第866話 茂が家で大はしゃぎしてるかな?

 料理に充てられた1時間が過ぎたため、すぐさま実食タイムになった。


「では、ここからは試食タイムです! 試食の順番は公平性の観点から籤引きで決めさせていただきます!」


 白雪がそう言って5本の棒の入った箱を取り出した。


 この5本の棒にはそれぞれ出場者の名前が記されており、それが試食の順番になるという訳だ。


 籤引きの結果、試食の順番は綾香、秀、雑食神、千春、美海の料理と決まった。


 (雑食神が最後にならなくて良かったかな)


 事前に自分がチェックしていることから、食べたくない食材が使われていることはない。


 そうだとしても、雑食神で試食を終えるのはなんとなく嫌だったから藍大はホッとした気持ちになった。


 その一方、舞とリルはハンバーグが最初だからウキウキしている。


 両者の頭には雑食に対する不安なんてなく、最初のハンバーグで頭がいっぱいらしい。


 とりあえず、審査員3柱と白雪は綾香のキッチンに向かった。


 白雪も審査に関係ないが出場者達の料理を食べられるから、試食タイムを楽しみに待っていたのだ。


「まずは進藤さんの料理からですね。進藤さん、改めて料理名を教えて下さい」


「はい! 私が作ったのはピアサとヴリトラの合挽ドラゴンハンバーグです!」


 綾香が料理名を告げると舞とリルが早く食べたいと目が訴えていたため、そのまま藍大達と白雪は試食を始めた。


「美味しい! おかわり欲しい!」


『綾香のハンバーグが想像以上の仕上がりだね。うん、もう1個欲しいな』


「これがドラゴンハンバーグ! 2種類のドラゴンが絶妙にかみ合った味ですね!」


「腕を上げましたね。レア食材のピアサとヴリトラの美味しさを十全に引き出せてます」


 食いしん坊ズがあっさり食べてもう1つおねだりしているのはさておき、白雪の食レポが前の大会より成長しており、藍大は綾香が腕を上げたことを実感して頬を緩ませていた。


 観客席からはハンバーグを求める声がちらほら聞こえたけれど、試食は審査員と白雪だけの分しかない。


 試食が終わってまずは点数の発表へと移る。


「先に食材レアリティの点数発表です! 審査員の皆さん、お願いします!」


 白雪が審査員達に振った直後、藍大達は手元のボタンを押した。


 その結果、藍大達全員が4点で合計12点になった。


 食材のレアリティ評価は市場への流通度合いと審査員達がその食材を手に入れるために要する労力を考慮して決める。


 正直、藍大達はどのモンスター食材も簡単に手に入れられるから、市場にどれぐらい流出しているかという観点で決まると考えて良いだろう。


「続いて味の点数発表です! よろしくお願いします!」


 味も全員4点だったので合計12点となった。


「進藤さんのハンバーグは24点です! 前回大会と比べて最初から3点も高いですね! 早速、審査員の皆さんからコメントを頂きましょう!」


 基準となる最初の料理が24点なのは後に控える出場者達にプレッシャーを与える。


 綾香のハンバーグを超えないと24点より上はないと考えれば、かなり厳しい展開だと言えよう。


「トップバッターじゃなければ味で5点にしたいぐらいでした」


「いっぱい食べたいと思うぐらい美味しかったよ。ここで満足してほしくないから満点にはしなかったので、今後も頑張ってね」


『綾香はもう少し上のランクのドラゴン型モンスターも扱えると思う。可能性を残してるから4点だね』


「ありがとうございました。次に速水さんの料理の試食に移りましょう」


 審査員達からのコメントが終わると、藍大達は秀のキッチンへと移動する。


「速水さん、改めて料理名を教えて下さい」


「わかりました。僕の料理はシェフの気まぐれペスカトーレです!」


 (有馬さん偉いな。ちゃんと速水さんに料理名を言わせてあげるんだから)


 藍大は料理名を聞きながらそんな風に思っていたけれど、舞とリルは料理名を聞かずに料理に注目してしまっている。


 秀に語らせていると時間がかかってしまうから、藍大達はそんな暇を与えないように試食し始める。


「魚介たっぷりパスタで食べ応えがあるね!」


『パスタソースもよく合ってると思うよ』


「4時起き恐るべしです。気分が乗ってる味がします」


「お洒落なだけじゃなくて素材も厳選されてるのがよくわかります」


 ペスカトーレの試食が終わると藍大達はすぐに採点に移った。


 レアリティ評価は藍大が4点で舞とリルが3点とし、味についても藍大が4点で舞とリルが3点で合計20点だった。


「残念! 進藤さんに及ばず、速水さんのペスカトーレは20点です! 皆さんから採点理由を伺ってみましょう!」


「モンスター自体のレアリティは3点ですが、その目利きは1点上乗せできる個体を使ってました。味についても気まぐれを強調するだけあって拘りが感じられました」


「食べ応えはあったんだけど、量を食べるには向かないなって思ったよ」


『美味しいけど油多めで量を食べるには向かないと思うよ』


 舞とリルは大量に食べることが前提なので、それによって味に対する評価も藍大とは変わって来る。


 作る相手を考えず、自分の作りたい物を作るという秀の選択が足を引っ張ってしまったようだ。


 秀の料理の次は雑食神の雑食八宝菜の試食である。


「雑食って聞くと身構えちゃいますけど、これなら案外美味しく食べられますね」


「ウヴァルって駱駝だって聞いたから味の想像がつかなかったけど、高タンパク低カロリーで美味しいからダイエット向きだね」


「比較的ライトな雑食ですから好きな人は好んで食べると思いますよ。おそらく、何も言われずに出されれば普通に美味しい八宝菜だと感じるはずです」


『こうやって雑食沼に引き込むんだね。恐ろしいよ』


 白雪は初雑食だったけれど、虫食のようなハードな雑食じゃなかったおかげで恐れずに食べられた。


 実際に食べてみて、日常的に食べるかは置いといて美味しいとコメントした。


 舞と藍大のコメントと自分が食べてみた感想から、リルは雑食神の手口を知って戦慄した。


 雑食神の八宝菜の試食が終わって採点に移る。


 レアリティ評価は全員が5点であり、味については全員3点で合計24点だった。


 雑食神は調理士ではないし、調理士から転職した訳でもないからソロモン72柱というレア食材の力を使って評価を押し上げたのだが、これもまた戦略として有効だったようだ。


 4番目の試食は千春のオムライスだ。


「美味しい! ホッとする味ですね! 実家に帰った気分になります!」


「美~味~い~ぞ~! これなら何杯でも食べられるね~!」


『千春はお菓子だけじゃなくて料理も美味しいね。芹江家はこのオムライスが食べられて幸せだと思うな』


「茂が惚気たくなるのもよくわかります。食材への拘りもそうですが、作る工程がとても洗練されてました。非の打ち所がないとはこのことです」


 きちんと全員が残さず食べ終えてから採点が始まった。


「食材レアリティの点数発表です! 審査員の皆さん、お願いします!」


 白雪が振った後、藍大は5点、舞とリルが4点で13点とスクリーンに表示された。


「味の点数も発表して下さい! お願いします!」


 味については全員5点だったので合計15点となった。


「芹江さんのオムライスは28点です! 暫定トップです! 早速、審査員の皆さんからコメントを頂きましょう!」


「食材の目利きも味も今日一番でした。家庭の味なのに上品さも兼ね備えており、素晴らしいオムライスだったと思います」


「流石千春さんだね。藍大の料理の次に美味しかったよ」


『レアリティ評価は手を出す食材がまだ上を目指せるから4点にしたけど、それ以外は文句なしの花丸だったよ』


「ありがとうございました。最後に美海さんの料理の試食に移りましょう」


 最後の美海の番になり、トリニティワイバーンのひつまぶしの試食が始まった。


「鰻の蒲焼だけがひつまぶしじゃないってよくわかりました。これはすごいです」


「食べる相手のことを考えた美海さんの気遣いがよくわかりますね。美味しいです」


「私はお茶漬けが好きかも~」


『3つ食べ方があって4回目は好きな食べ方ができるのがありがたいね』


 全体的に好評なコメントの後に藍大達はすぐに採点に移った。


 レアリティ評価は全員が4点とし、味については全員5点で合計27点だった。


 美海の点数が表示されたことにより、優勝者が美海と1点差で千春に決まった。


「優勝は接戦を制した芹江さんのオムライスです! おめでとうございます!」


「やったぁ!」


 優勝というスクリーンの表示と紙吹雪が飛ぶのを見て千春はガッツポーズをした。


 そんな千春に藍大は優勝トロフィーと藍大のカレーライスのパネルを渡す。


「千春さん、おめでとうございます」


「ありがとうございます! 茂、衛、千秋、私が優勝したよ~!」


 (茂が家で大はしゃぎしてるかな?)


 藍大は千春がトロフィーとパネルを掲げて喜ぶ姿を見て、茂が自宅のテレビの前で大はしゃぎしてるのではないかと思ったがその通りだったと補足しておこう。


 なお、藍大のカレーライスはこのスタジオで渡すと究極の飯テロになるため、番組が終わってから芹江家に藍大達が届けることになっている。


 プレゼントの当選者もバレるとプレゼントを狙う者が出てくるかもしれないのでこの場では発表しない。


 番組を締めるために白雪が口を開く。


「逢魔さん、贈呈いただきありがとうございました! お時間が来ましたので、これにて『Let's cook ダンジョン! 第2回料理大会』はおしまいです! 次回もまた楽しみにしてて下さい! バイバ~イ!」


 「Let's cook ダンジョン!」は藍大もそうだが特に食いしん坊ズを満足させて無事に終わった。


 この日の掲示板で千春の二つ名がリトルクックイーンになり、千春がちみっこを脱してもリトルじゃ駄目なんだと茂に泣きついたのは別の話である。

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