第887話 自爆系”ダンジョンロード”さんチーッス

 冷凍保存したアハ・イシュケはモルガナの<分解吐息デモリッションブレス>でバラバラの素材になった。


 その魔石はモルガナに与えられ、モルガナは嬉しそうにそれを飲み込んだ。


「やったでござる! <分裂学習スプリットラーニング>が<分裂支配スプリットドミネーション>に上書きされたでござる」


「モルガナ、喜んでるところ悪いんだけど何ができるようになったか教えて」


「分体の支配度が増して分体の体験をノーリスクでフィードバックされるだけでなく、本体と分体の位置を入れ替えられるようになったでござる」


「それってここにモルガナ本体が来れるってこと?」


「いかにもでござる!」


 司に訊かれて力強く頷いた直後、可愛らしいぬいぐるみボディの分体が尻尾の先端に瑠璃色の蛤がある群青色の龍に代わった。


「おぉ、モルガナの本体は初めて見た」


「いつもの姿とのギャップあり過ぎだろ」


「リル達が食べるために倒そうとした理由がわかる」


「デカい! バリバリ!」


 司はモルガナの本体を生で初めて見て感心した。


 健太は可愛い系だったモルガナがクールな龍になったため、ここまで変わるのかと驚いた。


 マージはこれだけ大きな龍が敵対していたならば、食いしん坊ズが倒して食べようとするのもわかると頷いた。


 アスタに至ってはボディービルコンテストの掛け声である。


「驚いてもらえるようでなによりでござっ!?」


 上体を逸らしてドヤ顔を披露した時、モルガナの尻尾に付いた蛤で踏んでいた場所が凹んだ。


 それだけはなく、何かのギミックが作動してフィールドの中心に宝箱がせり上がって来た。


「自爆系”ダンジョンロード”さんチーッス」


「煩いでござる! 拙者の尻尾ビンタを受けるでござるか!?」


「すみません。ごめんなさい。許して下さい」


 本体のモルガナに尻尾ビンタをされたら無事では済まないから、健太は即座にビシッとした土下座を決めた。


「謝るぐらいなら余計なことを言わなきゃ良いのに」


「それができるなら健太は健太ではなかろう」


 司とマージがジト目を健太に向けた。


 今回見つかった宝箱については固定もされていなければ鍵もかかっていなかったので、司達はそれを収納袋にしまった。


 宝箱を持ち帰れるのならば、それはサクラに開けてもらった方が自分達にとって価値のある物が手に入るからである。


 ただし、今回はモルガナが自爆してショックを受けていたことを考慮し、司達はモルガナに宝箱から好きな物を取り出して良いと告げた。


 自分の不注意が原因だったとはいえ、がっかりしたモルガナの姿があまりにも哀愁を漂わせていたからである。


 モルガナはそのままの姿だと通路を戻れないため、ぬいぐるみボディと入れ替わった。


 通路を戻ってから横穴を抜けたところ、そこは正方形のリングになっていた。


 その中心部にはドラゴン並みのサイズのスライムがおり、司達を見下ろしていた。


「ギガントスライムLv100。”掃除屋”だ。物理攻撃は効かないようだ」


「ヘイヘーイ」


 マージの説明を聞いてアスタは不満そうに呟いた。


 アスタは魔法系アビリティを会得していないので、ギガントスライム相手では囮にしかなれない。


 自分がこの戦いにおいて大して役に立てないという事実はアスタにとって気分の良いものではなかった。


「ちなみに、刺突や切断する攻撃を使うとギガントスライムは分裂するから司も攻撃を控えてくれ」


「わかった」


 マージの補足説明を受けて司も悔しそうに頷いた。


 現状ではギガントスライム戦でダメージを与えられるのは健太とマージ、モルガナだけだから、司はアスタと一緒に囮役だけ担うことにした。


 ギガントスライムが体を沈めてからその反動で大きく跳躍しそうだと判断して、マージはすぐに対応する。


「やらせぬよ」


 <深淵沼アビススワンプ>を広範囲を対象に発動したことで、ギガントスライムはジャンプできずに体の半分以上が深淵の沼に沈んだ。


「ボーナスタイムが来ちゃったぜぇぇぇ!」


「拙者もやるでござる!」


 健太は両手に持ったコッファーからエネルギー弾を乱射し、モルガナは<冷獄吐息コキュートスブレス>でギガントスライムの全身を凍りつかせた。


 その結果、身動きの取れなかったギガントスライムは氷漬けになったまま力尽きた。


 チームワークの勝利に健太とマージ、モルガナがハイタッチした。


 司とアスタは出番がなかったから蚊帳の外におり、ちょっぴり残念そうだったのは置いておこう。


 ギガントスライムの解体を進め、その魔石はマージに与えられた。


「ほう・・・」


「どうしたんだ? 何かすごいアビリティでも手に入ったのか?」


 健太が静かに喜ぶマージに声をかけると、マージは控えめに自慢するように魔石を飲み込んだ結果を告げる。


「<梟狼切替オウルフチェンジ>と<学者スカラー>が統合して<梟狼道化オウルフクラウン>になった。それに合わせて<不可視手インビジブルハンド>も会得した」


「<梟狼道化オウルフクラウン>ってどんな効果なんだ? <学者スカラー>と統合されたのに芸人みたいにおどける要素が増えた訳じゃないんだろ?」 


「かつて外国では宮廷道化師が権力者のお抱えになって、権力者に無礼な事や皮肉を言う役割をしてたらしい。知識がなければ無礼な発言も皮肉も口にできないだろうから、それがアビリティの由来なのだろう。梟紳士と今の尻尾が蛇になった狼の姿に変身できるのは今まで通りで、<学者スカラー>よりも詳しく鑑定できるようになったようだ」


「ふーん。さっき、<不可視手インビジブルハンド>も会得したって言ってたよな。ってことは、マージもサクラさんやリルみたいに遠くの物を手足で触れずとも動かせるのか」


「そういうことになる」


 マージのドヤ顔はなかなか引き締まらない。


 ちなみに、今のマージのステータスは以下の通りである。


-----------------------------------------

名前:マージ 種族:アモン

性別:雄 Lv:100

-----------------------------------------

HP:2,700/2,700

MP:3,300/3,300

STR:2,700

VIT:2,700

DEX:3,300

AGI:2,700

INT:3,300

LUK:2,700

-----------------------------------------

称号:藍大の従魔

   融合モンスター

   ダンジョンの天敵

   歩く魔導書

   到達者

二つ名:派遣されし紳士

アビリティ:<保留詠唱ホールドキャスト><緋炎柱クリムゾンピラー

      <吹雪砲ブリザードキャノン><深淵沼アビススワンプ

紫雷追尾サンダーホーミング><梟狼道化オウルフクラウン

鋼鉄棘メタルソーン><不可視手インビジブルハンド

装備:なし

備考:ご機嫌

-----------------------------------------



 アスタと違って魔法系アビリティしか保有していないことがわかる。


 それでも、狼形態の時はアビリティこそないが体当たりしたり素早く動くこともあるので、アスタのように何かの能力値が0になるようなことはない。


 マージが強化されたことは嬉しいが、いつまでもこの場で喜んでいては探索が進まないので司達は再開した。


 ギガントスライムを倒した後は一本道になっており、司達は雑魚モブモンスターと遭遇することなくボス部屋に辿り着いた。


 ボス部屋の扉を開けてその中に進んだ所、氷の宮殿とも呼ぶべき部屋の中央には雪でできた悪魔の翼を持つドラゴニュートの姿があった。


「フロストガーゴイルLv100。氷と水系統のアビリティを使う。今回は物理攻撃も効くぞ」


「Yes, yes, yes!」


 マージの説明を聞いた直後にアスタが3回続けて<致命斬撃クリティカルスラッシュ>を放ち、フロストガーゴイルの両翼を切断してその首を刎ねた。


 これで終わりかと思いきや、切断面からフロストガーゴイルの頭部と両翼が再生し始めたため、司がアスタの後に続いて攻撃する。


「これでも喰らえ!」


 ゲイボルグ=レプリカとアラドヴァル=レプリカを同時に投擲した。


 分裂したゲイボルグ=レプリカがフロストガーゴイルの体を削り、アラドヴァル=レプリカがフロストガーゴイルの体に風穴を開けてその後方に飛んで行った。


 再生力よりもダメージ量の方が多ければ、フロストガーゴイルにはどうしようもない。


 HPが尽きてガラガラと音を立てていくつもの氷の欠片になった。


 ギガントスライムの時は出番がなかった司とアスタの攻撃だけで終わってしまったけれど、順番だと言われればそれまでである。


 フロストガーゴイルの魔石はアスタが貰い受け、それを飲み込んだことで<長呼気砲ブリーズキャノン>が<闘牛気砲ブルキャノン>に上書きされた。


 思いきり吸い込んだ息にオーラを付与し、闘牛を模った砲弾を飛ばすから物理攻撃が効かない相手にも通用する。


 これでギガントスライムが相手でもアスタはダメージを与えられるようになった。


 4階でやるべきことは終わったため、司達はモルガナが増築を済ませた5階へと足を進めた。

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