第789話 これが食いしん坊ズクオリティか

 迦具土神探しに参加するのは藍大とリル、ドライザー、伊邪那美だった。


 ゲンがいないのはゲンがモルガナと一緒に昼寝をしてしまったからだ。


 ドライザーは<超級鎧化エクストラアーマーアウト>が使えるだけでなく、<鍛冶神祝ブレスオブヘパイストス>も使えるから、迦具土神が何かに宿らねば移動できない状態でも対応できる。


 それが理由で藍大達に憑依して同行することになった。


 リルは探索に欠かせないから同行するとして、珍しく伊邪那美が同行するのはそれだけ迦具土神のことを気にしているからだろう。


 迦具土神を探すつもりで藍大が万物磁石を使ってみると、すぐに磁石が迦具土神のいる方角を指し示した。


『この方角は・・・』


「リル、何か心当たりがあるの?」


 リルが万物磁石を見て何か察したらしいと思って藍大は訊ねてみた。


『山梨県の秘境の方角だよ。ほら、楠葉と花梨がいたあそこ』


「そうなのか。というか、方角だけでなんで迦具土神の居場所がわかるの?」


『迦具土神を探し終えた万物磁石を<知略神祝ブレスオブロキ>で鑑定したんだよ。それでわかった目標までの距離から答えを導き出したの』


「よしよし。リルは賢いなぁ」


『ワッフン♪』


 リルの頭脳プレイに感心して藍大が撫でればリルはドヤ顔でされるがままになった。


 藍大の祖母である楠葉と従姉の花梨がいた秘境の集落の場所はリルが覚えている。


 それゆえ、藍大達はリルの<時空神力パワーオブクロノス>で山梨県にある秘境まで移動した。


 秘境は伊邪那美が周囲に結界を張った後、逢魔家で手を加えてできる限りダンジョンが出現する前の姿に戻したはずだった。


 ところが、伊邪那美の張った結界を逆に利用して迦具土神は神域を展開しているようだ。


 何故なら、藍大達は秘境に来てすぐに炎が燃え盛る草原にいたからだ。


 森の中にある秘境と全く違う場所に来てしまえば、これが迦具土神の神域なのだろうと判断するのは当然である。


「伊邪那美様、この炎を消しても良いか?」


「それは不味いのじゃ。迦具土は炎の神なので消してしまえば力が弱ってしまうのじゃ」


「俺はドライザーに憑依してもらってるから熱く感じないけどさ、リルや伊邪那美様はどうなんだ?」


『ご主人、この炎は幻だから大丈夫だよ。燃えてるように見せてるだけ』


「あっ、すまぬ。幻の炎じゃと言い忘れておったのじゃ」


 伊邪那美がリルの後から付け足したものだから、藍大は伊邪那美が本当はわかっていなかったのではないかと思ってジト目を向けた。


「な、なんじゃ? まさか、妾が炎を幻じゃと見抜けなかったと思うておるのか?」


「え? 違うの?」


「一体妾を誰だと思っておるのじゃ? 伊邪那美じゃぞ?」


「わかってる。うっかりしてる食いしん坊女神の伊邪那美様だよな」


「そう、じゃないのじゃ!」


 思わずそうだと力強く言ってしまいそうになり、伊邪那美は慌てて言い直した。


 藍大とリルはそんな伊邪那美を見てやっぱりと言う視線を向ける。


「伊邪那美様、もっと素直になろうぜ」


『大丈夫だよ。伊邪那美様がうっかりやさんでも僕がフォローするから』


「慰めが辛いのじゃ!」


 藍大も本気で伊邪那美が幻の炎を見抜けなかったとは思っていないが、彼女がうっかりしているのは間違いないと思っている。


 リルも同意見であり、伊邪那美もそうかもしれないと思っているからこそ慰められて辛いと思ったのだ。


 それはさておき、藍大達は炎に対処しなくて良いとわかったので迦具土神がこの神域のどこにいるか探し始める。


「リル、迦具土神のいる方角はわかる?」


『それがね、あちこちから神聖な気配がするんだ。勿論、僕達以外のだよ』


「ふむ。伊邪那美様、母親の勘で迦具土神は何処にいるか探せる?」


「安心するのじゃ。もう見つけておる。というよりもこの神域に迦具土が分散してしまってると言った方が良さそうじゃな」


「どゆこと? この炎全てが迦具土神だとでも?」


 伊邪那美の発言の通りならばそうではないかと藍大が自分の考えを述べたところ、彼女はその通りだと頷く。


「正解じゃ。何故このように分散しておるのかまではわからぬが、この状態でもパンドラに力を与えられるとは妾も驚きじゃ」


『分散してる方がそれぞれの力が弱いもんね。ご主人はなんで迦具土神が分散してると思う?』


「・・・矛盾する気持ちからだろうな」


「『矛盾?』」


 藍大の発言が意味するところを理解できず、リルと伊邪那美は首を傾げた。


 自分でも説明を端的にし過ぎたと思って藍大は補足する。


「迦具土神は伊邪那美に迷惑をかけてしまったと思ってるから、伊邪那美に見つけてほしくなくて自分の体を分散させたんだ。本来の姿から分散して幻の炎になってるなら、気配だけで判断しようとしても伊邪那美を混乱させられるだろ? それで迦具土神は自分を探すのを諦めてもらおうと思ったんだ」


「でも、妾が迦具土の気配が分散してるとすぐに気づけば諦めないとは思わぬのかのう?」


「そこが矛盾してるんだ。こうやって自分の身を分散させてるなら、どこにいても俺達の話は迦具土神に筒抜けだし、俺達の姿をどこでも監視できる。伊邪那美様に会う訳にはいかないと思ってるけど、伊邪那美様が自分のことをどう思ってるのか知りたいし姿は見たいと思ってるんだ」


「なるほどのう。では、もう一つ質問するぞよ。藍大はどうしてそんな風に考えられたんじゃ?」


 迦具土神を見たことも話したこともない藍大がどうしてそこまでその気持ちになれるのか。


 伊邪那美が疑問に思うのは無理もない。


 藍大はそんな伊邪那美に対してどこか哀愁のある表情で話を続ける。


「子供ってのは親に迷惑をかけた後、会って叱られたくないって気持ちもあるけど怒ってないかなって気になってもいるのさ」


『僕もまだご主人の従魔になり立ての頃、ご主人の作る料理をつまみ食いした後ってそんな気持ちだったかも』


「なるほど。妾も完全復活した時に覚えがあるのじゃ」


 (これが食いしん坊ズクオリティか)


 つまみ食いなら可愛い程度の話だが、それで藍大の言いたいことを理解できるのだから食いしん坊ズは仕方のない者達である。


 多分、舞やミオ、フィア、天照大神等も似たようなことをしたことがあるだろう。


 最近では滅多にないけれど、以前はちょくちょくつまみ食いする食いしん坊ズがいたので間違いない。


「とまあ、迦具土神の気持ちはそうだと仮定するとして、今やるべきは分散した迦具土神を元通りにまとめることじゃないか?」


「そうじゃな。藍大よ、迦具土の炎を灯せるアイテムを作ってほしいのじゃ」


「それなら今日ダンジョンで手に入れた素材が使えそうだ」


 そう言って藍大は収納リュックからタクティカルフレームの関節部分とナイトメアコアの水晶、ルキフグスの髭を取り出した。


 そして、ドライザーの力を借りて<鍛冶神祝ブレスオブヘパイストス>を発動した結果、いくつもの炎となった迦具土神を灯すのに相応しいデザインのゴブレットが完成する。


『火迎えのゴブレットだよご主人。このゴブレットで炎を回収すれば迦具土神の本来の姿になるはず』


「鑑定ありがとう。それじゃ早速集めるか」


「待つのじゃ。集めるのは妾がやる」


「伊邪那美様が?」


 自分がやろうとした時に伊邪那美がやると言い出したため、藍大は目を丸くした。


 しかし、それがすぐに母親として迦具土神を自らが集めなければならないという伊邪那美の覚悟から出た言葉だとわかり、藍大は火迎えのゴブレットを伊邪那美に渡した。


「わかった。でも、手伝うぐらいは良いよな?」


「うむ。もしかしたら、迦具土は逃げるかもしれぬからその時は協力して欲しいのじゃ」


「了解」


『僕も良いよ』


 伊邪那美の予想は当たった。


 炎を回収していく途中で何度かその炎が火迎えのゴブレットを避けようとほんの少しずつ距離を離そうと移動したのだ。


 それでも、藍大とリルが追い込んで伊邪那美が回収するという方式を取ることで着々と炎の回収は進んだ。


 途中までは逃げようとしていたが、最後の方は炎が逃げるのを諦めて止まった。


 いくつもの炎に分散したにもかかわらず、伊邪那美が真剣な表情でそれら全てを集めようとする姿に迦具土神もこれ以上抵抗する気にはなれなかったようだ。


 最後の炎が火迎えのゴブレットに回収された直後、火迎えのゴブレットが光を放って伊邪那美の手から離れ、藍大にとって見覚えのある子供の姿に変わった。

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