第806話 乾杯!
邪神であるナキマ=スクエ=スウデを倒したことにより、舞達が藍大に駆け寄る。
舞達を労うべく声をかけようとした瞬間、藍大の体から力が抜けて意識が遠のいていく。
「藍大!?」
「主!?」
『ご主人!?』
舞達が駆け付けて倒れそうになった自分を支えてくれたところまでは意識があったが、それからすぐに藍大は気を失ってしまった。
藍大の意識が覚醒した時、そこは家族に囲まれた場所ではなく創世神界のたくさんの映像が背景になった空間だった。
しかも、どういう訳か藍大はゲン達の憑依が解除された状態でマキナに膝枕されていた。
「お目覚めだね。良い夢は見れた?」
「どうだろう? 邪神を倒した後、急に意識が途切れて気づいたらここにいた」
「藍大は後衛なのに慣れない直接戦闘をしたからね。それもモンスターだけじゃなくて邪神とやったんだ。倒したと思ったら気が抜けちゃったんだよ」
慈愛に満ちた表情でマキナは藍大の頭を優しく撫でた。
サクラと顔がそっくりなマキナにそんなことをされてしまえば、藍大はうっかり甘えてしまいそうになって慌てて気を引き締める。
(うっ、危なかった。同じ顔ってのは厄介だな)
「別に甘えても良いんだよ? ここには私と藍大しかいないんだし」
「ナチュラルに俺の心を読むの止めてほしいんだが」
「仕方ないよ。だって私、創世神だもの」
「理由になってない!」
藍大はツッコミの勢いで上体を起こした。
「私の膝の上でもっとゆっくりしてても良かったのに」
「そうもいかないさ。俺がここに呼ばれたってことはマキナ様から何か話があってのことだろ?」
「うん。そうだね。じゃあ、ちょっと真面目な話をしようか」
マキナが指パッチンすると、いつの間にか藍大とマキナは何処からか現れたソファーに対面で座っていた。
だって創世神だもので大抵の物事を説明しようとするだろうから、藍大はツッコまないでおいた。
「まずはお礼を言わせてもらうよ。私の世界を救ってくれてありがとう」
「どういたしまして。でも、俺だけが頑張ったんじゃない。むしろ、俺よりも舞達の方が頑張ってた。お礼を言うなら舞達にも頼む」
「勿論だよ。このお礼は後日、
「宴かぁ」
宴と聞いて藍大は苦笑した。
食いしん坊ズを招待して宴を開くだなんてどれだけ食材を用意すれば良いのか心配だからだ。
「大丈夫。だって私は創世神だもの。食いしん坊ズを満足させられる質と量を兼ね備えた料理を提供するよ」
「だから俺の心を読むの止めてくれって」
「ほら、私って
「そんな事情聞きたくなかった。というか、それなら執事とかメイドの従者でも創れば良いんじゃないか? 話し相手になるし、創世神の手伝いもしてくれるだろ?」
マキナのどれぐらい長いかわからないぼっち歴の話を聞かされ、常に心を読むぐらい警戒するなら会話の相手を用意して会話で相手の心情に気づけるようにすれば良いのにと藍大は提案した。
ところが、その提案を聞いたマキナは首を横に振った。
「それは失敗したからもうやらない。失敗の結果がナキマ=スクエ=スウデだし」
「はい?」
話が逸れてしまうかもと思いきや、逸れていないと知って藍大は聞き間違いではないかと訊き返した。
「聞き間違いじゃないよ。昔、私の話し相手をしてもらいつつ、仕事を手伝ってもらえる存在がいたら良いのにって思って私を半分に分けた。それがナキマ=スクエ=スウデなの」
「従者を創らず自分を分けたのか」
「うん。その方が自分の意図を理解して働いてくれると思ったから。それに、私同士の方が話も合うだろうし」
「その結果、ぼっちを拗らせて半身が邪神に堕ちたと」
「うっ、藍大が言葉責めして来る。実はドS?」
マキナはそう言ってすぐに口を閉じた。
藍大から向けられたジト目に耐え切れなかったらしい。
「ナキマ=スクエ=スウデが邪神に堕ちたのはなんでだ?」
「私という存在を分ける時、善と悪で分けるのが最も効率的だったから。ナキマ=スクエ=スウデには全世界の悪感情の管理をしてもらってたの。でも、私の想像以上に神々や人間の悪感情はドス黒く、ナキマ=スクエ=スウデはそれに呑まれてしまった」
そう言われて藍大はなんとも言えない表情になった。
善悪で分けるからナキマ=スクエ=スウデがマキナを卑怯な女呼ばわりするようになったと言いたい部分もあった。
だが、ナキマ=スクエ=スウデが邪神堕ちした理由が自分も含めた神や人間のせいでもあると聞けば仕方あるまい。
「ナキマ=スクエ=スウデを倒すしか救済する方法はなかった。そうなんだな?」
「うん。私の半身を救ってくれてありがとう。今後は地球で復活した神々とも連絡を取って、二度と邪神が生み出されないような世界にするよ」
「そうしてくれ。俺もできる範囲で力になるからさ。あっ、でも、なんでもかんでも頼るのは駄目だぞ? 俺には家族がいるから時間を取れない時もある」
「わかってる。それでも力になってくれるって言ってくれて嬉しいよ。さて、あんまり藍大を独占してるとさっきからサクラが藍大を返してって頻りに念じて来るから返すね」
「おう。じゃあ、またな。宴のこと、忘れるなよ?」
「勿論だよ。またね」
マキナがニッコリと笑ってそう言った直後、藍大の意識は創世神界から現実へと引き戻された。
藍大が目を覚ますとそこはシャングリラの地下神域だった。
地下神域の芝生の上に藍大の部屋にある特注サイズのベッドがあって、藍大と子供達が一緒に寝ていたのを子供達以外の家族が見下ろしていた。
「藍大、おはよ~」
「主、やっと起きた」
『ご主人、体調はもう大丈夫そうだね』
「べ、別に心配なんてしてなかったんだからねっ」
「ゴルゴン、嘘は良くないです。みんな同じぐらいマスターを心配してたですよ?」
『(σ゚∀゚)σそれな』
舞達がホッとした様子を見せたから藍大は微笑んだ。
「おはよう。もう大丈夫だ。月のダンジョンで意識を失ってからどれぐらい経った?」
「2時間ぐらいだよ。家の部屋で寝てるよりも地下神域の方が回復が早いと思ったから、こっちに連れて来たの。優月達は気持ち良さそうに寝てる藍大に釣られてお昼寝しちゃったんだ」
「主、しげっちには私から状況を報告したから安心して」
舞が藍大の今の状況を説明してサクラがそれを補足した。
「舞もサクラもありがとう。体が軽い。サクラ達に治療してもらったんだな」
『ご主人、マキナ様の所に行って来たんでしょ? マキナ様はなんて言ってた?』
自分が元気になってくれて嬉しいと尻尾を揺らすリルを見て、藍大はその頭を撫でながら質問に答える。
「邪神の討伐のお礼に宴を開くってさ。俺とその家族を招待してくれるって言ってた」
「『宴!?』」
「ふむ、創世神界での宴とは世界で初めてじゃのう」
「まさか僕達まで呼んでもらえるとはね」
舞とリルは宴という言葉に反応し、伊邪那美と伊邪那岐は創世神界にお呼ばれされて感動していた。
「まあそれはそれとして、みんなちゃんとご飯食べた?」
「まだ! 藍大を待ってた!」
「主が目覚める時間は蘭が予知してくれたから、主と一緒に食べたいなって思って」
『食べるのは好きだけど、僕達はご主人と食べるご飯が一番好きだもん』
「愛い奴等め。今から作るからちょっと待っててくれよな」
藍大は優月達を起こさないようにゆっくりと起き上がると、<
キッチンだけ流れる時間を限りなく緩やかにして、サクラの<
豪華ディナーはシャングリラリゾートの神域へと運ばれ、今晩はビュッフェ形式の立食パーティーのように盛り付けられた。
ちなみに、クランメンバー以外では茂の家族やお世話になった神々がこのパーティーに招待されている。
衛は優月達と楽しそうに喋っており、千春は藍大の作った料理に興味津々といった様子で茂だけが胃の痛そうな顔をしているのは言うまでもない。
「茂、お疲れ様」
「藍大、お前達の方が大変だったろ。いや、胃痛的には俺が今一番大変かもしれんが」
「まあまあ。茂にも色々手配を頑張ってもらったから、今日は料理を楽しんでくれ」
「おう。そうするよ」
茂と言葉を交わしていると、舞達が藍大を呼ぶ声がする。
「藍大~、早く始めよ~」
「主、一言お願い」
『ご主人が言わなきゃ始まらないよ』
「了解。じゃあ手短に。みんなお疲れ様! 色々あったけど誰も欠けることなく元気な姿でいることを嬉しく思う! 今日は飲んで騒いで楽しんでくれ! 乾杯!」
「「「・・・『『乾杯!』』・・・」」」
面倒事が終わった後の豪華ディナーということもあり、藍大達は大いに食事と会話を楽しんだ。
後にゼルがこの時の様子を撮影した動画を”楽園の守り人”のホームページに掲載し、リアル神々の晩餐と掲示板を騒がせたのはまた別の話である。
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