第808話 皆さん、ご飯はちゃんと食べてますか?

 真奈とリーアムがBR国の応援に来ている時、雑食教皇とその従魔、美海は北海道経由でR国に来ていた。


 元々は家族で北海道のダンジョンに雑食を求めてやって来ただけだったのだが、宗谷岬から見える海にクラーケンらしき姿が目撃されて討伐しに来たのだ。


 伊邪那美達が展開している結界があるおかげで、日本の領海にモンスターは入って来れない。


 つまり、目撃されたモンスターはR国のK島から溢れ出て来たことになる。


「いやぁ、美海が1級船舶免許を持ってるとこういう時に助かるよね」


「別にこの時のために取った免許じゃねえよ」


 美海はニコニコしている雑食教皇に対し、モンスター素材も用いて作られた特注の小型船を操縦しながらやれやれと首を振る。


 小型船は美海がまだソロだった時代、海のダンジョンに食材を獲りに行くのに使っていたものだ。


 普段はそれを収納袋にしまっており、今回は必要だったから海に浮かべてモンスター退治の足にしている。


「クラーケンじゃザッショニウムが大して摂取できない」


「ザッショニウムってなんだよ」


「美海、”雑食道”の幹部たるものザッショニウムぐらいすぐに説明できなきゃ駄目だよ」


「生憎アタシは狩人達みたいに雑食沼にズブズブじゃないんでね」


 美海は藍大に料理の腕比べで勝つために雑食にカテゴライズされる食材に手を出したが、雑食教皇やイン食ター羽蛾のように好き好んで虫型モンスターを食べたりしない。


 彼女は”雑食道”に在籍する数少ない常識人なのだ。


 常識人で実力もあるからこそ、”雑食道”のナンバー3になって雑食教皇やイン食ター羽蛾のストッパーになっているのである。


 それは雑食教皇も理解しているし、美海に虫食を強要するつもりはない。


 だからこそ、雑食教皇は隣にいるディアンヌに声をかける。


「しょうがない。ディアンヌ、ザッショニウムについて説明してあげて」


「任せて。ザッショニウムとは雑食からしか得られない雑食欲を満たす成分のこと。クラーケンは大きな烏賊と変わらない。どうせ水棲ならボティスぐらい出てほしいところ」


「流石はディアンヌ。雑食をよく理解してるね」


「ボティスってソロモン72柱だろうが。あんなの滅多に出て来ねえだろってK島に着いたぞ」


 クラーケンを倒した後、雑食教皇達はK島にまだ見ぬ雑食があるかもしれないと小型船でやって来た。


 K島には住民がいて無人島ではないが、R国本土から応援が来るような位置には存在していない。


 放置しておけばスタンピードに呑まれてしまう可能性が高く、一応は雑食だけが目的ではなくK島民を助ける口実で上陸している。


「狩人様、あそこ。ヨーウィーがいる。あっちにはテンタクルフロッグも」


「う~ん、K島は始めて来たけどザッショニウムが多く摂取できそうだね!」


「生き生きしてんなぁ」


 ヨーウィーだけでなく、背中から触手を生やした蛙のモンスターの姿を目撃してディアンヌと雑食教皇のテンションが上がる。


 それを見て美海は苦笑するが、彼女は雑食になり得るモンスターを見つけて楽しそうにしている雑食教皇が嫌いじゃない。


 そうでなくては雑食教皇と結婚なんてできないだろう。


「【召喚サモン:カムカム】【召喚サモン:ビーゼフ】【召喚サモン:クラウス】【召喚サモン:リリィ】」


 カムカムは雑食教皇の鎧になり、ビーゼフは前衛でクラウスは後衛だ。


 リリィは”雑食道”がA国に遠征した時にテイムしたモンスターだ。


 以前は紫色の蟷螂のモンスターだったが、進化した今は蝙蝠の翼を持つ夢魔の姿だ。


 もっとも、手には鉤爪、片方の脚は真鍮、もう片方の脚は大きな鉤爪があるという点でただの夢魔ではないのだが。


 ちなみに、進化したリリィのステータスは以下の通りだ。



-----------------------------------------

名前:リリィ 種族:エンプーサ

性別:雌 Lv:100

-----------------------------------------

HP:2,600/2,600

MP:2,800/2,800

STR:2,300

VIT:2,100

DEX:2,600

AGI:2,600

INT:2,700

LUK:2,800

-----------------------------------------

称号:狩人の従魔

   残念夢魔

   英雄

アビリティ:<突風大鎌ガストデスサイズ><麻痺嵐パラライズストーム><剛力踏メガトンスタンプ

      <竜巻牢獄トルネードプリズン><幸運開放ラックリリース><幸運吸収ラックドレイン

      <誘惑香フェロモン><全半減ディバインオール

装備:なし

備考:なし

-----------------------------------------



 ”残念夢魔”は夢魔に属するモンスターが誘惑系アビリティを失敗し続けることで獲得してしまう称号だ。


 リリィは何度も雑食教皇を誘惑しようとしては失敗し、”残念夢魔”の称号を獲得してしまった。


 雑食教皇はディアンヌと美海と結婚しており、積極的に今よりも妻を増やそうとは思っていないこともあるが、基本的に雑食のことばかり考えているせいでリリィの<誘惑香フェロモン>が通用しないのだ。


 夢魔の誘惑に対して雑食で耐え切るあたり、やはり雑食教皇はブレないと言えよう。


「さあ、狩りの時間だよ。行っておいで」


 ビーゼフとクラウス、リリィが目に付くヨーウィーやテンタクルフロッグをサクサクと狩っていく。


 美海が小型船を収納袋にしまって合流した時には既に狩りは終わり、雑食教皇がホクホク顔で戦果を回収していた。


「テンタクルフロッグの触手は刺身で食べられるかなぁ」


「それは止めとけって。せめてホルモンみたいに焼いて食えよ」


「流石は美海! なんだかんだ言って思考が雑食向きだね!」


「うるせえ」


 美海は図星だったことにイラついて雑食教皇の額にデコピンした。


 回収が終わってすぐに内陸部に向かうと、雑食教皇達はK島の冒険者達がダンジョンから溢れたモンスターの群れに押され気味である場面に遭遇した。


「ナイスですね! ローカストナイツですね!」


「唐揚げ、かき揚げ、チョコフォンデュ、クッキー」


「奥様、佃煮を忘れております」


「お前等真面目にやれ」


 雑食教皇とディアンヌだけが雑食になり得るモンスターを見つけて喜ぶのかと思いきや、クラウスもちゃっかり好物を候補をリクエストしている。


 バタフライバトラーのクラウスもまた、虫型モンスターを食べるのに全く忌避感がない。


 それどころかムシャムシャ食べるほうだったりする。


 K島の冒険者達を襲っているローカストナイツは群にして個のモンスターだ。


 ローカストアーミーよりもVIT重視になり、AGIが多少犠牲になったがその分打たれ強くなってしぶとくなったのがローカストナイツだ。


 K島はR国に属し、R国は過去に日本で行われた国際会議でオークション後に参加者を襲おうとして藍大達にそれを未然に防がれ、日本に出禁になった。


 雑食教皇がM国の支援を行った際にR国の難民に雑食を布教して交流したが、基本的に日本はR国に不干渉の姿勢だ。


 それゆえ、日本から覚醒の丸薬Ⅱ型を輸出してもらえず、R国の冒険者は未だに二次覚醒の者が少なくない。


 その結果、雑食教皇達にとっては食料でしかないローカストナイツを相手に苦戦を強いられている。


「ディアンヌ、奴等の動きを止めて」


「わかった」


 ディアンヌは<気絶巣弾スタンネット>を乱射して次々にローカストナイツを気絶させながら捕縛していく。


 ビーゼフとクラウス、リリィが捕縛したローカストナイツにとどめを刺していくことでK島の冒険者達は劣勢から救われた。


 ディアンヌ達が視界に映ったローカストナイツを全て倒した時にはK島の冒険者達が一斉に膝をついて雑食教皇に祈りを捧げていた。


 自分達はもう駄目かもしれないと思った時に来てくれたため、雑食教皇が神の使いかあるいは神なのではないかと思ったらしい。


 そんなK島の冒険者達に雑食教皇は優しく微笑んで口を開く。


「皆さん、ご飯はちゃんと食べてますか?」


『食ってない』


『スタンピードが起きてからは落ち着いて食事ができなかった』


『言われてみれば腹が減った』


 自分の質問に望んでいる答えが返って来たので、雑食教皇はうんうんと嬉しそうに頷いた。


「皆さん、古来より戦士は倒した者の肉を喰らって己の血肉に変えて強さを手に入れたそうです。皆さんも強さを手に入れたくはありませんか?」


『ま、まさか、こいつ等を喰うのか?』


『ローカストナイツは虫だぞ!?』


「大丈夫です。私が皆さんを強くするための魔法の言葉を教えてあげましょう。リピートアフターミー。トラストミー」


『『『・・・『『トラストミー』』・・・』』』


 トラストミーと口にしたK島の冒険者達の焦点は合っていなかった。


 この後、ちゃっかり雑食を布教してK島の冒険者達を従え、K島の危機を救った雑食教皇の名はまた掲示板を賑わせた。

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