第836話 日本のモフラー達よ、私がゴッドオブモフラー赤星真奈である!

 代々木競技場の体育館の観客席は今回の大会も満員である。


 観客達はMOF-1グランプリの開始時刻になると、暗いステージの上でスポットライトを浴びて現れたモフリー武田に注目する。


 スタッフからの合図を見てモフリー武田が口を開く。


「モフモフの中のモフモフ、出て来いや!」


 その掛け声の直後、BGMが流れて体育館内にアナウンスが流れ始める。


『エントリーナンバァァァ、ワァァァン! モフモン大好きクラブの会長がマイモフモフを連れて現れた! 今こそその実力を見せてくれ! 青空理人&マーレ!』


「プォ~♪」


「白モフアザラシさん来た!」


「海のモフモフだぁぁぁぁぁ!」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


 初めてクラン外の人達に存在を知られたマーレだったが、登場の瞬間から愛らしく鳴いて観客達の心を鷲摑みにしたようだ。


 東京湾の方向に向かって膝をついて感謝を捧げる者がいたけれど、それはスルーしてアナウンスは続く。


『エントリーナンバァァァ、トゥゥゥ! 前大会の雪辱を晴らすべくやって来た! リベンジするは我等にあり! 黒川重治&ダニエル!』


『やられっ放しは趣味じゃない。狙うは優勝よろしくね』


「花獅子さん、今日も平常運転だな」


「ハイテンションな花獅子さんになったら吠える太陽と呼ぶべきでしょ」


「気怠さと知性を兼ね備えてこそ花獅子さんよ」


 ダニエルのファンは印象操作の影響があまりないのか、皆ダニエルを吠える太陽ではなく花獅子さんと呼ぶ。


 元々の二つ名をさん付けで呼ぶのがファンの暗黙の了解らしい。


 前の大会ではビリになってしまったけれど、ダニエルの人気がないかと言えばそんなことはない。


 気怠さと知性を両立させたモフモフは他にいないので、ダニエルのそんなキャラを気に入っているファンもちゃんといるのだ。


『エントリーナンバァァァ、スリィィィィィ! 動画再生数は10億回を突破! 主従揃ってコスプレをするのはこのペア! 菊田結衣&マロン!』


「主従揃って白衣の天使・・・だと!?」


「マロンたんマジ癒し!」


「マロンちゃんこっち向いてぇぇぇぇぇ!」


 今回の結衣とマロンの衣装はナース服だった。


 マロンは”グリーンバレー”ではすっかり聖女キャラが定着しており、マロンの動画を見ているモフラー達もその認識だ。


 そんなマロンが結衣と一緒にナース服で現れれば、わかっているじゃないかとファンのモフラー達は大興奮である。


『エントリーナンバァァァ、フォォォォォ! 可愛らしさと美しさを兼ね備えたモフモフ! 主人と共に今回こそ優勝を狙う! 有馬白雪&カーム!』


「カームさん、白雪姫とお揃いの衣装が似合ってる!」


「歩き方がなんとも美しい・・・」


「幼女形態おねしゃす! 幼女形態おねしゃす!」


「誰かその変態を摘まみ出せ!」


 カームは白雪が着ている服と同じデザインの特注サイズの衣装を身に着けている。


 その衣装は先日、舞台挨拶で白雪が着て大好評だったものだ。


 今日はカーム用に調整した衣装をカームも着ている。


 それはそれとして、カームのファンの中に幼女好きの変態がいたようだが、白雪とカームのファン達が自発的に変態紳士を強制退場させていった。


 趣味趣向は人それぞれだが、越えてはいけない一線を越えないようにしてもらいたいものである。


『エントリーナンバァァァ、ファァァイブ! モフリパークが関西進出! どんなにモフモフが増えても忍者兎は今日も主人だけを見つめる! 赤星リーアム&ニンジャ!』


「モフリパークは楽園です!」


「手裏剣こっち下さい!」


「ニンジャさん今日も可愛いよ~!」


「プゥ♪」


 ニンジャはリクエストが聞こえた方角にノリノリで手裏剣を飛ばす真似をした。


 その様子がとても可愛らしくて会場内が盛り上がった。


 今までであれば5つのペアを紹介して席に着いたらBGMが止んだのだが、今回のMOF-1グランプリにはまだまだ参加するペアがいるのでBGMが止まらない。


『エントリーナンバァァァ、シィィィックス! 北都府DMUの名物ペアが本州にやって来た! 主好みの外見目指す従魔とむっつりな主は誰だ!? 天門政宗&エンリ!』


「ブレイズモンキーの女悟空だ! 初めてリアルで見た!」


「道着が決まってるよ!」


「ムッツリィィィィィニ!」


 ムッツリーニと叫ばれる政宗は置いとくとして、今のエンリは猿のメスケモが山吹色の道着を着ている見た目をしており、まさに女悟空と呼ぶべき姿だ。


 初参戦のエンリも温かく受け入れられ、政宗は自分がむっつりだと認知されていることにムッとする気持ちはあってもホッとしていた。


『エントリーナンバァァァ、セェブゥゥゥン! モフモフ王国CN国からの刺客! 日本で爪痕を残せるか!? ルーカス=ペナー&フォクシー!』


「コン♪」


「狐さんギザカワユス!」


「これがCN国のモフ力か。楽しませてくれるじゃねえか」


「あの衣装良いなぁ」


 フワンの着ぐるみパーカーを着たルーカスとピンク色の九尾の狐であるフォクシーを見て場内が沸いた。


 ルーカスお手製のフワンの抜け毛を使って作った二足歩行のハンババの着ぐるみパーカーもすごいのだが、それ以上にフォクシーの可愛らしさに注目が集まっている。


 フォクシーはマギテイルズという種族のモンスターであり、幻影系アビリティや魔法系アビリティが得意だ。


 ルーカスの従魔の中ではフォクシーが一番MOF-1グランプリ向きだろうと判断し、彼はフォクシーをパートナーに選んでこの大会に出場した。


『エントリーナンバァァァ、エイトォォォォォ! プリンスモッフルの姉が満を持して登場! プリンセスモッフルとその従魔が日本のペアの優勝を阻むか!? シンシア=ディオン&ヴィオラ!』


「姉弟対決だ!」


「面白くなって来たぜぇぇぇぇぇ!」


「ヴィオラたんを吸いたい!」


 シンシアがMOF-1グランプリでパートナーに選んだのはヴィオラと呼ばれた紫色のカーバンクリオンだった。


 カーバンクリオンとはカーバンクルの特殊進化先の種族であり、額に宝石を輝かせて紫色のボディからは高貴な雰囲気が漂う。


 猿っぽい顔だったカーバンクルだが、キツネの顔に変わるのは不思議だろう。


 しかし、背中から翼を生やしている時点でカーバンクルらしさは薄れているのだから今更である。


 シンシアとヴィオラのペアが席に着いて出場者が揃うとBGMが止んだ。


「さあ、始まりました! 第3回MOF-1グランプリ! 司会はこの俺、モフリー武田だ! ご唱和下さい! 3! 2! 1! モッフルモッフル!」


 会場のモフラー達はカウントダウンとモッフルモッフルの流れに乗っており、一体感をしっかりと演出できている。


 モフリー武田が自己紹介をした後、今度は審査員の紹介が始まる。


「次は審査員を紹介するぜ! まずはDMUからこの方の登場だ!」


「こんにちは! DMU本部長の吉田志保です! 今回も素敵なモフモフを楽しみにしてます! よろしくお願いします!」


 志保はとても良い笑顔で自己紹介した。


 今もDMU本部で茂が代わりに仕事をしている事実に対する罪悪感は微塵も感じられない。


 MOF-1グランプリで審査員席に座るために仕事を頑張って来たのだから、今だけは仕事のことを考えないようにしているのかもしれない。


「元気な挨拶ありがとよ! 今度は神になったこのお方とその相棒!」


「日本のモフラー達よ、私がゴッドオブモフラー赤星真奈である!」


『どうも』


 モフ神としてこれ以上ない飛び切りの笑顔を見せる真奈の隣にはやれやれと言う表情のガルフがいる。


 テンションの差が激しいのはデフォルトなので、会場内の訓練されたモフラー達は誰もそのことにツッコんだりしない。


 それどころかモフラー達は各々思うがままのポーズで真奈に祈りを捧げていた。


 (ガルフ、頑張ってくれ)


 そろそろ出番が来る藍大はガルフに同情しながら自分達が呼ばれるのを待った。


「モフ神様のパワーが伝わる挨拶だったぜ! 最後は世界を救ったこの方々!」


「こんにちは。”魔神”の逢魔藍大です。今回もリルと一緒に審査員長を務めます」


『ワフン、”風神獣”のリルだよ。よろしくね♪』


「リルくぅぅぅぅぅん!」


「「「・・・「「ありがたや~! ありがたや~!」」・・・」」」


 真奈はいつも通りなのでスルーしておくとして、来場したモフラー達は地球を救ってくれた藍大とリルを拝んだ。


 地球が救われなかったらMOF-1グランプリも開催できないのだから当然だろう。


 第3回MOF-1グランプリはこうして幕を開けた。

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