第816話 マ、マスター、そうやって私を太らせるですか!?

 翌朝、藍大とメロ、大地はシャングリラの地下神域にある農園ゾーンにいた。


 最初は家庭菜園だったのだが、神シリーズの種を植えて次々に穀物や野菜、果物を育てた結果、立派な農園になってしまったのだ。


「マスターもお出かけ続きで疲れてると思うです。だから、今日は地下神域で収穫体験とピクニック、温泉って流れでのんびりするですよ」


「それも良いかもな。うん、久し振りにツナギを着た気がする」


「はいです。収穫作業ができる服装ということで、マスターには懐かしのツナギを着てもらってるですよ」


「パパ、ツナギおそろいだね」


「だな。大地もツナギの似合う男の子だ」


 今日は大地も藍大に合わせて子供用のツナギを着ている。


 動きやすくて汚れても良い服装という点でツナギは藍大のイチ押しであり、大地もニコニコしながら着ている。


「さて、早速収穫するです。今日はどんな果物が食べたいですか? 調整してるのでどれも収穫できるですよ?」


「俺は桃の気分だな。大地は何が食べたい?」


「いちごたべたい」


「そうか。メロは?」


「私は蜜柑の気分です」


「じゃあ、その3種類を順番に収穫しよう。大地の食べたい苺から行こうか」


「うん!」


 収穫する果物が決まると、藍大達は神苺から収穫を始める。


「苺狩りだと収穫してすぐに食べるのも良いんだけど、お昼に俺が収穫した果物を使ったデザートを作るのはどう?」


「賛成です! マスターのデザートが食べたいです!」


「ぼくもパパのデザートたべたい!」


「よし、わかった。収穫した果物は俺が預かろう」


 メロと大地は収穫したての果物を食べるのが好きだが、藍大がそれを使って作るデザートも大好きだ。


 しかも、今日は藍大とメロと大地だけのゆったりした時間ということで、食いしん坊ズの介入がない。


 大事なことだから敢えて繰り返すが、食いしん坊ズの介入がないのだ。


 つまり、美味しいデザートを周囲に張り合わずにゆっくり食べられる訳であり、それは特にメロにとってありがたいことである。


 デザートをゆっくり食べれば、食いしん坊ズに釣られてうっかり食べ過ぎないように自分でコントロールできる。


 そうすれば、食べてしまった後に太ることを気にして必死に運動しなくても良い。


 (デザートを作るって言った時に一瞬だけリルの気配がしたなぁ)


 藍大は魔神ゆえに人間だった時よりも感覚が鋭くなった。


 それでもリルが本気を出せば気配を察知できないのだが、うっかりデザートという単語に釣られてしまったらしいリルが気配を消し忘れてしまったため、その瞬間に藍大はリルの存在を感じ取ったようだ。


 恐らく<風精霊祝ブレスオブシルフ>を使って風のカーテンを創り出し、自身の姿を隠しているリルがいるとわかれば、藍大は仕方ないと苦笑する。


 (デザートは多めに作って避けておくか。置いとけば食べるだろうし)


 そう決めてから、苺、桃、蜜柑と順番に収穫したところで藍大達は農園ゾーンの開けた場所でレジャーシートを敷き、その上に座ってランチの時間にする。


「今日は大地のリクエストでハンバーガーだ」


「ハンバーガー!」


「マスターは意地悪です。ハンバーガーの後にデザートまで用意されたら太っちゃうですよ」


「大丈夫だ。ちゃんとヘルシーなハンバーガーも用意したから」


「ヘルシーなハンバーガーです?」


「おう。順番に説明するからちゃんと聞いててくれ」


 メロもハンバーガーは好きだけれど、バクバク食べてしまうとカロリーがすごいことになってしまう。


 それゆえ、藍大に意地悪だと言ったのだ。


 もっとも、本気で嫌がっている訳ではなく、出されればメロもうっかり食べてその味にニコニコしてしまうのだが。


 藍大が用意したハンバーガーは以下の通りである。


 ワイバハムートの肉とオニコーンの玉葱で作ったパティが使われたワイバハムートバーガー。


 トロリサーモンフライとシャキシャキの神甘藍を挟んだトロリサーモンフライバーガー。


 キュリビムとアスパラディン、ホワイトバジリスクを使ったサラダスネークバーガー。


 食べるだけでその後光り出してしまうゲーミングイールを和風のソースで味わうゲーミングバーガー。


 ヘルシーなハンバーガーとは3番目のサラダスネークバーガーのことだ。


 だがちょっと待ってほしい。


 他のハンバーガーも美味しそうにできているというのに、サラダスネークバーガーだけを食べていられるだろうか。


 答えは否である。


 ただし、藍大も全種類食べてもらえるようにそれぞれのハンバーガーのサイズは小さめに作ってあるので、4つ食べてもバーガーショップでハンバーガーを2つ食べるのと変わらないボリュームになっている。


 メロが食べる量を気にするだろうと予想し、そう言った気遣いを忘れないのが藍大の優しさと言えよう。


「もう、マスターってばそういうところが優しいですね」


「よしよし。愛い奴め」


 メロが横から抱き着いて来たため、藍大はそんなメロの頭を優しく撫でた。


 仲良くハンバーガーを食べた後、藍大はその場でデザートを用意し始めた。


「パパ、ぼくもおてつだいする!」


「おっ、それなら手伝ってもらおうか。俺がベーグルを切ってホイップクリームを盛りつけたら、大地はカットしたフルーツをホイップクリームの上に乗せてくれ」


「はーい!」


 藍大は小さいベーグルを横に切って二等分し、その下半分にホイップクリームを盛りつける。


 そこに大地がカットした果物を載せ、その上にベーグルの上半分を被せればお手軽フルーツサンドの完成だ。


「フルーツサンドができたぞ」


「できた!」


 完成品を見たメロは戦慄した。


「マ、マスター、そうやって私を太らせるですか!?」


「メロは全然太ってないから大丈夫だ」


「そうやって油断した者から太ってくですよ! 本当に舞が羨ましいです!」


「それなら温泉に入る前に少しみんなで運動しよう。それなら食べても良いんじゃないか?」


「・・・そうするです」


 メロは藍大の話を聞いてフルーツサンドを食べることにした。


「大地、フルーツサンドは気に入ってくれたか?」


「うん! おてつだいしたからいつもよりもおいしい!」


「そうかそうか」


 大地は自分もフルーツサンドを作る手伝いをしたので、藍大に1から10まで全て作ってもらったフルーツサンドを食べた時よりも美味しく感じた。


 その感想を聞いただけでほっこりした。


 ちなみに、余分に作ったフルーツサンドをピクニックバスケットの中に入れてシートの端に置いてみたら、それが宙に浮かび上がった。


 (ちゃんとみんなで食べるんだぞ)


『うん! ありがとうご主人!』


 藍大がそこにいるであろうリルにテレパシーを送ると、リルが藍大だけに聞こえるように感謝の言葉を伝えてバスケットを回収してこの場を離れた。


 やはり藍大の予想通りであり、リルが藍大の作ったデザートを分けてくれるのを待っていたようだ。


 食休みの後、藍大はメロと大地とフライングディスクや縄跳び、だるまさんが転んだで遊んだ。


 大地は藍大と遊べてご機嫌であり、メロもフライングディスクや縄跳びの時に能力値のスペックを活かしたダイナミックな動きでカロリーを消費できたと笑顔だった。


 夕方になり、藍大達は地下神域にある混浴の露天風呂に入った。


「メロと大地は今日を楽しんでくれたか?」


「勿論です!」


「うん! パパといっぱいあそべてたのしかった!」


 藍大に訊かれてメロと大地は嬉しそうに答えた。


 メロも今日は藍大にゆっくりしてほしいと思ったので質問する。


「マスターこそ今日はゆっくりできたですか?」


「あぁ。昨日はゴルゴンと日向がはしゃぎまくりだったからな。今日はゆっくり楽しめたよ」


「良かったです」


 メロが優しく微笑むと藍大はメロを抱き締めた。


「メロ、いつも周りを見てくれてありがとな」


「マスターこそいつもありがとうなのです」


 メロが藍大を抱き締め返すのを見て大地がニコニコする。


「ぼくしってる。パパとママみたいにしてるのをラブラブっていうんだよね?」


「その通りです! 私とマスターはラブラブですよ!」


「そうだな。だけどそれだと大地が足りないじゃないか。大地もこっちにおいで」


「うん!」


 藍大は大地を手招きし、メロと一緒に大地のことも抱き締めて家族の輪を形成した。


 こういった日を他のメンバーとも定期的に過ごすのも良いかもしれない。


 そんな風に藍大は思った。

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