第791話 この世で一番最初に語尾にニャを付けたのは私ニャ!

 迦具土神が一番会いたかった両親との再会を済ませた後、藍大達はマグニと愛がいるであろう地下神域内の温泉に移動した。


 マグニは温泉が気に入ったらしく、湯治のつもりで頻繁に愛と混浴しているのだ。


 藍大達が温泉に着くとマグニと愛が旅館で着るような浴衣を着ていた。


 丁度温泉から出たところだったようだ。


「湯治はすごいな。急激に力が戻った」


「マグニ、それは違う。いくら温泉でもそんな効果はない」


「愛さんの言う通りです。迦具土を地下神域に連れ帰り、四神獣が1柱ずつ神を復活させた影響です」


「なん・・・だと・・・」


 自分達が温泉に浸かっている間にそんなことが起きていたのかとマグニは固まった。


 その隣で愛がマグニを正気に戻す。


「マグニ、しっかりして。力が戻ったら舞に加護を授けるんじゃないの?」


「はっ、そうだった。舞、こっちへ」


「うん」


 呼ばれた舞はマグニに近寄り、マグニは舞の頭に手をやる。


 その直後、舞の体から雷を帯びたオーラが噴き出した。


『おめでとうございます。逢魔舞が称号”マグニの巫女”を会得しました』


『報酬としてマグニの力が80%まで回復しました』


 (加護を与えて回復するって一種のマッチポンプなのでは?)


 藍大はそう思っても口にはしなかった。


 それは咎めるべきことではなく、むしろ歓迎する結果だったからである。


 オーラの放出を抑え込んだ舞が体を軽く動かして笑みを浮かべる。


「う~ん、力が漲るね~」


「俺は力の神だ。故に俺の加護で舞はより一層パワフルになった」


「なんてことを・・・」


「不味いニャア・・・」


 マグニの発言を聞いてサクラとミオが戦慄した。


 舞が強くなることは良いことだが、これ以上舞をパワフルにしてどうするんだと言いたいのだ。


 どうして神器も神も舞に力ばかり与えるのだと嘆いてすらいる。


 サクラは被害を受けることはないが、うっかりハグされれば逃げ出せないミオにとっては舞のパワーアップは素直に喜べない事態だろう。


 ちなみに、仲良しトリオとブラド、モルガナはこの場にいないが舞のパワーアップを感じ取って震えているのは置いておこう。


『ワフン、舞が強いのは良いことだよ。だって、それだけご主人が安全でいられる確率が高くなるもん』


「任せて。今なら藍大の敵はボコボコにできる気がするよ」


 (ロキ様もビビってたりして)


 次に夢の神域で会う時、ロキが舞の力を察して震え出すのではないかと藍大が思うのは無理もないことだった。


 舞のパワーアップが済んだ後、伊邪那美が復活した神々から藍大にアポイントを取ってほしいと頼まれたらしく、彼女に連れられて藍大は四神獣と共にシャングリラリゾートの神域に移動した。


 先にアポイントが入ったのはバステトのようだ。


 何故なら、猫耳と尻尾を生やしてエキゾチックな民族衣装に身を包んだ女神が待っていたからである。


「私を復活させてくれてありがとニャ!」


「マスター、ミーとバステト様のキャラが被ってるニャ!」


「この世で一番最初に語尾にニャを付けたのは私ニャ!」


「ミーだって喋れるようになった時にはニャと付いてたニャ!」


 ニャーニャー合戦が始まりそうな気配がしてリルが藍大に話しかける。


『このやり取りを見たら舞が両方ともまとめて抱き締めそうだね』


「舞を連れて来たらそうなってただろうな」


「「それは駄目ニャ!」」


 リルと藍大のコメントを聞いてミオとバステトのセリフが完全に被った。


 ミオは日頃から舞にハグされるとどうなるかわかっているからこその発言なのに対し、バステトはあのロキが恐れる舞にハグをされたら鯖折りになると思っての発言だ。


「ミー達は仲良しニャ」


「そうニャ。だから、お仕置きは勘弁してほしいニャ」


「舞をお仕置きキャラ扱いするんじゃないよ」


「ミーは勿論わかってるニャ。お仕置きキャラ扱いしたのはバステト様だけニャ」


「ニャ!? 裏切るのは良くないニャ! 私だけ生贄にしようとはあんまりニャ!」


「落ち着け。舞は可愛い物が好きなだけだから」


 藍大が苦笑しながらそう言った途端、ミオとバステトが口を閉じて無表情になった。


 可愛さを感じさせないようにとそのように振舞っているらしい。


「無駄な足掻きだと思うのじゃ。お主達がムスッとしてたらそれはそれで舞が心配してハグするのじゃ」


「打つ手なしニャ!」


「どうすれば良いニャ!?」


『舞にハグされれば良いんじゃないかな?』


「「そんニャ~!?」」


 リルの発言でミオもバステトもお手上げだと頭を抱えた。


 流石にミオがかわいそうだったので、藍大はミオを抱え上げて優しく撫でた。


 ミオは藍大に撫でられて落ち着きを取り戻した。


「ニャア、藍大の撫で撫では凶悪ニャ。さっきまでアワアワしてたミオがこんなにも落ち着いてるのニャ」


『ご主人、次は僕ね』


『フィアもその次~』


「よしよし。愛い奴等め」


 ミオが撫でられているのを見れば、リルとフィアが自分も撫でてほしいと言い出すのは当然だ。


 結局、バステトが羨ましそうに眺めている中、藍大はミオとリル、フィアを順番に撫でてあげた。


 このまま眺め続けたら自分も撫でてほしいと言ってしまいそうになり、どうにか自分の威厳を死守しようとバステトは管理するEG国の自分の神域へと帰った。


 残念ながら威厳を死守できたと思っているのはバステトだけなのだが、それを指摘するのは武士の情けとして誰もしなかった。


 バステトと入れ替わるようにしてシャングリラリゾートの神域にガネーシャと赤髪上裸で腕が4本ある男神がやって来た。


 自らが火を司る神だと主張しているその男神こそがアグニなのだろう。


 藍大と目が合った瞬間、アグニは大きく口を開いた。


「バァァァァァニング!」


 その瞬間、アグニの全身が炎に包まれた。


 普通に考えたら真っ黒焦げになるけれど、アグニは火の神なので全く問題ない。


 アグニよりも周りの方が熱くて堪らんと言いたげである。


 ガネーシャはアグニの体が燃えることになれているのか冷静に対処する。


「アグニ、いきなりそれはぶっ飛び過ぎてるんだな」


「グゥレイトォォォォォ!」


 今度はアグニが4本の腕で器用にサイドチェストを決めてみせた。


 アグニの言動の意味がわからない藍大達は揃って通訳してくれとガネーシャの方を見る。


「申し訳ないんだな。アグニは久し振りに全力でいられることが嬉しくてハイになってるんだな」


「ハイって言うかこのまま燃え続けたら灰になるんじゃないかニャ?」


『火の神と言えど色々いるのだな』


 ミオがジト目をアグニに向ける一方でドライザーは興味深いと言わんばかりの口調だ。


 きっとフィアとアグニ、迦具土神を比べて全然タイプが違うと思ったのだろう。


 フィアは甘えん坊で食いしん坊だが暑苦しくない。


 アグニは見た目も言動も暑苦しい。


 迦具土神は責任感が強くて自分に厳しい。


 確かに3柱とも異なるタイプと言えよう。


 もっと注目してほしいからなのかアグニは再びシャウトする。


「バァァァァァニング!」


 余計に火力が増すアグニを見てリルがムッとした表情になる。


『暑苦しい』


 リルがそういうのと同時に<雪女神罰パニッシュオブスカジ>でアグニの炎を弱める。


 暑苦しいのも熱いのも好きではないリルにとって、アグニが燃えれば燃えるだけ不快になるのだからそうするのも仕方ない。


「はぁ、ちょっとおとなしくするんだな」


 ガネーシャが指パッチンしたことにより、突然アグニの頭上に水の入った大きな盥が出現してひっくり返る。


 リルの<雪女神罰パニッシュオブスカジ>の影響で凍るギリギリの温度の水を浴びてしまい、アグニの炎が消えて落ち着きを取り戻した。


「むっ、すまない」


 (普通に喋れるのかよ)


 最早バーニングとグレイトしか喋れないのではと思っていた藍大だが、冷静になったアグニが普通に喋ったので心の中でツッコんだ。


「アグニ、燃えないように気を付けてお礼を言うんだな」


「そうだった。フィア、それにその主の藍大よ。我を復活させてくれて感謝する」


『フィアはパパのために強くなりたいの。アグニ様の力でフィアは強くなれるよね?』


「勿論だ。我の炎がフィアの炎の勢いを強め、それが藍大達の力となるだろう」


『そっか。それを聞いて安心したよ』


 フィアはアグニの言葉を聞いてホッとしたようだ。


 嬉しいことを言ってくれたフィアを藍大は抱えてその頭を優しく撫でる。


 ガネーシャはあまり長居をしていたらアグニがまた暴走するかもしれないと言い、アグニを復活させてくれたことのお礼を述べてからアグニを連れてIN国の神域に帰った。


 ガネーシャとアグニの姿が見えなくなった後、リルは藍大の方を向いて提案する。


『ご主人、今日はいっぱいめでたいことがあったからお祝いしようよ。ハンバーグ祭りとか』


「賛成ニャ!」


『フィアも!』


「妾もじゃ!」


「そうだな。ハンバーグ祭りやっちゃうか」


 藍大もお祝いをする気分だったため、今日の夕食はハンバーグ祭りに決まった。

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