第848話 君をネガティブにしてあげる

 ボス部屋へと続く道を進むにつれ、ゴズフレームとメズフレームが出現する頻度が増えた。


 それでもパンドラとルナの力も借りてサクサク倒すものだから、少し邪魔な奴が増えたぐらいの感覚で済んでしまう。


 最後のペアを倒してみれば、藍大達は前方にボス部屋の扉を発見した。


「次は何が出て来るかね?」


「ヌラリヒョンフレームとか?」


『食べられないガッカリモンスターなのは間違いないよ』


 (ルナにとっては何が出て来てもその評価になっちゃうか)


 食いしん坊ズのルナは無機型モンスターが現れる時点であんまり興味はないようだ。


 食材にならないモンスターに容赦がないのはリル譲りである。


「さて、答え合わせといこうかね」


 藍大がサクラの<十億透腕ビリオンアームズ>を使って扉を開き、藍大達はボス部屋の中に進む。


 部屋の中で待機していたのは翼を背中から生やした袴姿の武士の無機型モンスターだった。


 ただし、ただの武士でないのは赤く光るモノアイと装備している刀と小槌からして明らかだ。


『サンモトフレームLv100。近接戦重視の食べられないモンスターだよ』


「パンドラ、刀と小槌は壊さずに回収してほしい」


「了解。気を付けて戦うよ」


『ルナもサポートする!』


「そうだね。援護を頼むよ」


『うん!』


 Lv100のフロアボスが相手なので、パンドラはルナに力を借りることにした。


 ただ壊すだけなら単独でもやれるが、藍大から刀と小槌の回収を頼まれたので無理をするつもりはないのだ。


 サンモトフレームは山本五郎左衛門をモチーフにしたモンスターらしいが、袴っぽい外装と小槌がなければモ○ルスーツに見えなくもない。


 (帰ったら神田さんに教えてやろう)


 そんなことを藍大が思ったからか、別の場所で睦美が何かを感じ取って反応したのだがそれはまた別の話である。


 様子見のつもりなのか、サンモトフレームは刀を数回振って斬撃を飛ばす。


『ルナが防ぐ!』


 ルナはそう宣言して<聖曲刃ホーリーククリ>を連発し、神聖な気を纏った曲刃を放ってサンモトフレームの攻撃全てを撃ち落とした。


 その攻撃により、パンドラの<憂鬱皇帝メランコリーエンペラー>が発動してサンモトフレームの動きが鈍る。


「君をネガティブにしてあげる」


 パンドラは<負呪光線ネガティブレーザー>をサンモトフレームの中心部目掛けて放った。


 <憂鬱皇帝メランコリーエンペラー>の影響で動きが鈍っている今、サンモトフレームにそれを避ける力はなかった。


 レーザーに体を撃ち抜かれたことで、サンモトフレームはネガティブになって膝から崩れ落ちた。


 ネガティブという状態異常が発動し、残りHPが僅かなこともネガティブな思考を加速させたらしい。


「ルナ、とどめを刺して良いよ」


『良いの? やったぁ!』


 パンドラに許可を貰ってルナは<月女神矢アローオブアルテミス>でサンモトフレームにとどめを刺した。


 どう見てもオーバーキルだが、刀と小槌は無傷なままなので良しとしよう。


「パンドラもルナもお疲れ様」


「オーダー通り、刀と小槌は無事だよ」


『ワフン、パンドラと協力してやり遂げたよ』


「よしよし。愛い奴等め」


 藍大はドヤ顔のパンドラとルナの頭をわしゃわしゃと撫でた。


 パンドラとルナが満足してから藍大は戦利品を回収した。


 魔石を藍大が手に持つと、ルナがそれを欲しそうな目で見ていると気づいてパンドラは仕方ないと首を縦に振った。


「ご主人、サンモトフレームの魔石はルナにあげて」


『良いの!?』


「折角ダンジョンに来たのに魔石を1つも貰えないのはかわいそうだからね」


『ありがとう!』


 (パンドラは大人だなぁ)


 藍大はパンドラが良いと思うならばその意思を尊重するつもりだ。


 それゆえ、パンドラがこういうときに見せる大人な対応に感謝した。


 この大人な対応によって麗奈や未亜、健太が不自由なくダンジョンに挑めていたと思えば感謝しないはずがない。


 藍大はパンドラの頭を撫でてからルナに魔石を与える。


 魔石を飲み込んだルナの毛が一段とモフッとした感じになった。


『ルナのアビリティ:<翠嵐砲テンペストキャノン>とアビリティ:<大気衝撃エアインパクト>がアビリティ<天墜碧風ダウンバースト>に統合されました』


『ルナはアビリティ:<咆哮砲ハウリングキャノン>を会得しました』


『ワフン、これでパパみたくお肉を冷凍保存できるよ!』


「ルナはブレないね」


「クゥ~ン♪」


 <咆哮砲ハウリングキャノン>はあくまでおまけであり、<天墜碧風ダウンバースト>が会得できたことをルナは喜んでいた。


 藍大に顎の下を撫でられたルナは体を藍大に預けて甘えた。


 パンドラが甘えるルナの様子を見て自分も撫でろと目で訴えたため、藍大はパンドラのリクエスト通りに撫でてやった。


 ルナとパンドラが満足した後、藍大達は5階に続く階段を見つけたのでそのまま5階に移動してみた。


 5階は最初からボス部屋の扉があったので、おそらくこの階が改築した秘境ダンジョンの最上階なのだろう。


 パンドラもルナもやる気十分であり、連戦でも全く問題なさそうだから藍大達はボス部屋の中に侵入した。


 そこにはスピリチュアルな和服らしき見た目の装備をした無機型モンスターが待機していた。


 藍大はサンモトフレームよりも強いだろうと察し、すぐにモンスター図鑑を視界に映し出した。



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名前:なし 種族:カカセオフレーム

性別:なし Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,000/3,000

MP:3,500/3,500

STR:2,500

VIT:2,500

DEX:3,000

AGI:3,000

INT:3,500

LUK:3,000

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称号:5階フロアボス

   到達者

アビリティ:<火炎隕石フレイムメテオ><大波小波シャッフルウェーブ><棒術スティックアーツ

      <吸収甕ドレインベース><恐怖雨フィアーレイン><痛魔変換ペインイズマジック

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:模倣の錫杖

備考:憂鬱

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 (カカセオって天津甕星あまつみかぼしのことだっけ?)


 藍大はカカセオという言葉からそのモチーフとなった存在を思い出した。


 それは日本神話に登場する星神であり、悪神と明記される異例の存在だったのだ。


 モチーフのことはさておき、藍大はカカセオフレームが手に持っている模倣の錫杖が気になって調べた。


 その結果、この錫杖による攻撃が当たった時にその対象のアビリティや職業技能ジョブスキルを一部コピーできることがわかった。


「パンドラとルナ」


「ご主人、模倣の錫杖を確保するってことだよね?」


「言わなくてもわかるか。さすパン」


『ルナもわかってるよ』


「よしよし。じゃあ、よろしく頼む」


 藍大に頼まれたパンドラとルナは頷いて行動に移る。


 カカセオフレームが開始早々に<火炎隕石フレイムメテオ>を放ったため、パンドラが<反射鏡リフレクトミラー>で反射した。


 しかし、反射された燃え盛る隕石は<吸収甕ドレインベース>によってカカセオフレームに届く前に吸い込まれた。


 このアビリティで吸収されたものは分解されてアビリティ使用者のMPに還元される。


 ただし、自身のINTの能力値を上回る攻撃や固定ダメージ系の攻撃はその対象外だ。


 そうだとわかればパンドラが次に使うべきアビリティは明らかである。


「君もネガティブになりなよ」


 パンドラは<負呪光線ネガティブレーザー>をカカセオフレームに向けて放った。


 <憂鬱皇帝メランコリーエンペラー>の影響で動きがガタ落ちになっているので、カカセオフレームはパンドラの攻撃を避けられなかった。


 固定ダメージを受けたせいで残りHPが500になり、カカセオフレームは膝から崩れ落ちてネガティブ状態に陥った。


 その時には既にルナが<音速移動ソニックムーブ>でカカセオフレームの背後におり、パンドラもやってしまえと首を縦に振った。


『これでとどめ!』


 ルナは<月女神矢アローオブアルテミス>でカカセオフレームを串刺しにして残ったHPを削り切った。


 力尽きたカカセオフレームはドシンと大きな音を立てて倒れ、ピクリとも動かなくなった。


「お疲れ様。冷静な判断で常に余裕のある戦い方だったな」


「まあね」


「ワッフン♪」


 褒められてドヤ顔のパンドラとルナは藍大に頭を撫でられて更にご機嫌になった。


 その後、戦利品を回収して今度こそ魔石は藍大からパンドラに与えられた。


『パンドラのアビリティ:<全半減ディバインオール>とアビリティ:<反射鏡リフレクトミラー>がアビリティ<反射鏡体リフレクトボディ>に統合されました』


『パンドラはアビリティ:<忘却水流オブリビオンストリーム>を会得しました』


 (順調に強力なアビリティが増えてるじゃん)


 伊邪那美のアナウンスを聞いて藍大はパンドラが強化されたことを実感した。

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