第820話 ブラド師匠の雌好き

 優月はユノとブラドを連れてシャングリラダンジョンに移動した。


 藍大にダンジョンのドアを開けてもらい、優月達はご機嫌な様子でダンジョンの中に入っていった。


「さて、この辺りでよかろう。召喚するのだ」


 ブラドがそう言ってDPを消費し、ベビーランドラゴンとベビードラクール、ベビードレイクを召喚した。


 ベビーランドラゴンは茶色いヤモリのような見た目だが、その大きさは中型犬サイズだった。


 爬虫類が苦手な人にとっては脚が竦むだろう。


 ベビードラクールは水色の蛇のような見た目で体長は1mぐらいあった。


 この中で唯一泳げるけれど、別に地上で生活できない訳ではないらしい。


 ベビードレイクはベビードラゴンだった頃のユノと同様に小型犬サイズであり、翼があるのでこの3体の中で最もドラゴンっぽい見た目である。


「みんなあつまって~」


「ドラ?」


「クー?」


「キュ?」


 優月に声をかけられた3体は優月の方を向いて固まった。


 それらの目を見てユノはムスッとしながらブラドを睨む。


「ほらやっぱり。みんな雌の顔になってる」


「偶然である。吾輩には召喚する個体の性別をコントロールする力はないのだ」


「ブラド師匠の雌好き」


「濡れ衣である!」


 そんな言い合いをユノとブラドでしている間に、ベビーランドラゴン達は優月の前に集まっていた。


 3体共自ら頭を差し出したので、優月は順番にテイムする。


 優月の手が3体の頭に触れた直後、それぞれの体が光に包み込まれた。


「テイムかんりょう!」


「おめでとう、優月」


「よくやったのだ」


 優月がテイムを済ませた頃にはユノとブラドも言い合いを止めており、優月のテイム成功を祝った。


 光が収まったところで、優月はテイムしたベビーランドラゴン達の融合を始める。


 ベビーランドラゴンはランド、ベビードラクールはシー、ベビードレイクはスカイと仮の名前を与えてからドラゴン融合の力を使った。


 ランドとシー、スカイの体が再び光に包み込まれ、光の中で3体のシルエットが集合して1つになる。


 その結果、ベビードラクールのスリムな胴体からベビーランドラゴンの四肢とベビードレイクの頭部と翼を生やしたドラゴンのシルエットが誕生した。


 光が収まると、水色の中型犬サイズになったそのドラゴンが優月に甘えるように突撃した。


「キュ~!」


「よしよし。きみはナギってなまえだ。いいね?」


「キュイ!」


 ナギは元気に返事をして優月に甘えた。


 その隣ではユノがプルプルと震えている。


「我慢。私は優月の正妻だから大丈夫」


 自分以外の雌ドラゴンが優月に甘えているのを見てイライラしているようだが、それでも優月のためにどうにかその苛立ちを抑え込もうとしていた。


 しかし、残念なことにその努力は実を結ばなかった。


 ユノから放たれるプレッシャーに気づき、ナギがビクッと反応して優月から離れるや否やぺこりと頭を下げたのである。


 その姿は身の程を弁えずにすみませんでしたと謝罪しているようだった。


 優月はユノがナギに嫉妬しているとわかってユノに手招きする。


「ユノ、こっちおいで」


「うん」


 ユノは優月が両手を前に出して自分を迎え入れてくれたので、機嫌を良くして優月に抱き着いた。


「優月が着実に主君みたく従魔誑しになってるのだ」


 ブラドはポツリとそのように呟いたが、その発言に相槌を入れる者は誰もいなかった。


 ナギの融合に成功した後、優月達はシャングリラダンジョンを出て帰宅した。


「おとうさん、おかあさん、ただいま!」


「「おかえり」」


 藍大は優月達を迎え入れてすぐにナギに目を向けた。


 無事にテイムと融合が成功したようだと安心しつつ、ナギの正体を確かめるべくモンスター図鑑を視界に展開した。



-----------------------------------------

名前:ナギ 種族:リトルバスタードラゴン

性別:雌 Lv:5

-----------------------------------------

HP:150/150

MP:250/250

STR:150

VIT:150

DEX:150

AGI:150

INT:150

LUK:150

-----------------------------------------

称号:優月の従魔

   融合モンスター

アビリティ:<自然弾ネイチャーバレット

装備:なし

備考:恐怖

-----------------------------------------



 (恐怖? 一体何にって、あっ・・・)


 ナギが恐れているものはなんだろうかと藍大がナギの視線の先に目を向ければ、ニコニコしている舞がいて察した。


 舞という絶対的実力者を見てしまい、ナギはユノに抱いたものとは比べ物にならない恐怖を抱いたらしい。


 現にナギはガクブル状態で優月の後ろに隠れている。


「ナギ、どうしたの? ぼくのおとうさんとおかあさんだよ?」


「キュア!?」


 ナギはマジでかと言わんばかりに舞と優月を交互で見た。


 藍大が優月の父親であることはすぐに納得したようだが、舞から放たれる力を感じ取って自分の主人ってこの化け物の息子だったのかと驚いているようだ。


「主君、翻訳は必要なさそうだな」


「大体察したから大丈夫」


「あれ~? ナギちゃんは恥ずかしがり屋さんなのかな~?」


 舞の問いかけにブンブンと首を横に振り、ナギは恥ずかしいんじゃなくて怯えているだけだと態度で示した。


「ナギ、大丈夫。お義母様は怖くない。ちょっと力が強いだけ」


「ちょっと?」


「ブラドは私に言いたいことがあるのかな?」


「なんでもないのである! だから離すのだ!」


 自分の本体を片手で持ち上げようと思えばできてしまうのだから、舞はちょっと力が強いなんてユノが口にした表現は不適切だ。


 ブラドは思わず口に出してしまったが、その時には既にブラドが舞にハグされていた。


「キュア・・・」


「おかあさんとブラドはほんとになかよしだね」


「うん。お義母様とブラド師匠は仲良し」


「キュア!?」


 ナギはあれを見てそんなことを言うなんて正気ですかと言わんばかりに驚いた。


 同じドラゴンとしてユノよりも強い力を感じるブラドなのに、あっさりと舞に捕まってハグされているのを見ればナギがそう思うのも無理もない。


 自分が万が一舞に捕まった時、誰に頼れば助けてもらえるだろうかとナギは考え、舞とブラドを見て苦笑している藍大に目を付けた。


 パタパタと翼を動かして移動し、ナギは藍大の前でペコリと頭を下げる。


「キュ」


「いざとなったら自分のことを助けてくれってことかな?」


「キュ!」


「大丈夫。ナギは優月の従魔だから、舞もいきなり抱きついたりしないよ」


 藍大とナギの会話が成立していることにツッコむ者がいないのは置いておくとして、ナギはブラドを指して首を傾げる。


「キュア?」


「ブラドは俺の従魔なんだけど、舞と同じく七つの大罪で食いしん坊ズだから、仲間内の挨拶みたいなものだ」


「キュイ~」


「納得したようだな」


「キュ」


 ナギは藍大の話を聞いて自分が舞に問答無用でハグされることはないと理解したらしい。


 明らかにホッとした様子なのだから間違いないだろう。


「ナギ、ユノと一緒に優月のことを守ってあげてほしい。できるかな?」


「キュイ!」


 任されたとナギは元気に返事をした。


 その様子が可愛らしかったので思わず頭を撫でたくなったが、藍大は息子の従魔の頭を勝手に撫でるのは良くないと思ってグッと堪えた。


『ご主人、そんな時こそ僕を撫でてね』


「リル、いつ来てたんだ?」


『ご主人が従魔を撫でたそうな波動をキャッチしてすぐに来たんだよ』


「愛い奴め」


「クゥ~ン♪」


 藍大はリルの頭を存分に撫でた。


 本当にリルは気の利く従魔である。


「そろそろ離してくれまいか?」


「しょうがないな~」


「おかしいのである。なんで吾輩が許されたのであるか」


 ブラドもようやく舞から解放されたようで、ブツブツ言いながら藍大が舞に対する壁になるような位置に移動して来た。


「まあまあ。ブラド、優月とユノの面倒を見てくれてありがとな」


「うむ。ところで主君、優月に新しい従魔が増えたのだから、今日はお祝いをするべきではないだろうか?」


「お祝いしなきゃ!」


『そうだよご主人! お祝いしようよ!』


 ブラドの発言に食いしん坊ズが乗っかれば、藍大がそれにNOと言うはずがない。


「そうだな。ナギが新しく優月の従魔になったことを記念して昼は贅沢にしようか」


 新たに仲間になったナギよりも食いしん坊ズの方が喜んでいるのは言うまでもない。

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