第874話 神がモフラーを恐れて亡命したいってさ。末期だな

 1つ目のテーマはひとまず決着したから、2つ目のテーマがスクリーンに投影された。


「次のテーマは神々の発見と復活促進です。各国からの報告で神格関連の状況についてある程度わかりましたが、まだまだ話したりない国は多いのではないでしょうか。神々を探すためのヒントや復活に役立つ情報の共有、議論を行いましょう」


 志保がそう言った瞬間に藍大に注目が集まった。


 それも当然のことで、神格関連で最先端を行くのは自身も神である藍大だからだ。


 各国の参加者が自分の発言を求めているとわかったため、藍大は仕方なく口を開く。


「まずは情報を整理します。どの国がどの神様とどんな状況なのかもう一度教えて下さい。正確な情報がわからなければ、アドバイスできるものもできません」


 藍大にそのように言われて情報を隠す者はいない。


 いや、本当は伏せておきたいものもあるけれど、伏せておくことで有効なアドバイスが貰えないのは痛い。


 藍大と話せるチャンスは特別な事情がない限り、国際会議のみだからチャンスをドブに捨てるようなことをする者はいないだろう。


 神格関連で進んでいる国から順番に情報をまとめると以下のとおりである。


 N国はトールとロキ、スカジ、マグニが復活しており、ノルンとヒルドを保護している。


 I国を上回る成果を出しているが、よくよく考えてみると藍大達のおかげで復活した神が大半であり、保護できた神も藍大の従魔に力を授けた者達だけだった。


 N国に抜かれたI国はと言えば、オルクスとフローラを復活させてシルヴァヌスが復活中でファウナの神域を発見したところだ。


 シルヴァヌスは森を司る男神でファウナは農業を司る神様であり、I国では生死や植物関連の神が見つかりやすい傾向にあるらしい。


 IN国はガネーシャとアグニを復活させ、サラスヴァティーの神域を発見したところだ。


 IN国と同程度の進捗なのはG国とEG国である。


 G国はヘパイストスとクロノスを復活させ、ヘラクレスの神域を発見した。


 EG国はバステトとホルスを復活させ、アヌビスの神域を発見している。


 G国とEG国についてもN国と同じく、藍大達のおかげで神の復活や発見の恩恵を受けたと言えよう。


 CN国はセドナを復活させてナヌークの神域を見つけたばかりだ。


 ナヌークとは熊神であり、モフラーしかいなくなってしまったCN国の冒険者達に神域が見つかってしまい、今は戦々恐々としているのは置いておこう。


 E国はルーの神域が発見されたが、まだ試練を突破できておらず誰もルーと直接会えていない。


 T島国とザッショク教国は雑食神を祀っているので例外だが、D国とF国に至っては今でも神格の手がかりすら掴めていない。


「サラスヴァティー様とアヌビス様の試練ですが、話を聞いた限りでは2柱は似たタイプの試練を与えてます。意外性で勝負しましょう」


『『『『はい!』』』』


「ヘラクレス様とルー様は脳筋なやり方では試練をクリアさせてくれませんから、頭を使いましょう」


『『『『わかりました!』』』』


「ファウナ様とナヌーク様については自然について真剣に考えることが必要でしょう。ただし、ナヌーク様はCN国の冒険者達の接近を拒むかもしれませんね」


『何故だ!?』


 スムーズにアドバイスが進む中、自国だけ苦戦するかもしれないと言われてCN国のシンシアが抗議した。


 正直、言うまでもないことなのだが言わなければ伝わらないと判断して藍大は溜息をついた。


「モフラーが熊神ナヌーク様を見てモフろうとする人種だからです」


『そこにモフモフがいる限り、モフることがモフラーの矜持ではないか!』


 (ナヌーク様もリルみたいに天敵センサーを具えてるんだろうか?)


 自信満々に言い切るシンシアに対し、藍大は顔見知りでもなんでもないナヌークのことを心配した。


『藍大、ちょっと相談なのじゃ。CN国のナヌークがシャングリラリゾートに匿ってほしいと頼んで来たのじゃ』


(神がモフラーを恐れて亡命したいってさ。末期だな)


 伊邪那美から届いたテレパシーを聞き、藍大は心の中でCN国のモフラー達に戦慄した。


 それと同時に匿ったら確実に面倒臭いことになりそうだとも思った。


 匿えばモフラーの怨念を一気に集めることになりかねないのだから、藍大が面倒だと思っても仕方のないことである。


 コソコソと裏取引のようなことをするのは嫌なので、藍大は思い切ってこの場で忠告することにした。


「ディオンさん、現在ナヌーク様からシャングリラリゾートに亡命したいという声をいただいてます。この事実についてどう考えますか?」


『モフラーってマジでヤバいな』


『神様すら逃げ出したくなるCN国のモフラーってなんなんだ?』


『魔神様の所に逃げ込もうとしたナヌーク様マジ有能』


 シンシアが即答できずにいると、その間に各国の冒険者達が正直なコメントを呟いた。


 CN国を除いた国のDMU本部長達も似たようなことを思っていたが、そこは場数を踏んだ彼等なので顔に出さないようにしている。


 シンシアは結論が出せずにいるが、CN国のDMU本部長は同じく黙っている訳にもいかないので口を開いた。


『魔神様、ナヌーク様は我々にお怒りなのでしょうか?』


 (どうなんだ、伊邪那美様? ナヌーク様はCN国人にキレてるの?)


『神域に入って来たCN国のモフラー達からはモフってやるという執念を感じたらしいぞよ。敬意を感じないから力を貸したくないとも言っておるのう』


 伊邪那美から伝え聞いた内容をそのまま言ってみれば、CN国のDMU本部長とシンシアはとんでもないという表情になった。


『モフモフに敬意を持たずモフろうとするなんてその冒険者は誰だ! そんな奴等のせいでナヌーク様に亡命されるなんてあんまりだ!』


『モフモフ×神様=最強なんだ! 敬意を持たない奴がいるなんてそいつはCN国民として恥だ!』


 モフラーにも品性の差があるようで、CN国のDMU本部長とシンシアにとって同じCN国民だとは思いたくないレベルらしい。


「とりあえず、CN国のモフラー達の態度が改善されたとナヌーク様が判断するまでの間、シャングリラリゾートにナヌーク様をお預かりします。ナヌーク様にお会いしたいと本当に思うのでしたら誠意を見せることをお勧めします」


 藍大の出した結論に各国の参加者達はCN国の件を他所の話だと考えたりしなかった。


 自国が関わる神話の神々に置き換えても、自分達の態度によっては亡命を希望するかもしれないとわかったからだ。


 もしもそんなことになってしまえば、国が主導して国民のあり方を変えねばならない。


 人の振り見て我が振り直せという言葉がぴったりな状況である。


『ご主人、僕も国際会議に参加して良い? 僕達モフモフにとってここが正念場だと思うから』


 リルは伊邪那美の傍にいるのか、自分がこのタイミングで発言すればモフモフに対するモフラーの行動にメスを入れられると考えたらしい。


 今回についてはナヌークのこともあるので、藍大は来ても良いとテレパシーを返した。


 その直後にリルが大会議室に姿を現した。


『『『・・・『『リル様!?』』・・・』』』


 突然リルが姿を現したので会場内は驚きに包まれた。


『僕はモフモフを代表してモフラー達に警告するよ。モフモフに対して好き勝手し過ぎ。僕達の気持ちを蔑ろにしてモフろうとする者がいれば、僕やパンドラの怒りを買うと思ってね。それじゃ』


 リルはモフモフ代表として発言してすぐにシャングリラに帰った。


 本当は藍大に甘えたかったけれど、ここで甘えて藍大に撫でられていては示しがつかないと思ってすぐに帰ったのだ。


 パンドラの名前を出したのはパンドラが”裁神獣”だからである。


 モフモフ神獣のトップであるリルが言っても直らない者に裁きを与えるパンドラの名前が出れば、モフラー達は自らの行動を省みない訳にはいかない。


 会場内のモフラー達はリルの言葉を真摯に受け止めた。


 もっとも、一番リルの言葉を聞くべき真奈がいないのは懸念すべきだが、真奈がリルの公式な発言をキャッチしていないはずがないので心配しなくても良いはずだ。


 とりあえず、神々の発見と復活促進について藍大が一通りアドバイスを終えたため、時間も丁度良い頃合いなのでディスカッションは終了した。


 1日目のプログラムの後、懇親会では藍大と話をしたい者達が一列に並んで制限時間付きで話すという光景が見られたことを補足しておこう。

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