第884話 野蛮でござる! 発想が脳筋でござる!

 イビルアイヴォルカスのいた広間から先に進もうとしたところ、いきなり前方でマグマが噴き出した。


 それが冷え固まって壁になったのだが、その壁には文字が刻まれていた。


「竹藪焼けた。烏賊のダンスは済んだのかい。イタいアタシ明日会いたい。共通点は何か。そんなもん回文に決まってるだろ」


 健太が問題を読み上げてすぐに答えを口にした結果、壁の下からヴォルカススイーパーが這い出てきて、壁を飲み込んで大きくなった。


「いや、なんでだよ!?」


 健太はそうツッコミながらコッファーでヴォルカススイーパーを撃ち殺した。


 その一方で司はモルガナに訊ねていた。


「モルガナ、今のギミックってバグってない?」


「あれで合ってるでござる。答えが合ってたらヴォルカススイーパーが単体で現れ、間違ってたら通路の奥からクリムゾンオーガの群れが出て来る仕様でござる」


「合ってても間違ってもモンスターが出現するんだね。面倒なギミックだ」


「ぶち壊してしまえば良かろう」


「そんなことを言い出すマージがいると思ったから、壊したら”掃除屋”相当のモンスターが出て来るようにしたでござる」


 マージの思考パターンはお見通しだと言ってモルガナはドヤ顔になった。


 だが、マージの捉え方はモルガナの想定とは違った。


「その強敵を倒せば魔石にも素材にも期待できる。やはり壊そう」


「野蛮でござる! 発想が脳筋アスタでござる!」


「オイコラ今なんて言った?」


 モルガナのコメントが許容し難いものだったため、マージはちょっと待てとモルガナに詰め寄った。


 アスタは呼んだかねとサイドチェストでアピールしたが、今は誰もそれに触れたりしなかった。


 マージは魔法系アビリティを主体に戦う従魔であり、”歩く魔導書”の称号も保有していることから自分がそこそこ賢い認識だった。


 無論、リル、パンドラ、ブラドに比べれば一枚落ちるのだが、それでもアスタと同類扱いされるのは癇に障ったようだ。


 マージがモルガナを今にも咥えて振り回すかもしれなかったので、司がその間に入る。


「モルガナもマージも落ち着いて。モルガナ、ダンジョンの探索方法は十人十色なんだし、そこにケチをつけるのは駄目だよ。マージ、僕はギミックを壊すのもありだと思うから、次に出てきたらやってみよう」


「わかったでござる」


「わかった」


 パンドラがいつも苦労していたことから、パンドラがパーティーを移籍してから藍大はマージ達に対して司に迷惑をかけないことを厳命されていた。


 パーティーの常識枠に迷惑をかけると探索が進まないからという意図があっての命令だが、藍大からそう言われればマージ達はそれをちゃんと守る。


 それゆえ、司が仲裁したことでモルガナもマージもおとなしくなった訳だ。


 戦利品の回収を済ませた後、進んでいくと再びギミックが作動してマグマが冷え固まってできた壁に問題が記された。


「今回は壊してみよう。アスタ、壊しちゃって」


「OK!」


 司に頼まれたアスタは<致命斬撃クリティカルスラッシュ>で岩を壊してみせた。


 その直後にダンジョンが揺れて壊れた岩の真下から溶岩が噴き出し、それが巨大なゴーレムのように変形した。


「ヴォルカスキーパーLv95。能力値は確かにイビルアイヴォルカス並みだ」


「俺が凍らせて鈍らせる!」


「手伝おう」


 健太が氷の槍を創り出して放ち、マージもそれに続くように<吹雪砲ブリザードキャノン>を放った。


 巨体ゆえに動きが遅いヴォルカスキーパーは健太とマージの攻撃に当たってしまい、命中部分が凍って更に動きが鈍くなる。


「凍った部分は砕かないとね」


 司はゲイボルグ=レプリカを凍った部位目掛けて投げて、見事にその部位を砕いてみせた。


 バランスを崩したヴォルカスキーパーは前に倒れ込み、大きな音を立ててダンジョンを揺らした。


 しかし、ヴォルカスキーパーはタフさが売りなのでこれだけではまだ倒されず、体を溶岩化して体を作り直して立ち上がった。


「モルガナ、アビリティの試し撃ちはしなくて良いの? 良いなら倒しちゃうけど」


「待つでござる! 拙者も戦うでござる!」


 司に声をかけられたモルガナはこうなれば自棄だと思って<十億雨槍ビリオンランス>を放った。


 夥しい数の雨の槍が降り注ぎ、ヴォルカスキーパーのHPは見る見るうちに削り取られて力尽きた。


「フフン、拙者無双でござるよ」


 とどめを刺して気分が良いモルガナだった。


 ヴォルカスキーパーを解体してその魔石は順番だからマージに与えられた。


 毛並みが良くなるのと共に、マージの<大地棘ガイアソーン>が<鋼鉄棘メタルソーン>に上書きされた。


 足元からのダメージ量が増えたため、上手く使えれば戦闘が更に優位に進められるだろう。


 ギミックは壊されて以降出現しなくなり、ヴォルカススイーパーとクリムゾンオーガとの戦闘を何度か行った後で司達はボス部屋の扉を見つけた。


「3階のフロアボスは移動しないで待ち受けるんだね」


「その通りでござる。1階や2階のボスとは違ってどっしり待つタイプのボスでござる」


 司の質問にモルガナは得意気に応じた。


 準備が整ってからボス部屋の扉を開けたところ、ボス部屋は今までの迷路よりも暑くなっていた。


 その原因は部屋を囲むマグマの海だ。


 このボス部屋は扉から中心部のステージを除いて全てマグマであり、足場が壊されればマグマに落ちる仕様になっているのである。


 そして、フロアボスはステージの上ではなくマグマの海の中にいた。


「クラーケンがマグマの中にいるってどゆこと? 茹で上がらないのか?」


 赤いクラーケンが涼しげな表情でマグマの中にいるのだから、健太がそう指摘するのも当然だ。


「マグクラーケンLv100。複数の属性のアビリティを扱うようだ」


 マージはそのまま鑑定した結果を司達に共有する。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:マグクラーケン

性別:雌 Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,300/3,300

MP:3,000/3,000

STR:3,000

VIT:3,000

DEX:3,000

AGI:2,400

INT:3,300

LUK:2,700

-----------------------------------------

称号:3階フロアボス

   到達者

アビリティ:<苦痛墨雨ペインレイン><破壊乱打デストロイラッシュ><溶岩大波マグマウェーブ

      <連鎖爆発チェーンエクスプロージョン><吸収捕食ドローイート><痛魔変換ペインイズマジック

      <全半減ディバインオール><自動再生オートリジェネ

装備:なし

備考:餌が妾の前にノコノコと現れたわね

-----------------------------------------



「決めた。こいつ狩って藍大に海鮮バーベキューしてもらう」


「創造主たる拙者を餌扱いとは許さんでござる。食べるのは拙者達でござる」


 健太とモルガナはマージの鑑定結果、特に備考欄の内容を聞いて怒った。


 司も健太とモルガナ程ではないがムッとしており、アスタに指示を出した。


「アスタ、ヘイト集めよろしく。存分に暴れて良いからね」


「OK! マッスルイズビューティフォー!」


 アスタが司の指示を受けて<賛筋昂耐マッスルインプライド>と<絶対注目アテンションプリーズ>を発動すれば、マグクラーケンの注意はアスタだけに向かう。


 手始めに<破壊乱打デストロイラッシュ>を放つが、アスタは<破体術デストロイアーツ>で捌きつつポーズを決めるものだから、それがまたマグクラーケンのヘイトを稼ぐ。


 その隙に司と健太、マージ、モルガナがマグクラーケンにダメージを与えていく。


 司はグラスカルプを使って脚を切断し、モルガナも<吹雪飛斬ブリザードスラッシュ>を使って脚を切断する。


 それでもマグクラーケンの<痛魔変換ペインイズマジック>と<全半減ディバインオール>、<自動再生オートリジェネ>による耐久の壁は厚く、アスタに降りかかる攻撃範囲の広さからマージがアスタのサポートをせざるを得なくなった。


 戦い続けること30分、回復量よりもダメージの方が多くてじわじわと削っていたHPがようやく尽きてマグクラーケンはマグマの海に力なく浮かんだ。


 戦利品回収をした後、司は魔石を持ってアスタに近づいた。


「マグクラーケン戦のMVPはアスタだよ。盾役タンクしてくれてありがとう」


モウ マン タイ


 言葉を区切ってポーズを3つ披露した後、アスタはマグクラーケンの魔石を飲み込んだ。


 その結果、アスタの<破壊投擲デストロイスロー>が<致命投擲クリティカルスロー>に上書きされて遠距離攻撃の強化に成功した。


 アスタの強化が終わればこの階でやるべきことはなく、火山の迷路でパーティー全員が疲れていたこともあったので司達は帰還することにした。

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