第882話 ふざけたつもりが良い物を作ってしまった

 司達は昼食後、地下神域に集まってドライザーに今日の戦果を見せていた。


「ドライザー、何か面白い武器とかできない? キリングフレームのチェーンソーとか、ダンジョン内だけ強度が上がる宝箱とか持って来たんだけど」


『少し待たれよ』


 ドライザーは司に何か新しく武器を作れないか訊ねられて真剣に考え始める。


 そこで健太が余計なことを口にする。


「シンキングタイムにはBGMがセットだよな」


 そう言いながら、健太はスマホからとある筋肉が売りの芸人が登場してネタを披露する時に流れる曲を流した。


「Hey, come on!」


 健太がふざけて流した曲のせいでアスタにスイッチが入り、即席ボディービルショーが始まる。


 だが、それはすぐに終了することになる。


『気が散るから静かにしてほしい』


「「ごめんなさい」」


 健太とアスタはドライザーに言われておとなしくなった。


 そこに散歩中のパンドラとミオが現れた。


「頼み事しといてドライザーの邪魔するってどういうこと?」


「ヒェッ」


「成敗」


「あべしっ」


「ヌゥン!」


 パンドラの尻尾ビンタを受けて健太は悲鳴を上げ、アスタは変な声で呻いた。


「僕達は散歩に戻るけど、司とマージは健太とアスタがドライザーの邪魔をしないように見張っといてね」


「わかった」


「心得た」


 司とマージの返事を聞いてパンドラは満足そうにミオと散歩に戻っていった。


 通りすがりのパンドラの尻尾ビンタを受けたことにより、健太とアスタは地面に倒れてピクピクしていた。


 ”裁神獣”になってパンドラの尻尾ビンタの威力は上がり、受けて少しの間は反省タイムに入って身動きが取れない状態でヒリヒリする痛みに耐えねばならないようだ。


 そうしている間にドライザーは新しい武器を思いついたらしい。


『司、ゲーミングイールの発光袋とヒュマンドラの根っこは持ってるか?』


「確か在庫があったはず。ちょっと待ってて」


 司は収納袋に手を突っ込んでドライザーに注文された品を取り出す。


 司達のパーティーは今、シャングリラダンジョンの地下17階に到達する実力がある。


 まだ雑魚モブモンスターとしか戦っていないので、ゲーミングイールの素材とアンフィスバエナの素材はだぶついている。


 それでも、調合に使える素材は基本的に奈美に渡してしまうから在庫があるか心配だった。


 結果として、収納袋の中にはドライザーが必要とするだけの量があった。


 キリングフレームの頭部とチェーンソーと条件付きで強度が増す宝箱、ゲーミングイールの発光袋とヒュマンドラの根、アダマンタイトを1ヶ所にまとめ、ドライザーは<鍛冶神祝ブレスオブヘパイストス>を発動した。


 全ての素材が光に包み込まれ、その光の中でそれらのシルエットが槍に変化する。


 光が収まって現れたその武器は刃の部分が極細チェーンソーになり、刃の腹の部分にはゲーミングカラーに輝くモノアイがあった。


 石突の部分はヒュマンドラの根が絡まって四角錐になっており、槍全体はアダマンタイトベースで黒く染まっている。


「ゲーミングカラーに光るモノアイの主張が激しいね」


「司、このグラスカルプは見た目もユニークだが、その性能もユニークだぞ」


 完成したグラスカルプの効果を<学者スカラー>でチェックしたマージは司にその性能を説明し始めた。


 MPの消費量に応じてチェーンソーの回転数が上がる。


 これは見た目から想像するのに難くない性能だ。


 しかし、石突にMPを流せばモノアイからヒュマンドラの鳴き声が再生されるのは予想できないだろう。


 それだけでなく、ダンジョンに入るとモノアイの輝きが強まる効果まであった。


 注目を集めるのに適した槍だと言えよう。


 司はグラスカルプをドライザーから受け取り、誰にもぶつからないように離れてから突きや薙ぎ払い等の動作を試してみる。


「投擲するには向かないかな。手に持って使う分には上手く使えそうだけど」


「投げるならゲイボルグ=レプリカがあるからそうであろうな」


 司の言い分を聞いてマージが頷いた。


 司はそのまま三刀流ならぬ三槍流で戦うイメージを掴むべく素振りを始めたので、健太は司のターンが終わったと判断してドライザーに話しかける。


「ドライザーさん、次はふざけないので俺の武器もおねしゃす!」


『先日ミドガルズコッファーを作ったばかりであろう?』


「俺も二丁コッファーとかやりたいです!」


『・・・健太には無理だ』


「諦めたらそこで試合終了だぜ、ドライザーさんよぉ!」


 二丁コッファーをしている健太を想像したドライザーだったが、どうしても使いこなせずに片方を持て余すイメージしかできなかった。


 健太はドライザーに2つ目のコッファーを作ってもらいたいから、某監督のセリフをアレンジして伝えた。


 もっとも、それは残念ながらそのアレンジのせいで三下チックなものになっていたが。


『仕方のない奴め。では、ゲーミングイールの発光袋とヒュマンドラの根っこ、タクティカルフレーム丸々1体、ハーピークイーンの鉤爪、ガイアドラゴンの鱗を用意せよ』


「ちょっと待っててくれ。今出すから」


 ドライザーに指定された素材を司と共有している収納袋から取り出し、健太はそれらをドライザーに渡した。


『では作ってみよう』


 ドライザーはそのように言ってから<鍛冶神祝ブレスオブヘパイストス>を発動した。


 全ての素材が光に包み込まれ、その光の中でそれらのシルエットがコッファーに変化する。


 ただし、光が収まるとシルエットだけではわからなかったコッファーの表面がガイアドラゴンの鱗で覆われていた。


 そのおかげで通常よりも少し高級感が出ているように思える。


「ガイアドラゴンの鱗のおかげでこのコッファーが上品に見えるぜ」


「健太、このDSロアは見た目こそ上品だが、その性能はユニークだぞ」


「そんな予感はしてた。マージ、そのまま解説よろしく」


「よかろう」


 マージは完成したDSロアの効果を<学者スカラー>でチェックし、それを健太に説明し始めた。


 MPの消費量に応じて魔力弾ごとの威力が上がる。


 これは他のコッファーでも変わらないので想像しやすい。


 しかし、隠しボタンを押すことでコッファーが変形するようになっていたのはワクワクする仕様だっただろう。


 変形できる姿が3つあり、ゲーミングイールとヒュマンドラ、ハーピークイーンの見た目になって自動で武器使用者の戦闘をサポートする。


 まずはゲーミングイール形態だが、ゲーミングカラーで光りながら敵の注意を集めまくる囮役だ。


 敵の観点で言えばなるべく見ずに健太を狙いたいだろうけど、視界に一度入ってしまえば目から離せないゲーミングイールを模したロボットの登場で集中力が削がれる。


 次にヒュマンドラ形態では実弾でも魔力弾でも構わないが、それを口内から実弾か魔力弾のどちらかを射出予定だ。


 しかも、弾丸が発射されるときはヒュマンドラの鳴き声がする仕様である。


 最後にハーピークイーン形態だが、周囲を飛び回って偵察するのに役立つ。


 無論、ゲーミングイール形態の時とは違って変形中ずっとゲーミングカラーに光ることはない。


 注目を集めるならゲーミングイール形態を使う。


 ヒュマンドラ形態のはその口から注意を集める音と共に弾丸が発射させて牽制の役割を担う。


 ハーピークイーン形態では偵察を行って情報収集を行う。


 以上のように変形した先でちゃんと用途が分かれている。


『ふざけたつもりが良い物を作ってしまった』


「そんなこと言わねえで下さい。ミドガルズコッファーと上手く使い分けてみせるぜ」


 ドライザーが若干悔しそうに言うものだから、健太がちょっと待ってほしいと言わんばかりに抗議と宣言を行った。


 DSロアが完成したところで地下神域に遊びに来ていた藍大とフィアがそこにやって来た。


「ドライザーは武器を作ってたのか。出来栄えはどんな感じ?」


『司のも健太のも面白く使い道のある物ができた』


「神器にはなってないんだな」


『ボスのゴッドスレイヤーみたいに作って即封印は悲しいので抑えた』


 ゴッドスレイヤーはドライザーが気合を入れて作った結果、伊邪那美に封印されて神殿に保管されている。


 その二の舞にならないようにドライザーは程々に抑えていたらしい。


 新しい武器が無事に完成したため、司達は明日のダンジョン探索が楽しみになった。


 この後、健太が帰宅して未亜に新しい武器を自慢して未亜が羨ましそうにしたのはまた別の話である。

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