第842話 なんと満ち足りた気分でしょうか。今ならば邪神も怖くありません

 ヴィオラの採点が終わってリルが箱の中から籤を引く。


 リルが選んだ球には結衣とマロンの名前が記されていた。


「リル様が引き当てたのは菊田さん&マロンペア! 今回はどんなダンス動画を見せてくれるのか楽しみで仕方ねえな!」


 モフリー武田がそう言った後に会場が暗くなり、スクリーンの端にグランドピアノの前に座る結衣が現れ、画面の中心には両前脚を組んで祈るポーズをしたマロンの姿があった。


 結衣の演奏によって映画の挿入歌にもなった讃美歌が始まり、最初は荘厳な感じでチュウチュウ歌っていた。


 ところが、曲調が変わってアップテンポになると体を振り振りしたり陽気に踊り出し、それだけで会場が笑いに包まれた。


「マロンたん、それはヤバいっすわ!」


「ギャップ萌えですね、わかります」


「これがマロン! これこそがマロンだわ!」


 激しく踊って歌い終わった後、結衣の夫の楽が画面の外からおやつ持って来たぞと言ってやって来た瞬間、マロンが楽に飛びつくところで動画が終わった。


 最後にマロンらしいおまけがあったことで会場内がほっこりした。


「良いねぇ。実に良い。マロンはこうでなくちゃマロンじゃねえよな。さあ、審査員の皆さん、コメントよろしくぅ!」


「マロンの目指す聖女らしさと食いしん坊なイメージが見事にマッチしてました」


『運動した後のおやつって格別だよね』


「モフ神としてモフモフ聖女の神楽を楽しませてもらいました。なんだか力が漲ってました」


『マロン、なんてことをしてくれたんだ。主人が強化されたらもっと手に負えなくなるよ』


「なんて愛らしい踊りでしょう! マロンちゃんにおやつをあげたくなりましたね!」


「チュウ?」


 ガルフのジト目をスルーしたマロンは志保の発言にピクッと反応した。


 面倒臭そうなモフ神の話なんでどうでも良いからおやつが欲しいと目が訴えている。


「悪いがおやつをあげるのは番組が終わってからにしてくれよな! さて、採点よろしくぅ!」


 スクリーンにマロンのPVの得点が表示される。

 

「魔神様&リル様ペア5点! モフ神様&ガルフさんペア5点! 吉田さん5点! 合計15点! またもや満点だぁぁぁ!」


「マロン、ダンスを頑張った結果が出たね」


「チュウ♪」


 マロンは結衣の肩の上で嬉しそうに鳴き、頑張ったんだからおやつをくれても良いのではと甘える。


 あっちこっちで甘えておやつを貰おうとするあたり、マロンは食いしん坊ズに近い領域まで足を踏み入れているのかもしれない。


 マロンのターンが終わり、藍大がリーアムとニンジャの球を箱から引いた。


 ニンジャのダンス動画の曲は名前が呼びにくい日本人歌手の忍者の文字が入ったものだ。


 このダンス動画は一時期幼稚園や保育園でも大人気であり、それをニンジャが踊るとそれはもう可愛らしかった。


 勿論、マロンのようにただ可愛いのではなく、ニンジャはキレッキレのダンスを踊るのだから観客達は魅了された。


 魅了された者達の中にはぽかんと口を開けたままになってしまった者もおり、それだけニンジャのダンス動画に夢中にさせられてしまったと言えよう。


 ダンスが終わって会場が明るくなると、素晴らしいと観客達が立ち上がって拍手し始めた。


「ブラボー! 鳥肌が立つぐらいの完成度だったぜ! 審査員の皆さんはどうだった!? コメントよろしくぅ!」


「ニンジャのキレッキレのダンスを見られて良かったです。プロダンサーに勝るとも劣らない技量でしたね」


『ワフン、見事な身のこなしだったよ』


「素晴らしいダンスでした。どんどん私の力が漲ります」


『あばばばば・・・』


「ニンジャちゃんのダンス、ずっと見ていても飽きないぐらいでしたね! 収録が終わったらまた見たいと思います!」


 (ガルフ、気をしっかり持つんだ!)


 真奈が力を増していると聞いてガルフが正気を保てなくなって来たらしく、藍大はテレパシーでガルフにエールを送った。


 そのおかげでガルフは折れそうになった心をどうにか持ち直し、ペコリと藍大に頭を下げた。


『天敵の従魔って本当に大変だよね』


「よしよし。リルには俺がいるからな」


「クゥ~ン♪」


 真奈の存在感が強まって震えるリルに対し、藍大はいつも通りにその頭を撫でてリルの心を落ち着かせた。


「大好評のニンジャのダンス動画、審査員の皆さんは何点にするんだ!?」


 スクリーンにニンジャのPVの得点が表示される。

 

「魔神様&リル様ペア5点! モフ神様&ガルフさんペア5点! 吉田さん5点! 合計15点! やっぱり満点だぁぁぁ!」


 会場内も当然だろうという空気でニンジャの採点が終われば、籤引きをするまでもなく最後の動画は残ったカームのものになる。


「待たせたな! 待たせ過ぎちまったかもしれねえ! 最後は有馬さん&カームペアの動画だ!」


 カームがチョイスしたダンス動画の曲はニチアサの魔法少女アニメのエンディングテーマだった。


 この曲では主人公の女の子の従魔が曲に合わせて歌って踊るのだが、その従魔は人の姿に変身できるアビリティを会得している設定なのだ。


 これには大きなお友達も大興奮である。


 最初は愛らしいモフトリスの姿で踊るけれど、サビが来た瞬間に人の姿に変身してキレッキレのダンスを披露するのだから一度で二度楽しめる。


 しかも、このダンス動画は”ホワイトスノウ”が全面的にバックアップして作ったからクオリティが高く、正直これだけでも売れるクオリティだ。


 ダンス動画が終わった後、再び会場内の観客が立ち上がってカームに惜しみなく拍手を送った。


「マーベラス! キュート&ビューティフォー! 今までこんなダンス動画は見たことないぜ! 審査員の皆さん、コメントよろしくぅ!」


「総合力で勝負するダンス動画でしたね。カームのアビリティや演技力、”ホワイトスノウ”のサポートが合わさって名作が誕生しました」


『カームのプロ意識を感じるダンス動画だったね』


「なんと満ち足りた気分でしょうか。今ならば邪神も怖くありません」


『主人が、主人が・・・』


「この動画だけで丼ぶり3杯はペロッといけそうですね!」


 (真奈さんも吉田さんも何処に向かってるんだ?)


 真奈はカームの動画を見てから輪郭がほんのり光を帯びているし、志保は別に大食いキャラでもないのにカームのダンス動画をおかずに丼ぶり3杯は食べれると言い始めた。


 これには藍大が困惑するのも当然だろう。


「モフ神様が光を帯びてるけど番組はこのまま続けさせてもらうぜ! 審査員の皆さん、採点よろしくぅ!」


 スクリーンにカームのPVの得点が表示される。

 

「魔神様&リル様ペア5点! モフ神様&ガルフさんペア5点! 吉田さん5点! 合計15点! 当然だが満点だぁぁぁ!」


「カーム、やったわね!」


「・・・ピヨ」


 白雪がハイタッチしようと手を差し出すと、しょうがないなとカームはハイタッチする。


 本当はすぐにハイタッチしたいぐらい喜んでいるのだが、カームは演じているキャラに綻びが見つからないように慎重に動いた。


 それはさておき、全ての種目が終わったので後は結果発表を残すのみだ。


「結果発ぴょぉぉぉぉぉ!」


 モフリー武田が全力で叫ぶのと同時に8つのペアのアイコンが縦並びでスクリーンに表示される。


「第一種目モフモフクイズの結果はぁぁぁ!?」


 カームが3マス、ダニエルとマロン、ニンジャ、ヴィオラが2マス、マーレとエンリ、フォクシーが1マス右に動いた。


「第二種目アスレチックタイムアタックの結果はぁぁぁ!?」


 ニンジャとカーム、ヴィオラが5マス、ダニエルとエンリ、フォクシーが3マス、マロンが1マス右に動いた。


「第三種目PV対決の結果はぁぁぁ!?」


 マロンとニンジャ、カーム、フォクシーとヴィオラが15マス、マーレが14マス、エンリが13マス、ダニエルが9マス右に動いた。


「合計得点はダニエル14点! マーレ15点! エンリ17点! マロン18点! フォクシー19点! ニンジャ22点! ヴィオラ22点! カーム23点! 接戦を制して優勝したのは有馬白雪&カームペアだぁぁぁ!」


 モフリー武田が白雪とカームの優勝を発表した途端、紙吹雪が会場内に盛大に舞う。


「カーム、優勝よ! 遂に優勝したわ!」


「ピヨ」


 白雪に抱き締められたカームは嬉しそうに目を細めた。


 そこに藍大が第3回MOF-1グランプリの優勝トロフィーを持って近づく。


「有馬さん、カーム、おめでとうございます」


「ありがとうございます!」


「ありがとう」


 藍大から優勝トロフィーを授与されて白雪は人の姿になったカームと一緒にそれを上に掲げる。


 モフリー武田がスクリーンに大々的に映し出された白雪とカームを見てから、忘れてはいけない企画に触れる。


「優勝者予想企画のプレゼント当選者はこいつらだ! スクリーンを見てくれ!」


 スクリーンの下部に会場と視聴者のプレゼントに当選した者の名前が表示され、番組ロゴが入ったオリジナルバッジがスクリーンに大きく映る。


 このバッジは押すとランダムに歴代のMOF-1グランプリに参加した従魔の声がするのだ。


 会場がざわついているけれど、番組の終わりが来たのでモフリー武田が締めに入る。


「以上でMOF-1グランプリは終了だ! 第4回の開催を楽しみに待っててくれよな! あばよ!」


 モフリー武田が番組の尺の都合で最後は早口で締め、MOF-1グランプリは無事に終わった。


 番組終了後、MOF-1グランプリでモフ欲を満たされた真奈の全身が光に包み込まれ、光が消えた後に賢者モードになっていたのはまた別の話である。

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