第824話 曾孫が狩った肉を食わない曾祖父が何処にいるってんだ!

 優月達が狩って来たモンスターの肉を使い、地下神域で家族だけのバーベキューをすることになった。


「うん! 優月達が獲って来てくれたお肉は美味しい!」


「うむ。優月達の頑張り補正でとても美味く感じるのだ」


「グルゥ♪」


「よしよし。ういやつめ」


 舞とブラドに褒められてドヤ顔のナギに対し、優月が藍大と全く同じセリフを口にしながらナギの頭を撫でる。


 アローボアやソードボア、オーカスの肉はシャングリラダンジョンで手に入る肉の中では中の下ぐらいの味だが、優月達だけで狩って来たという事実が思い入れ補正で質を上げている。


 マグニと愛は静かだが嬉しそうに食べており、いつの間にか混ざっていたトールは満面の笑みで”希少種”のオーカスの肉串を食べていた。


「トール! また無断で来るとはどういうことじゃ!」


「曾孫が狩った肉を食わない曾祖父が何処にいるってんだ!」


「優月に関係なくちょくちょく食べに来ておるじゃろうが!」


「仕方ないだろ! 藍大の作るメシが美味いんだから!」


「「「・・・『『わかる』』・・・」」」


 藍大と理由を口にしたトールを除いた全員がそれなら仕方ないと頷いた。


 (北欧神話の界隈では誰か料理を作らないのかね?)


 そんなことを藍大が気にしていると察したらしく、トールが藍大の方を向く。


「藍大、俺達の神域にゃお前レベルで美味い飯を作れる奴がいない。俺は食うなら美味い飯が食いたいし、孫や曾孫達の顔もみたい。だから来たんだ」


「親父、ナチュラルに俺をハブらないでくれ」


 息子マグニ父親トールにちょっと待ってほしいとツッコミを入れるが、それは残念なことにスルーされてしまった。


「来てもらうのは構わないけど、用意する都合も考えて次からは来る時は事前に教えてくれるとありがたい。今日みたいなバーベキューなら良いかもしれないけど、そうじゃないと数が合わなくなる」


「・・・努力する」


「数が合わなくなって食べられる個数が減った舞達のしょんぼりした顔が見たいと?」


「次からは絶対に連絡して来ると約束しよう」


「藍大がトールを手懐けておるぞ!?」


 藍大の言い分を聞いてトールは舞や優月、薫がしょんぼりした顔を想像したらしい。


 もしも自分のせいで舞達の表情が曇ったらと思うと、絶対にそれは阻止しなければならないとトールに決意させた。


 自分が扱いに困っているトールを見事に手懐けた藍大の手腕を見て、伊邪那美は驚きを隠せなかった。


 だがちょっと待ってほしい。


 食いしん坊が質を確保されて言うことを聞かないなんてことがあり得るだろうか。


 いや、あり得ない。


 その後、バーベキューは優月達の倒して来たモンスターの肉を食べ尽くして終了となった。


 食いしん坊な神が1柱増えることで、肉がなくなるまでの時間が短くなったとだけ言っておこう。


「・・・運動しないといけませんね」


「私もする」


「するのよっ」


「するです!」


『( ;∀;)ワンモアセット!』


「ゼルさんや、それは既にやった人のセリフだと思うぞ?」


 天照大神がポロッと口にした言葉を拾ったサクラ達だったが、ゼルの口にした内容がツッコミ待ちだったので藍大はスルーせずにツッコんだ。


 大人の女性陣が運動しに行く一方で、留守番をしていた蘭達がナギを囲むように集まっていた。


「ナギ、かっこよくなったね」


「モルガナとちがうね」


「モフモフしてない」


「かたくてつよそう」


「拙者、この体が本体じゃないでござるよ!? 本体は強いって思ってもらえるでござる!」


 蘭と日向、大地、零の言葉を受けてモルガナは違うんだと訴えた。


 モルガナの本体は八王子ダンジョンの最上階にいて、今ここにいるぬいぐるみボディはあくまで分体だ。


 しかし、蘭達にとっては本体とか分体とか関係がなく、目の前にいる相手がどう見えるかが全てだ。


 肩を落としたモルガナの背後には安定の舞がいた。


「よしよし。悲しそうなモルガナは私が抱き締めてあげよ~」


「ちょっ、待つでござる! 不意打ちは駄目でござる! いや、正面から来られても困るでござるが!」


 モルガナは舞のハグから逃げようと足掻くけれど、可愛いものを前にした舞がその程度でモルガナを逃がすはずがない。


 舞のハグを免れたブラドだが、地下神域ではぬいぐるみボディではなく本体でいるからモルガナのようにハグされなかった。


 もっとも、本体だからといっても安全ではなく、やろうと思えば舞に片手で持ち上げられてしまうのだが。


「舞、ハグの力が強いぞ。食後にはキツいだろうから緩めてあげて」


「ごめんね~」


「殿、本当に助かったでござる! 殿は命の恩神おんじんでござる」


 解放されたモルガナは藍大によくぞ自分を救い出してくれたと抱き着いた。


 それを見て羨ましそうにしている舞がいるが、とりあえずそれは置いておこう。


 藍大はモルガナを慰めつつ、我関せずという態度を決め込んでいたブラドに声をかけた。


「ブラド、進化したナギについてどう見る?」


「戦闘面だけ見れば悪くないのである」


「やっぱりそういう判断になるか」


「うむ。ユノは戦闘以外にも使えるアビリティを会得しておるのでな、余計にそう思うのだ」


 ブラドの意見と藍大の意見は同じだった。


 ユノは戦闘面で考えるとバランス良くアビリティを会得できているが、生活面まで考慮すると戦闘特化と評価せざるを得ない。


 ちなみに、Lv100となった今のユノのステータスは以下の通りだ。



-----------------------------------------

名前:ユノ 種族:ティアマト

性別:雌 Lv:100

-----------------------------------------

HP:3,400/3,400

MP:3,600/3,600

STR:3,600

VIT:3,600

DEX:3,400

AGI:3,400

INT:3,600

LUK:3,400

-----------------------------------------

称号:優月の騎竜

   希少種

   ダンジョンの天敵

   到達者

二つ名:竜姫りゅうき

アビリティ:<衛星光刃サテライトエッジ><超級回復エクストラヒール

      <吸収王城ドレインキャッスル><収縮シュリンク

      <極光吐息オーロラブレス><全激減デシメーションオール

      <人化ヒューマンアウト><浄化クリーン

装備:なし

備考:満腹

-----------------------------------------



 人化した姿は優月よりもずっと大きく、銀髪の姫君と呼ぶべきユノはテイマーサミットの後で竜姫という二つ名になった。


 それに合わせて優月もテイマーサミットで竜皇子の二つ名を貰っている。


 優月とユノの二つ名はさておき、ユノのアビリティは戦闘だけでなく日常生活や治療にも役立つ。


 サクラ程ではないが、死んでいなければどんな状態でも完全に元通りになる<超級回復エクストラヒール>が使えるだけでなく、<浄化クリーン>で掃除や身だしなみチェックまでできる。


 ユノの場合、藍大の従魔達と違ってスタンピードを経験していない。


 それゆえ、”災厄殺し”を会得できていないし、それが揃うことで”英雄”まで称号が統合されていない。


「スタンピードを鎮圧できていない国の”災厄”をユノに狩ってもらうチャンスを作るかねぇ」


「お義父様、その話はとても気になる」


 ユノは藍大の呟きを聞き逃さなかったらしく、もっと話を聞かせてくれと藍大と距離を詰める。


「わかったから落ち着け。神様が復活してない国では邪神がスタンピード起こしたのは知ってるよな?」


「うん」


「まだ鎮圧し切れてない国もあるらしいから、茂に頼んで”災厄”を狩りに行こう。そうすれば、ユノも晴れて”英雄”の称号を手に入れられるぞ」


「すぐに行きたい。私は優月のためにもっと強くなりたいの」


 ユノが両手をグッと握ってそう言うのに対し、ユノの隣にやって来た優月はニッコリと笑った。


「おとうさん、ぼくもスタンピードでユノをえいゆうにしたいな」


 スタンピードの国を助けてあげたいではなく、ユノを最優先に考える優月の発言に藍大は優月がやはり自分の子供だと感じた。


 自分も世界平和のために戦おうなんて考えたことはなく、あくまで自分達の日常を脅かすものを排除するために立ち上がって来たから、自分やその家族のために動こうとする優月に自分と同じ素質を感じ取ったのである。


 優月とユノの気持ちを意向が確認できたので、藍大は早速茂に連絡を取ってまだスタンピードが終結していない国を教えてもらった。

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