後日譚6章 大家さん、冒険者の在り方にメスを入れる

第867話 冗談は止してくれ。正月をラグナロクにする気か?

 年が明けて2032年元旦、逢魔家は子供達が朝から大はしゃぎだった。


「おとしだまだ~!」


「おだいじんだ~!」


「おかねもちなのよっ」


「ゆめいっぱい!」


「カードゲームかえるかな!?」


 優月達が大はしゃぎしているのは藍大からお年玉を貰ったからだ。


 4,5歳の子供にいくらあげるか悩んだのだが、藍大は小学生になるまで1,000円に決めた。


 正直、あげようと思えばもっとあげられるけれど、それでは優月達の金銭感覚がおかしくなるしお金を持っていても彼等が使う機会はほとんどない。


 いったんお年玉を渡してもすぐに藍大銀行に預けるのだ。


 それでも、お年玉を貰うという動作はやりたいから優月達は藍大からポチ袋を貰うようにしている。


「それで、ゴルゴンとゼルは手を出して何をしてるのかな?」


「アタシ達もお年玉が欲しいのよっ」


『( *´∀`)σσσσ))オトシダマチョーダイ!!』


「ゴルゴンもゼルもがめついです。マスターにスマホを買ってもらったですよ? それで十分だと思うです」


「メロだけ良い子ぶるなんて卑怯なんだからねっ」


『ヾ(。>﹏<。)ノ抜け駆けダメ! ゼッタイ!』


「卑怯なのは2人の方です! 私は抜け駆けしてないです!」


 仲良しトリオは正月から元気だった。


 子供達が起床する前、実はサクラと仲良しトリオはそれぞれスマホを藍大にプレゼントしてもらっていた。


 子供たち以上に自分でお金を使わないサクラ達にとって、スマホはお年玉替わりと言えよう。


 だからこそ、メロはゴルゴンとゼルがまだ藍大におねだりするのかと咎めるように言った訳だ。


 ゴルゴンとゼルは貰えるなら貰っておく主義なので、これでちゃっかりお年玉が貰えないかと淡い期待をして藍大にお年玉が欲しいと言ってみたのである。


「お年玉よりも3人目の方が欲しい」


「サクラさんや、音もなく背後に立っておねだりする内容がそれかい?」


「目指せサッカーチーム」


「貪欲過ぎる!」


「だって”色欲の女帝”だもの」


 サクラは金銭欲よりも色欲だと胸を張って主張する。


 サクラも仲良しトリオとは違う方向性だがブレない。


 藍大が視線を逸らした先には朝食を終えて満足そうな顔で寛ぐ食いしん坊ズの姿があった。


 ボリュームのある豪華おせちを朝からがっつり食べてお腹いっぱいといった様子だ。


「藍大のおせちを食べなきゃ正月は始まらないよね~」


『うん。ご主人のおせちを食べて初めて僕達の正月は始まるよね』


「吾輩も同感である」


「めでたいことに全力で参加するのが妾なのじゃ」


「私もうっかり食べ過ぎてしまいました。でも、幸せです」


 舞とリル、ブラドはまだその気になれば食べられそうだが、伊邪那美と天照大神は本当にお腹がパンパンなようだ。


 他のメンバーはどちらかというと伊邪那美達寄りで食べ過ぎたらしい。


 それを見た藍大は昼食の量を抑えないと厳しそうだと感じた。


 その瞬間、舞とリルが藍大の思念を読み取ったのかピクっと反応した。


「昼食に向けて運動しないとね」


『そうだね。いっぱい食べたら動く。そしてまたいっぱい食べるのが食いしん坊ズの流儀だよ』


「昼食は昼食でしっかり食べたいのだ」


「妾、動くのじゃ」


「それなら正月らしく羽根つきでもしますか?」


「良いじゃろう。少し揉んでやろうかの」


 伊邪那美と天照大神が羽根つきをやると言い出せば、周囲も羽根つきをやる気になっていた。


 気づけば羽根つきトーナメントを開催することになっており、逢魔家全員が地下神域に移動した。


「どうしてこうなった」


「主さん・・・俺・・・見学・・・」


「うん、知ってる。一緒に審判しような」


「する」


 藍大はゲンから見学したいと言われて頷いた。


 ゲンは年明け早々から動くなんてとんでもないと思っているらしく、藍大の隣でのんびりする気満々だ。


 トーナメントをする前に、まずはウォーミングアップということで揚羽根をすることにした。


 揚羽根とは1人で羽子板を用いて羽根を打ち上げその回数を競い合うものであり、いきなり激しく動くのは危険だからこれで体を温める訳である。


「よーいドン!」


 藍大の開始の合図と共に参加者全員が揚羽根を行う。


 基本的に真上に打ち上げるのを繰り返すため、集中すればあっちこっち行かないでその場でできる。


 ところが、単調な作業に飽きる須佐之男命が動き始めたことで集中力の切れる者が出始めた。


 近くにいた月読尊が真っ先にその被害に遭ったとだけ言っておこう。


 それでも5分経過しても何名か落とさずに残っており、きりがないからそこで終了とした。


 その気になって正月の午前中を揚羽根大会で終了するのはシュールだから仕方ないだろう。


「さて、揚羽根で腹もこなれて来ただろうからトーナメントを始めようか。落とした方が負けっていうシンプルなルールにするぞ」


 藍大がそう言ってからあみだくじで対戦カードを決める。


 最初の試合は伊邪那美とトールだった。


「ちょっと待つのじゃ! トールはいつから紛れ込んだのじゃ!?」


「今来たんだよ。北欧の神々の会合を途中抜けしてな」


「またお主は勝手に来るんじゃからもう・・・」


「孫と曾孫の活躍が見れるし、俺も体を動かせる。来ない訳ねえだろ?」


 マグニがナチュラルにスルーされてしょんぼりしているが、愛に慰められているから良しとしよう。


「サーブは伊邪那美様からで良い? レディーファーストってことで」


「おう。俺は一向に構わん。藍大、持てる力は全て使って良いのか?」


「冗談は止してくれ。正月をラグナロクにする気か?」


 トールが恐ろしいことを言い出したものだから、藍大がちょっと待てと止めた。


 なんでもありはとんでもないことになるので、身体能力のみで勝負することがルールとして追加された。


「では行くぞよ!」


「来い!」


「そりゃっ」


 ゴウッと音がして伊邪那美がサーブをすれば、トールは何食わぬ顔で打ち返す。


 (羽根つきじゃなくてバドミントンじゃね?)


 藍大がそう思うのも無理もない。


 羽根つきが打ち合う度に衝撃波が生じる真剣勝負のラリーになるとは誰だって想像できないだろう。


 ブラドが<創造クリエイト>で創った飛び切り頑丈な羽子板と羽根でなかったら、とっくに壊れているに違いない。


「ひいおじいちゃんがんばれ!」


「いざなみさまもがんばって!」


「曾孫の応援が俺に力をくれる!」


「妾だって負けないのじゃ!」


 優月と蘭の声援でトールと伊邪那美のラリーは苛烈さを増す。


 どうしたら決着するのかと藍大達が見守っている中、トールが優月と薫に良いところを見せようと全力でスイングした。


 その時、羽根がパァンと弾けて消し飛んでしまった。


「・・・嘘であろう? 吾輩、うんと固く創ったのだぞ?」


 ブラドがトールの馬鹿力に驚愕している一方で藍大はゲンと協議していた。


「ゲン、打った瞬間に羽根が弾け飛んだ場合は打ち返したことにならないから負けで良いと思う?」


「良い。羽根が・・・届いて・・・ない・・・」


「だよな。はい、ということで協議の結果、伊邪那美様が2回戦進出だ」


「やったのじゃ!」


「なん・・・だと・・・」


 藍大とゲンが出した判定を聞いて伊邪那美が天高く拳を突き上げ、トールが膝から崩れ落ちた。


 トールが折角地下神域に来たのに初戦で負けてしまったため、優月がユノと一緒にトールを励ます。


「ひいおじいちゃんすごかったよ」


「すごかった。流石優月の曽祖父」


「だろ!? 今度優月にもさっきのスイングを伝授してやるからな!」


「うん!」


 落ち込んでいたトールだったが、曾孫にちやほやされてすぐに復活した。


 なんと単純な神様だろうか。


 いや、舞も単純な方なので血筋である。


 その後、伊邪那美とトールの試合に感化されたのか激しい試合が続いた。


 天照大神が須佐之男命の顔面に羽根をぶつけて勝利を手にしたり、舞のスマッシュでマグニの羽子板が壊れたりとそれはもう激しかった。


 決勝戦までいきたいところだったけれど、思いの外どの試合も長引いて舞とサクラ、リル、伊邪那美のベスト4が決まったタイミングで正午を迎えてしまった。


 このまま準決勝と決勝までやれば、確実に昼食が遅くなってしまう。


「どうする? 優勝者が決まるまでやり続ける? それとも昼食にする?」


「「「『昼食』」」」


「だよね。わかってた」


 激しい試合のせいで目的を忘れかけていたが、羽根つきの目的は腹ごなしだったのだ。


 これまでの試合で参加者全員お腹を空かせていたので、無事に当初の目的を果たしていた。


 それならば昼食を食べようという流れになるのは当然なので、羽根つきトーナメントはここで終了となった。

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