後日譚1章 大家さん、平和な日常を取り戻す

第807話 モフデモート卿、いや、モフ神様が荒ぶってらっしゃる

 ”楽園の守り人”のホームページで邪神の討伐と神々の晩餐の様子が更新された翌日、”レッドスター”の真奈とリーアムは南半球のBR国に来ていた。


 邪神が討伐されて供給源は断たれたが、それまでにダンジョンの外に溢れ出たモンスターが邪神の討伐と同時に消える訳ではない。


 今もスタンピードの対応している国の方が多いのだ。


 昨日はME国のスタンピードをモフモフ軍団で鎮圧した真奈達だったが、BR国からの依頼で帰国することなくME国からBR国へと向かった。


 DMUには高速艦が東雲と黄昏、朝霧の3隻あるが、それだけでは世界各国への派遣が厳しい。


 ということで、真奈達はプライベートジェットでBR国に移動して来た。


「空港にモンスターがいなくて良かったわね」


「そうだね。流石にスカイダイビングは嫌だったからホッとしたよ」


 BR国の空港にプライベートジェットが着陸できるように、現地の冒険者達がその中にモンスターが入り込むのを阻止したのだ。


 応援に来てくれる冒険者達が希望なのだから、それはもう死ぬ気で守っていたに違いない。


 プライベートジェットから降りた真奈達は早速従魔を召喚していく。


「【召喚サモン:ガルフ】【召喚サモン:メルメ】【召喚サモン:ロック】」


「【召喚サモン:ソード】【召喚サモン:タンク】【召喚サモン:ヒーラー】」


 真奈はニャンシーを、リーアムがニンジャを召喚していないように思うかもしれないが、ニャンシーとニンジャはプライベートジェットの中に入れるサイズだったので元々召喚されていたのだ。


『ニャンシー、お疲れ様』


「ニャア・・・」


 機内でガルフの代わりにずっとモフモフされていたニャンシーはぐったりしていた。


『主人、モフり過ぎ。ニャンシーが戦う前から疲れちゃってる』


「え~? ちゃんとマッサージしてたよ?」


『マッサージの効能を上回る精神的負担を与えるのは良くない』


「いつもガルフにするぐらいしかモフってないのに」


『それが過剰だってなんで気づけないのかなぁ』


 本当にどうしようもない主人だと思ったガルフがやれやれと首を振っている間に、ニャンシーは<超級鎧化エクストラアーマーアウト>を使った。


 モフ柱の役目をガルフにバトンタッチして休むつもりらしい。


 メルメとロックは自分達のモフられる時間が増えることになるので、ガルフに無言のまま<人従一体アズワン>は使うなと目で訴える。


 だが、ガルフはいつも自分がモフられているのだから、偶にはメルメとロックが存分にモフられるべきだと考えた。


『主人、真面目な話をするよ。敵地では機動力が大事だから<人従一体アズワン>を使うね』


 そう言ってガルフは<人従一体アズワン>を使った。


 真奈が獣人形態になると同時にメルメとロックは絶望した。


 その一方、リーアムとその従魔達は平和だった。


 リーアムもモフラーなのだが、リーアムの従魔達はリーアムにモフられることを嫌がらない。


 彼の従魔達は甘えん坊なのだ。


「メェ・・・」


「フィヨ~ン」


 メルメとロックはリーアム達を見てなんであっちはあんなにアットホームなんだと嘆いた。


 真奈もリーアムも同じくリルに天敵扱いされるぐらいのモフラーなのに、なんでリーアムがニンジャ達をモフっても和気藹々とした雰囲気を保てるのか不思議でならないらしい。


 とりあえず、戦う準備が整ったところで真奈達は空港を出た。


 真奈の五感はガルフの<人従一体アズワン>のおかげで強化されているので、音や臭いからどこで行われている戦いが激しいかすぐに判断できた。


「リーアムはあっちの方角の戦いに向かって。私はこっちの方に向かう。その後は自由に戦場を回りましょう」


「了解」


 真奈とリーアムが一緒に行動するよりも、別々に行動した方が多くの冒険者達を救える。


 それがわかっているからこその判断だ。


 真奈組とリーアム組に分かれ、真奈はメルメとロックを連れて戦場へと駆け付けた。


 そこにはソーンディアーに騎乗して槍と盾を装備した全身毛むくじゃらの小人の群れがいて、現地の冒険者達と激戦を繰り広げていた。


 ガラスの目に銅色の卵型の顔、長い口髭を生やしたその小人はお世辞にも可愛いとは言えず不気味だった。


『『『・・・『『ヒャッハァァァァァッ!』』・・・』』』


 翻訳イヤホンが訳したそのモンスター達が放った言葉は世紀末のモヒカンヘッドと変わらなかった。


「ソーンディアー以外邪魔!」


 真奈は不気味な小人のモンスターよりもそれに騎乗されているソーンディアーに興味を持っていた。


 それゆえ、ニャンシーの<深淵支配アビスイズマイン>で深淵の弾丸を大量に創り出して一斉に発射した。


『なんてこった!』


『クルピラ達が次々に仕留められてるぞ!』


『モフデモート卿が来てくれたんだわ!』


 映画の魔法使い達ならば例のあの人の登場を喜ばないだろうが、BR国の冒険者達は真奈を救いの神のように拝んでいる。


 撃ち漏らしたクルピラはメルメとロックが手分けして倒しており、数分の内にソーンディアー達だけがクルピラという騎手を失ったまま残された。


「モフモフはに連れ帰ってあげないとね」


 その言葉を聞いた瞬間、ソーンディアー達は一斉にブルッと震えあがった。


 モフリパークの存在は知らないが、その言葉から発せられたプレッシャーに怯えたのだ。


 しかし、彼等が逃げ出そうとした時には真奈が既に動き出していた。


「ダン〇ン! フィー〇キー! ドゥー〇ディーサーザコンサ!」


 BR国の冒険者達は真奈の踊りを目にしてポカンとしていた。


 ソーンディアー達も最初はポカンとしていたがすぐに警戒し、踊っている真奈に近づくものかと気を強く持っていた。


 しかし、2回目にリズムを聞いている内にソーンディアー達もリズムに乗って体を揺らし始めてしまう。


 3回目になると、ソーンディアー達は真奈のダンスに釣られて一列になって近寄ってしまった。


「テイム! テイム! テイム! テイム! テイム!」


 真奈は一列で待機するソーンディアー達の頭に次々とビースト図鑑を被せてテイムしていった。


『なんだあの踊りは?』


『あっという間にソーンディアー達がテイムされたわ』


『モフデモート卿、いや、モフ神様が荒ぶってらっしゃる』


 ソーンディアー達をテイムし尽くせば、倒したクルピラには興味がないと真奈達は次の戦場へと向かって行った。


 自分達に見返りを求めずに去って行った真奈の消えた方角を見て、助けられた冒険者達はただただ感謝の祈りを捧げた。


 実はこの光景は昨日のME国でもあちこちで目撃されている。


 真奈はME国でもモフモフな獣型モンスターだけはきっちりテイムしてから戦場を去ったため、自分が倒したモンスター達の魔石には手を出していない。


 魔石は従魔達のパワーアップに使えるだけではなく、武器や装備、ダンジョン探索で使われる罠や飛び道具の作成にも使われる。


 そんな魔石に手を付けずに置いていくということは、その国で魔石を使って早く立て直すようにという真奈からのメッセージなのだろうとME国民は受け取った。


 たった今助けられたBR国の冒険者達もそう考えている。


 その後も真奈は獣型モンスター以外は倒し、獣型モンスターはしっかりとテイムしていくつもの戦場を回った。


 10ヶ所目のスタンピードを鎮圧した後、真奈の耳は自分の名前を呼ぶ声をキャッチした。


「おーい、真奈ー」


「リーアム、そっちはどんな調子?」


「ばっちりさ。モフモフはテイムしてそれ以外はきっちり倒したよ」


「もっとモフモフの種類を増やせばモフリパークの関西進出も狙えるわね」


「西日本のモフラー達が僕達の関西進出を待ってる。まだまだ頑張るよ」


 真奈達が意欲的に外国のスタンピードの鎮圧に協力しているのはこれが理由だ。


 日本では見つからない種類や数がそんなにいない獣型モンスターをテイムし、モフリパークの関西進出を狙っているのである。


 久喜モフリパークは町田のモフランド本店同様にモフラーの聖地になっているが、それでも西日本のモフラーは頻繁に遊びに来れないからだ。


 モフモフを集めるにはスタンピードが手っ取り早いので、真奈もリーアムもテイム最優先でスタンピードの戦場を回っている。


 なお、この会話をしている間にも真奈はメルメとロックをモフっており、2体がぐったりしているのを察してガルフが<人従一体アズワン>を解除した。


『よく頑張ってくれたね。後は任せて』


「メェ」


「フィヨ~ン」


 やっと来てくれたかとメルメとロックはガルフの登場に感謝した。


「ガルフ、メルメとロックばかりモフモフされてるのを見て嫉妬しちゃった?」


『それはない。メルメとロックがぐったりしてるから主人を止めに来た』


「仲間思いで良い子ね。だが断る!」


『なんで!?』


「この赤星真奈が最も好きな事の1つは自分がモフモフだとわかってる従魔にこれでもかとモフモフしてやる事だから」


「クゥ~ン・・・」


 駄目だこの主人と尻尾がへにゃりと下がったガルフに対し、真奈はガルフを満足するまでモフモフした。


 余談だが、その後の真奈の動きがキレキレだったのはガルフをモフり、モフ欲が満たされたからに違いない。

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