第880話 お~いマージ、壁壊しチャレンジしようぜ

 戦利品回収を済ませた後、フロアボスを倒したことで現れた階段を上がって司達は2階に移動した。


「2階は岩の迷路なんだね」


「フッフッフ。拙者がずっと生垣の迷路にする訳ないでござろう?」


 司の感想を聞いてモルガナは得意気にそう言った。


「お~いマージ、壁壊しチャレンジしようぜ」


「良いだろう」


 健太とマージが早速自由にやり始めようとしたその時、岩の壁からボコッと音がして壁が分解されてサイコロカットされた。


 いくつもの立方体はすぐに連結して大蛇の姿に変わった。


「ダイスチェンジャーLv70。サイコロの面と同じ数だけ変形できる無機型モンスターだ」


「大きいと狙いやすいよ、ね!」


 司が自分のリズムでゲイボルグ=レプリカを投擲したら、それが空中で分裂して大蛇形態のダイスチェンジャーに刺さった。


 それでも無機型だからあまり効果がないかもと思った司だったが、分裂した槍のいずれかが偶然ダイスチェンジャーの核となる部分を貫いたようだ。


 ダイスチェンジャーは槍が刺さってからピクリとも動かなくなったため、2階に来て早々に出くわした個体は倒せたらしい。


「俺の出番・・・なさ過ぎ・・・」


 健太は倒されてしまったダイスチェンジャーを見て焦りが乗じたようだ。


「Hey, boy. Don't mind」


「アスタ、お前って奴は!」


「Oh, yeah!」


「Yeah!」


 健太はアスタと同じポージングを何度か繰り返してすぐに元気を取り戻した。


「単純って便利だね」


「そうでござるな」


 司とモルガナは放置しているとアスタが即席のボディビルのお披露目会を始めてしまうと思い、戦利品回収を済ませたら先に進んだ。


 それから先、毎回ダイスチェンジャーが違う形態に変化してくれたものだから、司達は飽きずにダイスチェンジャー狩りを楽しめた。


 ダイスチェンジャーが蟹や馬等に変化している間は無防備だから、一般的には変身中にチクチク攻撃を仕掛けて倒すのだろう。


 ところが、司にはゲイボルグ=レプリカもあるから、ダイスチェンジャーが変身中に投擲してしまえば一撃必殺である。


 健太も武器や防具はちゃんと装備しているので、普通に使えばダイスチェンジャー如きでは司達のパーティーを止められるはずないのだ。


 ダイスチェンジャーが出て来なくなると、通路の奥から二足歩行のゴーレムが正座した状態でキャタピラの上に載って現れた。


 正座しているゴーレムの両腕にはバズーカが備え付けられていて、いつでもぶっ放せるように準備万端だ。


 司達が射程圏に入った途端、正座戦闘車と呼ぶべきゴーレムは両腕のバズーカから大きい実弾が発射された。


 しかし、そこはもうアスタがポージングをしながらキャッチして投げ返してしまうから敵ばかりに被害が出た。


「マトンチャリオットLv75。バズーカの実弾にアダマンタイトが使われてる」


「つまり、バズーカを確保できれば僅かながらアダマンタイトが回収できるってこととでござる」


「ぶっ壊す!」


 アスタがそろそろ実弾を捌くのに飽きてきたため、アックスを地面に叩きつけてダンジョンを揺らす。


 アスタのアックスはアダマンタイトも多分に含まれているからちょっとやそっとじゃ壊れたりしない。


 ダンジョン内が揺れて地面が隆起したと思えば、そこにキャタピラが引っかかって動けなくなってしまった。


「ダイスチェンジャーは良い感じで対処できてたのに、一体なんでマトンチャリオットの時は非常識な対策でどうにかしようとするでござるか?」


「モルガナ、ブラドだってきっと藍大達にダンジョンを探索される度にもっとすごい絶望感を味わってるだろうから、これぐらい我慢しなきゃ駄目だよ」


「そうでござるな。ブラド先輩の状況に比べればマシでござる」


 モルガナは司に励ましてもらって立ち直った。


 通路の奥から異常事態の発生を検知してマトンチャリオットが次々に出て来ると、冷静に対応していたマージがイラっとし始めて<緋炎柱クリムゾンピラー>で熔かしていく。


 火柱の中でマトンチャリオット達は次々に熔けてしまい、途中から司達の出番はなくなってしまった。


 倒したマトンチャリオットからアダマンタイトがそこそこ回収できたため、とりあえず司達の中でマトンチャリオットは狩ってお得な敵という認識だった。


 ダイスチェンジャーやマトンチャリオットと何度か戦ってから通路がギミックありのものに変わった。


 通路に棘付きの棒が直線で進めないように配置され、それが回転しているのだから注意しなければなるまい。


 間違っても回転している棘付きの棒に触れられないから、司達は慎重に先に進む。


「一旦止まれ」


「どうしたのマージ?」


「ここから先の天井の裏に何か仕掛けられてる。スイッチを踏むか重量オーバーでその何かが落ちてくる可能性が高い」


 そこまで聞いた司はパーティー内で決を採る。


「走って駆け抜けるのに賛成なら手を挙げて」


 手を挙げたのはモルガナと司以外全員だった。


 モルガナが手を挙げなかったのはダンジョンの改装したのが自分だからだ。


 どちらかに手を挙げればそちらが攻略にとって有効だと思われてしまうので、棄権するしかないのである。


 司は出題した自分がそのままどっちか選ぶと回答するメンバー達の答えに影響してしまうから黙っていた。


 それはさておき、走って駆け抜けるという考えがメジャーなようなので司達はマージに先導されてすいすいこのエリアをクリアした。


 マージが先導しなかったら、刃物やら防具だけ溶かす液体、とりもち等が天井から降って来る予定だったが、その事態にはならなかった。


 その先に広間があったのだが、どういう訳か穴と盛り土だらけだった。


 そこにゴゴゴゴゴと音を響かせて出て来たのはモグラを模したゴーレムであり、黒光りしていることから全身アダマンタイト製なのは間違いない。


「”掃除屋”のアダマントモールLv80だ。少しは戦い楽しめそうだ」


 マージがニヤリと笑って言った次の瞬間にはアダマントモールが穴の中に引っ込んだ。


「モグラ叩きの要領でやるか」


「待ってました!」


 健太はエネルギーの壁を穴を1ヶ所だけ残して覆うように創り出し、1つしかない穴に飛び出して来たところを攻撃する作戦だ。


 アダマントモールは最初だけエネルギー壁とぶつかっていたけれど、学習して塞がれていない穴にひょっこり顔を出したタイミングで叩く。


「来た!」


「いらっしゃ~い!」


 健太は良い笑顔を浮かべてアダマントモールの顔面に火の球にぶつけた。


 健太に対してアダマントモールが反撃に出ようとするが、健太を狙って何か攻撃をしようとした瞬間にマージが緋色の炎の柱を創り出してそれを阻止する。


「僕も火力を増強するよ」


 司はゲイボルグ=レプリカではなく、アラドヴァル=レプリカを取り出して緋色の炎に包まれたアダマントモールに向かって投げた。


 高熱によっていつもより多少柔らかくなっており、炎の柱の勢いが増すのと同時にアダマントモールの動きがどんどん鈍くなる。


 結局、アダマントモールはそのまま動かなくなって戦利品回収に移った。


 アダマントモールの魔石はマージに与えられることになった。


 魔石を取り込んだことにより、マージの<紫雷光線サンダーレーザー>が<紫雷追尾サンダーホーミング>に上書きされた。


 直線でしか飛ばせなかったものを追尾させられるようになれば、戦略的にガラッと変わる。


 マージはアビリティが更に使いやすくなって喜んでいた。


 マージの強化と戦利品の回収が終われば、後はさっさとフロアボスを探しに行くだけなのだが、狼形態のマージが穴だらけになった広間の中にを何かを察知した。


「ちょっと待ってほしい。何かひっかかる。多分宝箱があるだろう」


「なんだって! それは本当かい!?」


 マージがもう少しで場所も特定できそうな口ぶりでいると、健太が宝箱欲しさに食い気味に反応した。


 1階にはなかった宝箱があるかもしれないと思えば、健太のテンションが高くなるのは否定できない。


 それから、マージが慎重に調べた結果、下の空洞はただの蟻の巣じゃなくてギミックもあるミニマップがあった。


 ギミックをクリアしないと宝箱が手に入らないようにしているあたり、モルガナもブラドの失敗を見てちゃんと準備を進めて来たはずだ。


 先輩の失敗と同じことはしないように注意していたから、モルガナは宝箱を手に入れるにはもう少し苦労しなければならないようにしていた。


 藍大達に宝箱を取られちゃう時が多いので、今回のような自分達で宝箱を開けられる機会を司達は逃さないだろう。


 マージの指示で宝箱回収が始まった。

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