第863話 ご主人のカレーはイリュージョンするよ。気が付いたらもうないんだ

 白雪は「Let's cook ダンジョン!」のルール説明を始める。



 ・料理大会は審査員が3柱いて1柱の持ち点は10点

 ・10点の内訳は食材のレアリティが5点と味が5点

 ・出場者による食材と調理器具の持ち込みは許可されている

 ・出場者は一品だけ好きな料理を作る

 ・スタジオに用意された食材は自由に使えるがダンジョン産の食材とは限らない

 ・食材は調味料を除いて半分以上ダンジョン産の物を使わないと失格となる

 ・制限時間は1時間



 前回の大会との違いはスタジオに用意された食材にダンジョン産の食材もあるという点だ。


 ただし、市場に多く流通しているモンスター食材がメインだから、レアリティでは1点扱いされるもののみである。


 以上7つのルールに則って今回の大会は運営される訳だが、2回目の今回は1回目から間が空いてしまったこともあってパワーアップしている。


「ここで皆さんにお知らせです。今回の大会では優勝者に審査員長の逢魔さんが作ったこちらの料理が賞品としてプレゼントされます」


 白雪がそう言った直後にスタジオのスクリーンにカレーライスの写真が映し出された。


 審査員席と観客席から今すぐに食べたいという視線が集まる中、白雪が説明を続ける。


「皆さんご存じの逢魔家のカレーライスです。第1回で作られたものよりパワーアップした逸品ですね。料理してる風景もショートバージョンの動画があるので紹介します」


 カレーライスの写真から動画に切り替わり、藍大がカレーライスを作っている動画が流れた。


 どんな食材を使っているのか簡単な説明があり、完成したものは逢魔家全員がすごい勢いで食べるシーンまで映って終わった。


「とても美味しそうでしたね。食べたことのある審査員の方々にコメントをいただきましょう。まずは舞さん、逢魔さんのカレーはいかがですか?」


「美味しくて何杯でも食べられちゃうよ! 優月達もカレーの日は大喜びなの!」


「大人も子供も関係なくカレーは大好きですよね。リルさんはいかがですか?」


『ご主人のカレーはイリュージョンするよ。気が付いたらもうないんだ』


「気づいた時にはリルさん達のお腹のなかってことですね。いやぁ、優勝すればこのカレーが食べられるなんて羨ましいです!」


 白雪の発言は演技ではなく本心だ。


 女優として番宣でグルメ番組に出ることもそれなりにあるので、白雪の舌は肥えている。


 そんな白雪でも藍大の料理を超える料理は食べたことがない。


 先日も藍大とゴルゴン、日向がGAME PARK Whiteで遊んだ時にサンドウィッチを貰ったが、藍大の手作りサンドウィッチはどうにか機会を作ってまた食べたいと思う美味しさだった。


「お知らせはまだあります。今回の大会では観客席から1名、視聴者から1名抽選で選ばれた方達に特別にシャングリラダンジョン食材セットがプレゼントされます」


 スクリーンが切り替わって食材セットのラインナップが映し出される。


 

 ・肉:オークインのブロック肉

 ・魚:ロケットゥーナの切り身セット(赤身、中トロ、大トロ)

 ・野菜:デーコン

 ・穀物:ライスライン



 この発表には会場がざわついた。


「私も欲しいです!」


「私も雑食セットをプレゼントしたいです!」


 (千春さんの純粋なコメントは良いけど雑食神は止めておけ)


 千春はレア食材に目がないから、シャングリラダンジョンの食材と聞いて目を輝かせた。


 雑食神は雑食を布教する機会を少しでも手に入れたいらしく、シャングリラダンジョンの食材ではなく、テレビ番組で紹介されていること自体に羨望の眼差しを向けていた。


 ブレない雑食神の姿勢に藍大が苦笑するのも仕方のないことである。


「なお、当選者はこの場で発表するとトラブルに巻き込まれる可能性を考慮し、観客も視聴者も後日発送をもって当選の案内としますのでご承知おき下さい」


 注意文言を言い終えたところでそろそろ出場者達に腕を振るってもらう時間が来た。


「それでは出場者の方々の準備も整ったようなので始めましょう。皆さんご唱和下さい! 『Let's cook ダンジョン!』」


 白雪のあざとい決めポーズと同時に観覧席からも「Let's cook ダンジョン!」の掛け声が聞こえた。


 その掛け声と同時にスタジオに設置されたタイマーのカウントダウンが始まり、出場者達はすぐに料理を作り始めた。


 今回も出場者達は何を作るのか宣言せずに料理を始めるから、白雪が彼等のキッチンを行ったり来たりしてどんな料理を作って何がポイントなのか等を訊き出す。


 藍大と舞、リルは審査員席から動かないが、藍大は白雪と同様に出場者達に質問できる。


 舞とリルは白雪と藍大が訊かなかったことについて訊きたい場合、自ら質問できるのは事前の打ち合わせ通りである。


 白雪が真っ先に足を運んだのは千春のキッチンだった。


 何故なら、千春は調理器具も料理に使う食材も全て持参していて気になることだらけだからだ。


「芹江さん、調理器具も食材も準備万端のようですが、これはDMUの力で集められたんでしょうか?」


「その通りです。調理器具は職人班に特注で頼んで、モンスター食材は沙耶さんの協力を得て揃えました」


 DMUはMOF-1グランプリでは本部長志保が審査員として出ているだけであり、いまいち存在感が出せていない。


 しかし、「Let's cook ダンジョン!」では千春が出場者になっているから注目度合が違う。


 それゆえ、DMUの広告宣伝も兼ねて千春はDMUから充実した支援を受けているのだ。


 沙耶も自分の名前をテレビで出してもらえたので、番組を見ていたらニッコリと笑っているだろう。


「DMUの職人班は三原色クランの生産者に勝る技術力をお持ちですし、ジミ・リンのダンジョンからモンスター食材を手配できたとなると死角はなさそうですね。今日は何を作る予定ですか?」


「カレーライスに並んで大人気のメニュー、オムライスです!」


「オムライスです! オムライスが入りました!」


 千春はオムライスに使う食材を並べており、てきぱきと作業を進めながら白雪の質問に応じた。


 千春のオムライスと聞いて会場内ではどんな味だろうかと期待する声があちこちから聞こえた。


 藍大もオムライスと聞いて気になったことがあったから訊ねる。


「千春さん、卵はなんのモンスターの卵ですか?」


「ペリュトンの卵です。沙耶さんに奮発してもらいました」


 ペリュトンは藍大の多摩センターダンジョン9階でフロアボスをしているモンスターだ。


 倒すにはかなりの戦力が必要になるモンスターだけれど、”アークダンジョンマスター”のミミがいれば比較的容易にペリュトンの肉や卵が手に入る。


 ペリュトンの名前で観客席に座る冒険者達はテイマー系冒険者が協力してくれる千春に羨望の眼差しを送った。


 中小クランだとどうしてもテイマー系冒険者が仲間にいないから、今は多摩センターダンジョンの9階に辿り着いて倒さなければペリュトンを食べることができない。


 それが簡単に手に入る立場にあるということは羨ましいと思って当然だろう。


 千春はその他にもレア食材を多く揃えていた。


 オムライスのライスはライスキュービーの米であり、チキンライスに使うトマトケチャップはマスクドトマトを使っている。


 様々なレア食材を知る千春は必要に応じてシャングリラダンジョンのモンスターをミミに召喚してもらえるのだから、本当に心強い味方がいると言えよう。


 藍大と仲が良いからこそ、依怙贔屓されていると思われないように一切藍大に頼らずに調理器具とモンスター食材を調達している千春の本気度は並々ならぬものだ。


 それはさておき、白雪と藍大の質問ではまだ自分の気になる点が解消できなかったのかリルが質問する。


『千春、オムライスにかけるのはケチャップ派? それともデミグラスソース派?』


「芹江家はその時の気分だよ。最近は衛がケチャップアートで喜んでくれるから、ケチャップの方が多いけど」


 オムライスの上にかけるケチャップは文字を書いたりイラストを描いたり工夫が様々だ。


 芹江家では今、長男の衛がケチャップでイラストを描くと大喜びなので最近の芹江家のオムライスはケチャップをかけることが多いらしい。


 千春ばかり注目していると番組が成り立たないので、白雪は質問も出揃ったことを確認してから次の出場者のキッチンへと移動した。

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