第812話 お腹を空かせてから宴に参加するのが礼儀だよね!

 2柱の新たな神が誕生した翌日、藍大は舞と優月、薫、ユノ、ブラドを連れてシャングリラリゾートのアウトドアエリアに来ていた。


 昨日は最後にペレと天之狭霧神、国之狭霧神が復活したが、藍大は月から帰還した後にその3柱から加護を授かっているのでシャングリラの地下神域の変化以外特に何も起きていない。


 ちなみに、3柱による加護で藍大が授かった力は以下の通りだ。


 ペレは藍大が熱によるダメージを受けない体にした。


 天之狭霧神は藍大の収納リュックを技能化させ、ブラドと同じく<無限収納インベントリ>を使えるようにした。


 国之狭霧神は藍大に一定の範囲にいる任意の対象の能力値を一時的に減衰させる力を与えた。


 藍大は魔神と呼ぶには色々技能に溢れすぎている気もするが、今更なのでそっとしておこう。


 それはさておき、今日は舞達との親子の水入らずのお出かけ・・・のはずだった。


「なんで吾輩も一緒にお出かけなのだ? 主君達だけで出かけるはずであろう?」


「え~? だってブラドは私達に置いてかれたら寂しいでしょ~?」


「寂しくは・・・気遣いに感謝するのだ」


 ブラドは寂しくないと言い返そうとしたけれど、自分を連れていこうと発案したのが優月とユノだと察しておとなしく感謝した。


 そのようにブラドが察せたのは、優月とユノの良いことしたと言わんばかりの表情があったからである。


「薫もブラドが来てくれて嬉しいか?」


「あい!」


「主君、水を差すようなことはもう言わないから追い打ちはしないでほしいのである」


 藍大が抱っこしている薫に声をかけると、薫はまだ1歳にもかかわらず藍大の言葉を理解しているかのように元気な声で返事をした。


 ブラドは薫を優月程ではないが気にかけているので、今日はちゃんと付き合うからこれ以上精神的に攻撃しないでくれと藍大に頼んだ。


「よろしい。まあ、今日はブラドも一緒に来て正解だと思うぞ。だって、今から俺達はここでめいいっぱいお腹を空かせてからマキナ様の宴に行くんだから」


「お腹を空かせてから宴に参加するのが礼儀だよね!」


「そんな礼儀は聞いたことがないのだが、吾輩も創世神様が用意してくれるパーティー料理は気になるのだ」


 舞が出かけ先にシャングリラリゾートのアウトドアエリアを選んだ理由だが、夜に控えるマキナ主催の宴のためだ。


 優月やユノも外で元気に遊べるし、自分もおなかを空かせた万全の状態で宴に望めるから一石二鳥と考えたらしい。


 それに便乗できるならば、ブラドにとっても決して悪い誘いではないだろう。


「優月~、何から遊びたい~?」


「あれやりたい」


 舞に訊かれて優月が指差したのは池とそこに浮かぶいくつもの足場だった。


 これは池の反対側のゴールに向かってジャンプして足場を渡って移動し、水に落ちないで渡り切れたらチャレンジ成功というゾーンである。


 小さい子供でも安心して遊べるように池の深さは浴槽程度であり、足場も発泡スチロールぐらいの柔らかさでできている。


 ただし、足場は底からしっかり支えられているものとただ浮いているものの2種類あり、その違いをわかりにくくするために池の水は透明感のない青色に染まっている。


「ユノちゃんは人型のままチャレンジするから良いけど、ブラドは翼を使っちゃ駄目だからね~?」


「そんな無粋なことはしないのだ。吾輩の軽快なフットワークを見せてやるのである」


 (ぬいぐるみボディでフットワークを披露するの? うん、頑張れブラド)


 藍大はそれによって生じるであろう結果を容易に想像できたため、心の中でブラドにエールを送った。


「最初は誰からやる?」


「はい!」


 真っ先に手を挙げたのは優月だった。


「よし、優月からチャレンジだな。俺は薫と一緒にゴールで待ってるぞ」


「うん!」


 藍大は優月の返事を聞いてから、<時空神力パワーオブクロノス>でスタートからゴールに一瞬で移動した。


「あい!」


「どうだ? お父さんもなかなかすごいだろ?」


「あい♪」


 薫は一瞬で自分の見ている景色が変わったため驚いたようだが、それが藍大父親の力によるものだと知って喜んだ。


「優月~、いつでも良いぞ~!」


「行くよ!」


 藍大に声をかけられて優月はすぐにスタートした。


 5歳児とはいえ、ユノと一緒にダンジョンに行っていたこともあって優月の能力値は並の5歳児とは比べ物にならない領域にある。


 優月はぴょんぴょんと跳ねるように足場を踏んで進んで行き、落ちることなく藍大と薫の待つゴールに到着した。


「おぉ、すごいな優月! ノーミスじゃないか!」


「あい!」


「えっへん!」


 藍大と薫に褒められて優月はドヤ顔になり、そんな優月が可愛くて藍大はその頭を撫でる。


 優月が成功した後はユノの番だ。


「優月に良いところ見せるよ!」


 ユノは優月のチャレンジよりも更に自分で難易度を上げるつもりらしく、フィギュアスケートのようなステップから始め、トリプルアクセル、トリプルトゥループ、トリプルサルコウで着地してゴールした。


「ユノすごい!」


「ドヤァ!」


 優月に褒められたユノは良いところを見せられて大満足そうである。


 優月とユノが連続で成功させたが、どちらも運良く足場選びで失敗しなかったからだ。


「ブラドは次とラストのどっちが良いかな?」


「吾輩はラストが良いのである。吾輩程にもなれば、ラストを飾るべきなのだ」


 ブラドはそんなことを言っているが、ユノの後にチャレンジして失敗したら恥ずかしいから舞に先を譲ったのである。


「そっか~。それなら先に私が行くね~」


 緩い口調で喋る舞だが、ブラドとの会話を止めてゴールを見る時には真剣な表情になっていた。


「おかあさんがんばれ~」


「ファイト」


 (舞、程々で良いんだからな? 全力出すなよ?)


 優月とユノがエールを送る中、藍大はなんとなく嫌な予感がした。


 そして、その予感は的中した。


「行くよ~。あっ・・・」


 舞は力強くスタートで踏み切ったせいで大きく跳躍してしまい、足場を全部通り越してゴールに着地してしまった。


 力を入れ過ぎた時に思わず声を漏らしてしまったが、ゴールしてしまったものはもう仕方あるまい。


「やっぱり」


「アハハ、やっちゃった~」


 藍大が舞ならこうなると思っていたとばかりにジト目を向けると、舞もやってしまったと苦笑した。


 しかし、舞の跳躍を見た優月とユノの反応は違った。


「おかあさんすごい!」


「流石ママ!」


 一般的な冒険者であれば、一度のジャンプだけでスタートからゴールまで届く距離ではない。


 それゆえ、優月とユノは自分達の母親のすごさに拍手して喜んだ訳だ。


 失敗したはずが優月達にすごいと言われて舞は恥ずかしそうに笑う。


 その一方でブラドにかかるプレッシャーは増していた。


 あわよくば舞がうっかり足場を踏み抜いて池ポチャしてくれるのではと期待していたらしく、ブラドは自分だけが失敗したらどうしようと冷や汗ザーザーである。


 (ブラド、フラグが立ってる気がするけど頑張ってくれ)


 この状況ではもう展開が読めているが、それでもブラドには頑張ってもらいたいと藍大は心の中でエールを送った。


「行くのである。そこだぬぉ!?」


「「ブラドォォォォォ!」」


 ブラドは慎重に最初の足場を見極めてジャンプして飛び移ったが、最初からハズレの足場を力強く踏み込んでしまって池ポチャした。


 フラグの強制力には逆らえなかったブラドを見て、藍大と舞がブラドの名前を叫んだ。


「ブラド落ちちゃったね~」


「落ちた。面白かった」


 優月とユノはブラドが落ちてもがっかりせず、それどころか面白がって笑っていた。


 ブラドはムスッとした表情で翼をパタパタと動かしてゴールにやって来た。


「お疲れ、ブラド」


「うむ。吾輩、フラグの強制力には勝てなかったのだ」


 藍大は<完全浄化パーフェクトクリーン>で濡れたブラドの体を綺麗にしてあげた。


 濡れたままでは気分が悪かったので、ブラドは藍大に綺麗にしてもらえて少しだけ気分がマシになった。


 それからも他のアトラクションを楽しみ、昼食はピクニックのようにレジャーシートを敷いてお弁当を食べた。


 午後もアトラクションをいくつも周り、夕方になることにはみんな大満足な表情をしていた。


「舞、優月、ユノ、薫、今日のお出かけは楽しめたかい?」


「「「うん!」」」


「あい!」


「ブラドも一緒に来てくれてありがとな」


「うむ。池ポチャは悔しかったのだが、全体的に考えたら楽しい日だったのだ」


 (舞達に楽しんでもらえて良かった。こういう日も良いな)


 藍大達の1日目のお出かけは大成功だった。


 その後、着替えて身支度を整えてから藍大は家族を連れてマキナの待つ創世神界へと移動した。

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