第877話 雑食神ヤバいわ。食べられるとわかったら装備も食べちゃうのか

 昼休憩を挟み、大会議室には各国の参加者達が戻って来た。


 今から行われるのは国際会議恒例のオークションだ。


 懇親会前の大勝負が始まる訳である。


 オークションの進行は午前に引き続き茂が担当する。


「定刻になりましたのでオークションを開催します。オークショニアは私、芹江茂が行います。どうぞよろしくお願いいたします」


 恒例となった茂の挨拶に参加者達が拍手で応じた。


『僕知ってる。茂って国際会議2日目の男って言われてるんだよ』


「我が家ではしげっちって呼ばれてるけど、ネット上では八王子の父の次に検索ワードとして出て来るよね」


「本人的にはどの呼び名も不本意みたいだけどな」


 リルとサクラが茂を見てコメントすると、藍大は茂も大変なんだと苦笑しながらそう言った。


 会場が静かになったタイミングで茂が再び口を開いてルール説明を行った。


 わざわざ何かあったら藍大達に協力してもらうと言わなくとも、各国の参加者達に妙な真似を起こそうと思う者は1人もいない。


 それだけどの参加者もこのオークションを中止されては困ると考えている。


「ここまでで質問のある方はいらっしゃいますか?」


 挙手する参加者はいなかったため、茂は早速1つ目の商品を紹介することにした。


「最初に紹介するのは日本のモフ神が監修したモフラーのモフラーによるモフモフ従魔のための食材詰め合わせです。モフモフ従魔の食事にこだわりたい方々、日本でもモフモフテイマーに大人気の逸品ですのでご検討下さい。こちらは50万円からスタートします」


『100万!』


『150万!』


『200万!』


『210万!』


『220万!』


『300万!』


 (最初から300万円ってマジ?)


 入札しているのはCN国のシンシアとG国のマリッサ、N国のインゲルの調教士3人である。


 200万円から先は後のことを考えてペースダウンするマリッサとインゲルに対し、シンシアは強気の300万円を宣言した。


 自分の従魔達に良い物を食べさせたい気持ちはあるけれど、この後何が出て来るかわからないのでマリッサとインゲルは勝負から降りた。


「おめでとうございます。CN国が300万円で落札です」


『シンシア、あまり飛ばし過ぎないでくれ』


『安心しろ。金ならある』


 CN国のDMU本部長が心配そうに言うけれど、シンシアは問題ないと胸を張って応じた。


 その発言を聞いて羨ましそうにする参加者もいたが、それを言葉にする者はいなかった。


「資産なら主の方が上」


『食事もご主人の方が上だよ』


「よしよし。わざわざ張り合わなくて良いからな」


 サクラとリルがシンシアよりも藍大の方がすごいんだとドヤ顔で言ってのけるから、藍大は両者の頭を撫でておとなしくさせる。


 藍大も負ける気はしなかったけれど、それをわざわざ誇示するのも大人げないとおもって張り合わなかったのだ。


「次に紹介するのは日本の死皇帝から人体模型の的です。こちらはテイマーサミットで出品された物よりも更に耐久度が上がっております。大技も交えて訓練したい人向けです。特別価格400万円からスタートします」


 この的はマルオが意図的に死体変換の力を使った時に失敗させ、攻撃して完全に消滅しない限り徐々に再生して繰り返し使えるアンデッド型モンスター未満の物体だ。


 (呪いの人形がバージョンアップして戻って来たか)


 藍大は苦笑しながら茂の紹介を聞いていた。


 提示価格が前回から100万円上がっており、性能がその分だけ上がっているのは間違いないだろう。


『500万!』


『700万!』


『900万!』


『1,000万!』


『1,200万!』


 テイマー系冒険者ならば自身の従魔がダンジョンを管理しているから、そのダンジョンで鍛えれば良い。


 だが、自分達はそういう訳にも行かないんだとテイマー系冒険者ではないE国のキャサリン、D国とF国の冒険者が自分の自由に使える範囲内で戦った。


「おめでとうございます。E国のエルセデスさんが1,200万円で落札です」


『これで試し切りのコスパが上がります。感謝します』


 拍手されながらキャサリンがコメントしたが、E国のDMU本部長が心底ホッとした表情になっていたのを見て場内の参加者達は試し切りのコストが並々ならぬ金額なんだと察した。


「今度はCN国からスライムアーマーです。物理攻撃に強く耐久性に長けており、部分的に破損してもコアが壊れない限り装着者のMPを吸収して直ります。ただし、薬品のような臭いがするため嗅覚が過敏な獣型モンスターから嫌われます。ケースの中に入ってるのもそのような事情からです」


「すみません、質問よろしいでしょうか?」


 入札開始を宣言しようとしたところで雑食神が挙手したため、茂は喋るのを中断した。


 文句を付けたりヤジを飛ばす訳でもないから、茂も嫌な予感がしたものの質問を受け入れることにした。


「なんでしょうか?」


「スライム部分は食べられますか?」


 その質問が出た瞬間、会場内がざわついた。


『嘘だろ? 雑食神はスライムアーマーを食べる気か?』


『なんとクレイジーなことを考えつくのでしょう』


『これが雑食神様。人にできないことを平然とやってのける』


 茂は雑食神が質問したいと言った時点でそんなことを言って来ると察していたらしく、観念した表情で回答する。


「食べられるか食べられないかで答えるならば食べられます。ただし、味は保証しません」


「問題ありません。MPをコストにスライム食べ放題なら興味があります。芹江部長、スタートの価格を教えて下さい」


「1,000万円です」


「ふむ、では2,000万円払いましょう。それ以上出す人がいらっしゃいましたら教えて下さい。更に上乗せしますので」


 雑食神がそう宣言した後に誰もスライムアーマーの購入に名乗り出た者はいなかった。


 装備品を食べては直すという雑食神の発想に誰もついていけなかったのだ。


「おめでとうございます。雑食神が2,000万円で落札です」


 拍手したのは雑食教関係者のみだった。


 (雑食神ヤバいわ。食べられるとわかったら装備も食べちゃうのか)


 藍大は雑食神のスタンスに戦慄した。


 それから、いくつかの商品が紹介されて各国の参加者が競りで白熱したのだが、オークションの目玉がようやく紹介されることになる。


「いよいよ最後の商品となりました。出品者は東洋の魔神です。これが今日の目玉と言っても良いでしょう。転職の丸薬(釣教士)です。ダンジョンの宝箱で発見されたこちらですが、東洋の魔神の好意でこの場にて出品されることになりました。これを飲めば水棲型モンスターをテイムできるようになることは鑑定士の私が保証しましょう。特別価格1億円から始めましょう」


 この転職の丸薬(釣教士)は本当に宝箱から出て来た物だ。


 奈美が転職の丸薬(釣教士)を作るにあたって、できた物を出品したら鑑定する者によっては奈美が作成したとバレてしまうリスクがある。


 それゆえ、司がブラドに協力してもらってシャングリラの外のダンジョンで宝箱を手に入れ、サクラが宝箱から転職の丸薬(釣教士)を取り出したのである。


 これには各国の参加者達が目の色を変えて入札する。


『2億!』


『3億!』


『4億!』


『5億!』


『6億!』


 今までは本気を出していなかったんだと言わんばかりに億単位で入札額が上がっていく。


 どんどん上がっていく金額にサクラはニコニコしていた。


「主、札束ビンタやり放題だね」


「いや、そんなことしないからね?」


『そうだよサクラ。ビンタならパンドラの尻尾の方が良いって』


「違う、そうじゃない」


 リルの注意したところが自分の望むものじゃなくて藍大はやんわりツッコんだ。


 藍大達が喋っている間にも競りは続き、最終的には12億円とE国のDMU本部長が宣言したところで後に続く者がいなくなった。


「もういませんか? それではE国が12億円で落札です。おめでとうございます」


 どの国の参加者も落札できなかった悔しさはあるが、島国で釣教士が活躍するであろうE国が落札するならばと最終的に納得して拍手した。

 

 オークションはこれにて終了し、その後に控えるのは最後の情報交換会だけだ。


 2日間を通して世界の変化に対策する必要があると再確認できただけでなく、無事に会議が進んで藍大達が退席しなかったことは参加者達にとってホッとしたことだろう。


 国際会議の開催報告はすぐにメディアに取り上げられ、それが掲示板を盛り上げたのは当然の流れである。

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