第815話 アタシ知ってるわっ。これが有名税なのよっ

 お出かけ3日目、藍大はゴルゴンと日向を連れて渋谷のゲームセンターにやって来た。


「今日はシャングリラリゾートにはないゲームで遊ぶんだからねっ」


「だからねっ」


 (ゴルゴンの真似してる日向が可愛い)


 仁王立ちして宣言する母親ゴルゴンの隣で日向がその真似をしているのを見て、藍大は微笑みながら日向の頭を撫でた。


「もっとなでていいのよっ」


「マスター、仲間外れは駄目なのよっ。私のことも撫でなきゃ駄目なんだからねっ」


「よしよし。愛い奴等め」


 藍大は日向だけ撫でるなんて意地悪はせず、ちゃんとゴルゴンの頭も撫でた。


 頭を撫でてもらっている2人はとても似ていた。


 仲良しな母娘なだけあって口調もリアクションもそっくりだ。


 渋谷には人がたくさんいるため、藍大とゴルゴン、日向が手を繋いで歩いているのを見て周囲が騒がしくなる。


「月見商店街と違って落ち着かないな」


「アタシ知ってるわっ。これが有名税なのよっ」


「なのよっ」


 ゴルゴンがドヤ顔になったのを見て日向も真似をしてドヤ顔になった。


「仕方ないか。さて、お目当てのゲーセンはっと・・・」


「あったわっ。GAME PARK Whiteなのよっ」


 藍大達が今日やって来たGAME PARK Whiteとは”ホワイトスノウ”が経営するゲームセンターだ。


 今日は藍大がクランマスターの白雪にお願いして終日貸し切りにしてもらっている。


「逢魔さん、ゴルゴンさん、日向ちゃん、お待ちしてました」


「有馬さん、おはようございます。今日は無理なお願いを聞いてもらってすみません」


「いえいえ。逢魔さんには色々とお世話になっておりますから、これぐらい全然構いませんよ。それに、逢魔さんやゴルゴンさん、日向ちゃんが遊びに来てくれたってなれば、GAME PARK Whiteにも箔が付きますし」


「「ドヤァ」」


 (可愛いけどちょっと静かにしててくれよな)


 白雪と話をしているので、藍大はゴルゴンと日向の頭を軽く撫でてから白雪の方を見る。


「そう言ってもらえると助かります。これ、良かったら後で召し上がって下さい」


「・・・逢魔さん、これじゃ私が借りを返せませんよ。明らかにお土産の方が貸し切りにかかる費用よりも高いパターンですよね?」


 GAME PARK Whiteの貸し切りは無料で構わないと白雪が藍大に言ったけれど、流石に”ホワイトスノウ”の収入源を貸し切っておいて何もお返しをしないのは気が引ける。


 それゆえ、藍大は白雪にサンドイッチのたっぷり詰め込まれたピクニックバスケットを渡したのだ。


 お金を受け取るのは白雪が拒みそうだが、今日の昼食にどうぞと差し出された厚意を拒否することは難しい。


 何故なら、藍大の料理の腕は四次覚醒した調理士にも勝ると言われており、使われている食材がシャングリラ産だと容易に想像できるからだ。


 ゲームセンターの貸し切りにかかる費用よりも藍大の作った弁当の方が高価だが、白雪はそれを見てしまったせいで食べたいという欲求に抗えなかった。


 気が付けば白雪は無意識に両手を差し出しており、藍大からピクニックバスケットを受け取っていた。


「食いしん坊ズからこのお弁当を守るのが大変だったんだからねっ。味わって食べるのよっ」


「はい。大切に食べさせていただきますね。逢魔さん、お気遣いいただきありがとうございます」


「いえいえ」


 白雪があっさり食欲に負けた後、藍大達は建物の中に入った。


 次の予定が入っていたため、白雪はここで藍大達と別れている。


 これから遊ぶ予定のGAME PARK Whiteはアーケードゲームだけでなく、VRゲームやARゲームまで揃えた最先端のゲームセンターだ。


 ゴルゴンと日向は目を輝かせ、藍大の手を取って走り出した。


「マスター、ARエアホッケーやるのよっ」


「ARエアホッケーなのよっ」


「はいはい。わかったから落ち着け」


 藍大達が最初に向かったのはARの技術を用いたエアホッケーだ。


 藍大VSゴルゴン&日向ペアで勝負をすることになった。


「マスター、今日一日で最も負けた回数が多かった者は一番勝った者の言うことを聞くってルールで勝負を仕掛けるわっ」


「わかった」


「パパがあいてでもまけないわっ」


 ゴルゴンと日向と違って1人の藍大はサクラの<十億透腕ビリオンアームズ>を使って2つのマレットを操る。


 マレットとはパックを打つ器具のことであり、ARエアホッケーではARゴーグルを身に着けて専用のマレットでARパックを打つ仕様になっている。


「試合開始だ。先攻はゴルゴンと日向に譲ろう」


「先手必勝なのよっ。日向、やっておしまいなのよっ」


「なのよっ」


 日向が最初から打ち込んだARパックを藍大はゴルゴンに向けて打ち返す。


「フッフッフ。アタシは拒絶するのよっ。えっ!?」


「ゴルゴン、ARパックに実体はないから意味ないぞ」


「しまったのよっ」


 ゴルゴンはマレットで打ち返さずに<拒絶リジェクト>でARパックを跳ね返そうとしたのだ。


 ところが、ARパックに実体はないから<拒絶リジェクト>を使ってもすり抜けてしまって藍大の得点となった。


「ママ、しっかりしてほしいわっ」


「大丈夫なんだからねっ。マスターは私を本気にさせたわっ」


 (なんでだろう? 負ける気がしなくなったぞ?)


 意気込むゴルゴンを見て藍大は少しも負ける気がしなくなった。


 ゴルゴンは不意打ちやミスディレクションを交えて果敢に攻めたが、藍大が油断しなかったので効き目はなかった。


 むしろ、余計なことをしている分だけゴルゴンの手元が疎かになり、ゴルゴンが日向の足を引っ張っていた。


 結果的に7-3で藍大が勝った。


 藍大が取られた3点だが、いずれも日向があざとく通してと上目遣いにお願いして油断したところを日向に決められてしまったのだ。


 ゴルゴンが同じ手を使った時は特に効果はなく、藍大にあっさり打ち返されてゴルゴンが失点するなんてこともあり、とにかく藍大が勝った。


「まずは俺が一勝だな」


「ぐぬぬ、負けてしまったのよっ」


「ママとおなじチームだとまけちゃうわっ」


「じゃあ次は俺と日向のチームで戦おうか」


「それがいいわっ」


「なっ、してやられたのよっ」


 貴重な戦力を奪われたゴルゴンはしまったという表情になった。


 とは言っても日向は藍大とゴルゴンのチームを行ったり来たりする訳で、レースゲームやシューティングゲーム、パンチングマシーン等でのらりくらりとビリを避け続けた。


 昼食の時間で途中経過を確認したところ、藍大と日向が5点で同点であり、ゴルゴンが3点で追いかけている状況だった。


「なんてことなのよっ。このままだとアタシがビリなのよっ」


「アタシがいちばんだったら、ママはまいママにハグしてもらうわっ」


「な、な、な、なんて恐ろしい子なんだわっ。一体誰が日向に恐ろしいことを吹き込んだのよっ」


「ゼルママがママへのばつゲームはそれがいいっていってたよ」


「ゼ~ル~・・・。絶対に負けられない戦いがここにあるんだからねっ。アタシを本気にさせたことを後悔するが良いわっ」


 (なんという負けフラグ。さっきから本気出すって言う度に負けてるぞ)


 藍大はそう思っても口に出したりしなかった。


 しかし、昼食後にモグラの代わりにゴブリンを叩くゴブリン叩きにチャレンジしたが、ゴルゴンは藍大の予想を裏切って1位の成績を収めた。


 藍大は日向にバレない程度に手を抜き、日向よりも2体だけ多くゴブリンの玩具を叩いたが、2人の後にプレイしたゴルゴンがそんな藍大よりも多く叩いたことで1位になったのだ。


「これがアタシの実力なのよっ」


「むぅ、ママにおいつかれちゃうわっ。つぎはあれでしょうぶしたいのっ」


 日向が次に選んだのはダンスゲームだった。


「フッフッフ。アタシにダンスで挑もうなんて100年早いのよっ」


「アタシだってとくいだわっ」


 この戦いでは藍大と日向は僅差で日向の方が1点多くて2位になり、ゴルゴンがぶっちぎりで1位になった。


 やはり<神楽グラダンス>を会得してるゴルゴンにとって、ダンスゲームは自分のフィールドだったらしい。


 これで全員が5勝で並んだという時、ゴルゴンが手を挙げた。


「どうしたゴルゴン?」


「提案するわっ。全員同じだけ勝ったんだし、勝負はここまでにしてはどうかしらっ?」


 (ゴルゴン、ここぞってタイミングでビビったな?)


 藍大がそう思ってジト目を向けていると日向は頷いた。


「しかたないわねっ。ママがそういうならそうしてあげてもいいわっ」


 (日向も自分が負ける可能性に怯えたか)


 母娘でこんなところまで似ているなんて面白いなと笑っていると、ゴルゴンと日向が藍大をポカポカと叩く。


「マスター、笑うなんて酷いのよっ」


「パパ、これはママがかわいそうだからなのよっ」


「そうだな。よしよし」


 藍大はゴルゴンと日向の頭を撫でた後に勝負の中止を宣言し、日向がやってみたいと駆け出した先にあったクレーンゲームに向かった。


 その後も様々なゲームを楽しみ、今日という日を遊び尽くした藍大達だった。

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