第800話 よろしい、ならば戦争なのよっ

 地下3階は地下2階よりも空気中の邪気が濃いため、サクラとリルが協力して空気を浄化した。


「邪気が濃くなって来たけど、そろそろ邪神が待ち構えてるのかね?」


「どうなんだろ? でも、ボス部屋の扉の装飾は地下2階の時と変わらないから次も邪神はいないんじゃないかな?」


「それは言えてる」


 藍大は舞の言い分を聞いて次の相手も邪神の可能性は低そうだと判断した。


 邪神が月のダンジョンで一番偉いのだから、普通のフロアボスと同じ装飾の扉ではないだろうという考えである。


 もっとも、だからと言ってそれが油断して良い理由にはならないので気を引き締めてボス部屋の扉を開くのだが。


 ボス部屋の扉を開いた瞬間、耐性がなければSAN値直葬待ったなしの悲鳴が聞こえる。


「くぁwせdrftgyふじこlp!!!」


「アォォォォォン!」


『フィアの歌を聞けぇぇぇぇぇ!』


 リルが<風神狼魂ソウルオブリル>で悲鳴を打ち消した後、スイッチするようにフィアが<医女神歌ソングオブエイル>で藍大達のケアを行う。


 フィアの歌声でSAN値を回復した藍大達はボス部屋の中に入った。


 そこには白い渦巻を模した仮面をつけた黒いローブの人物がいた。


 (いや、ここに人がいるとは考えにくい。どの神なんだろ?)


 藍大は<知略神祝ブレスオブロキ>でチェックするよりも先にモンスター図鑑を視界に映し出して確かめた。


 神の可能性が高いけれど、先程のSAN値直葬を狙った悲鳴が聞こえたことからモンスター図鑑で調べるべき存在だと直感的に判断したのだ。



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名前:なし 種族:アザトース

性別:不明 Lv:100

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HP:4,000/4,000

MP:4,000/4,000

STR:3,500

VIT:3,500

DEX:3,000

AGI:3,000

INT:3,000

LUK:3,000

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称号:地下3階フロアボス

   到達者

   外神王

アビリティ:<発狂悲鳴ディメントスクリーム><深淵支配アビスイズマイン><落子爆弾アザーティボム

      <闘仙グレートバトラー><悪夢創造ナイトメアクリエイト><形状変化シェイプシフト

      <自動再生オートリジェネ><全激減デシメーションオール

装備:インサニティマスク

   インサニティローブ

備考:余を楽しませてみよ

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 (クトゥルフ神話の存在はなんでモンスター扱いなんだろうか)


 藍大はアザトースのステータスを見てツッコむべきところはいくつもあったけれど、それよりも先にクトゥルフ神話全体に対する疑問を優先させた。


 他の神話に出て来る神々は基本的にモンスター図鑑では調べられないけれど、クトゥルフ神話の神々はどれもモンスター図鑑で調べられる。


 これはクトゥルフ神話の存在がそもそも創造の産物であり、邪神が人間の考え出した存在を肉付けしたからなのだろうと仮説を立てて思考を戦闘に切り替える。


 これから戦うのに仮説を長考するのは自分が隙だらけになることを意味するのだから、藍大の判断は正しい。


「敵はアザトースLv100。クトゥルフ神話の外なる神の王だ。俺達を発狂させようとするから注意すること」


 藍大はアザトースについて簡潔にまとめて情報を舞達に共有した。


 それを聞いてアザトースがピクッと反応してから<形状変化シェイプシフト>でわかりやすく女体化した。


 先程までは恐らく男型だったけれど、藍大の言葉を聞いた直後にローブの中が女型らしい体つきに変化したのだ。


「面白い。その子種、余に取り込ませてもらおう。感謝して差し出せ」


「あ゛あん!?」


「許さない」


「よろしい、ならば戦争なのよっ」


「寝言は寝て言うです」


『駆逐してやるヽ(メ`皿´)ノ』


 舞達嫁組がアザトースの狙いである藍大を守る鉄壁の布陣を組んだ。


 まずは舞が雷光を纏わせたミョルニルを投擲するが、アザトースは<落子爆弾アザーティボム>を自分とミョルニルの間に割り込ませてミョルニルの直撃を回避した。


 <落子爆弾アザーティボム>は未成熟なアザトースの分体を爆弾化させたものを召喚するアビリティであり、その見た目ははっきり言ってグロい。


 アザトースはSAN値を削れるところから削るというスタイルらしい。


 舞の攻撃を凌いだアザトースが爆炎の向こう側から<深淵支配アビスイズマイン>で無数のレーザーを放つ。


『o( * ゚▽゚ * )oヤラセナイゾ♪』


 ゼルが<深淵支配アビスイズマイン>で同じだけのレーザーを放ってアザトースの攻撃を相殺した。


 ゼルは<知識強化ナレッジライズ>を会得しており、今日までネットサーフィンして溜めに溜めた知力INTでアザトースの攻撃を余裕で相殺できるようになっていたらしい。


「邪魔者は消す」


「やらせないです」


 自身の攻撃をゼルに相殺されて苛立ったアザトースが<悪夢創造ナイトメアクリエイト>で広範囲に何か仕掛けようとしていると察し、メロが<停怠円陣スタグサークル>でアザトースの集中力を削いだ。


「ドーンなのよっ」


 そこにゴルゴンが<爆轟眼デトネアイ>を発動すれば、無防備になっていたアザトースの体が爆散する。


 しかし、<全激減デシメーションオール>でダメージを軽減して<自動再生オートリジェネ>ですぐに回復するから見た目程アザトースはダメージを負っていなかった。


 それでもただの女型では押され気味だったことから、<形状変化シェイプシフト>でアザトースの見た目がスキュラのように変化した。


 第二形態とでも呼ぶべきその姿だが、上半身は女で下半身は蛸、胴体から六頭の犬が生えているのはさておき、マスクがいつの間にか消えたことで困ったことになった。


『天敵!?』


「なんで奴がここにいるニャ!?」


「モフデモート卿、やはり邪神とかそちら側の類であったか」


 リルとミオ、ブラドが体をブルッと震わせたのはアザトース第二形態の上半身の顔が真奈にそっくりだったからだ。


「落ち着くんだ。こちらを動揺させるのがアザトースの手口だぞ」


 藍大はリル達の頭を順番に撫でて彼等を落ち着かせた。


 落ち着きを取り戻したリルは次第に沸々と怒りが湧き上がって来た。


『僕は怒ったよ!』


 リルが<時空神力パワーオブクロノス>でアザトースの死角に移動してから<神裂狼爪ラグナロク>でアザトースの上半身と下半身を真っ二つにする。


「チャンス到来」


 サクラはこの機を逃さずアザトースの下半身を<運命支配フェイトイズマイン>のレーザーで欠片すら残さず消滅させた。


「私の家族を怖がらせるんじゃねえよ!」


 舞は全力で雷光を纏わせたミョルニルをフルスイングし、アザトースの上半身にクリティカルヒットさせた。


 トールがロキ=レプリカのとどめを刺した時のように、舞が殴った直後にアザトースの上半身が黒焦げになってから爆散した。


『おめでとうございます。逢魔藍大一行が称号”外神王”を倒しました』


『報酬として集めた神の中で現時点で完全回復していない者達が一律で10%分回復しました』


「ニャア、魔石諸共爆散したニャ・・・」


「ミオ、あれは爆散して正解だ。魔石にアザトースの残滓が確認できた。下手に飲み込んでたら体をアザトースに乗っ取られてたぞ」


「ニャ!?  爆散して良かったニャ!」


 ミオがアザトースの魔石は失われてしまったのかとしょんぼりしていたけれど、藍大の説明を聞いて驚いた。


 藍大はサクラの<十億透腕ビリオンアームズ>を使い、舞の攻撃で魔石が崩壊する前に素早くそれを回収しようとしていた。


 だが、視界に映し出していたモンスター図鑑がアザトースの魔石の危険性を知らせたので思い直したのである。


「藍大、もう安心して! 藍大の貞操は私達が守ったから!」


「主は誰にも渡さない」


「防衛成功なんだからねっ」


「守り切ったです!」


『(´-∀-)=3ドヤッ』


「みんなありがとう。助かったよ」


 藍大は舞達が褒めてと言わんばかりに駆け寄ったため、順番に舞達をギュッとハグして回った。


 勿論、舞達嫁組だけでなくリル達のこともしっかりと労っている。


 リルとミオ、ブラドは藍大に労ってもらった後に舞の前にやって来た。


『舞、さっきはありがとね。スカッとしたよ』


「良い一撃だったのニャ」


「うむ。吾輩も感謝するのだ」


 さっきとは舞が私の家族を怖がらせるなと言ってアザトースの上半身をぶん殴ったことを指している。


「みんな私の大事なだもん。当然のことをしたまでだよ」


 舞はリル達を順番にハグした。


 (ミオとブラドがおとなしくハグされるあたり、本気で感謝してるんだろうな)


 普段ならあり得ない光景を見て藍大はそのように感じた。


 その時、藍大の耳に伊邪那美のテレパシーが届いた


『藍大よ、邪神が世界中のダンジョンに手を出してスタンピードを起こし始めたのじゃ』


 (邪神も余裕がなくなって来たか)


 自分がここまで攻め込まれるのは邪神にとって想定外だったから、せめて藍大達の集中力を削ごうとこのような手に出たのだろう。


 地球のことは茂に任せている以上、藍大達は月のダンジョン攻略に専念すれば良い。


 藍大達は強敵との戦闘が続いたため、少し休憩を取ってから攻略を再開することにした。

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