第883話 拙者がただの怠け者じゃないと証明するでござる

 節分の日、朝一で豆まきをしてから司達はシャングリラリゾートの迷路ダンジョンにやって来た。


 昨日は2階までクリアしたから、今日は3階に挑戦する。


「生垣と岩の次は火山の迷路かぁ」


「防具を更新してなかったらやばかったな」


 司と健太はシャングリラダンジョン地下16階でガイアドラゴンを倒したから、ガイアドラゴンの素材を使ったレザーアーマーを身に着けている。


 ミドガルズオルムの素材を使うか悩んだが、ガイアドラゴンの素材の方が耐久力に特化しており、薄いレザーアーマーでも耐久性が高いのでこちらを選んだのである。


 ガイアドラゴンは海と空以外どこでも生きていける特性があり、ガイアレザーを身に着けていれば火山であっても少し熱いぐらいで済む。


 それに対して狼形態のマージとぬいぐるみボディのモルガナは暑そうにしている。


「さっさとクリアしよう」


「賛成でござる」


「”ダンジョンロード”のモルガナが暑さに苦しむってどうなの?」


「拙者は快適な生活を覚えてしまったゆえ、以前よりも気候の変化に弱くなった気がするでござる」


「ドラゴンがそれで良いの?」


 何を言っているんだこの駄目竜はという視線を司が向けると、モルガナは視線を逸らして口笛を吹いた。


 そのメロディーが雪の女王が歌う曲だったため、モルガナは思い込みも使って涼もうとしているのかと司は呆れた。


 その一方で特に暑さをものともしないアスタがいるので、健太はアスタに訊ねてみた。


「アスタ、暑くないのか?」


「筋肉は暑さに負けない」


「筋肉万能かよ」


「筋肉があればなんでもできる」


 そろそろアスタが健太に筋肉の良さを布教し始めるんじゃないかと思った時、通路の奥からドロドロしたマグマが流れて来た。


「ほう、ギミックではなくモンスターか」


「マージ、モンスターなの?」


「そうだ。あれはヴォルカススイーパーLv90。移動する時はマグマに擬態し、戦う時は相手に合わせて姿を変えるマグマスライムの最終進化形態だ」


 マージが司達に鑑定結果を説明した直後、ヴォルカススイーパーはいくつものマンティコアの姿に変形した。


 どうやらマグマになって流れて来た時に複数の個体がまとまっていたらしい。


「働キタクナイデゴザル」


「労働ハ敵。サボリ万歳」


「仕事トイウ拷問ニハ屈シナイ」


 元々のヴォルカススイーパーに口は見当たらなかったが、マンティコアの姿に化けて発声器官を作ったことで喋れるようになった。


 ところが、喋った内容が働くことを拒否するニートの思考だったため、司達はモルガナにジト目を向けた。


「な、なんでござるか? 拙者をそんな目で見ないでほしいでござる」


「これはモルガナに合わせてるでしょ」


「言動がモルガナだよな」


「情けない」


「良い汗かこうぜ」


 自分のせいじゃないと言いたそうにしているが、そんなモルガナに対して司達はモルガナのせいだと判断してジト目を止めなかった。


 無視されたのが嫌だったらしく、ヴォルカススイーパーはマンティコアの姿のままマグマの弾丸を乱射し始めた。


「俺のターン!」


 健太がエネルギーの壁を創り出して自分達を敵の攻撃から守り、その直後にマージが<深淵沼アビススワンプ>でヴォルカススイーパー達を深淵の沼に引きずり込んだ。


 沼に体全体が引きずり込まれては困るので、ヴォルカススイーパー達はマグマの姿になって外に這い出ようとした。


「拙者がただの怠け者じゃないと証明するでござる」


 モルガナが<百万雨槍ミリオンランス>を発動すれば、深淵の沼から這い出ようとするのに必死なヴォルカススイーパー達は避けることができずに力尽きた。


 ヴォルカススイーパー達の抵抗が見受けられなくなったため、マージは<深淵沼アビススワンプ>を解除した。


 力尽きたヴォルカススイーパーはボーリングの球ぐらいに縮んだ。


 それらを回収してから司達は先へと進み、ヴォルカススイーパーとの戦闘を何度か行ったが難なく倒した。


 ヴォルカススイーパーとの戦闘に飽き始めた頃、大きな足音が通路の奥から聞こえて来た。


「この足音、ヴォルカススイーパーじゃないよね」


「ヴォルカススイーパーなら音をほとんど立てずに這い寄るはずだ。別種のモンスターに1票」


「見えた。クリムゾンオーガLv90。火山に適性のあるオーガ。通常のオーガの1.5倍は大きい」


 司と健太にはまだぼんやりとしか見えていなかったが、マージには敵の姿がはっきり見えていた。


 それは深紅に染まった筋骨隆々のオーガであり、手に持っているのは斬馬刀だった。


「ほう、良い筋肉してるじゃないか。磨けば光りそうだ」


「アスタって筋肉に関する話だと普通に喋るよね」


「筋肉以外はどうでも良いから頭を使ってないんじゃね?」


 アスタがキリッとした表情で言い出す者だから、司と健太がひそひそと話した。


 クリムゾンオーガは3体いて、司達を見つけたそれらは斬馬刀を振り上げた状態で走り始めた。


「「「ぬぉぉぉぉぉ!」」」


「グゥゥゥレイトォォォォォ!」


 アスタは<致命斬撃クリティカルスラッシュ>を放ち、上段から斬馬刀を振り下ろそうとして剥き出しな胴体を3体まとめて真っ二つにした。


「アスタ、ナイスバルク!」


「Oh, yes, yes, yes!」


 一撃でクリムゾンオーガ達を倒したアスタは健太の掛け声を聞き、勝利のボディービルショーを始めた。


 それを冷ややかな目で見るのは司とマージ、モルガナである。


「写真撮影完了」


「尻尾ビンタ待ったなし」


「そうでござるな」


 解体作業もせずにボディービルショーではしゃぐ健太とアスタという写真を撮り、司はパンドラに報告する時の証拠を用意した。


 マージもモルガナも慈悲なしと頷いたあたり、戦って勝ったことが嬉しいのはわかるがまずはやることをやるべきというスタンスらしい。


 戦利品の回収を済ませて先に進んでいると、何度かクリムゾンオーガとの戦闘が行われた。


 それらも問題なく終わって広間に到着したところ、そこには二対四枚の蝙蝠の翼を生やしたモノアイが待機していた。


 そのモンスターの体は深紅に染まっており、目を中心に邪悪なオーラを纏っていた。


「イビルアイヴォルカスLv95。”掃除屋”だ。遠距離からガンガン攻撃してくる。目が危険だ」


「三槍流の良い実験台になりそうだ。僕がやるよ」


 司はゲイボルグ=レプリカに加え、アラドヴァル=レプリカとグラスカルプを収納袋から取り出した。


「援護ぐらい良いよな? 俺も二丁コッファーを試したいし」


「わかった。よろし、危ない!」


 司はイビルアイヴォルカスの目が光ったため、その場から横に飛んで攻撃を回避した。


 何が起きたかと言えば、イビルアイヴォルカスが<爆轟眼デトネアイ>で司達を爆破しようとしたのだ。


 司とマージは横に飛んで避け、健太はエネルギーの壁で自分とアスタ、モルガナを守った。


「反撃開始!」


 司がゲイボルグ=レプリカを投擲すれば、イビルアイヴォルカスは分裂したゲイボルグ=レプリカから身を守ることに必死になり、炎の柱を自分とゲイボルグ=レプリカの間に挟んで何とかしようとした。


 それでも、ゲイボルグ=レプリカがその程度の守りを突破できないはずがなく、炎の柱から飛び出したそれに瞼の上を刺された。


「オラオラオラァ! ダンスしてみせな!」


 健太は両手のコッファーから実弾をガンガン撃ち、イビルアイヴォルカスは翼で目を守りながら後退した。


 その隙に司がイビルアイヴォルカスとの距離を詰め、健太が銃撃を止めたのと入れ替わるようにして右側の翼全てを削り落とした。


 左側の翼だけではバランスが取れず、イビルアイヴォルカスは地面に墜落する。


 この時になって初めてイビルアイヴォルカスはここが自分の死地になると悟り、無差別に魔法系アビリティを発射しまくった。


「悪足搔きは止めてくれる?」


 健太のサポートもあって全ての攻撃を掻い潜った司が正面まで辿り着き、イビルアイヴォルカスの目に向かってグラスカルプを投げれば、派手に血飛沫を上げてイビルアイヴォルカスは力尽きた。


 注がれたMPがなくなってチェーンソーの動きが止まってから、司達はイビルアイヴォルカスの解体を行った。


「司、次は拙者が魔石を貰って良いでござるか?」


「勿論だよ。はい、どうぞ」


「かたじけないでござる」


 司から魔石を貰ってモルガナはそれを飲み込んだ。


 それにより、モルガナの<百万雨槍ミリオンランス>が<十億雨槍ビリオンランス>に上書きされた。


 広域殲滅に使えるアビリティが強化されてモルガナはご機嫌になった。


「フッフッフ。拙者、これならLv100の雑魚モブ相手に無双できるでござる」


「良かったね」


 喜ぶモルガナが隙だらけだったため、司はちゃっかりモルガナの頭を撫でてみた。


 それでもモルガナは自分の手を振り払わなかったので、司は満足するまでモフモフしたモルガナのぬいぐるみボディを堪能することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る