第844話 私が現れることで驚かぬ者はいなかった

 2階にやって来た藍大達は河童を模した無機型モンスターの群れに待ち伏せされていた。


「カッパマトンLv55。妖怪ネタの無機型モンスターが出て来るのは1階と同じらしいぞ」


「河童なら頭の皿を割らないとね」


 パンドラがそう口にした途端、カッパマトン達は一斉に頭の皿を庇う姿勢になった。


「隙あり」


 まさか全員が同じ動きをするとは思っていなかったけれど、チャンスを逃すパンドラではない。


 <迦具土刃エッジオブカグツチ>で巨大な炎の刃を創り出し、大きく横に薙ぐことでカッパマトン達を一刀両断した。


『お皿隠して体隠さずだね』


「それだけ頭の皿が大事だったんじゃない? 知らないけど」


 リルが諺のようにカッパマトンの動きを表現すれば、パンドラは大して興味なさそうに言ってのけた。


「カッパマトンの皿は魔法系アビリティを吸収できる構造みたいだな」


『ご主人、それってパンドラの攻撃も頭で受けてたら防げたってこと?』


「それは無理だったと思うぞ。神の名を冠するアビリティじゃ吸収しきれなくて、貯め込んだ所で爆発してた」


「迦具土のくれたアビリティは本当に有能だね。いつも助かってるよ」


 パンドラは<迦具土刃エッジオブカグツチ>というアビリティをかなり気に入っている。


 このアビリティのおかげでパンドラの攻撃手段が<負呪破裂ネガティブバースト>以上にダメージを与えたい時に自分でどうにかできるようになったからだ。


 それはそれとして、戦利品を回収した藍大達は探索を再開した。


 ところが、藍大達はそれからすぐにチェーンブロックを見つけて立ち止まる。


 このギミックはダンジョン内に最低3つ以上仕掛ける必要があり、正しい方法以外で壊すとそれ以降のブロックの強度が増す。


 ブロックごとに壊す条件は異なるから、以前はこれでどうにかなったと過去の経験則で判断するのはいけない代物である。


 もっとも、今日はリルとパンドラがそれぞれ<知略神祝ブレスオブロキ>と<学者スカラー>でブロックの詳細について鑑定できるから、何もわからなくて慌てるなんてことにはならない。


『パンドラ、雷系のアビリティで破壊しろってことだから僕がやっちゃって良いよね?』


「うん。お願いするよ」


『わかった』


 基本的にはパンドラにギミックや宝箱の対応を任せる方針だったが、パンドラにできないことはその限りではない。


 だからこそ、リルはパンドラに一声かけてから<雷神審判ジャッジオブトール>で1つ目のブロックを壊した。


 轟音と共にブロックが壊れ、その音に釣られてカッパマトンの群れが藍大達のいる場所に押し寄せて来た。


「・・・リル、やり過ぎだったんじゃない?」


『そんなことないよ。Lv55程度の雑魚モブなんていくら集まっても結果は一緒でしょ?』


「それはまあそうだけどさ」


 パンドラにジト目を向けられたリルはすまし顔で応じた。


 リルの言い分を聞いてパンドラも同感だったので、これ以上リルに何か言うことはせずにパンドラはカッパマトンの群れの方を向いた。


「それにしても頭が寂しい連中だね」


 ボソッとパンドラが感想を言った直後、カッパマトンの群れは激怒した。


 言ってはならないことを言ったなと言わんばかりに地団太を踏み、隊列を組んで手に持った三叉槍を構えて突進を始めたのだ。


 その行動はパンドラに対する敵対行為に該当するため、パンドラの<憂鬱メランコリー>が発動してカッパマトンの群れ全体の動きが鈍化した。


「ドミノ倒しをしようか」


 パンドラは<負呪破裂ネガティブバースト>で最前列にいたカッパマトン達を攻撃してそれらを後ろに転ばせた。


 カッパマトンは甲羅までしっかり再現されており、バランスを崩したそれらは後ろに並んでいた者達を巻き込んで仰向けに倒れてしまった。


 まさにドミノ倒しである。


 敵集団が転んで大きな隙を見せたので、パンドラは<迦具土刃エッジオブカグツチ>でそれらを一掃した。


「パンドラ、お疲れ様」


「これぐらい全然へっちゃらだよ」


「よしよし。まだまだ頑張ろうな」


「勿論」


 藍大に頭を撫でられてパンドラは嬉しそうに答えた。


 戦利品を回収して先に進めば、2つ目のブロックが設置されていた。


「今度は僕が対処できるね。あのブロックの自壊スイッチを探してそこを攻撃すれば良いから」


 2つ目のブロックはリルの力を借りずとも問題なかったから、パンドラはホッとした様子で自壊スイッチを探してそれを押した。


 スイッチを押したことにより、ブロックはボロボロと崩れて破片になった。


 ブロックが壊れたことに連動して子供の鳴き声が響き渡り、通路の奥からなまはげを模した無機型モンスターが包丁によく似た大剣を振り回しながらやって来た。


「ナマハゲマトンLv60。”掃除屋”。STRが高めだけどその分AGIは低い」


「問題ないよご主人。既に動きは<憂鬱メランコリー>の影響も受けて鈍ってるし、あんな奴に好き勝手させないから」


 藍大の分析を聞いた後、パンドラは<停止ストップ>でナマハゲマトンの動きを確実に止めた。


 それから<迦具土刃エッジオブカグツチ>でナマハゲマトンの体をバラバラに斬って倒した。


 ナマハゲマトンの魔石もパンドラを強化するには足りなかったため、藍大達はさっさと戦利品を回収して3つ目のブロックを探すべく先に進んだ。


 3つ目のブロックはそれから少し移動したボス部屋の扉に隣接していた。


 1つ目と2つ目は立方体のブロックだったが、3つ目のブロックはボス部屋の扉の中心に半球状でくっついていた。


「今出せる最大限の力で壊せってことはリルに頼るしかないね」


『舞がついて来る想定だったのかな』


「どうだろうね。でも、そうだったとしたらブラドはツンデレ決定だよ」


『舞にハグされるのは嫌だと言いつつ実は嬉しかったのかな?』


 そんな会話をパンドラとリルがしていると、藍大の頭にブラドのテレパシーが響く。


『酷い誤解である! 吾輩は騎士の奥方に対してツンデレな訳ではないのだ!』


 (ええんやで。素直になってええんやで?)


『主君、五七五でテレパシーを返すのは止してほしいのである! というか関西弁である意味はなかろう!?』


 藍大のボケが混じったテレパシーにブラドはしっかりツッコんだ。


 今日も藍大はブラドとも仲が良いようである。


 とりあえず、3つ目のブロックはリルが<神裂狼爪ラグナロク>で壊した。


 その結果、ダンジョン全体が揺れて藍大達の正面の扉が開いてボス部屋の中が光に包まれた。


 今回のチェーンブロックは条件を満たすことで特殊なフロアボスを呼び出す仕様になっており、光が収まるとそこには黒みを帯びた銀色の立方体と呼ぶべきモンスターが現れた。


 藍大はその正体に心当たりがなかったので、すぐにモンスター図鑑を視界に映し出して調べ始める。



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名前:なし 種族:アマノジャックス

性別:なし Lv:70

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HP:1,500/1,500

MP:2,000/2,000

STR:1,800

VIT:1,700

DEX:1,700

AGI:1,500

INT:1,800

LUK:1,500

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称号:2階フロアボス

   希少種

アビリティ:<剛力突撃メガトンブリッツ><重力爆弾グラビティボム><拒絶リジェクト

      <猛毒砲弾ヴェノムシェル><闘気鎧オーラアーマー

      <恐怖霧テラーミスト><形態変化シェイプシフト

装備:なし

備考:私が現れることで驚かぬ者はいなかった

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 (無駄に自信満々だな)


 アマノジャックスが登場したことに藍大は驚いていなかった。


 リルやパンドラも特に驚いてはおらず、ジト目をアマノジャックスに向けていた。


「ご主人、あいつは瞬殺しちゃっても良いかな?」


「良いとも」


 パンドラがお約束の質問をすれば、藍大はノータイムでお約束の回答をした。


 状態異常に耐性がある訳でもなかったため、パンドラは<停止ストップ>でアマノジャックスの動きを封じてから<迦具土刃エッジオブカグツチ>でサイコロカットした。


「出オチだったね。でも、魔石はありがたく頂戴するよ」


 チェーンブロックのおかげで現れた特殊なフロアボスだったから、アマノジャックスの魔石はパンドラが取り込んで効果のあるものだった。


 藍大がパンドラにその魔石を与えたことにより、藍大の耳に伊邪那美のアナウンスが届いた。


『パンドラのアビリティ:<形状変化シェイプシフト>とアビリティ<学者スカラー>がアビリティ:<叡智目録ウィズダムカタログ>に統合されました』


『パンドラはアビリティ:<混沌砲カオスキャノン>を会得しました』


 <叡智目録ウィズダムカタログ>は鑑定と変身効果のあるアビリティであり、<混沌砲カオスキャノン>は命中した相手の体の制御を不安定にさせる効果のあるビームを放つアビリティだった。


 パンドラは攻撃手段が増えてご機嫌だった。


「パンドラ、攻撃手段が増えて良かったじゃん」


「うん。状態異常も生じるみたいだし、相手に嫌がらせできる良いアビリティだよ」


「上の階で試し撃ちしないとな」


「そうだね」


 まだまだ時間に余裕があったため、藍大達は戦利品を回収してから3階へ移動した。

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