第870話 ありがとうございます! 魔神様だけが頼りです!

 定刻になったことを確認してから、志保が開式の挨拶のために立ち上がる。


「皆様、今年もお集まりいただきありがとうございます。報告や議論の時間を多く確保できるよう円滑な進行にご協力下さい。これより第6回冒険者国際会議を始めます」


 志保の開催挨拶を受け、日本以外の国々のDMU本部長達がお互いの顔を見て余計なことをしないこと、連れて来た冒険者達にさせないようにと合図した。


 特に今回はサクラがこの場にいるため、何かやらかそうものならその場で天罰が下る可能性が高い。


 藍大やリルはなんだかんだ手加減して更生のチャンスを与えてくれるが、サクラは藍大にとって害になると判断したら容赦なく裁きを与える。


 いくら隣に藍大がいたとしても、それで絶対に安全なんてことはないのだから言動に注意せねばなるまい。


 そうは言っても邪神討伐以外でも日本から引き出したい情報は山のようにあるから、サクラの気分を害さない程度に質問をしたいというのが各国のDMU本部長の正直なところだ。


 さて、1つ目のプログラムは毎年恒例の各国の概況報告の発表であり、当然のことながら発表は日本から始まる。


「日本ですが、神格関連の報告がメインですので逢魔さんから報告していただきます」


「では、私から報告します。邪神を倒してから新しい神が3柱誕生しました。モフ神とこの場で雑食神の2柱、そして私の従魔であるパンドラです。人間が神化するケースは私や舞という前例がありますので、あり得ないとは言えません。その条件についてはそれぞれかと思いますが、共通点はございました」


 藍大が挙げた人間が神化する共通の条件は以下のとおりである。



 ・冒険者であること

 ・偉業が称号にて証明されていること

 ・ある分野のトップであること



 一般人から神になった者はいないし、冒険者が偉業を成し遂げて称号を得られることは周知の事実だ。


 藍大は世界最強のテイマー系冒険者であり、舞は戦闘において最強の冒険者だ。


 藍大と舞は人から神になったは割と正統派な事例と言えよう。


 イレギュラーなのは真奈と雑食神だろう。


 真奈は世界一のモフラーであり、バステトすらモフってモフ神に認定された。


 雑食神はR国や旧A国、T島国で雑食を広く普及したことから神々によって雑食神に認定された。


 よっぽど突き抜けていない限り、真奈と雑食神のようなケースで神になる事例は起こらないはずだ。


 再現性で考えると藍大と舞のケースの方が可能性はある。

 

 人間の神化の次にパンドラのケースについて触れると、これもまたイレギュラーだと言えよう。


 基本的に神獣は火水風土の四属性の聖獣が神化することによって誕生するが、パンドラは思金神のおかげで”裁神獣”になったので例外と考えるべきだ。


 報告できる時間は限られているため、ひとまずここまでにして次の報告に移る。


「復活した神は5柱です。天之狭霧神様と国之狭霧神様、迦具土様、菊理媛様に加え、先日日本の神様になると宣言されたペレ様です。したがって、今の日本には現在16柱の人型の神様と5柱の神獣がいらっしゃいます。更に申し上げますと、私達は思金神様を見つけており、現在シャングリラにて回復いただいております」


『『『・・・『『さすまじ』』・・・』』』


 この報告は各国にとって日本が次元の違う所にいることを印象付けており、それを引き起こした藍大に感嘆する者しかいなかった。


 どの国も神探しに苦戦しているというのに、日本だけどうしてそんなに頻繁に神が見つかるのだと嘆きたくなる気持ちはあるが、各国の代表者達はおとなしくしていた。


 ここで会議の進行を妨げようものなら目を付けられてしまうので当然である。


 サクラは行儀よくしている各国の代表者達を見てやればできるじゃないかと満足そうにしているから、その態度を維持できれば問題ないのだろう。


 神格関連の報告の後、ダンジョン関連の報告を志保から行って日本の報告は終わった。


「以上で日本の報告は終了です。これより質疑応答に移ります。質問がある方は挙手して下さい」


 参加者全員の手が挙がったため、志保は誰よりも早く手を挙げたCN国のシンシアを指名した。


 シンシアは多くのモフラーが抱いている疑問を口にする。


『東洋の魔神に質問だ。パンドラとは違う手段でマイモフモフを神様にする心当たりはないか?』


「神の名を冠するアビリティを1つ以上会得し、神々の力を借りられればパンドラのような神獣になれる可能性はあると思います。ただし、確証はないのでその点は理解しておいて下さい」


『わかった! 可能性があるだけで十分だ!』


 藍大の意見を聞いてシンシアは目を輝かせた。


 今までは四神獣しか神獣になれる可能性はないと思っていたけれど、パンドラが神獣化したことで新たな可能性が見えた。


 そうなればやる気にならないテイマー冒険者はいないだろう。


 ここにはいないけれど、真奈も当然自分の従魔が神獣になれる可能性があると知って行動に移している。


 具体的にはガルフを神獣にするべく、ガルフの強化に空き時間を充てている。


 ガルフも神獣になればモフ神である真奈への対抗策も見つかるかもしれないと考え、意欲的にダンジョン探索で己を磨いているとだけ言っておこう。


 志保は限られた時間で1つでも多くの質問を受けられるように次の質問を受け付ける。


「その他に質問はありますか? では、IN国のチャンダさんどうぞ」


 いつも同じ人を当てるのは良くないと判断し、志保はIN国のルドラ=チャンダを指名した。


『魔神様に質問です。現在、IN国ではサラスヴァティー様の神域を発見したのですが、その試練で出されるクイズを突破できません。何か突破口になるものはないでしょうか?』


「その試練のクイズは数学的な答えのある問題ですか? それとも哲学的で明確な答えがないものですか?」


 藍大は自分がアドバイスできるものか判断するため、認識を擦り合わせられるように質問を返した。


 こうでもしなければ求めているのとは違う答えを出しかねないのだから当然である。


『躓いてるのは後者です。前者なら簡単にクリアできたのですが、後者のクイズを出されるようになってから突破できなくなりました』


「それであれば個性の強い者を複数連れてその試練を受けて下さい。私も菊理媛様や思金神様の試練では舞やサクラ、リルを連れて突破しました。答えに多様性が出れば、出題者の求める回答やで先に進めるかもしれません」


『出題者が予期しない回答でも試練を突破できるのか』


『その発想はありませんでした』


『常識に囚われていては前に進めないんですね』


 目から鱗が落ちたと言わんばかりの表情になる者がちらほらいたことから、神域を見つけて試練を受ける国も増えて来たらしい。


『ありがとうございます。やってみます』


 ルドラも藍大の教えを聞き、時には型破りなことをしないと前に進めないのだと悟りを開いたようだ。


「残り時間からしてあと1名まで質問を受けます。それでは、N国のハンセンさんどうぞ」


『魔神様に質問です。神々が自由過ぎて対応に困ってます。どうすれば神々と上手くやれるでしょうか?』


 インゲル=ハンセンは調教士として着々と実力をつけ、N国の冒険者の中でも五指に入るようになった。


 それだけでなく、藍大と交流があることからこの場に参加するようになったのだが、インゲルの質問には彼女の疲労が滲み出ていた。


 (ロキ様とトール様のことだろうな)


 ロキは秩序よりも混沌を好んでおり、真面目な場所でもやらかす悪戯好きな神だ。


 トールは冷静に話もできるし協力的ではあるが、曾孫達優月と薫の顔を見たくなるとそちらを優先してしまう。


 最高神であるオーディンがまだ見つかっていない今、北欧神話の勢力圏においてトップのロキとトールが自由過ぎて困っているのがN国の現状である。


「ロキ様が役目を果たさず遊んでるようならば、リルが二度と口を利かないと言えばしばらくは真面目に働いてくれるでしょう。トール様はやることをやってからシャングリラの神域に遊びに来ないと食事を出さないと言って下さい。これで改善されるはずです」


『ありがとうございます! 魔神様だけが頼りです!』


『魔神様ヤバいって。ビッグネームの神様を脅せちゃうってよ』


『流石は東洋の魔神だ。絶対に逆らっちゃいけない』


 インゲルが両手を組んで感激したように言っている一方で、藍大の回答に各国の参加者達は戦慄した。


 質疑応答に使える時間が過ぎてしまい、これで日本の報告は終わった。

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