後日譚2章 竜騎士、ダンジョンに挑む

第819話 優月の筆頭従魔の座は誰にも譲らない。これは決定事項

 6月のある日、ブラドが優月とユノと話していた。


「そろそろ優月も従魔を増やすべきではないかな」


「ブラド師匠、それはどういうつもり?」


 ユノはブラドが自分の優月に浮気相手を用意するつもりなのかと目を見開いて訊ねた。


「落ち着くのである。吾輩は優月の立場を考えて言っておるのだ」


「立場?」


「4月のテイマーサミットで優月とユノの実力は世界に知れ渡ったであろう?」


「うん。私と優月が強いことを思い知らせた」


 頷くユノの言う通り、優月とユノはテイマーサミットの模擬戦でCN国のルーカス=ペナーとフワンのペアを倒した。


 モフモフの国よく訓練されたモフラーテイマーを倒したとあっては、優月とユノが世界に注目されないはずがない。


 それこそがブラドの心配に繋がる訳だ。


「そこで吾輩は思ったのだ。今はユノという質でカバーしておるのだが、その質でカバーできない数で囲まれてはどうしようもなかろうとな」


「むぅ」


「優月はどう思うか聞かせてほしいのだ」


「ぼくはユノをたよりにしてるよ。でも、それでユノがむちゃなことをするのはいやだな」


 優しい優月はユノの負担を気にしていた。


 ユノが自分のベストパートナーだと思っているけれど、そんなユノが倒れてしまっては困る。


 その気持ちを聞いたユノは優月に心配させる訳にはいかないと覚悟を決めた。


「わかった。ブラド師匠の提案に乗る」


「うむ。ユノは桜色の奥方のポジションになれば良いのだ。他の従魔から一目置かれ、優月の筆頭従魔の地位を築けばよかろう」


「優月の筆頭従魔正妻の座は誰にも譲らない。これは決定事項」


「まだ雌とは決まってないであろう?」


「私にはわかる。どうせブラド師匠が呼び出す従魔は雌になる」


「吾輩を雌ドラゴン好きと勘違いしないでほしいのである!」


 ブラドはユノに好色家扱いされたくなかったので抗議した。


 今のところ、ブラドとモルガナは同じく藍大の従魔だけど恋愛関係には至っていない。


 ブラドはモルガナのことを怠惰な後輩だと思っているし、モルガナはブラドのことを普段しっかりしているけどいじられキャラだと思っている。


 ここの2体がくっつくにはまだまだ時間が必要になるだろう。


「そうだよね。師匠はお義母様のことが好きだもんね」


「・・・」


 ユノの言葉にブラドは反射的に違うと言いたかった。


 しかし、優月の前で舞のことを否定するのはよろしくないと判断し、すごい表情になっていたけれど沈黙を貫いた。


 今の舞ならば本体の自分を片手で持ち上げることも可能だ。


 そんな相手に抱くのは好意ではなく恐怖である。


「ブラドはおかあさんのことが嫌いなの?」


「仲間としては頼りにしてるのである」


 嫌いとは思っていないけれど、好きだと言うには色々あるのでブラドは言葉を濁した。


 それはさておき、優月の従魔を増やすことについて本人とその婚約者の了承を取り付けたため、ブラドは2人を連れて藍大に会いに行った。


「ブラド、優月とユノを連れてどうしたんだ?」


「主君、吾輩は優月に新しい従魔が必要だと考えてるのだ。増やして良いか許可を貰いに来たのである」


「う~ん、テイマーサミットで優月とユノも目立っちゃったからなぁ。ユノ以外にもドラゴンがいた方が箔が付くか」


「その通りなのだ。優月とユノも吾輩の提案に賛成してくれたのだ」


「そうなの?」


 藍大が訊ねると優月もユノも頷いた。


 優月達が賛成しているならば藍大に反対する意思はない。


「良いんじゃないか。それで、今からどんなドラゴンをテイムするか話し合いをするか?」


「うむ。一応、吾輩の方で候補となるドラゴンはピックアップしておるのだが、主君の意見も聞きたいのだ」


「わかった。俺の意見を言う前にブラドの意見から聞かせてくれ」


「よかろう。吾輩のオススメは優月の最初の従魔を何にするか相談した時にも言ったエッグドラなのだ」


 藍大はブラドの話を聞いてエッグドラの特徴について思い出した。


 エッグドラとは卵に目と足用の4つ穴を開けてそれ以外全てが殻の中にあるドラゴンの幼体だ。


 基本は二足歩行だけれど、急いで移動する時や敵に攻撃する時は<回転スピン>で移動や攻撃を行う。


 卵の殻を被っているがゆえにVITは高めだが、その重量の分AGIは下がっている。


 藍大は優月が既に三次覚醒していることを考慮して意見を出す。


「エッグドラも良いけどさ、優月が折角ドラゴン融合も使えるんだから融合できるドラゴンも良いんじゃないか?」


「融合できるドラゴンとは社長青◯白龍みたいなドラゴンを指してるのであるか?」


「優月の嫁は私だけ」


「よしよし。ぼくのいちばんはユノだよ」


「エヘヘ♪」


 ブラドが余計な例示をしてユノがムッとしたが、優月がユノの頭を撫でて機嫌を直した。


「いや、あそこまで最初から強力なドラゴンじゃなくて良いんだ。ゴルゴンみたいに融合してから進化するパターンだってあるだろ?」


「ふぅむ。そうなると、パッと浮かぶのが2つのパターンであるな」


 そう言ってブラドは以下の2つのパターンを提示した。


 1つ目はベビーランドラゴンとベビードラクール、ベビードレイク。


 ベビーランドラゴンは地龍の幼体であり、AGIは低いがSTRとVITが高めだ。


 ベビードラクールは海龍の幼体であり、泳げる上に蛇のようなフォルムをしている。


 ベビードレイクは翼竜の幼体でこの3種類の中で唯一翼がある。


 2つ目はエンジェルドラゴンパピーとデビルドラゴンパピー。


 エンジェルドラゴンパピーは光属性を扱うエンジェルドラゴンの幼体だ。


 それとは対照的にデビルドラゴンパピーは闇属性を扱うデビルドラゴンの幼体である。


「どっちも融合したら強くなりそうだ。優月はどっちが良い?」


「ユノがいるから3たいがゆうごうするパターンがいいな」


「優月大好き!」


「よしよし。ういやつめ」


 光属性はユノがいれば十分という判断から優月がそう言えば、ユノは自分のことを一番に考えてくれる優月に抱き着いた。


 そんなユノの頭を優月は藍大の口癖を真似しながら優しく撫でる。


「本当に小さな主君を見てる気分なのだ」


「だって俺の息子だもの」


 若干会話になっていない気もするが、ブラドも藍大も優月が藍大に似ていると考えているのは間違いない。


 優月の発言でテイムするのはベビーランドラゴンとベビードラクール、ベビードレイクに決まった。


 その時、自分達にジト目を向けられていた気がして藍大が振り返ってみれば、舞がブラドの背後に音もなく立っていた。


「確保~!」


「な、なんであるか!?」


「まったくもう、私だけ仲間外れにする悪い子はハグしちゃうぞ~」


「既にしてるのだ! そのセリフはハグする前に言うべきであろう!」


 ブラドが必死に舞の拘束ハグから逃げ出そうとするが、残念なことにSTRが全然足りない。


「おかあさんとブラドはなかよしだね」


「師匠はお義母様のことが大好き。さっきから寂しそうにしてた」


「もう、ブラドってばしょうがないな~」


「ユノ、余計なことを言わないでほしいのだ!」


 自分を締め付ける力が強まったのを感じてブラドが抗議するが、ユノはとても良い笑みをブラドに向けている。


 師匠のキャラを活かすという点において、ユノは弟子として十分な成果を出した。


「舞、ごめんな。話はどのあたりから聞いてた?」


「ついさっき来たばかりだから何も聞いてないよ。でも、このメンバーで集まってるってことは優月の新しい従魔の話だよね?」


「正解。次は優月にドラゴン融合を使える従魔のテイムに挑戦してもらおうと思ってる」


「ゴルゴンちゃんみたいに融合して進化させるんだね。良いんじゃないかな」


 舞は前例ゴルゴンを知っているので理解が早かった。


「だろ? じゃあ早速行くか」


「ちょっと待ってほしいのだ」


「どうしたブラド?」


「今回のテイムは吾輩が見守るから、主君と騎士の奥方には家で待機しててほしいのである。いつも主君達が同行してると優月とユノのためにならぬのだ」


 (優月はまだ5歳なんだけど一理あるんだよね)


 優月が普通の5歳ならばブラドの提案を断るけれど、優月には先日Lv100に到達したユノが付き添っているし、優月自身も既に男子高校生ぐらいの身体能力はある。


 ブラドがダンジョンでモンスターを召喚するのに付いて行くならば、今後の優月達のためにもいつも同行するのは良くない。


 そのように判断して藍大は頷いた。


「わかった。ブラド、優月とユノを頼んだぞ」


「うむ」


 キリッとした表情で応じるブラドだったが、舞にハグされたままだったのでシュールだったのは内緒である。

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