第845話 今日はメインで活躍できて良い日だね

 秘境ダンジョンの3階に移動すると、藍大達は通路の両脇に弓兵の木像がずらりと並んでいるのを見つけた。


 それらの木像は藍大達が3階にやって来たことを察知し、体の向きを変えて藍大達に矢を放ち始める。


『ここは僕がやるよ』


 リルが<風精霊祝ブレスオブシルフ>で風の壁を創り出せば、矢は藍大達に届くことなく通路に落ちた。


「モンスターじゃなくてギミックなんだね」


「どうにもそうらしいな。リル、ガードしてくれてありがとう」


『ワフン、これぐらいどうってことないよ』


 リルはご機嫌な様子で藍大に応じた。


「パンドラ、そのままにしても攻撃されるだけだから燃やしちゃってくれ」


「了解」


 パンドラは藍大の指示を受けて<迦具土刃エッジオブカグツチ>を発動し、炎の刃で木像を次々に燃やした。


 ギミックが壊れてしまえば、藍大達の探索を妨げるものはないので藍大達は先へと進む。


 木像のギミックの破壊をしている間に集まっていたのか、大槌を持った隻眼で一本足の猪を模した無機型モンスターの集団が現れた。


「タタラフレームLv75。一本踏鞴いっぽんだたらがモチーフらしいな」


「少しはまともな雑魚モブモンスターが出て来たみたいだね。どうせ倒すけど」


 パンドラはアマノジャックスの魔石を取り込んで会得した<混沌砲カオスキャノン>を使ってみた。


 ビームを薙ぎ払うだけでタタラフレームの大半が力尽き、残っているのは最後尾にいた個体のみだった。


 もっとも、この個体もビームに触れていたせいで体の制御を不安定になり、著しく動きが鈍っていた。


「<混沌砲カオスキャノン>は便利なアビリティだね」


 検証を終えたパンドラは<負呪破裂ネガティブバースト>で残ったタタラフレームのHPを削り切った。


 藍大は後続の敵がいないことを確認してからパンドラの頭を撫でる。


「お疲れ様。ダメージも稼げてデバフも発動するのは良いアビリティだな」


「うん。ついでに<叡智目録ウィズダムカタログ>も使ってみる」


 そう言ってパンドラは<叡智目録ウィズダムカタログ>を発動し、自身の姿を拳銃に変えた。


 拳銃になったパンドラを握った藍大はパンドラに訊ねる。


「パンドラはなんで拳銃に化けたんだ?」


「この姿で銃口からアビリティを発射するのってカッコ良くない? それともご主人はそういうのが嫌いかな?」


「お好きでござる」


 お約束を持ち出されてしまえば藍大はそれに乗るまでである。


 その後のタタラフレームとの戦いでは、拳銃になったパンドラを駆使して藍大が戦っている風に装った。


 実際のところはパンドラがアビリティを発動しているので、ごっこ遊びのようなものである。


 藍大とパンドラのごっこ遊びを見て、リルも自分の背中に藍大を乗せたいと言い出したものだから、藍大はカウボーイならぬリルボーイになって戦った。


 そんなお遊びをしている内にタタラフレームではないモンスターが藍大達の前に姿を見せた。


 それは巨大な蜘蛛を模した無機型モンスターだった。


「ツチグモフレームLv80。”掃除屋”だってさ」


 藍大が鑑定結果を口にした直後、ツチグモフレームの口から激しい勢いで糸が吐き出された。


 その糸は白ではなく黒く染まっており、糸に周囲の物を引き寄せる効果が付与されていた。


 これは<吸引線糸ドロースレッド>と呼ばれるアビリティであり、周囲の物を引き寄せる効果のせいで通常の攻撃に比べて避けにくい仕様なのだ。


「燃やせば良いじゃん」


 面倒なアビリティではあるものの、パンドラの言う通り燃やしてしまえば問題ない。


 <迦具土刃エッジオブカグツチ>で焼きながら斬れば、炎があっという間に糸を伝って燃え広がっていった。


 慌ててツチグモフレームは糸を切断したが、その対応が僅かに遅くてダメージを負ってしまった。


 炎による攻撃は苦手としているらしく、ツチグモフレームはパンドラの攻撃に怒った。


 そして、大きく跳躍して空中から腹部にくっついていた卵らしき球体を次々に落としていく。


 それらの卵は落下中に変形して小さなツチグモフレームになった。


「パンドラ、あれが触れたら爆発するから処理してくれ」


「一掃しちゃうよ」


 パンドラは<混沌砲カオスキャノン>で最も近い位置にあった小さな個体を撃墜した。


 その爆発に呑まれて他の個体全てが消滅した。


 爆炎のせいでツチグモフレームの姿が見えないから、リルは<風精霊祝ブレスオブシルフ>で爆炎を散らせた。


 視界を確保した藍大達は天井からぶら下がるツチグモフレームを見つける。


「僕は弱い奴に見下されるのが嫌いなんだ」


 パンドラが<停止ストップ>で動きを止めれば、ツチグモフレームの体は防御の構えになっていないから隙だらけだ。


 すぐに<迦具土刃エッジオブカグツチ>にアビリティを切り替え、ツチグモフレームを解体しながら倒してみせた。


「討伐完了」


「お疲れ様。パンドラは流れるような攻撃だったな。リルもサポートありがとう」


「今日はメインで活躍できて良い日だね」


『どういたしまして』


 パンドラは藍大のパーティーにいることで問題児の世話をしなくて済む。


 そのおかげで戦闘に集中できるからストレスはないし、リルが基本的に戦いを譲ってくれるので自由に戦えるから嬉しそうに言った。


 ツチグモフレームの魔石を取り込むため、パンドラは拳銃の姿から九尾の白猫の姿に戻った。


 バラバラにしたツチグモフレームの破片を回収した後、その魔石は藍大からパンドラに与えられた。


『パンドラのアビリティ:<憂鬱メランコリー>とアビリティ<停止ストップ>がアビリティ:<憂鬱皇帝メランコリーエンペラー>に統合されました』


『パンドラの称号”憂鬱な執事”が称号”憂鬱な皇帝”に上書きされました』


『パンドラはアビリティ:<反射鏡リフレクトミラー>を会得しました』


 アナウンスが終わってすぐに藍大はパンドラに声をかける。


「パンドラ、またアビリティが統合されたな」


「うん。本当に今日は良い日だよ。ぐんぐん強くなれてる実感がある」


 <憂鬱皇帝メランコリーエンペラー>はパッシブアビリティであり、パンドラに敵意を持った瞬間に敵対行動を取るのが憂鬱になる。


 それでも意志を強く持って攻撃しようとすれば、二段構えの効果が発動してその者の動きが止まる。


 ただし、これは能力値の合計値が自分以下でないと十全に発揮されず、自分以上の能力値を持つ物が相手だとその効果時間が短くなる。


 <反射鏡リフレクトミラー>は任意の場所にMPで特殊な鏡を創り出し、そこに加えられた力が物理攻撃と魔法攻撃を問わずそのまま相手に反射する。


 今回新たにパンドラが会得したアビリティも強力だから、パンドラはかなり機嫌を良くしている。


『パンドラが強くなってるのは間違いないね。”憂鬱な皇帝”を獲得したってことは、ブラドと同じ括りになる訳だし』


「別に僕は舞にハグされる人形じゃないよ?」


『なんてことを言うのだ! 吾輩だって違うのだ!』


 ナチュラルにパンドラが首を傾げながら言うと、ブラドが異議ありと藍大の頭にテレパシーで抗議した。


 ブラドの抗議は華麗にスルーして、藍大達はそのままボス部屋へと向かう。


 ボス部屋には尻尾が2本に分かれた鼬を模した無機型モンスターが待機していた。


 流石にフロアボスが連続して”希少種”ではないだろうと思いつつ、藍大はモンスター図鑑を視界に映し出した。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ライジュウフレーム

性別:なし Lv:85

-----------------------------------------

HP:2,300/2,300

MP:2,500/2,500

STR:1,800

VIT:1,800

DEX:1,700

AGI:2,000

INT:2,400

LUK:2,000

-----------------------------------------

称号:3階フロアボス

アビリティ:<破壊突撃デストロイブリッツ><紫雷地雷サンダーマイン><威圧咆哮プレッシャーロア

      <混乱雨コンフュレイン><紫雷鎧サンダーアーマー

      <自動修復オートリペア><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:憂鬱

-----------------------------------------



 (いきなり憂鬱になってるじゃん)


 ライジュウフレームの備考欄を見てみれば、パンドラに敵意を抱いたせいでライジュウフレームは憂鬱状態になっていた。


 それでもパンドラには向かおうとしたため、ライジュウフレームの動きがピタッと止まった。


「パンドラ、やっておしまい」


「バイバイ」


 パンドラの<迦具土刃エッジオブカグツチ>がライジュウフレームをバラバラに斬った。


 焼くと斬るを同時に行われたことにより、<自動修復オートリペア>がうまく作用せずライジュウフレームはあっけなく力尽きてしまった。


 戦利品回収を済ませた後、藍大はパンドラにライジュウフレームの魔石を与えた。


『パンドラのアビリティ:<迦具土刃エッジオブカグツチ>がアビリティ<迦具土炎フレイムオブカグツチ>に上書きされました』


 (えっ、神の名を冠するアビリティって上書きされんの?)


 想定外の事態が起きて藍大は驚いた。

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