第876話 黙れ小市民
全員が2階に移動したところで茂が参加者達の方を向く。
「これより第二試合に移ります。戦いたい人がいれば挙手して下さい」
『『はい』』
挙手したのはIN国のルドラとEG国のムハンマドだった。
「チャンダさんの方が僅かに速かったですね。どなたと戦いたいですか? 指名した相手が承諾すればその人と戦ってもらいますが」
『タッグマッチがしたいです。こちらはEG国のムハンマドと組み、相手は雑食神様と戦わせて下さい』
「アジールさんも同じ希望ですか?」
『はい。師匠以外の神様とその従魔とも戦ってみたいです』
ムハンマドがそう言うと雑食神はにっこりと笑った。
「私は構いませんよ。もっとも、ディアンヌにサクラ様と同じことをやれとは言えませんので、私はもう1体従魔を召喚させてもらいますが」
『もちろんです』
『2対2でお願いします』
「わかりました。ディアンヌ、ペアは誰が良い?」
雑食神は戦いの条件を決めて1階に降りながらディアンヌに問いかけた。
実際に戦うのはディアンヌだから、どの従魔をペアにしたいか訊ねるのは当然だろう。
「ビーゼフが良い」
「了解。【
ディアンヌの求めに応じて雑食神はビーゼフを召喚した。
アダマスビートファイターのビーゼフを盾役にして、ディアンヌは遊撃の役割を担うつもりのようだ。
それに対して、ムハンマドは会議でも常に隣に待機させていたリカーエサソンのノッコを選び、ルドラは相棒を呼び出す。
「【
ルドラが呼び出したのはコカキングのルーデウスだ。
ムハンマドもルドラも自分の相棒を試合に送り出すらしい。
向かい合う従魔達の中で藍大が注目しているのはディアンヌだった。
(ディアンヌが見ない間に相当強くなってる。ビーゼフは保険か?)
藍大がそう思うのはディアンヌのステータスを確認したからである。
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名前:伊藤ディアンヌ 種族:アラクネエンプレス
性別:雌 Lv:100
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HP:3,000/3,000
MP:3,000/3,000
STR:3,000
VIT:2,700
DEX:3,300
AGI:3,300
INT:3,000
LUK:2,700
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称号:狩人の従魔
虚飾の糸繰士
英雄
二つ名:雑食神の近衛嫁
アビリティ:<
<
<
装備:SSドレスアーマー
備考:さっさと倒して狩人様に褒められたい
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国際会議参加に向けて仕上げて来た結果、ディアンヌはアラクネの中でも最上位種のアラクネエンプレスに進化していた。
しかも、パンドラの憂鬱と同様に七つの大罪になった際になくなった虚飾が称号欄とアビリティ欄にある。
<
その補正によって愛情が増すこともあれば、畏怖が増すこともあるので使い方次第と言えよう。
今のディアンヌは人間の姿になっており、鑑定士の
藍大の見立てではディアンヌだけでもルーデウスとノッコに勝てそうなのだが、念のためにビーゼフを加えたと考えるのが妥当である。
双方の準備が整ったと判断して茂は戦闘開始の合図を出す。
「模擬戦第二試合始め!」
「ノッコ、GO!」
ノッコは前衛のビーゼフを受け持つつもりらしく、開始早々に<
ビーゼフはノッコが放った弾丸が自分に当たらないようにしつつ、ノッコと接近して格闘戦を始める。
その一方、ルーデウスは空を飛んでディアンヌの頭上をぐるぐると回り、攻撃の隙を伺っていた。
ディアンヌは<
だが、双剣は所詮接近しなければ使えない武器だと判断し、ルーデウスは魔法系アビリティでの攻撃を開始した。
ディアンヌの体を吹き飛ばそうと<
「甘い」
自身に襲い掛かる突風に対し、ディアンヌは<
ルーデウスも一撃で仕留められるなんて思っていなかったから、ディアンヌが移動し終えた位置目掛けて<
ディアンヌが何度か移動した後、ルーデウスが更に攻撃を仕掛けようとしたけれど体を動かせなくなったことに気づいた。
『ルーデウス、どうしたんだ!?』
「おや、チャンダさんはまだ気づいてなかったんですね」
ルドラはルーデウスが空中で動かなくなってしまったことに違和感を抱いて声をかけたが、雑食神は意外そうな表情で口を開いた。
『まさか、ディアンヌが何かして・・・、双剣が短くなってる?』
「その通りです。ディアンヌの双剣は元々極細の糸でできてます。それを解いて移動する度に少しずつルーデウスの体にひっかけてたんですよ。気づいたときには身動き一つとれないんです。すごいでしょう?」
『くっ、ルーデウスはもう戦えないか。後はノッコに任せるしか』
「あぁ、もうそっちも終わって良いですよ」
雑食神がそう言った瞬間、今まで拮抗した戦いを演じていたビーゼフの動きが一段と良くなり、ノッコの体に渾身の一撃が入ってノッコは吹き飛ばされた。
『嘘だろ!? ノッコォォォォォ!』
ムハンマドは吹き飛ばされたノッコに駆け寄った。
ノッコは気絶しており、ルーデウスもこれ以上戦えないと判断した茂が試合の終わりを宣言する。
「そこまで! 第二試合、勝者は雑食神とディアンヌ、ビーゼフ!」
茂の言葉を聞いてザッショク教国のDMU本部長のテンションが急上昇した。
『ザッショク教国は魔神様に頼らずとも復活した! これが我等の雑食神様のお力だぁぁぁぁぁ!』
元A国民だったこともあり、立場が良くなったと思うとすぐに調子に乗る悪い癖は直っていないらしい。
その態度が癇に障ったサクラが口を開く。
「黙れ小市民」
『すいませんすいませんすいませんすいません!』
サクラを怒らせたらどうなるか考えただけでぞっとしたから、ザッショク教国のDMU本部長は額を床に擦りつけながら謝った。
その変わり身の早さに各国の参加者達が白い目を向けるのは当然だろう。
ディアンヌもザッショク教国のDMU本部長の態度にイラっと来たようで、双剣の糸を操って土下座する彼を1階に移動させて見下した。
「狩人様や私達が強いのとお前が強いことはイコールじゃない。あんまり調子に乗ったことを言うならハードな雑食刑に処す」
『ひぃっ!? それだけはお許し下さい! 何卒それだけはご容赦下さい!』
(雑食刑って何?)
ザッショク教国のDMU本部長が恐れる雑食刑とは何か藍大が気にしていると、雑食神がチョココーティングが薄すぎてがっつり原型が残っているバッタチョコを持った雑食神がニコニコしながら彼に近寄っていった。
「雑食と関係ないことで威張ってどうするんですか? 雑食は力ではありません。生き抜くための手法であり娯楽です。勘違いしないで下さいね?」
『やめて下さい! やめ、もがふぁ・・・』
ディアンヌの糸で口を無理やり開けられ、雑食神の手でバッタチョコを口の中に放り込まれて咀嚼させられたザッショク教国のDMU本部長は涙目である。
「ほら、よく噛んで食べなさい。その苦みが君を人間として成長させるから」
(良い風に言ってるけど絵面が滅茶苦茶酷いな)
「主、あれと比べれば私のしたことなんて全然良心的だよね」
『ご主人、くれぐれも雑食に手を出さないでね』
「よしよし。サクラの行いは良心的だし、リルもそんなことしないから安心してくれ」
「良かった」
「クゥ~ン♪」
サクラはホッとした表情になり、リルも藍大に頭を撫でてもらって安心したようだ。
ショッキングなシーンがあったけれど、その後も気持ちを切り替えて何試合か模擬戦を行って午前のプログラムは終了した。
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