第853話 卵と鶏があるなら親子丼を食べれば良いと思うよ

 図書館の神域に入った藍大達を探知し、棚にしまわれていた本が集まってスフィンクスを形成した。


「番人がいる神域か」


『国之狭霧の神域みたいに猿叫の鎧武者が出て来なくて良かったよ』


「それは鬱陶しそう。出て来ないでほしい」


『o(T△T=T△T)oドコカニイナイトモカギラナイ』


 本のスフィンクスが完成したのを見て藍大とリル、パンドラは呑気に話し、ゼルは伏兵として実は隠れてるんじゃないかと警戒した。


 しかし、ゼルの懸念は杞憂に終わって本のスフィンクスが藍大達に問いかける。


『卵が先か鶏が先か。貴方達の意見はどちらですか?』


『卵と鶏があるなら親子丼を食べれば良いと思うよ』


「リル、これは矛盾する問題に対する見解を訊かれてるんじゃないの?」


『それはパンドラの受け取り方の問題だよ。僕にとっては卵と鶏肉のどっちをって問題に聞こえたもん』


 リルは舞と同様に食いしん坊ズ筆頭として相応しい持論を展開した。


 パンドラがそんな質問ではないのではとやんわりツッコんだけれど、リルは自分の姿勢を崩さない。


『( ^∀^)答えを出すよりもそうやって議論し続けたい』


「ゼルはゼルで与えられた選択肢で答えないんだね」


『(。+・`ω・´)それが私の生き方なのさ☆』


 (パンドラがいてくれるとツッコミしなくて良いのがありがたい)


 藍大はパンドラが貴重なツッコミ役であることに感謝した。


 目の前でフリーダムな回答が連続して出るものだから、本のスフィンクスがどうしたものかと困惑していた。


『あ、あの、できれば選択肢のどちらかで回答してもらいたいのですが』


 そんなスフィンクスに対し、藍大は苦笑しながら自分の意見を述べる。


「答えが決まってる算数じゃないんだから、選択肢にない答えが出て来るのも仕方ないんじゃないか? そもそもその問題に決着がついてないのはどちらかを選べないからなんだし」


『・・・そうですね。私の負けです』


 藍大の言い分に反論ができなくなり、負けを認めた本のスフィンクスがはじけ飛んで元の棚に戻って行った。


 パンドラがジト目になって藍大に訊ねる。


「ご主人達っていつもこうなの?」


「いつもこんな感じだな。舞も食いしん坊もしくはパワー寄りな回答だし、サクラも極端な回答を出すし」


「常識枠がいない」


『パンドラ、答えは用意されるものじゃなくて自ら創り出すものなんだよ』


『ο(*´˘`*)ο常識に囚われないで』


「あっ、うん」


 パンドラはツッコむことに疲れて反論しなくなった。


 藍大はごめんよと言いながらパンドラの頭を優しく撫でた。


 パンドラのケアをしてから思金神を探して神域を進んでいくと、再び棚から本が飛び出して何かを形作る。


 今度はそれがケンタウロスの姿になった。


『答えよ。全能者は自分が持ち上げることができないほど重い石を作れるか?』


『σ(・(工)・;)tel使わない?』


『ゼル、僕もそれに賛成だよ』


「ご主人、ゼルとリルは何をしようとしてるの?」


 本のケンタウロスの質問に対し、またしてもとんでもないことをやらかしそうだと察知してパンドラが藍大に訊ねる。


「全能者ってことで創世神マキナ様に実際に訊いてみようとしてるんじゃないかな」


『(人´∀`*)よろしくマスター』


『正解だよ。流石ご主人だね』


 藍大はちゃんとゼルとリルの考えを理解していた。


「それってカンニングなんじゃない?」


「ミリ〇ネアで使えたからギリギリセーフだろ。どうなんだ、ケンタウロス?」


『今度はちゃんと答えを出してくれるのなら構わぬ』


「さっきのスフィンクスの件を気にしてるんだ・・・」


 スフィンクスが論破されて倒されたことを知り、ケンタウロスはクリアされるにしてもせめて答えは出してもらいたいと諦めにも似た覚悟を持っている。


 パンドラは守護者としての役目をどうにか果たそうとするケンタウロスに同情した。


 そこにマキナから藍大に向けてテレパシーが届く。


『私の気分が乗らないと持ち上げられない石は作れるよ。だから、答えはできるとも言えるしできないとも言えるね』


 (わかった。ありがとう、マキナ様)


 マキナは藍大が思金神の神域にいようとしっかり観察しているらしく、ケンタウロスの用意した問題に対する答えを伝えてくれた。


「ケンタウロス、マキナ様から答えを聞いた。答えはできるとも言えるしできないとも言える。マキナ様の気分が乗らないと持ち上げられない石は作れるんだってさ」


『・・・創世神様の回答にケチを付けられるはずあるまい。先に進むが良い』


 まさか本気でマキナから答えを引っ張り出すとは思っていなかったため、本のケンタウロスは負けを認めてバラバラになって元の本棚に戻った。


『ご主人、思金神様の気配がする場所まであと少しだよ』


「そうみたいだな。行こうか」


 リルに言われて自分でも気配を探ってみたところ、確かにこの神域の管理者の気配がこの先にあると藍大にも感じられた。


 藍大達はリルに先導されて進み、司書風の眼鏡をかけた青年のいる受付に到着した。


「やあ、待ってたよ。藍大君、リル君、ゼルさん、パンドラ君。とっくに気付いてると思うけど私は思金神だよ」


「こんにちは。自己紹介は不要みたいだな」


「まあね。君達が邪神と戦ってくれてた時に力を貸せなくてすまなかった。私は私なりに邪神を倒す策を練ってたんだけど、集中して考えてる間に全てが終わってたんだ」


 思金神は天照大神を天岩戸の外に出す時と同様に邪神への対策も考えてくれていたらしい。


 ただし、天照大神を引きずり出すよりもその問題は難しく、ちょっと一息入れようと集中状態を解除した時には藍大達が邪神を倒してしまっていたのだ。


『思金神様は熟考すると周りが見えなくなっちゃうんだね』


「様付けは不要だよ、リル君。そうなんだ。それが私の悪い癖でね。どうにかしたいとは思ってるんだけど、考えることが楽しくてついそっちに集中しちゃうんだ」


「ちなみに、思金神は邪神対策でどこまで考えがまとまってたんだ?」


「大罪もしくはそれと同格の力と神の恩恵を得たアビリティを併せ持つ者の限界を取り払うことで理外の力を手に入れられるようにしたんだ。今、私の理論で強化できるのはパンドラ君だけだね」


「その話、詳しく聞きたいです」


 パンドラは思金神の話を聞いて目を輝かせた。


 そんなパンドラを見て思金神は微笑みながらパンドラに訊ねる。


「邪神が倒された今でも力が欲しいのかい?」


「欲しいです。ミオに守られるだけは嫌だし、ご主人を守る力や抑止力が必要ですから」


『(。´・ω・)抑止ツッコミ力?』


「ゼルさんや、ちょっと黙ってようね」


 パンドラと思金神の話に茶々を入れちゃ駄目でしょうと藍大は優しくゼルに言い聞かした。


 藍大がゼルをおとなしくさせている間に思金神は受付に1本の瓶を置いた。


「これは私の理論を薬という形に具現化したものだ。苦い薬は嫌がられると思って苺味にしてある」


『苺味なの?』


「リルもこっちにおいで。今日の夕食はフルーツケーキにしてあげるから」


『うん!』


 苺味と聞いて思金神の薬に興味を示したリルが邪魔をしてはいけないと思い、藍大はリルの体を抱え込んで優しく撫でる。


 リルも苺味の薬よりフルーツケーキの方が興味は勝るらしく、すぐに薬への興味を失った。


 パンドラは藍大に感謝して思金神との話を続ける。


「僕がそれを貰っても良い?」


「勿論だとも。パンドラ君しか飲めない今、私が持ってたままでは勿体ないからね」


「ありがとう。じゃあ、いただきます」


 パンドラは二足歩行になって思金神の薬を飲んだ。


 その直後にパンドラの体が光に包み込まれ、光の中でパンドラの力が一段と強まるのを藍大達は感じた。


 光が収まっても見た目に変化はなかったが、パンドラの表情には今まで以上に自信が満ち溢れていた。


『パンドラが称号”裁神獣さいしんじゅう”を獲得しました』


『パンドラが新たな神獣として覚醒したことにより世界のバランスが更に安定しました』


『報酬として思金神が本来の半分の力を取り戻しました』


 思金神がちゃっかり力の半分を取り戻していることはさておき、藍大はパンドラがコメントしてほしそうにしているので優しくその頭を撫でた。


「おめでとう。パンドラも神様入りしたな。四神獣とは独立した新たな神獣だ」


「ありがとう!」


 パンドラはご機嫌な様子で藍大に甘えた。


『ΣΣヽ(・Д´・゚+。)先を越された…だと…』


『ゼルも順番に神になれるから落ち込むことないよ』


 顔文字でネタに走るゼルだが、パンドラに先を越されてショックを受けているのは確かだからリルが藍大の代わりに慰めてあげた。


 パンドラが覚醒して思金神もシャングリラの地下神域に移ることに同意したため、藍大達はシャングリラに帰還した。

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