第802話 たーまやー。いや、汚い花火だの方が良い?

 マルオがT島国に向かっている頃、”近衛兵団”のクランマスターである睦美はE国へと向かっていた。


 ”近衛兵団”のクランハウスからディガンマに搭乗して発進した睦美だが、超音速飛行機よりも早くE国に移動している。


 これは”近衛兵団”のロボ好き達がロマンを求めて作った結果、誰に装備させるんだこれはとツッコミどころ満載の外付けのミサイル型ジェットパックができてしまい、それをディガンマが装備したことでそうなった。


 ディガンマも<闘気鎧オーラアーマー>と<全激減デシメーションオール>がなかったなら、本来自分に出せない速度で飛んでいたので体がぺしゃんこになっていただろう。


「モ〇ルスーツ乗りって大変なのね。ディガンマ、体に不具合はないかしら?」


『ノープロブレム』


「流石ディガンマ」


 現時点で3時間近く飛んでおり、計算に寄れば残り10分でE国に到着する想定だ。


 超音速で移動する睦美達は海の上であり、クランメンバーや茂とも連絡が取れないからE国がスタンピードでも持ち堪えると信じて現地に向かうしかない。


 今回、睦美がE国に派遣されることになったのは藍大達を除いて彼女以上に速くE国に辿り着ける日本の冒険者がいなかったからだ。


 E国はまだ神に守られておらず、邪神の仕業でスタンピードになると予測できていた。


 だからこそ、藍大から連絡を受けた茂は真っ先に睦美にE国に向かってほしいと頼んでいたのだ。


『空中に大量の敵影確認』


 E国までまだ距離は残っているが、空中にモンスターの群れを発見したディガンマが睦美に報告した。


「撃ち落とせる?」


『造作もない』


 ディガンマは睦美の質問に答えてロボット形態のまま<魔拡散弾マジックバックショット>を放った。


 拡散する都合上、一発あたりのダメージは少ないのが<魔拡散弾マジックバックショット>の惜しいところだが、今は超音速で移動しておりその運動エネルギーが上乗せされている。


 結果として、ただ空を飛んでいるだけのモンスター達はあっという間に撃ち抜かれて海へと墜落していった。


 時間があれば戦利品を回収したいところだけれど、今はE国に向かうのが最優先だしそもそもジェットパックをパージしなければ止まれない。


 睦美達は仕方なく戦利品を放置して突き進んだ。


 そのまま進むこと数分、いよいよE国が見えて来た頃合いでディガンマが再び反応する。


『空中に大量の雑魚モブモンスターを発見。おそらく、集団が1つの巨大なモンスターに擬態中』


「ジェットパックをパージしてその集団にぶつけなさい。ただ廃棄するのは惜しいから最後にもうひと頑張りしてもらいましょう」


『承知』


 ディガンマがミサイル型ジェットパックをパージした直後、軽くなって速度が上がったそれは巨大なモンスターに扮したモンスターの群れに直撃して大爆発を引き起こした。


 その時にはディガンマが機械竜形態に変形しており、睦美はメリエルに<着脱自在デタッチャブル>を使ってもらってロマン溢れるパワードスーツの姿になっていた。


「たーまやー。いや、汚い花火だの方が良い?」


『汚い花火だろう』


「やっぱりそっちか」


 睦美とディガンマは呑気に喋っていたが、爆発が収まってE国の空をモンスターから取り戻したのを確認してからE国南部の港に着陸した。


 そこには先程まで対空戦を行っていたであろう冒険者達が口をポカンと開けて突っ立っていた。


 自分達が苦労していた相手がこうもあっさり殲滅させられたならば、呆然としてしまうのも無理もない。


 フリーズしていたE国の冒険者達の中で最も早く正気を取り戻した人物がやって来るのを見て、睦美は翻訳イヤホンを装着した。


『ロボットマイスター、ご助力感謝します』


「私のことを知ってるんですね。貴女はえっと・・・」


『キャサリン=エルセデスです。魔神様には留学中にお世話になりました』


「あぁ、思い出しました。冷姫コールドプリンセスですね」


『うっ、日本にもその二つ名が届いてましたか』


 睦美に話しかけたのは以前留学や国際会議で日本に来たことのあるキャサリンだった。


 彼女はどんどんと力を身に着け、今となってはE国の二大女傑の片割れとして認識される程だ。


 ちなみに、もう一人は粘操士のグレースである。


 兄のランスロットはみるみる力を着けた妹に実力で負け、E国ではそこそこ強い程度の立ち位置になっている。


 キャサリンはダンジョンで微笑すらせずにモンスターを粛々と狩って仲間を守った結果、冷姫コールドプリンセスと呼ばれるようになった。


 その冷え切った視線を向けられてしまえば、国内の男性はたちまち竦み上がってしまう程だ。


 この二つ名が影響してキャサリンは婚活に苦戦しており、実際よりも冷酷なイメージだけが先行してしまうから冷姫コールドプリンセスの呼び名は好きではない。


 それでも、冷姫コールドプリンセス以上にピッタリな二つ名がないからキャサリンは冷姫コールドプリンセスと呼ばれ続けている。


「まあ、二つ名のことは置いておくとして、E国の現状について教えて下さい」


『わかりました。国内の中心部はグレースが従魔達に指示を出して防衛戦を行っております。私達はこの近くで神様探しをしてたので、捜索を切り上げてスタンピードが生じたダンジョンに急行して対応してました』


「空を飛ぶモンスターが多かったようですが、この辺りのダンジョンにはそう言ったモンスターが多かったんですか?」


『この辺りは空を飛ぶモンスターと水棲型モンスターがメインですね。後者は早々に倒せたのですが、私達は空を飛べないのでロボットマイスターの力がなければあのままジリ貧になってたでしょう』


 この場には魔術士や弓士等の対空攻撃手段を持つ冒険者もいるが、モンスターの大群をごっそり倒せるような強者はいなかった。


 睦美達がこの場に応援に来なかったら、間違いなく戦闘が長引いて被害も軽微なものでは済まなかったに違いない。


「そうなる前に来れて良かったです。次は何処に向かいましょうか」


『ここから北西部のダンジョンと北東部のダンジョンが押され気味だそうです。真北にあるダンジョンはまだ持ち堪えられると連絡が来てます』


「わかりました。では、北東のダンジョンをお任せします。残り2つを鎮圧してから合流しましょう」


『貴女達だけで対応するのですか?』


「ええ。北西と北のダンジョンを私達で順番に回るつもりですが何か問題がありますか?」


『いえ、よろしくお願いします』


 自分達が1ヶ所鎮圧している間に2ヶ所引き受けると言われてキャサリンは驚いたが、先程の戦闘を思い出して自分が心配するのは睦美達にとって失礼だと判断して受け入れた。


「ディガンマ、早速北西のダンジョンに向かうわよ」


『了解』


 機械竜形態からロボット形態に変形し、睦美はディガンマに乗り込んで出発する。


 発進するディガンマの姿を見て男性冒険者達はグッと来るものがあったらしい。


『ロボットって最高にクールだな』


『俺、この戦いが終わったら転職の丸薬(人形士)を探すんだ』


『俺は早く帰ってガ〇ダム見てえ』


『無駄口を叩いてる暇があるならすぐに北東に向かいなさい』


『『『Yes Ma’am!』』』


 睦美達が去った後、キャサリンに睨まれた男性冒険者達は軍隊でもないのに敬礼して応じた。


 それはさておき、上陸地点から北西にあるダンジョンと北にあるダンジョン付近のスタンピードを鎮圧した後、睦美はがっかりしていた。


「この程度なら魔神様の道場ダンジョンや多摩センターダンジョンのモンスターの方が強いわ」


『拍子抜けだ』


 ダンジョンの外に溢れ出たモンスター達は睦美達にとってちっとも強くなかった。


 ”災厄”として暴れていたケンタウロスとデュラハンもあっさり仕留めてしまったので、睦美達は現地の冒険者達から感謝されたがこの程度で苦戦するなと言いたくなる気持ちを抑える方が大変だった。


 日本の冒険者の実力が海外の冒険者と比べて圧倒的に強いのだと改めて感じたことだろう。


 結局、睦美達はスタンピードで現れた4割のモンスターを狩り、E国での掃討戦において睦美達は大活躍したと言えた。


「結果的にロボットの布教ができたから良かったのかしら?」


『間違いない』


 行く先々で称賛の声を浴び、ピンチを救ったディガンマに影響されてロボットが好きになる者が増えたのは睦美達にとって嬉しい限りである。


 藍大達が月から戻って来た時、E国でスタンピードを鎮圧しながらロボットを布教できたと報告できると睦美が喜んでいたのはここだけの話だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る