第858話 ・・・という名目で色々な料理を食べたいんですね、わかります

 ”迷宮の狩り人”のクランハウスで試食会が行われていた日、逢魔家では藍大が様々な料理を少しずつ作ることになった。


 どうしてこんなことになっているかと言えば、舞とリルが朝食後に持ち掛けた話が原因である。


「藍大、お願いがあるの」


『ご主人、お願いがあるんだ』


「お願い? 舞とリルは同じお願いなの?」


 藍大が質問すると舞とリルが頷く。


「『Let's cook ダンジョン!』の審査員の練習がしたいな」


『僕達が本番でしっかりコメントできるように鍛えてほしいんだよ』


「・・・という名目で色々な料理を食べたいんですね、わかります」


「『その通り!』」


 藍大にずばり言い当てられたため、舞とリルは満面の笑みで頷いた。


 下手に言い訳せず正直なのは良いことだ。


 食いしん坊ズ筆頭の舞達ならば問題なくコメントできるだろうが、万が一コメントできないなんてことになっても困るから藍大は色々作る気になった。


 その時、藍大に声をかける者達がいた。


「ちょっと待つのよっ」


「待ってほしいです!」


『(-ω-)/待ちな』


 仲良しトリオである。


「何事?」


「『Let's cook ダンジョン!』のリハーサルをやるならMCが必要なんだからねっ」


「やるなら本格的にやるです!」


『本番形式でやろーよ(o‘∀‘)σ)Д`;)』


「・・・という名目でテレビ番組ごっこがしたいんですね、わかります」


 仲良しトリオは藍大にジト目を向けられて全員が視線を逸らした。


 どうやら図星だったようだ。


「しょうがないな。それじゃ、今日の昼食は作るところから料理大会風にやろう」


 藍大がそう言った瞬間、やったねと舞達が喜んだ。


「カメラ撮影は私がやってあげる」


「サクラも乗り気なんだ?」


「ちょっと面白そうだと思った」


 サクラもこのお遊びに参加すると発言した後に伊邪那美まで話に加わり始める。


「待つのじゃ。お主達は審査員長役を忘れておるのじゃ」


「伊邪那美様は俺役で参加したいの? というか俺は参加者側なんだ?」


「藍大以外に調理士役ができる者はおらぬ。妾が藍大役をするのは口調的に無理があると言うならば、天照大神に藍大役を任せるのじゃ。そして、妾はスタッフとして裏で美味しく藍大の作った料理を食べるぞよ」


「伊邪那美様、天姉に俺役をやってもらうのは良いけど後でスタッフが美味しくいただきましたは逢魔家では実現しないと思うぞ?」


 藍大が気になった点を指摘してみれば、それもそうかもしれないと伊邪那美は舞とリルの方を見る。


「だ、大丈夫だよ。スタッフの分も残すよ、多分」


『うっかりスタッフ役も兼任しちゃうかもしれないけど大丈夫だよ』


「不安しかないのじゃ! 藍大、ちゃんと妾の分は別で用意してほしいのじゃ!」


「はいはい。天姉、なんだか急に巻き込むことになったけど大丈夫?」


「任せて下さい。藍大役を果たしてみせます」


 伊邪那美を落ち着かせつつ、伊邪那美の隣で自分もやるのかと驚いていた天照大神に藍大は声をかけた。


 天照大神はいきなりのことではあったけれど、藍大のことはいつもよく見ているから無事に演じてみせるとやる気になっていた。


 こんな話があったことで藍大は本番形式で審査員とスタッフのために色々と料理を作ることになった訳だ。


 カメラや食材の準備が済んでから、ゴルゴンがリポーター役を代表して藍大に質問する。


「さあ、『Let's cook ダンジョン!』が始まったのよっ。マスター、今日は何を作るのか教えてほしいんだからねっ」


「今日は食いしん坊ズ舞達の食べたがっている料理を少しずつ作ろうと思ってます」


 ゴルゴンがMCムーブしているため、藍大も調理士役で丁寧な言葉で喋っている。


「逢魔家ではどんなおかずが人気なのかしらっ?」


「ハンバーグに一口ステーキ、メンチカツが人気なところでしょうか」


 そう言いながら藍大はこれ以外にもメジャーな料理はあるんだけどと苦笑していた。


 先に述べた3つ以外にも作る予定だが、リクエストが多い肉料理のベスト3はそんなところだろう。


 提示された3種類のおかずを聞いてメロは戦慄した。


「マスター、やっぱり私達を太らせるつもりですね!?」


「いや、そんなショックを受けた顔で言われても困る。不安なら食べた後に運動すれば良いと思うぞ」


「運動するからきっと大丈夫です。私だってマスターの料理を食べたいですよ」


「我慢し過ぎるのは体に良くないから程々にな」


「はいです!」


 メロはうっかり試食し過ぎて太ったらどうしようとショックを受けたけれど、藍大の助言を受けてその手があったとポンと手を打った。


 それから藍大がメジャーな肉料理を作り終えて亜空間にしまい込み、今度は少し凝った肉料理を作り始めた。


『(*´艸`)何ができるのかな?』


「ミラリカントの肉を使った唐揚げとささみフライ、つくねだよ。鶏肉料理もいくつか作るつもりです」


『(*´罒`*)揚げ物はカロリーゼロだよね』


「そのカロリーゼロ理論は栄養士が検証動画で否定してましたね。間に受けないで下さい」


『(  ゚ ▽ ゚ ;)ナン…ダト…!?』


 ネットサーフィンで間違った知識を蓄えたゼルに対し、調理士役を続けながら藍大はビシッと指摘した。


『舞はいくら食べても太らないからその理論が奇跡的に適用されてるのかもね』


「ドヤァ」


「狡いのよっ」


「卑怯です!」


『(*´з`)ズッコイワー』


 リルと舞が余計なコメントをするものだから、仲良しトリオがMCの役割を忘れて舞に抗議した。


 そこに天照大神が口を挟む。


「落ち着いて下さい。舞は常に怪力を発揮するため、他の者よりも多くのエネルギーを常に体が欲してるのです。食べた物がどんどん消費されてくだけなのでカロリーゼロではありません」


「アタシも舞みたいに馬鹿力になれればダイエットなんて要らないわっ」


『マッスル!(^^)!マッスル』


「意地悪なことを言う悪い子はいないか~」


 舞がゴルゴンとゼルを捕まえてギュッとハグすれば、ゴルゴンとゼルがギャーギャー騒いで舞のハグから逃げ出そうとする。


 しかし、2人のSTR程度では舞のハグからは逃れられない。


「やれやれ、ゴルゴンとゼルは後先を考えて発言するですよ」


「舞、良くないわっ。仲良しトリオ間の不平等はあってはならないのよっ」


『┐(*´~`*)┌メロ、カモーン』


「嫌です! 私は悪くないですよ!」


 メロは素早くゴルゴンとゼルをハグしている舞から離れてリルの後ろまで退避した。


 そんなことをしている間に藍大がすごい勢いで鶏肉料理を完成させた。


 試食と言っても昼食のおかずになるぐらいの量で作ったから、6種類もあれば十分と言えよう。


 作り置きのサラダと用意していたパンを出せば昼食の準備が完了した。


 正直なところ、今までサクラが撮影していたものはほとんど逢魔家の日常であり、「Let's cook ダンジョン!」の本番らしさは感じられない。


 それでも試食の場面では舞達の顔が真剣になり、ハンバーグを食べる時には審査員と呼ぶに相応しい様子だった。


「このハンバーグ、ワイバハムートとアンピプテラの合挽だね。絶妙なバランスで肉同士が喧嘩せずマッチしてるよ」


『一般的なハンバーグならわんこ蕎麦感覚で食べられるんだけど、ワイバハムートとアンピプテラの合挽になると食べ応えがあるね』


 (どの肉を使ってるのか内緒にしてたんだけど、普通に見破られてるわ)


 舞は鑑定する力を持っていないけれど、視覚と嗅覚、味覚からハンバーグに使われた肉の種類を言い当てた。


 リルの場合、<知略神祝ブレスオブロキ>はあっても藍大の作るハンバーグに使われた肉の種類を当てるのに使用したりしない。


 だからこそ、舞と同じように視覚と嗅覚、味覚から正しい答えを言い当ててみせた。


雑魚モブモンスターとは思えない肉質ですね。このハンバーグならいくらでも食べられそうです」


 (いっぱい食べたらいっぱい動かないといけないから注意してくれよな)


 藍大役の天照大神のコメントに対し、今は水を差すべきではないと思って藍大は心の中でコメントした。


 ハンバーグ以外についても舞とリルはプロ顔負けの評価ができていた。


 だが、後でサクラが撮影した動画を見たけれど、藍大が料理している部分は身内で盛り上がっているだけだった。


 前半の料理シーンはさておき、料理へのコメントについては舞もリルもばっちりできたため、練習は今回だけとなったのは言うまでもない。

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