第833話 モフモフが踊ってる姿を見ると癒されるじゃないですか

 第一種目の内容がまとまったところで、今度は第二種目に話題が移る。


「さて、次は第二種目ですね。体を動かすという観点で今までは複数の競技の合計得点で競ってましたが、これも抜本的に見直すことになりました。吉田さんは何かやりたいことはありますか?」


『はい。私はSAS○KEのステージを1種類だけ用意し、そのクリアタイムで順位を決めることを提案します』


「なるほど。今までの屋内でのイベントという枠組みを壊して、屋外でやろうということですね?」


『その通りです。流石にセットを代々木競技場の体育館に用意するのは厳しいでしょうから』


「提案自体は面白いと思いますが、1ヶ月でSAS○KEのステージを準備できますか? それに、そのまま使うってのも番組的に不味い気がするのですが」


 藍大は志保の提案に興味を持ったけれど、常識的な手段で実現させるのは無理があるのではないかと思って志保に訊ねてみた。


『場所とセットについてはご安心下さい。ジミ・リンの管理するダンジョンを一時的に改修してギミック扱いでセットを用意しますので。既に彼女には可能性の段階ですが、そんなお願いをするかもしれないと根回しを済ませております』


 (やはりこの人もレベルの高いモフラーだな。MOF-1のためにそこまでするか)


 藍大は志保の熱意に心の中で苦笑した。


 ダンジョンで行うならば、天候によって中止なんてことにならない。


 等々力沙耶ジミ・リンの従魔が管理するダンジョンならば、DMUの探索班が協力してDPの回収に協力してセットを準備することも容易に実現するだろう。


「流石に観客をダンジョンに同行させる訳にはいきませんから、”ホワイトスノウ”に動画配信の協力をお願いする必要はありますね。まあ、有馬さんが参戦してる時点で”ホワイトスノウ”は喜んで協力してくれるでしょうが」


『もしも私の提案が通るようであれば、逢魔さんに”ホワイトスノウ”に動画配信の協力をお願いしたいです。私よりも逢魔さんの方が有馬さんと仲が良いですから』


「わかりました。吉田さん、その他に補足はありますか?」


『いえ、ありません』


 志保の提案のターンが終わったため、藍大は真奈に話を振る。


「真奈さん、お待たせしました。真奈さんは第二種目でどんなことをやりたいですか?」


『私はダンスが良いと思います』


「ダンスですか? 第三種目の動画と被りそうですけどその心はなんでしょう?」


『モフモフが踊ってる姿を見ると癒されるじゃないですか』


 (MOF-1は大衆の娯楽として受け入れられてるから、その言い分は一理ある。一理あるんだが・・・)


 モフモフしたモンスターが踊る姿を見れば、会場に来た人もテレビの前で見ている人も癒されることは間違いない。


 しかし、藍大にはどうしても真奈の発言に自分の欲求を満たそうとする裏を感じ取れて仕方がなかった。


 少しの間考えた藍大は真奈の発言の意図に思い当たった。


「真奈さん、参加するモフモフに神楽を踊ってもらうつもりですね?」


『なんのことでしょう?』


『魔神様、その通りです』


『ガルフ!?』


 惚けた真奈の代わりにガルフが正直に話してしまったため、真奈のすまし顔が崩れた。


『主人、コソコソやろうとするのは良くない。やるなら堂々とするべき。魔神様は話せばわかる神様だからありのまま話すべき』


 (ガルフがここぞとばかりに発言してる。色々溜まってるんだろうな)


 ガルフは普段、真奈から度々モフられることから必要以上に目立とうとしない。


 それなのに今日の会議に限ってガルフの発言が多いので、藍大はなんでこんなことになっているのか気になり、一旦ミュートにしてからリルに訊いてみる。


「リル、ガルフが今日はよく発言するけど何があったんだと思う?」


『僕が思うに天敵がモフ神になったからこそ、悪神認定という切札をガルフは手に入れたんだよ。それを盾にガルフは職場の改善を図ってるんだ』


「職場の改善って従魔は職業なの?」


『僕達にとっては違うけど、ガルフ達天敵の従魔にとっては職業なのかもしれない』


 リルが従魔というポジションを職業と仮定したのは生殺与奪の権利を主人に握られているからだ。


 藍大は自分達のことを最大限尊重してくれるし、家族として扱ってくれるから職業という意識はない。


 しかしながら、他所が逢魔家と同じとは限らない。


 リルの指摘で藍大は自分の中にその発想がなかったことに気づいた。


 ミュートを解除して藍大は真奈に訊ねる。


「真奈さん、正直に話して下さい。モフモフ達による神楽ダンスを披露してもらおうとする理由はなんでしょう?」


『わかりました。私はモフモフすることで神としての力が少しずつ増すようなのです。ならば、モフモフ達に神楽を見ればどれだけ力が増すのか知りたかったんです』


『それなら第二種目にダンスは認められないね。天敵の力が増すなんてとんでもない』


 ノータイムでリルが却下したけれど、ちょっと待ってほしいとガルフが口を挟む。


『リル先輩、発想を逆転させましょう。弱い力を持った神よりも強い力を持った神の方が悪神認定された時に早く討伐の判断が出ます。邪神よりも弱いならば、リル先輩達にとって問題ないでしょう?』


『・・・一理ある。ガルフ、よく考えてるね』


『恐縮です』


『ガルフ!? 私が討伐されちゃっても良いの!?』


『討伐されないように品行方正にしないといけないね』


 (ガルフ、恐ろしい子・・・)


 弱い神よりも強い神の方が注目を集める。


 注目されている神が悪神と認定されてしまえば、放置されることはまずあり得ない。


 真奈はずっとモフ神としてモフモフしていたいのだから、モフる程度を誤って悪神認定されては困る。


 それゆえ、神達の監視下で真奈のモフモフがマシになるだろうというのがガルフのセカンドプランである。


 運動によって健全な精神を手に入れるプランよりも実現度が高いあたり、ガルフは本気で真奈のモフモフの程度を抑えようとしているらしい。


 藍大はガルフの本気度を知って少しでも協力出来たら良いなと頭を回転させた。


「わかりました。そういった事情があるならば、第二種目をアスレチックのタイムアタックにして第三種目の動画のテーマをダンスにしましょう。これでみんな解決です」


「異議ありません」


「私もモフモフ達にダンスを奉納してもらえるなら異議なしです」


『魔神様、ありがとうございます』


 志保と真奈が藍大のまとめた提案に賛成したことで、ガルフは藍大にぺこりと頭を下げた。


『むぅ、ガルフにしてやられた感がありますね。それでも私は退かぬ! 媚びぬ! 省みぬ!』


『時には退くべきだし、媚びなくて良いから毎日3回は反省すべき」


『・・・ガルフ、主人に辛辣過ぎない?』


『これも主人を思ってのことだよ』


 とても良い笑みを浮かべるガルフを見て、今回ばかりは自分の負けだと真奈は察した。


「第三種目のダンス動画は好きな曲を踊ってもらえば良いとして、第二種目のアスレチックをどんなコースにするかだけ話したら今日は終わりにしましょう。志保さん、コース案はありますか?」


『勿論用意しております。今から画面で共有しますので少しお待ち下さい』


 志保が自分のパソコンを操作して数秒後、藍大とリルが見ている画面が切り替わった。


 そこにはシャングリラリゾートのアウトドアエリアにあるセットがいくつか見受けられた。


『ワフン、シャングリラリゾートで遊んだことのあるセットもあるね』


『その通りです。逢魔さん、”楽園の守り人”のホームページに掲載されていたアスレチックで遊ぶ動画にあったセットはいくつか使用させて下さいませんか? あの動画を見たら同じようなセットで遊んでみたくなるのが人情です』


「構いませんよ。その代わりに等々力さんがコースを作ったら、リルに試させてもらっても良いですか? オリジナルで遊んだことのあるリルの感想を取り込んだ方が、完成度は高くなると思いますので」


『そうですね。わかりました。完成次第連絡いたします』


 膝の上ではリルが完成したコースで遊んでみたそうにしていたため、藍大は志保にリルのテスト走行をお願いした。


 それが通ったことでリルは藍大に感謝する。


『ご主人、ありがとう』


「よしよし。愛い奴め」


 藍大は嬉しそうに頬擦りするリルの頭を優しく撫でた。


 第二種目のコース案についても全会一致となり、本日の会議で話し合うべきことは話し終えたことから会議は終わった。

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