第799話 強いけど悔しい! お爺ちゃんに見せ場取られた!

 藍大が伊邪那美から聞いた話を舞に伝える。


「舞、トール様が舞に召喚してほしいらしいぞ」


「わかった~。出て来てお爺ちゃん!」


 舞が正面に手をかざしてそう叫んだ瞬間、光の柱が舞の目の前に発生する。


 (お爺ちゃん呼びで召喚されちゃうのかよ)


 光の柱を見て藍大が苦笑していると、光の柱から金髪の偉丈夫が現れた。


 トールはマグニの父親のはずなのにマグニよりも若々しく、巨漢の髭親父が出て来るかもと思っていた藍大の予想は外れた。


「孫よ、会いたかったぞ!」


「本当にお爺ちゃんなの? お爺ちゃんなのに若くない?」


「俺は正真正銘トールだ! 孫に嫌われたくなくて金髪マッチョスタイルにしてみたぞ!」


「お爺ちゃんってばそんなこともできたんだね~。あっ、私のことは舞で良いよ~」


「うむ。舞よ、俺を復活させてありがとう。俺のこともトールと名前で呼んでほしい」


 トールは尊大な態度になることなく舞にきっちりと頭を下げた。


 喧嘩っ早いと言い伝えられているが、礼節を重んじるようだ。


「トール爺ちゃんを復活させられたのは私だけの力じゃないよ。藍大達が助けてくれたの」


「そうだったな。孫の夫も孫だ。俺を復活させてくれてありがとう。孫の家族達も助かった。感謝する」


 トールは藍大達にも頭を下げた。


『ロキ様と同じ神話の神様とは思えないね』


「其方は俺の力を貸したリルだったな。俺はあいつみたいに悪戯が好きでも相手を取って食ったような態度も好かん。感謝すべきことにはそれ相応の礼をするさ」


『そうなんだ。トール様、ロキ様ってどんな神様?』


「あいつには時々どうしようもなく頭を悩ませられるが、それでもいざって時にはちゃんと力を貸してくれる。あいつも悪戯する相手がいなくなったら困るだろうな。なんだかんだで寂しがり屋だから」


 (ロキ様が寂しがり屋か。構ってほしいのは寂しがり屋だからなのかも)


 トールの言い分を聞いて藍大は納得した。


「ところで藍大よ、俺も次の戦いは同行して良いか? 舞の神器の使い方を見たい」


「わかりました。よろしくお願いします」


 トールを怒らせたくない藍大は丁寧な口調でトールの申し出に首を縦に振った。


「敬意さえ感じられれば丁寧に喋る必要なんてない。藍大も様々な神を助けて神格が上がってるからな。気軽に話せ」


「・・・わかった。これで良いか?」


「よろしい」


 正直、藍大は自分の従魔士が直接戦うタイプの職業技能ジョブスキルではないから、トールに軟弱者と言われるのではないかとヒヤヒヤしていた。


 しかし、実際に話してみればそんなことはなかったのでホッとしている。


「それじゃ早速下の階に行こうか」


 アーリマンを倒したことでボス部屋には下の階へと続く階段が現れた。


 藍大達はその階段で下の階に移動した。


 勿論、その階段にも邪気が満ちていたのでリルが<風神狼魂ソウルオブリル>でそれを散らすのも忘れていない。


 地下2階のボス部屋を開けて中に入ると、そこには糸目の優男がいた。


 邪気はサクラが部屋に入る前に消し飛ばしていたが、その優男はそれに対してただニタァと笑みを浮かべているだけだ。


「チッ、邪神の奴が嫌なところに目を付けやがった」


 トールは目の前の優男を見て苦虫を嚙み潰したような顔をした。


 その理由を藍大もリルの<知略神祝ブレスオブロキ>で理解した。


 藍大が見た情報では糸目の優男がロキ=レプリカとなっていたからだ。


『ワフン、あいつはロキ様の偽者だって』


「そうらしいな」


『偽者なら容赦なくやれるね』


「擂り潰してもOK」


「遠慮なく殴れるね」


 リル、サクラ、舞の順番で偽者ならば問題ないととても良い笑顔で発言した。


 自分の身の危険を察したからか、ロキ=レプリカが慌てた様子で両手を前に出す。


「話せばわかる」


肉体言語O・HA・NA・SHIならわかる?」


「違う、そうじゃない!」


 藍大が思わず訊ねたことに首を横に振りつつ、ロキ=レプリカはフェンリルを模った氷とミドガルズオルムを模った水、ヘルを模った深淵を創り出して藍大達に放った。


「オラオラオラァ!」


「邪魔」


『僕に似ても似つかないね』


 舞は雷光を纏わせたミョルニルで水でできたミドガルズオルムを乱打して破裂させた。


 その間にサクラは<深淵支配アビスイズマイン>でヘルを包み込んで消滅させ、リルは<風精霊祝ブレスオブシルフ>で無数の風の刃を創り出して氷のフェンリルを切り刻んだ。


 舞達が返り討ちにしている隙にロキ=レプリカは藍大と距離を詰めていた。


「やらせないのよっ」


 ゴルゴンが<拒絶リジェクト>で見えない壁を創り出してロキ=レプリカを弾き飛ばした。


 バランスを崩したロキに対してメロとゼルが攻撃を仕掛ける。


「ぶっ飛ぶです」


『( *゚∀゚)━━)´Д`*))━σ ブットンジャイナヨ!!』


 メロの<元気砲エナジーキャノン>、ゼルの<深淵支配アビスイズマイン>のレーザーがロキ=レプリカに命中するけれど、ロキ=レプリカは後ろに大きく飛んでダメージを軽減させる。


「甘いニャ」


 そう言ったミオは<謎神行動ムーブオブメジェド>でロキ=レプリカの背後を取ってニヤリと笑い、<水精霊砲ウンディーネキャノン>を放った。


「どうかな?」


 ロキ=レプリカはニヤリと笑い返してくるっとそのまま横に回転し、ミオの攻撃を綺麗に受け流してみせた。


『まだまだ!』


 フィアはミオの攻撃が失敗に終わることを予測して<天空神翼ウィングオブホルス>でロキ=レプリカを壁まで突き飛ばした。


 ミオの攻撃で油断していたらしく、ニヤリと笑った顔が固まったまま吹き飛ばされたようだ。


「駄目押しなのだ!」


 ブラドが<憤怒皇帝ラースエンペラー>で追撃した。


 フィアとブラドの攻撃は受け流し切れなかったらしく、ロキ=レプリカの顔から笑みが消えて無表情になっていた。


「ほう、そんなところまで本物そっくりなのか」


「トール様、何か知ってるのか?」


「ロキが無表情になってる時はマジギレした時だ。なんでもありになるから気を付けろ」


 トールがそのようにアドバイスした時には既にロキ=レプリカの手にミョルニル=レプリカによく似た戦槌ウォーハンマーが握られていた。


「おいおい、ミョルニル=レプリカを簡単に創造したぞ」


「ロキはレプリカ作りが得意だからなぁ。俺も初めてミョルニル=レプリカを作られた時はびっくりしたぞ」


 そんな話をしている間にロキ=レプリカが瞬間移動で藍大の前にやって来るが、トールがロキ=レプリカの手からミョルニル=レプリカを強奪しつつロキ=レプリカに背負い投げした。


「トール様すげえ!」


「おう。それほどでもあるぜ」


 一瞬にしてロキ=レプリカの武装解除と迎撃をやってのけたトールに藍大が素直な感想を述べれば、トールはニヤリと笑って応じながらロキ=レプリカを奪ったミョルニル=レプリカで殴りつける。


 その威力は流石トールといったところであり、地面に蜘蛛の巣状の罅、いや、亀裂が入った。


 それからすぐにロキ=レプリカにとどめを刺すべく、トールは雷を纏わせたミョルニル=レプリカをもう一度振るった。


 今度はミョルニル=レプリカの雷がロキ=レプリカを黒焦げにしてから爆散した。


『おめでとうございます。逢魔藍大一行が神のレプリカを初めて倒しました』


『初回特典として集めた神の中で現時点で完全回復していない者達が一律で10%分回復しました』


 藍大が伊邪那美のアナウンスに耳を傾けている一方で、トールが舞に笑顔で話しかけていた。


「どうだ舞よ、俺は強いだろ?」


「強いけど悔しい! お爺ちゃんに見せ場取られた!」


「ん? 思ってたのと違うぞこれ」


 舞にお爺ちゃんすごいと言ってもらえると思っていたが、実際にはお爺ちゃん狡いというニュアンスで言われてしまったためトールは首を傾げた。


 トールがロキ=レプリカの接近に気づいて対処した時、実は舞とサクラ、リルも割り込める準備はできていたのだ。


 それでも、トールが既にやる気満々でロキ=レプリカに向かっていくのが見えたからトールに見せ場を譲らざるを得なかった。


 結果として、藍大から褒めてもらえるチャンスをトールに持っていかれてしまい、藍大を守ってくれたことには感謝しているけど舞は素直にそれを口にできなかった訳である。


 舞とトールの関係が微妙なことになるのは避けたいから、藍大が気を利かせて間に入る。


「舞、トール様はお手本を見せてくれたんだよ。次は舞があんな風に守ってくれるんだろ?」


「うん! トール爺ちゃん、お手本見せてくれてありがとう!」


「うむ。じゃあ、後は神域で見守ってるから頑張れよ」


 トールは舞に送還されて自らの神域へと戻って行った。


 後の戦いはこの時代に生きる藍大達がやるべきということなのだろう。


 藍大達はロキ=レプリカを倒したことで現れた階段で先へと進んだ。

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