第813話 マキナ母さん、これぐらい逢魔家ではよくあることだよ

 藍大は神々を含む家族連れ、シャングリラの地下神域にあるゲートから創世神界へとやって来た。


 天之狭霧神の復活によって出現したゲートに対し、マキナがこの日のために細工をして創世神界に繋がるようにしたのだ。


 ゲートは螺旋階段の下ではなく、それを上った後の門の前に繋がっていた。


「ゲームに出て来そうな扉なのよっ」


「立派な扉です!」


『気分はRPGじゃーん(o‘∀‘)σ)Д`;)』


 仲良しトリオはマキナが住む空間に繋がる神聖で巨大な扉を見てテンションが上がった。


 藍大と舞、サクラ、リル以外は初めて見るものだから、その荘厳さに圧倒されているらしい。


「むぅ、やはり緊張するのじゃ」


「そりゃ創世神様と会う訳だからねぇ」


 伊邪那美と伊邪那岐は緊張しているようだが、それでもまだ喋れるだけの余裕があった。


 その子孫である天照大神達やマグニ、ペレに至っては緊張のあまりしゃべる余裕すら感じられない。


「マグニ、ビビることはない。別に創世神様はお前を取って食う訳じゃねえんだから」


「そうは言いますが父上、やはり扉の奥から感じられる圧倒的な気配には身構えてしまいますよ」


「まったく、俺の息子ならもっと堂々としろ。舞を見てみろ。いつも通りどころかやる気満々じゃないか」


 (トール様、舞はやる気よりも食い気が満々なんです)


 トールとマグニの親子の会話を聞いた藍大は心の中でツッコんだ。


「マキナ様を待たせる訳にも行かないから、早速中に入ろう」


 そう言って藍大が扉に近づけば、ロックが勝手に外れて扉が自動的に開かれた。


「顔パスなのニャ」


『だってパパだもん』


『これがボス。最高にクールだぜ』


 ミオとフィア、ドライザーのやり取りを聞いてその場にいる者全員が藍大のすごさを改めて思い知った。


 扉が開いて藍大達はその奥に進み、たくさんの映像が背景になった空間に入った。


「いらっしゃい。みんなよく来たね」


「今日は招いてくれてありがとう」


「ううん。これぐらいやって当然だよ。なんてったって、藍大達のおかげで邪神が討伐されて地球の危機が回避されたんだからね」


「ママといっしょ~」


「あい」


 蘭と咲夜はマキナとサクラの顔がそっくりだったため、ニコニコしながら2柱の共通点を指摘した。


「おや、君達が私の孫になるんだね。やあ、マキナおばあちゃんだぞ」


「おばあちゃん!」


「あい!」


 マキナはサクラの母親とも言える存在なので、それはつまり蘭と咲夜の祖母になる訳だ。


 だからこそ、マキナはフランクに蘭と咲夜に自己紹介している。


 そんなマキナに蘭が抱き着き、それを見た伊邪那美達は戦慄した。


「蘭は間違いなく大物になるのじゃ」


「既に大物じゃないかな?」


「俺の曾孫達も負けねえぜ」


 伊邪那美と伊邪那岐の発言に対してトールが張り合っているが、それはそれで事実と言えよう。


 既にティアマトをパートナーに持つ優月はテイマーサミットで一気に注目を浴びたし、薫も将来は調理士として逢魔家の食卓でその腕を振るうことを期待されている。


 それから、初めてマキナと会うメンバーは順番にマキナに挨拶した。


「うん、久し振りにたくさんの神と人、従魔に直接会った。もうお腹いっぱい」


「マキナ様、宴はこれからだろ?」


「そうだったね」


 マキナがパチンと指を鳴らせば、どこかに用意されていたらしいパーティー料理がビュッフェ形式で藍大達の視界に現れた。


 今日は立食パーティーだが、疲れた者のために椅子もちゃんと隅に用意されている。


 全員に飲み物が行き届くと、マキナが乾杯の挨拶をする。


「みんな、今日は来てくれてありがとう。そして、邪神の討伐に尽力してくれたことも本当に感謝してるよ。この宴を是非楽しんでいってほしい。乾杯!」


「「「・・・『『乾杯!』』・・・」」


 乾杯の挨拶が終わった途端、食いしん坊ズの目が変わった。


 ここはパーティー会場から戦場に変わったらしい。


 いかに食べたい料理を効率良く食べるかという思考に切り替わっており、先程までマキナに委縮していた者達ですらずらりと並べられた料理を取ってはモリモリ食べていた。


「おぉ、これが噂の食いしん坊ズの食べっぷり。すごいね」


「舞とブラド以外もちゃんと仕上げて来てるなぁ」


 今日ずっと一緒だった舞とブラドはシャングリラリゾートで体を動かしていたが、一緒にいなかったリルやミオ、フィア、伊邪那美達も負けじと食べている。


 マキナが食いしん坊ズの食べっぷりを見ていると、藍大は食いしん坊ズの食に対する並々ならぬ熱意を感じて笑っていた。


 また、チラッとドライザーとエルの方を見てマキナの技術力はすごいと思った。


 何故なら、マキナはドライザーとエルが摂取できるドリンクを用意してみせたのだ。


 そのドリンクは魔石を吸収する要領で自身の力へと転換できるため、普段は飲み食いをしないドライザーとエルもパーティーに参加している気分を味わえるのである。


 しかも複数種類のドリンクが用意されているから、ドライザーとエルも大喜びで飲み比べをしている。


 周りを見てみれば、愛がマグナを、櫛名田比売が須佐之男命を、天之狭霧神が国之狭霧神を甲斐甲斐しく世話していた。


 (クニちゃん、そこは自分で食べたい料理を取ろうぜ)


 マイペースな国之狭霧神の面倒は今日も天之狭霧神が見ているから、藍大がサポートする必要はない。


 優月とユノ、蘭、日向、大地、零は仲良くあちこちから食べたい料理を取っているし、仲良しトリオが藍大の代わりに気を配ってくれている。


 それゆえ、藍大が面倒を見ているのは薫と咲夜だけだ。


 薫と咲夜専用の椅子もマキナが用意してくれており、2人の面倒はサクラもフォローしてくれるから、藍大もちゃんと料理や飲み物を楽しむことができている。


「主、これ美味しそうだから主の分も持って来た」


「ありがとう」


「あーん」


「ん・・・。美味いな」


 藍大はサクラに食べさせてもらった料理をじっくりと味わい、マキナの腕前に感心した。


「料理を褒めてもらえるのは嬉しいんだけどさ、藍大とサクラってナチュラルにいちゃつくよね」


「マキナ母さん、これぐらい逢魔家ではよくあることだよ」


「あれも?」


 マキナが食いしん坊ズの方を指差した。


 藍大とサクラがその方向を見てみれば、食いしん坊ズ達が己のスキルやアビリティを駆使して自分の食べたい料理を取り合っては食べる姿があった。


「いつも通りだな」


「うん、いつも通り」


「えぇ・・・」


 持てる力を温存せずガンガン使って食べたい料理を取り合う食いしん坊ズの在り方を目の当たりにし、マキナはマジかよこいつ等という目になった。


 そこにパンドラが合流する。


「はぁ、疲れた。まったく、ミオも無茶させるよ」


「お疲れパンドラ」


 ミオに料理の取り合いに付き合わされていたパンドラが自分の隣で座り込んだため、藍大はパンドラを抱き上げて優しく撫でてやった。


 今のパンドラは小さい九尾の白猫の姿だから、藍大の腕にすっぽり収まるサイズなのだ。


 リルが食べ物に夢中になっている今だからこそ、パンドラはこうして甘えに来たのだろう。


「へぇ、君は面白い子だね」


「マキナ様、どゆこと?」


 マキナがパンドラに興味を持った理由が気になって藍大は訊ねた。


「パンドラは四神獣でも七つの大罪でもないにもかかわらず、後もう少しで同等の力を持てるところまで来てるよ」


「その話、詳しくお願いします」


 マキナの話に興味津々なパンドラは身を乗り出した。


「大罪に近い<憂鬱メランコリー>やそれに付随する<負呪破裂ネガティブバースト>を会得してるにもかかわらず、<迦具土刃エッジオブカグツチ>なんて神の名を冠するアビリティもある。そう言った意味では四神獣と七つの大罪の中間に位置するのが君なんだ」


「どっちつかずだから今はサクラやリルに勝てないってこと?」


「そうとも言えるけれどそうじゃないとも言える。パンドラが進む道は険しいものだけれど、神の力と大罪に類する力が合わされば強力になるとだけ言っておこうかな。全部言っちゃうとパンドラのためにならないし」


「アドバイスありがとうございます。そこから先は僕が自分自身で考えて進みます。僕だってミオに守られたり振り回されてばかりは嫌ですから」


「頑張れ男の子」


「はい」


 パンドラはマキナにアドバイスを貰えたことにより、先程まで食いしん坊ズの戦場に巻き込まれていた時の疲れが嘘のように吹き飛んだ。


 藍大達は各々楽しい時間を過ごし、マキナにお礼を言ってから帰宅した。

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