第822話 なんとロキがひょっこり現れ仲間になりたそうにこちらを見てる

 その日の午後、藍大はシャングリラの地下神域にある神殿で優月達の探索の様子をビデオで確認することにした。


 リルが後ろからこっそり同行していた時、<仙術ウィザードリィ>を駆使してカメラで動画の撮影をしていたのだ。


 その動画を見て優月の頑張りを確認しようという訳である。


 神殿で動画を見るメンバーは藍大と舞、サクラ、リル、伊邪那美、マグニ、愛、トールだ。


 優月達がここにいないのはリルが尾行していたのが内緒だからだ。


 藍大はブラドとモルガナに頼み、優月達が上映会の間に神殿に来ないようにしている。


 これは優月達を信じて藍大と舞、藍大の従魔は同行しないと言ったにもかかわらず、実はこっそりくっ付いて来てましたというのは優月達を信じていないと思われてしまうからである。


 それはそれとして、伊邪那美が普通にこの場に溶け込んでいるトールに話しかける。


「トールはなんで当然のようにここにいるんじゃ?」


「固いこと言うなよ伊邪那美。曾孫の冒険を見に来ないとかあり得ねえだろ」


「やれやれ。北欧はまだまだ大変じゃろうにまったく」


「他の神連中に任せて来たから大丈夫だ。つーか、しれっとロキの奴が復活してるからあいつを働かせとけばどーにかなるさ」


 ロキは北欧の冒険者達の頑張りによって完全復活を遂げていた。


 しかし、意外なことにシャングリラの地下神域どころかシャングリラリゾートの神域にも姿を見せていない。


「ロキがここに来ないのは舞とサクラを恐れてのことじゃろうな」


「おう。その通りだ。俺の孫とサクラに会ったらうっかり殺されそうだから、行ってみたい気持ちを押し殺してるって言ってたぜ」


 (うっかり殺されそうな何かをやらかさなければ良いのでは? 無理だろうけど)


 藍大はトールの話を聞いて心の中でそのように思った。


 実際、ロキが真面目でいられる時間は極めて短い。


 確実に余計なことを言って舞かサクラ、あるいは両方にお仕置きされるだろう。


 並の神よりも遥かに強くなってしまった舞の攻撃もそうだが、サクラのLUK∞の能力値による<運命支配フェイトイズマイン>はロキが防げないと考えている。


 だからこそ、復活可能な範囲に留めてもらえるかもわからない現状でロキは藍大達の周りに寄りつかないのである。


「さて、そろそろ動画を流すから静かにしてくれよな」


 藍大はそう言ってから再生ボタンを押した。


 スクリーンには優月とユノの自信溢れる背中に加え、その隣で警戒を絶やさないナギの姿が映った。


「優月とユノは堂々としてるね~」


「ナギは緊張してる」


『警戒は大事だよ。ナギは自分の力を過信してなかったのは良かったと思う』


 舞とサクラ、リルがひそひそと感想を言い合う。


 子供達だけでのダンジョン探索であるにもかかわらず、優月とユノは油断こそしていないが堂々とした姿だった。


 優月は何かあってもユノがいるから大丈夫だと信じているし、ユノも1階に強いモンスターがいないことを理解しており、有事の際は全力で優月を守るつもりだったから不安を感じさせなかった。


 その一方、ナギは自身がLv5であることをわかっているから周囲を警戒して慎重に進んでいた。


 ”融合モンスター”である以上、Lv5でも通常のモンスターより能力値は高めだ。


 それでも一切油断していないところがリルにとってポイントが高かったらしい。


 早速マディドールが画面上に出て来ると、女性陣がユノのリアクションに共感した。


「ユノちゃんの気持ちはわかる」


「好きな相手の前では少しでも綺麗でいたいのは当然」


「これは仕方なかろう」


「仕方ないね」


 (初戦がマディドールで良かったな。あれなら先手を取られないだろうし)


 女性陣がユノの言葉に頷く一方、藍大はナギの初戦の相手がマディドールで正解だったと思っていた。


 マディドールの動きは遅いから、他の曜日の1階のモンスターよりも強く感じにくい。


 それが理由でナギはマディドールなら倒せそうだと自信を持てたため、藍大が土曜日のダンジョンをナギに初めて探索させたのは正解だと言える。


 ナギが<自然弾ネイチャーバレット>でマディドールを倒すとトールが感心した。


「面白いアビリティじゃねえか。なあ、マグニよ」


「そうだな親父。環境を作り変えられるような従魔が味方にいれば、思いのままに攻撃の種類を変えられる」


 優月の従魔が2体目も良い従魔であることにトールもマグニもご満悦のようだ。


『従魔の戦った後の優月の褒め方がご主人そっくりだよね』


「そりゃ親子だもの。でも、いずれ優月が”ドラゴン誑し”なんて称号をゲットしそうで心配だ」


『ご主人に”従魔誑し”って称号がないんだから大丈夫じゃない?』


「そうだと良いな」


 藍大はリルの頭を撫でつつもスクリーンから目を離さない。


 やがて、”掃除屋”のマッシブロックが優月達の前に現れたシーンになった。


 優月がナギに指示やアドバイスをする姿は従魔の主人らしく映っており、ナギも優月の言葉を聞いて物怖じせずに戦えていた。


 マッシブロックを倒した後、ユノがナギにアドバイスをしているのを見て舞とサクラが微笑む。


「ユノちゃんが先輩してるね~」


「筆頭従魔としての意識が芽生えたからだね」


「ナギちゃんも真面目で良かった」


「モルガナみたいに働きたくないでござるなんて言い出したらデコピンしてた」


 そのサクラの発言でこの場にはいないモルガナの体がブルッと震えたのは置いておこう。


 マッシブロックの魔石で強化されたナギが<竜拳ドラゴンナックル>を会得し、ノリノリでマディポッドに放ったのを見てマグニと舞が力強く頷く。


「「わかる」」


「おいおい、マグニも舞も力加減はコントロールしなきゃ駄目だろ」


 (トール様がそれを言うのか。いや、ロキ=レプリカ戦ではスマートだったっけ)


 藍大はトールが月のダンジョンでロキ=レプリカを相手にした際、無駄のない動きでスマートに倒していたのを思い出してトールは脳筋ではないのだと改めて理解した。


 面目ないと言わんばかりのマグニと舞の表情は、偶然にもユノに怒られるナギとシンクロしていて藍大とサクラ、リル、伊邪那美がクスクスと笑った。


 マディポッドの魔石を取り込んだ結果、ナギの<自然弾ネイチャーバレット>が<自然槍ネイチャーランス>に上書きされた。


 弾丸が槍になって威力は変わるが、周囲の環境によって槍を構成する要素が変化するアビリティの特徴は引き継いでいる。


 上映会が終わり、藍大達は今日のように進められるのなら優月達だけで探索しても良さそうだと判断した。


 まずは1階を全ての曜日の分だけクリアすれば、地下1階に挑む時には能力値が安全マージンに到達しているだろうと考えてのことだ。


「ナギが次に進化するとしたら、リトルバスタードラゴンからリトルが取れてバスタードラゴンかね?」


「単純に考えたらそんな感じがするよね~」


「レベルいくつで進化だろうね」


『Lv30かLv40、Lv50のどれかじゃない?』


 藍大と舞、サクラ、リルが話しているところで藍大の頭に声が響く。


『なんとロキがひょっこり現れ仲間になりたそうにこちらを見てる』


 その直後に藍大は周囲を素早く確認したが、ロキの姿は確認できなかった。


『ご主人、どうしたの?』


「リル、地下神域にロキ様の存在を感じるか? 俺にテレパシーを送って来たんだが」


『ロキ様が? う~ん、いないよ。夢の神域で感じたロキ様の気配はこの神域には微塵も感じないから安心して』


「そうか。ありがとな」


 藍大がリルに感謝してその頭を撫でている時、サクラは静かに怒っていた。


「主にちょっかいを出すとは良い度胸をしてる。それなりの不幸に襲われるものと覚悟しろ」


 サクラはロキに対して不幸になれと念じながら<運命支配フェイトイズマイン>を発動した。


 その数十秒後に藍大の耳にロキの悲鳴が届いた。


『止めてくれ! 悪かった! 俺が悪かったから勘弁してぎゃあぁぁぁぁぁ!』


「よし。悪は滅びた」


「藍大達は何をやっとるんじゃ。遠くの方でロキの気配がブレておるぞ?」


 良い仕事をしたと言わんばかりの表情のサクラを見て、伊邪那美が何事かと訊ねた。


「主にちょっかいを出した愚か者にちょっとわからせてあげただけ」


「具体的に何をしたんじゃ?」


「愚か者の神域の天候に細工して北欧神話に出て来る蛇の毒の豪雨にしてやった」


「・・・えげつないのう」


「ロキがまた何かやらかしたのか? 丁度良い薬だからしばらく頼むわ」


 伊邪那美が苦笑しているとトールが話に加わり、ロキを懲らしめることに賛成した。


 死ぬ気で構ってちゃんな行動をするぐらいなら大人しくしていれば良いのにと思ったが、藍大もリルもどうせ言っても無駄なんだろうと思って黙っていた。

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