第840話 ステップウォールWが立ちはだかる!

 第一種目が終わった後、第二種目を行うために藍大はリルと協力して参加者全員を連れて上野の美術館ダンジョンに移動した。


 モフリー武田や真奈、ガルフ、志保は手元のスクリーンで視聴し、観客達は会場にいくつか設置された特大のスクリーンで視聴することになっている。


 ダンジョン内での撮影は”ホワイトスノウ”がダンジョン探索配信に使っているドローンとイヤホンをレンタルして行うため、会場内にいてもリアルタイムで第二種目の様子を視聴できる。


 なお、テレビの画面も一時的にドローンで撮影した映像が大きく映り、ワイプで会場内の司会や審査員を映し出す仕様に切り替わっている。


『さて、第二種目はアスレチックタイムアタックだぁ! この種目に限って進行を現地の魔神様&リル様に託すぜ!』


「はい、こちら逢魔です。上野にある美術館ダンジョンに用意されたアスレチックに来ております」


『モフモフ従魔達には今から目の前にあるアスレチックの走破タイムで勝負してもらうよ』


 モフリー武田から一時的に進行を引き継いだ藍大とリルは第二種目の説明を始める。


 アスレチックは6つのゾーンから形成されており、それらを90秒で走破しなくてはならない。


 6つのゾーンは以下の通りだ。


 1つ目が8段跳びと呼ばれる幅が1mの池の両側にそれぞれ4枚ずつ設置された壁を蹴って向こう岸に渡るゾーン。


 2つ目が丸太渡りと呼ばれる回転する5つの丸太を渡って向こう岸に渡るゾーン。


 3つ目がサボテンブリッジと呼ばれるあちこちにサボテンを模した柔らかい柱が突き刺さった橋を渡るゾーン。


 4つ目がステップウォールWと呼ばれる湾曲している壁を駆け上がり、頂上によじ登るのを二度繰り返すゾーン。


 5つ目がスライダージャンプと呼ばれるソリに乗って滑り台を滑り、その終点でソリからジャンプして向こう岸に渡るゾーン。


 6つ目がプッシュウォールと呼ばれる壁を押しながらゴールを目指すゾーンだ。


 ちなみに、壁は挑戦者の能力値に応じて重さが変わるギミックなので不公平にはならない。


 第二種目の得点は小数点以下切り捨てで走破した際の残りの秒数を区切って点数調整する。


 残り秒数が1~10秒なら1点、11秒~20秒なら2点といった感じで点数が決まる。


「ここで参考までにリルのテスト走行時の残りタイムをお伝えしますが、アビリティを使わない条件で70秒を残しましたから、第二種目で7点獲得したことになります」


『ワフン、そこそこ良い運動になったよ』


 リルは藍大の参考情報の後にドヤ顔を披露した。


『会場の赤星です。ガルフは同じ条件で挑んで55秒を残しましたから6点です』


『リル先輩のすごさを改めて実感した』


『くっ、私が調教士として覚醒していれば参加できたのに・・・』


『俺もマイモフモフがほしいぜ。それにしてもリル様半端ねえな。いや、ガルフさんも十分すごいだろ。是非とも参加者の皆さんにはそれらの記録に挑んでもらいたいぜ』


 志保のコメントに軽く乗っかってから、モフリー武田は会場のコメントをまとめて美術館ダンジョンに返した。


 放送時間も限られているので早速タイムアタックを始める。


 走行順は第一種目で点数の低い順であり、同点の場合はエントリーナンバーが若い方が先となった。


 したがって、マーレ>エンリ>フォクシー>ダニエル>マロン>ニンジャ>ヴィオラ>カームの順番に決まった。


「では、マーレにタイムアタックに挑戦してもらいましょう」


 藍大が喋った後にピッ、ピッ、ピッ、ピーと合図が出てマーレは8段跳びに挑戦する。


 白くてモフモフしたアザラシな見た目のマーレだが、その見た目には反して機敏に壁を尾鰭で叩いた反動を使って8段跳びをクリアした。


 丸太渡りは滑るようにしてあっさりクリアしたが、サボテンブリッジで真っ直ぐ進めないせいで時間をロスした。


 その次に待ち構えていたステップウォールWだが、1つ目の壁は尾鰭で叩いた反動でジャンプしてなんとかしたものの2つ目の壁を登り切れずタイムアップとなった。


『ここでタイムアップ! ステップウォールWがマーレの前に立ち塞がったぁぁぁ!』


「プォ・・・」


「よく頑張ったね。偉かったよ」


「プォ~♡」


 モフリー武田の実況に落ち込むマーレだったが、理人が近づいて来て両手を広げれば、理人に抱き着いて甘えて機嫌を良くした。


 マーレは第一種目と合わせて1点しか獲得できなかったけれど、他の参加者もクリアできない可能性だってあるので希望を捨てたりしなかった。


 第二種目の恐ろしいところは大逆転の可能性もあるし、逆に大きく差を開けられる可能性もあるが、それでも希望を捨てたら駄目だろう。


 次に挑んだエンリは躓くことなくステップウォールWまで進み、軽い身のこなしのおかげでマーレとは違ってそこでタイムアップすることはなかった。


 スライダージャンプとプッシュウォールも危なげなく進み、24秒を残してゴールした。


『エンリが3点獲得! ここでエンリと差が開いたぁ!』


「マスター、私、やったよ!」


「偉いぞ。よくやってくれた」


 アスレチックから戻って来たエンリはホッとした様子で政宗に抱き着いた。


 マーレのタイムアップのせいで緊張していたのだが、自分はそうならずにクリアできて安堵したようだ。


 次のフォクシーは27秒、その次のダニエルは28秒を残して共に3点をゲットしたが、マロンはステップウォールWで時間がかかって残り5秒のゴールで1点だった。


『ステップウォールWが立ちはだかる! あのゾーンは危険だぁぁぁ!』


 会場のモフリー武田はノリノリで実況している。


「準備が整いましたので、ニンジャにタイムアタックに挑戦してもらいましょう」


 藍大が喋った後にピッ、ピッ、ピッ、ピーと合図が出てニンジャは8段跳びに挑戦する。


 ニンジャはアスレチックタイムアタックに挑戦する前からワクワクしていた。


 第二種目は自分のためにあるとすら思っていた。


 8段跳びと丸太渡り、サボテンブリッジをさっさと通過し、ステップウォールWでも軽々と壁を越えてスライダージャンプとプッシュウォールも危なげなくクリアした。


『ゴォォォォォル! すごいぞニンジャ! 50秒を残して5点ゲット!』


「ニンジャ、お疲れ様」


「プゥ♪」


 ニンジャはリーアムに抱っこしてもらって満面の笑みを見せた。


 楽しく遊んだだけでリーアムからたっぷり褒められたのだから、ニンジャにとってアスレチックタイムアタックは本当に素晴らしい種目のようだ。


 (プッシュウォール次第ではガルフに並べただろうな)


 藍大はニンジャのタイムアタックを見て冷静に分析していた。


 ニンジャが最も時間を要していたのは最終ゾーンのプッシュウォールだったから、そこが時間を短縮できればガルフと同じ秒数でクリアできたように思えたのだ。


 アスレチックタイムアタックはやり込めばクリアする時間が短くなるだろうから、初見クリアで生じる差はその従魔の適応する賢さによって生じると言えよう。


 ガルフは真奈に悩まされる苦労狼ではあるが、能力値が高くて真奈を時々追い詰められるぐらいには賢い。


 ニンジャの次はヴィオラの番だ。


 ヴィオラもニンジャ同様に身軽なので、サクサクと6つのゾーンをクリアした。


 しかし、ヴィオラの方が僅かに残り秒数が少ない48秒だった。


 それでも得点としては5点なのだからニンジャとヴィオラは同点である。


『いよいよ最後だね。カームにタイムアタックに挑戦してもらうよ』


 リルの言葉の後にスタートの合図が出てマーレは8段跳びに挑戦する。


 カームはマイペースでタイムアタックには向いていないのだが、今回だけは状況が違う。


 手を抜いているとニンジャやヴィオラに点差をつけられ、優勝への道のりが遠くなってしまうのだ。


 だからこそ、カームは好きではないタイムアタックでも本気で臨んでいる。


『すごいぞカーム! いつものマイペースぶりはどうした!? これがカームの本気なのか!?』


 カームは自身の身体能力を最大限に活かし、残り秒数41秒というニンジャやヴィオラとギリギリ同じ得点帯でいられるタイムを叩き出してみせた。


 第二種目の結果、カームとニンジャ、ヴィオラが5点、ダニエルとエンリ、フォクシーが3点、マロンが1点、マーレが0点で着地した。


 藍大とリルが参加者全員を代々木競技場の体育館に連れ帰り、ラストの第三種目だけを残すところとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る