第826話 今こそコペルニクス的転回をすべきなのだ

 倉庫ダンジョンではナギがメインで戦うため、ユノは人の姿に戻っていた。


 先程はドラゴン本来の姿で活躍したこともあり、そのご褒美として今は優月と手を繋いで歩いている。


 ナギは優月とユノを護衛できる位置におり、藍大とリル、ブラドは後ろから優月達を見守っている。


 このダンジョンの内装はコンテナが詰まれた業務用の倉庫のようであり、一本道でなければすぐに迷いそうだ。


 今はY字路もT字路もなく進んでいて、前方から敵集団がやって来た。


 (1階でLv45ってまあまあ強くない?)


 藍大は現れたシュリーカーLv45の群れを見てそのように思った。


 倉庫ダンジョンはスタンピードの影響なのか、1階の雑魚モブモンスターですら最低でもLv45だった。


「ナギ、やっつけて」


「グルゥ!」


 ナギはシュリーカーの群れに接近して<竜闘術ドラゴンアーツ>を使う。


 ナギの拳や脚、尻尾が当たって吹き飛ばされる度にシュリーカーの金切り声がダンジョン内に響く。


 その金切り声を聞いた途端、背景だったはずのコンテナが開いてその中からシュリーカーとイビルアイの混成集団が現れる。


「この数はナギだけじゃ厳しいね」


 そう言ってユノは<衛星光刃サテライトエッジ>で創り出せる最大数を用意し、ナギの対処が追い付かない分だけ処理していく。


 (俺達が手伝わなくても対処できるか。強くなったな)


 ユノがナギをフォローして雑魚モブモンスター達の数を減らしていくものだから、藍大は優月達も着々と強くなっているのだと感じた。


 数分後には雑魚モブモンスターが全滅しており、ユノもナギも期待する目で優月を見ていた。


「ユノもナギもおつかれさま。さすがだね」


「エヘヘ♪」


「グルゥ♪」


 優月に労われてユノとナギは喜んだ。


 ナギはスタンピードと今の戦闘でLv50に到達しており、新たに<解体デモリッション>を会得した。


 戦闘に関するアビリティだけでは優月の力になれる場面が限られるため、ブラドのように解体ができるようになったら良いと考えたようだ。


 早速、ナギは倒したシュリーカーやイビルアイを<解体デモリッション>を使って解体した。


 そのおかげで戦利品回収にかかる時間は半分以下に削減された。


 戦利品回収後に何度か戦闘をした後、フロア内にいる雑魚モブモンスターの数が一定値を下回ったことにより”掃除屋”が現れた。


 その”掃除屋”は金貨が集合して巨大な甲虫を形成しているように見えるモンスターだった。


「ゴールドビートルLv55。ビルビートルの進化後のモンスターか」


『サクラがここにいなくて良かったね』


「そうであるな。もしもいたとしたら、このフロアが大破すること間違いなしなのだ」


 藍大達は鑑定結果を共有してのんびり見守っていた。


 実際のところ、ゴールドビートルは中身まで金貨がぎっしりという訳ではない。


 金貨に隠れて見えない所に甲虫本体があり、金貨は装備しているに過ぎないのだ。


 これもゴールドビートルの甲殻が金でできた物を引き込む性質だからこうなっているだけで、厳密に言えば装備するのは金貨じゃなくても良いのである。


「優月、1つだけアドバイスだ。敵の金貨は本物の金だから、綺麗なまま回収した方が良いぞ」


「おとうさんありがとう。やってみる。ナギ、ひきはがして!」


「グルゥ!」


 藍大のアドバイスを聞いて優月がナギに指示を出すと、ナギは<解体デモリッション>でゴールドビートルの金貨をその体から綺麗に剥がした。


 剥き出しになった体が再び通路に散らばった金貨を引き寄せようとしているのを見て、ユノが<衛星光刃サテライトエッジ>でさっさととどめを刺した。


 カタカタと音を立ててゴールドビートルに引き寄せられそうになっていた金貨は、ゴールドビートルが力尽きたことによってピクリとも動かなくなった。


「グルゥ」


「よしよし。ユノもフォローしてくれてありがとう」


「どういたしまして」


 甘えるナギの頭を撫でつつ、優月はユノに感謝の気持ちを伝えるのを忘れない。


 こういったところも優月は藍大にそっくりなようだ。


 戦利品を回収してから魔石はナギに与えられた。


 それによってナギの<鎧化アーマーアウト>が<中級鎧化ミドルアーマーアウト>に上書きされた。


 ナギの強化が終わってすぐに優月達は探索を再開したが、その後ろを歩いていたリルがピクッと反応した。


 藍大はリルが何か見つけたのだろうと察したが、これは優月達の探索なので声に出さずテレパシーで訊ねる。


 (リル、宝箱か隠し部屋を見つけたの?)


『そうだよご主人。でも、優月達に見つけさせてあげたいよね』


 リルも藍大と同じ気持ちだった。


 藍大もリルもどうか優月達に気づいてくれと祈っていると、ユノが足を止めて違和感を覚えた方角に目を向けた。


「ユノ、どうしたの?」


「優月、あそこのコンテナに違和感があるの」


 ユノが指差したコンテナを見てリルはそれで合っていると言わんばかりに小さく頷いた。


 優月はリルの動きを見ていなかったけれど、ユノが何かに気づいたなら調べるべきだろうと判断した。


 コンテナに近づいて何か気になる点がないか探し、優月はポンと手を打った。


「アルファベットがいちもじおおい!」


 優月の言った通り、そのコンテナに記された配送会社の綴りが他の壁になっているコンテナと比べて一文字余計な文字が追加されていたのだ。


「私が押してみるね」


 ユノは優月に危ない真似はさせられないので、その余計な文字の部分に触れてみた。


 その直後にコンテナが勝手に開き、コンテナの中には宝箱が安置されていた。


「たからばこだ! すごいよユノ!」


「ドヤァ」


 コンテナの中から宝箱が出て来てユノはドヤ顔を披露した。


 宝箱を見付けた優月は後ろを振り返って藍大の方を見る。


「おとうさん、あけてもいい?」


「勿論だ。優月達が見つけたものを開けちゃ駄目なんて意地悪は言わないさ」


「やった~! ユノ、いっしょにあけよう!」


「うん!」


 ユノも宝箱を開けてみたかったので、優月に一緒に開けようと言われて笑顔になった。


 そして、優月とユノがせーので宝箱を開けてみたところ、その中には見事な意匠の剣が入っていた。


「・・・マジか。バルムンク=レプリカって優月が引き当てちゃって良いの?」


『竜騎士なのにレプリカとはいえバルムンクを引き当てるなんてね』


「今こそコペルニクス的転回をすべきなのだ。他の者の手に渡らないようにできたと考えればプラスである」


「『確かに』」


 バルムンクは竜殺しを成し遂げたとされる聖剣だ。


 その聖剣のレプリカを竜騎士の優月が手に入れるとはどういうことかとツッコミを入れたい藍大とリルだったが、他者にこれを取られて優月達に敵対されると厄介なのでこれはこれでありなのだろうと考えを改めた。


「カッコいいね!」


「優月、この剣は使い方を気を付けてね。間違っても私やナギ、ブラド師匠、モルガナ先輩に向けちゃ駄目」


「もちろんむけないよ。かぞくにけんをむけたらだめでしょ?」


「そうだね」


 そうだけどそうじゃないとユノは言いたかったが、優月に自分が肌で感じたバルムンク=レプリカの危険性を上手く伝えるのは難しいと判断して頷くだけに留めた。


 ちなみに、藍大とリルの鑑定によれば、バルムンク=レプリカはドラゴン型モンスターに与えるダメージが2割増しになるだけでなく、敵を攻撃して与えたダメージの1割分だけHPを回復させる効果があった。


 前者の効果はユノが警戒するのも当然だが、後者の効果は優月にとって有用なのでユノは優月がバルムンク=レプリカを持っておくべきだと藍大とリルは判断した。


 バルムンク=レプリカを手に入れた後、優月達はボス部屋に到着した。


 ボス部屋にはコカトリスLv50が待機していた。


「チキンだ!」


「コケェッ!?」


 出会い頭に優月が純粋な眼差しで自分をチキンだと言い出せば、コカトリスもなんだってと驚くしかなかった。


 自分に対して恐れを抱くどころか食材扱いされれば誰だって驚くだろう。


 優月がコカトリスをチキン扱いすれば、ユノもナギもそれに倣うのは当然だ。


 できるだけ傷つけずに持ち帰る必要があるため、ナギはコカトリスに接近して<竜闘術ドラゴンアーツ>のアッパーでコカトリスを気絶させ、そのまま<自然砲ネイチャーキャノン>でとどめを刺した。


 二撃で仕留めたこともあり、コカトリスの死骸は比較的損傷がなかった。


 <解体デモリッション>でロスを可能な限りなくせば、優月の希望通りにコカトリスチキンをゲットできたことになる。


「ナギ、ありがとう。これもナギにあげるね」


「グルゥ♪」


 ナギは優月に魔石を与えてもらい、ナギの<魔力半球マジックドーム>が<魔力要塞マジックフォートレス>になった。


 ナギが”守護者”の称号を手に入れるまで残りのボスは1体だけだ。


 まだまだ優月達は元気だから、このまま2階へと足を進めた。

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