゴッドスレイヤーの封印を解いた。
その直後にはゴッドスレイヤーが藍大の手に握られていた。
「良いの?」
「構わんのじゃ。ダメージがフィードバックされるとわかっても強襲してくるような敵じゃ。何を考えてるかわからん以上、きっちり仕留める必要があるじゃろう。ロキが天国に悪樓の本体を匿えるようにしてるのなら、まだ何か隠し玉があると思った方が良いのじゃ。だったらこちらも出し惜しみしてる場合じゃなかろうて」
「今宵のゴッドスレイヤーは神の血に飢えておるぞ」
「主、まだ朝だよ」
「わかってる。言ってみたかっただけ」
藍大がボケるとサクラがツッコんだ。
状況は決して良い訳ではないけれど、藍大達は平常運転だった。
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