第805話 愛と食欲が世界を救う?  ハッ、あり得ないね

 邪神ナキマ=スクエ=スウデは藍大達を見て拍手した。


「素晴らしい。素晴らしいよ新神しんじん並びにその従魔諸君。大したものじゃないか」


「その顔でその態度は止めてくれる?」


 尊大なナキマ=スクエ=スウデの態度を見てサクラが苛立ちを見せた。


 マキナとそっくりならば、ナキマ=スクエ=スウデも同様にサクラと顔は同じなのだ。


 機械の翼と頭の上に歯車を浮かせており、闇落ちした神官を彷彿とさせる漆黒の法衣に身を包んでいようとも、顔が自分とそっくりなのでサクラはムッとしたのである。


 自分の顔で藍大に悪の親玉みたいな発言をされて不愉快と感じるのは当然だろう。


「おやおや、其方は我が半身の娘じゃないか」


「半身? どういうこと?」


「ほう、デウス=エクス=マキナは我の正体についてしっかり説明してないと見える。あの卑怯な女がやりそうな手口だ」


 不快感から顔を歪めたナキマ=スクエ=スウデが右手を挙げた途端、邪気の剣が藍大達をドーム状に覆うように出現した。


「少しお喋りでもしようじゃないか。まあ、次の攻撃に耐えられたらだがね」


 ナキマ=スクエ=スウデがそう言った直後、一斉に邪気の剣が藍大達に向かって射出される。


『みんな頑張って!』


「やったるニャ!」


「アタシが拒絶するのよっ」


 フィアが<火神応援エールオブアグニ>で全体にバフを賭けた直後、ミオが<運命神罠トラップオブノルン>で全ての邪気の剣の正面に罠を仕掛けて起爆した。


 その爆風はゴルゴンが<拒絶リジェクト>で外側に押しやった。


 藍大達が自分の攻撃を耐え凌ぐと、ナキマ=スクエ=スウデが相手を馬鹿にするような拍手をした。


「ブラボー。ブラボーだよ君達。ちょっと殺意が湧いて加減が疎かになったけど、それを防ぎ切ったことに敬意を表して宣言通りに話をしよう」


「そんな暇は与えないです」


『(=゚ω゚)ノ ---===≡≡≡ 卍 シュッ!』


 メロが<魔刃弩マジックバリスタ>、ゼルが<創氷武装アイスアームズ>で氷の手裏剣を創り出してそれぞれ攻撃するが、ナキマ=スクエ=スウデは機械の翼でその攻撃から自身を守った。


「蠅共が煩わしいな」


 苛立ったナキマ=スクエ=スウデが邪気のレーザーをメロとゼルにそれぞれ放った。


「危ない!」


 藍大はサクラの<十億透腕ビリオンアームズ>で素早くメロとゼルを自分の両脇に回収し、ナキマ=スクエ=スウデのレーザーから彼女達を守った。


「私の家族に手を出すんじゃねえ!」


 舞が雷光を纏わせたミョルニルを投げつけると、ナキマ=スクエ=スウデは舞の攻撃は掠っても不味いと思ったのか受け止めずに避けることを選ぶ。


『甘いよ』


 リルが<時空神力パワーオブクロノス>でその背後に回り、<神裂狼爪ラグナロク>で奇襲した。


「チッ」


 ナキマ=スクエ=スウデはリルの攻撃を躱し切れず、両翼を犠牲にして自分の身を守った。


「あぁ、憎い! 壊したい! 犯したい! 負の感情よ、我に力を!」


 負の感情をいくつか口にしたことにより、ナキマ=スクエ=スウデの体から邪気が放出されてそれが切断された機械の翼を再生させた。


 動作確認を素早く行った後、ナキマ=スクエ=スウデは歪んだ笑みを浮かべる。


「まったく、地球の生物の愚かさは最高だな」


「どういう意味だ?」


「わからないのか? 我の力の源泉は地球で次々に発せられる負の感情であると。負の感情が地球の生物から消えない限り、我は何度だって蘇るのさ」


「なんて奴だ」


 ナキマ=スクエ=スウデの説明を聞いて藍大は眉間に皺を寄せた。


「心配すんな藍大」


「大丈夫だよ主」


『問題ないよご主人』


「ん? あぁ、そうか」


 ナキマ=スクエ=スウデの力の源をどうにかしなければ、ナキマ=スクエ=スウデを倒すことは難しいと思っていた藍大に舞とサクラ、リルが声をかけた。


 藍大は舞達が何か対抗策を持っているのだろうかと考え、すぐにそれに思い当たった。


「私達の主への愛が邪神に負けるはずがない」


「その通りだ。それに私達の食欲が邪神に負けるはずねえ。そうだろ、リル?」


『うん! 僕達は愛と食欲でお前を倒すよ!』


「愛と食欲が世界を救う? ハッ、あり得ないね」


 サクラと舞、リルの言葉を聞いてナキマ=スクエ=スウデは鼻で笑った。


 だがちょっと待ってほしい。


 藍大達は今までも愛と食欲で強敵を倒し続けて来たのだ。


 正義だの平和だの綺麗事は言わず、ただ自分達の欲求を満たすべく戦って来た藍大達を舐めてかかってはいけない。


「それなら証明してみせよう。みんな、ナキマ=スクエ=スウデを倒したら豪華ディナーが待ってるぞ」


「「「『『豪華ディナー!』』」」」


「主、もう一声」


「サクラ達と順番にデートに行こう」


「勝てる気しかしない」


「ん? なんなんだこれへぶっ!?」


 藍大達から自分にはないパワーを感じ取ったナキマ=スクエ=スウデは困惑した。


 その次の瞬間にはナキマ=スクエ=スウデの体は激痛を負っていた。


 しかも、いつの間にか自分の体が壁にめり込んでいるのだからナキマ=スクエ=スウデは混乱してしまう。


 何が起きたか説明すると、リルに騎乗した舞が雷光を纏わせたミョルニルでフルスイングしただけだ。


 そして、壁に激突した直後にゴルゴンが<爆轟眼デトネアイ>で追撃したのである。


 ナキマ=スクエ=スウデは体を壁から引き剥がして動かそうとするけれど、体に力が入らなくなって更に混乱した。


「重ね掛けしてやったです」


 メロがナキマ=スクエ=スウデのいる位置に<停怠円陣スタグサークル>を連続して発動した結果、ナキマ=スクエ=スウデの体は本来動かすのに必要な力とは比べ物にならない程に消費させられた。


 やっと起き上がれたと思ったら、今度は頭部に激痛を感じて気づけば下半身が地面に埋まっていた。


 今のもリルに乗った舞が頭上から全力で殴りつけたことによるものだ。


「邪神危機一髪やるニャ!」


『プレゼントフォーユー(ノ゚∀゚)ノ ⌒ 由』


 ミオが<創水武装アクアアームズ>でいくつもの水の剣を創り出せば、ゼルが良いねと乗って同じ分だけ<創氷武装アイスアームズ>で氷の剣を創る。


 それらが一斉にナキマ=スクエ=スウデの上半身に突き刺さった。


「俺もやる」


 藍大はミオとゼルに便乗し、ルナの<月女神矢アローオブアルテミス>でナキマ=スクエ=スウデの体に風穴を開ける。


「主君、それも良いがもっと火力を上げるのだ」


 ブラドは<創造クリエイト>でナキマ=スクエ=スウデの頭上に油を創り出して浴びせかけた。


『フィアの出番だよ!』


「アタシの出番でもあるんだからねっ」


 フィアが<火精霊砲サラマンダーキャノン>を放ち、それをゴルゴンが<緋炎支配クリムゾンイズマイン>で自分の炎と束ねて放った。


 ブラドの支援のおかげで火力マシマシな炎の柱が発生したことにより、ナキマ=スクエ=スウデの体は邪気とは別に黒焦げになった。


 炎の柱のおかげで地面から抜け出せたが、ナキマ=スクエ=スウデは自分の体の再生力が落ちていることに気づいて焦った。


「何故だ!? 何故再生が遅れてるんだ!?」


『ふぅ、ようやく構築できたのじゃ』


 (伊邪那美様? 何かやったのか?)


 突然、伊邪那美が自分にテレパシーを送って来たので藍大は伊邪那美に何をしたのか訊ねた。


『現時点で完全復活した神々が力を合わせ、負の感情が地球から月に向かうタイミングで浄化される結界を構築したんじゃよ。これで邪神の再生は自前の力のみになったはずじゃ』


 (ナイスアシストだよ伊邪那美様!)


『うむ。今夜のディナーには期待しておるのじゃ』


 どうやら伊邪那美も豪華ディナーに釣られて気合が入っていたらしい。


「ぼーっとしてる暇は与えさせねえ!」


 自身の力が落ちていることに動揺しているナキマ=スクエ=スウデに対し、舞がまたしてもフルスイングを決めた。


 それによってナキマ=スクエ=スウデが自分の方に飛ばされて来たため、藍大は天之尾羽張と天之尾羽張そっくりに変化させたラストリゾート、大剣形態のDDキラーの三刀流で攻撃を開始する。


「サイコロカットしてやる!」


 藍大はドライザーとエルの補助により、剣聖と呼んでも過言ではない実力を発揮してナキマ=スクエ=スウデをバラバラにした。


 ヒット&アウェイで藍大が素早くその場を離脱すると、<運命支配フェイトイズマイン>の力を収束していたサクラが極大のレーザーを放つ。


「これで終わりよ」


「ぬぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 膨大なエネルギー塵一つも残らないように消し飛ばされてしまえば、弱体化したナキマ=スクエ=スウデも再生できない。


 ボス部屋には藍大達だけが残って静寂が訪れると、藍大の耳にお馴染みのアナウンスが届き始める。


『おめでとうございます。逢魔藍大一行が邪神ナキマ=スクエ=スウデを倒しました』


『報酬として現時点で完全回復していない全世界の神々が一律で10%分回復しました』


「月のダンジョンも掌握完了したのだ」


 ブラドが月のダンジョンを支配してしまえば、地球を脅かす最も大きな脅威は取り除けた訳であり、藍大達は月のダンジョン遠征を成功させた。

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