第852話 ご主人が探し物をする予感がして全速力で来たよ

 帰宅した藍大は昼食を終えてから地下神域の神殿に看破の魔鏡を納めに来た。


 看破の魔鏡が神殿に置かれたことにより、伊邪那美のアナウンスが藍大の耳に届く。


『おめでとうございます。一定以上の価値のある品々が神殿に貯まり、神殿がランクアップします』


『報酬として菊理媛が完全回復しました』


『地下神域の水源がランクアップして地下神域で育つ作物の質が向上します』


 (これで地下神域にいる神全員が完全復活したか)


 そんなことを思っていると、藍大の背後から菊理媛の声が聞こえる。


「藍大、ありがとうございます」


「いたのか?」


「ええ、ずっと後ろにいました」


「マジで?」


「冗談です」


 ずっと菊理媛が背後でスタンバイしていたのに自分が気付けなかったのかと驚いたが、それは冗談だと菊理媛に言われて藍大はホッとした。


 ”魔神”として力をつけ、10柱以上の神々から神子認定されたのに復活したばかりの菊理媛の気配に気づけなかったならば情けないと思ったからである。


 実際には菊理媛が看破の魔鏡を持った藍大が神殿に向かうのを見つけたため、何をするのか気になってその後を追っていただけだった。


「驚かせないでくれよ」


「すみません。ここに来てからというもの、いつも藍大には驚かされてばかりでしたからついやり返してみたくなっちゃいました」


 悪戯っぽい笑みを浮かべて菊理媛が謝った。


「まったく。それにしても、看破の魔鏡でこの神殿がランクアップするとはね」


「看破の魔鏡も優れたアーティファクトですが、その前に納められたゴッドスレイヤーによる影響が強いです」


「やっぱりあれってそんなにすごいんだ?」


「当たり前です。神を殺せる武器がそんなポンポンできるはずないでしょう?」


「確かに」


 看破の魔鏡が貴重なアーティファクトであることは間違いない。


 それでもゴッドスレイヤーには劣る。


 普段使いさせてもらえない点で藍大はがっかりしていたが、神殿のランクアップには大きく貢献していたのだから良しとすべきなのだろう。


「神殿がランクアップしてまだ見つけられていない日本の神々の目印になりましたから、貴方に授けた加護との相乗効果が期待できますね」


「良縁成就だな。加護を貰った時は既に良縁に恵まれてたから、あんまり効果が出ないんじゃないかと思ってたけどここで効果が出るんだ?」


「はい。私の加護は良い関係を結べる者と遭遇しやすくなるものですから、この神殿に気付いて興味を持った善神と藍大を引き合わせることでしょう」


 そんな話をしていると、メロがニコニコしながら神殿の中に入って来た。


「マスター、大変です! 私の育てる作物達が水質の向上に大喜びしてるです!」


「ああ、それは俺が看破の魔鏡を神殿に納めて菊理媛が完全復活したからだ」


「やっぱりです! マスターも菊理媛もありがとです!」


 メロは藍大と菊理媛に順番にハグした。


 少しでも品質の良い作物を育てたいと思っているメロにとって、今回の変化は大歓迎なのだからこうするのも当然である。


 そこに遅れてジャージ姿の天照大神がやって来た。


「メロ、走るのが速過ぎですよ。あっ・・・」


 食後にメロの農作業を手伝っていたらしく、藍大に会って今の自分が汗臭いのではと気になって足を止めたのだ。


「天姉、メロを手伝ってくれてたんだな。ありがとう」


「す、好きでやってますからお礼なんて要らないですよ」


 恥ずかしそうに言う天照大神の姿を見て、菊理媛はおやおやとほっこりした表情になる。


 その表情のまま天照大神に近づき、耳元で藍大に聞こえないような音量で喋る。


「貴女が藍大に告白できるようにお手伝いしましょうか?」


「にゃ!? にゃにを言ってるんでしゅか!? 大丈夫でしゅ!」


 動揺した天照大神は噛みまくりながら強がっているが、藍大にアプローチをする時にはヘタれてしまうことが多いので菊理媛の力を借りるのは悪くないだろう。


 天照大神の反応を可愛く思った菊理媛だが、これ以上天照大神にこの話題を続けると恥ずかしさで目を回すかもしれないと考えてここまでにした。


 菊理媛もメロと天照大神の農作業を手伝うと言って藍大とそこで別れた。


 藍大が地上に戻ろうとしたところで、パンドラを連れた伊邪那美に遭遇した。


「藍大、ちょっと良いかのう?」 


「伊邪那美様? 別に良いけどどうしたの?」


「パンドラが思金神の力を授かったじゃろ? こちらに興味を示してるようじゃし、今なら思金神を見つけられるんじゃないかと思うてパンドラと話しておったのじゃ」


「神殿のランクアップと”菊理媛の加護”による良縁の相乗効果もあれば、思金神様も見つかりそうだな」


 伊邪那美の話を聞いて藍大も今なら思金神を見つけられるかもしれないと頷いた。


「ご主人、僕は力を与えてくれた思金神様を見つけたいんだけど良いかな?」


 そのように従魔に質問されてNOと言う主ではないから、藍大はパンドラの頭を優しく撫でてから頷いた。


「勿論だ。思金神様を探しに行こう」


『ワフン、話は聞かせてもらったよ』


「リル? 食後の運動で走ってたんじゃなかったのか?」


『ご主人が探し物をする予感がして全速力で来たよ』


 (サクラとは違う意味で鋭い)


 そんなことを思いつつ藍大はリルの頭を撫でた。


 それから万物磁石を亜空間から取り出し、思金神のいる方角を万物磁石に示すよう願った。


『この反応は埼玉県の方だね』


「埼玉県で思金神と言えば秩父神社じゃな」


「そこまでわかれば十分だ。早速行ってみよう」


 藍大はゲンに<絶対守鎧アブソリュートアーマー>を発動してもらい、リルとパンドラを連れて秩父神社に移動しようとしたタイミングでゼルが現れてにっこりと笑う。


『(>∀<)b 私も同行する!』


 知恵の神として知られる思金神に興味があったようで、ゼルは一緒に行く準備をしていたようだ。


「わかった。ゼルも一緒に行こうか」


『((o(´∀`)o))ワクワク』


 いっしょに行けると知ってゼルは嬉しさを前面にアピールした。


 リルの<時空神力パワーオブクロノス>で秩父神社に移動した藍大達だったが、到着してすぐにリルが反応したのは御本殿とは別の場所だった。


『ご主人、あっちから神聖な力を感じるよ』


「あっちにあるのは倉庫じゃないか?」


『僕を信じて』


「そりゃ信じるさ。行ってみよう」


 リルの言う通りに藍大達は倉庫に向かってみた。


 倉庫には鍵がかかっているのだが、それは藍大達にとって大した問題ではない。


 リルが<風精霊祝ブレスオブシルフ>で風のカーテンを創り出して周囲から自分達の姿を隠している間にパンドラが<思金神祝ブレスオブオモイカネ>で体を一部鍵に変化させて開錠してみせた。


「パンドラがこんなことまでできるようになるなんて」


「ブラドが宝箱に鍵をかけ始めたからね。僕もできることを増やせないかと思って」


『|ω・)ワタシノインテリキャラノザガ…』


「ゼルはインテリキャラじゃないぞ?」


『なん・・・だと・・・( ゜Д゜;)!?』


 ゼルが本気で驚いているあたり、知識面では相当自信があったようだ。


 <知識強化ナレッジライズ>の効果を高めるべく、ネットサーフィンで蓄えた知識量を考えればその自信も的外れなものではない。


 だが、日頃のボケに走りがちな言動からインテリジェンスを感じにくいので、ゼルは逢魔家においてインテリキャラとして認識されていない。


 それは藍大だけではなく、リルやパンドラも同様に考えている。


 仲良しトリオの中で誰が一番賢いかという質問をすれば、推理力からゴルゴンの名前が真っ先に出て来るのでゼルがインテリキャラになるのは難しい。


 自分にとって衝撃の事実を聞いたゼルがしょんぼりしていたため、藍大がゼルに機嫌を直してもらおうと優しく抱きしめてあげるとゼルの機嫌が直った。


 大袈裟に驚いてみせたが、実はそこまで驚いていなかったのかもしれない。


 ゼルのことはさておき、パンドラが倉庫の鍵を開けて扉を開けたところ、本がびっしりと並んだ棚がきっちり整頓されており、倉庫というよりは図書館と呼ぶべき場所に繋がっていた。


『ここは思金神様の神域だね。僕たちが来るとわかって倉庫の扉と神域を繋げてくれたみたい』


「倉庫から繋げてくれたのは御本殿だと目立つからかもな。その配慮に感謝しよう」


 リルが思金神に到着したと断定したため、藍大はどうして御本殿ではなく倉庫を入口にしたのか察した。


 思金神を待たせるのも悪いと思い、藍大達は入口で時間を無駄にすることなくその先へと進んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る