第832話 わたしのかんがえたさいきょうのMOF-1

 約束していた時刻が近づいていたため、藍大は小さくなったリルを膝の上に乗せてWeb会議のミーティングルームに入った。


 既にミーティングルームに入った時には真奈と志保が待機しており、モフモフ談義が行われていた。


『羨ましいですね。モフ神になったらモフモフ従魔をモフる大義名分を得た訳ですし』


『そうなんです。モフらないモフ神はただの人ですから、いっぱいモフモフしてますよ』


「貴女達何話してんですか・・・」


「『クゥ~ン・・・』」


 藍大がげんなりした表情で言った直後にリルと画面の向こうにいるガルフの反応がシンクロした。


『画面には映ってませんがリル君もスタンバイしてるんですね、わかります』


『わからなくて結構です。放っておいて下さい』


『今日もツンツンですね。ありがとうございます』


 (塩対応されてお礼言っちゃうのかよ)


 ツッコみたい気持ちをグッと堪えたのは、それを口にすることで真奈の独自理論が展開されてしまうと思ったからだ。


 真奈が語り出すと本題に入るまでかなり時間が必要になるだろうから、藍大はツッコむのを我慢した。


「逢魔さん、お揃いですね。私も今日はモフランドからアルルちゃんに来てもらってるんです」


『プゥ』


 志保はとても良い笑顔で膝の上に乗せていたらしいアルルを抱き上げ、画面に映るようにしてみせた。


 アルルはカメラ越しに藍大を見てペコリと頭を下げた。


『アルル、今日も良い子にしてるかしら?』


『プゥ!』


 真奈の質問を受けてアルルは元気に頷いた。


 そんなアルルを愛らしく思い、志保が無言でアルルを吸い始めた。


 リルは偶々顔を上げた瞬間にその様子を見てしまったので、恐ろしい光景にプルプルと震え始めた。


 (怖くない。怖くないぞ)


 声に出してリルを慰めようとすれば、真奈と志保が怖がっているリルを可愛いと言い出しかねない。


 そうならないようにするべく、藍大はリルのためにテレパシーでリルを元気づけた。


 そして、定刻になったのをきっかけに咳払いしてから話し始めた。


「定刻になったことですし、そろそろ会議を始めましょうか」


『『はい』』


「では、事前にお送りした順番に沿って会議を進めます。まず、MOF-1グランプリの競技内容についてですね。今回のMOF-1グランプリはマンネリ化を防ぐべく、番組のプロデューサーが競技内容を我々に投げてきました」


『私達好みのMOF-1グランプリを作れるなんて最高じゃないですか』


『わたしのかんがえたさいきょうのMOF-1。良い響きです』


「真奈さん、ここぞとばかりに悪ノリしないで下さいね?」


『は~い』


 ここで止めないと際限なく暴走しそうな気配を察し、藍大は早めに釘を刺しておいた。


「とは言っても、頭を使う第一種目と体を使う第二種目という枠組みも変わってないですし、第三種目の動画もテーマが全ペア共通になって選定するだけだから中身をどのようにいじるかってところですけどね」


『今日のために色々考えて来ましたよ』


『モフラーとして当然ですよね』


 (やる気が合って結構です)


 一応藍大も案は考えて来たけれど、どうやらモフラーには数で負けそうだと苦笑した。


「やる気十分ですね。早速、第一種目の意見を聞きましょう。どちらから・・・はい、真奈さんから聞きましょうか」


 藍大は私を当てろと目で訴える真奈を指名した。


「はい。モフモフしりとりはいかがでしょうか」


「『モフモフしりとり?』」


『また訳の分からないことを言い始めた』


 リルは真奈の提案を聞いてジト目になっていた。


『説明しましょう。説明させていただきますとも。モフモフしりとりとはモフモフ従魔達に自分がモフモフだと思う種族をしりとりで繋げてもらうゲームです。実際にモフモフかどうかは私達審査員が判定し、3分の2以上のモフモフ判定でバトンタッチされます』


『なるほど! それならモフモフ達の記憶力と戦術性を競わせることができますね!』


『それだけではありません。もしかしたら、私が知らないモフモフの名前が出てくるかもしれないじゃないですか。それが出て来たらテイムしに行きます』


『天敵がMOF-1を私物化してる。なんて恐ろしい』


 (よしよし。俺がついてるぞ)


 リルの言う通りだと思いつつ、藍大はリルの頭を優しく撫でてリルを落ち着かせた。


「真奈さんの提案はわかりました。吉田さんはどんな競技を考えてましたか?」


『私はモフモフ達によるモフモフ衰弱を考えてました』


『モフモフを衰弱させるなんてとんでもない!』


 リルがなんて恐ろしいことをと震えているが仕方のないことだろう。


 藍大はリルを安心させてあげたくて志保に訊ねる。


「それはモフモフ従魔達を衰弱させるつもりのゲームではないんですよね?」


『勿論です。私がモフモフを衰弱させるようなことをするはずないじゃないですか。モフモフモンスターの絵柄を当てる神経衰弱をやるんですよ』


「モフモフのやり過ぎはモフモフを衰弱させてるっておわかりですか?」


 藍大のジト目を伴う発言に対し、志保は直視できなくて目を逸らした。


 その一方で、真奈はキリッとした表情でカメラ越しに藍大を見ていた。


『モフってもケアするからプラマイゼロだと思いませんか?』


「いやいやいやいや」


『これが主人なんです。魔神様、もっと言ってやって下さい』


『ガルフ!?』


 ガルフが藍大に助けを求めたのが予想外だったため、真奈の笑顔が驚きに変わった。


 真奈が驚いて声を上げてもガルフは止まらない。


『主人はモフ神になってからそれはもうモフりました。一時期は歯止めが利かないぐらいモフってました』


「だろうなぁ」


『だから僕は主人を連れて朝にランニングに行ってたんです。主人が健全な精神を取り戻せるようにと。残念ですが、その効果は全くありませんでした』


「ガルフの努力が涙ぐましい・・・」


『ガルフ、君は勇者だよ』


『リル先輩・・・』


 藍大とリルがガルフの努力が実らなかったことを残念に思っている中、自分が悪者になっている空気に真奈が困惑していた。


『私は悪くねえ! 悪くねえんだ!』


「真奈さん、ボケに逃げないで下さい。限度は考えましょうって何度も注意しましたよね?」


『頭ではわかってるんです。でも、私のゴーストがモフモフをモフれと囁くんです』


「真奈さん? 悪神と認定されたいんですか?」


『・・・はい、すみません。頑張って気を付けます』


 藍大のマジトーンにこれ以上のボケを重ねられないと真奈は神妙な顔になった。


 悪神認定だけは避けなければならないため、真奈はこれ以上ボケたり誤魔化してはいけないと判断したのだ。


「真奈さんがモフ神になってしまったことは理解してますから、モフるなとは言いません。ですが、モフモフの程度を考えなければガルフのように私に訴えて来る従魔も出て来るでしょう」


『逢魔さん、私はどの程度までモフモフするのは許されますか?』


「正直な話、私もこんなことで悪神認定するかしないかを考えたことはありません。なので、その基準を他の神様に決めてもらうまではガルフが嫌がったらアウトとします」


『流石は魔神様! 感謝永遠に!』


『ガルフ!? 私の従魔だよね!?』


 ガルフが画面いっぱいになるまで近づいて嬉しそうに尻尾を揺らすので、画面から見えないところで真奈の声だけが聞こえる。


 (お説教はここまでだ。今はあくまでMOF-1グランプリのための会議なんだし)


「真奈さんにモフモフの制限をかけたところで話を元に戻しましょう。モフモフしりとりとモフモフ衰弱が出ましたが、私はモフモフモンスタークイズを考えてました」


『モフモフなモンスターに関するクイズを出すということですか?』


「吉田さんの認識してる通りです。今まで、第一種目ではモフモフに関係ない知識が多く、ぶっちゃけただのクイズになってました。MOF-1グランプリで出すならば、モフモフにテーマを縛るべきだと考えた訳です」


『モフラーが僕達をモフるだけじゃ駄目なんだ。僕達のことをちゃんと知ってもらって初めてモフモフできる距離感は生まれるんだよ』


 リルが言ったことにピンと来た真奈が挙手する。


『はい!』


「なんでしょうか真奈さん?」


『リル君に関するクイズを出しましょう!』


『却下します。僕は天敵達に僕の情報を知ってほしくないです』


 自分と仲良くなれるかもしれないと期待する真奈に対し、リルはやっぱり塩対応だった。


 その後もあれこれ話し合った結果、結局第一種目はクイズとモフモフ衰弱を混ぜ合わせたものになった。


 MOF-1グランプリに関する会議はまだ続く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る