第787話 どうだ明るくなっただろう

 度々現れるナイトメアコアに何もさせずに倒した藍大達は広間に到着した。


 その広間は霧がかかっており、その中心には首より先が青白い炎で体は霊体のドラゴンが待ち構えていた。


「ノーヘッドドラゴンLv100。”掃除屋”だな。残念ながら食べる身がない」


『どうせドラゴン出すなら食べられるドラゴンにしてよ!』


「これは僕達の出番がなさそうだね」


「そうでござるな」


 藍大の説明を聞いてリルは戦闘態勢に入っており、パンドラとモルガナはこの時点で自分達の出番はないと確信した。


「アォォォォォン!」


 リルが<風神狼魂ソウルオブリル>を発動した瞬間、ノーヘッドドラゴンの霊体が消えてその魔石だけがドロップした。


 それだけには留まらず、リルの咆哮は広間の霧を消し飛ばしていた。


『ワフン、ちょっとだけスッキリした』


「ちょっとだけなんだ?」


『ちょっとだけだよ。この程度じゃドラゴンのお肉を食べられなかった悲しみは消せない。そうだよね、モルガナ?』


「拙者は食べられないでござるからな!?」


 パンドラと喋っていたリルに急に話を振られ、モルガナはまさか自分を食べる気ではないかと思って尻尾の貝の中に身を隠した。


「モルガナ、出ておいで。リルがモルガナを食べるはずないだろ? 家族だもの」


『そうだよモルガナ。僕は家族を食べようとなんてしないよ?』


「本当でござるか?」


『本当だよ。僕が食べ物絡みで嘘をついたことがある?』


「・・・ないでござるな。疑って悪かったでござる」


 モルガナはリルの言葉を信じて貝の中から出て来た。


 確かにリルは食いしん坊ズの中でも一二を争うぐらい食いしん坊だ。


 それでも家族を見て美味しそうということも態度に示したこともない。


 リルの今までの言動を思い出してモルガナは謝罪した。


「モルガナ、さっきのリルの発言は同じ食いしん坊ズのモルガナに同意を求めただけだと思うぞ」


『ご主人の言う通りだよ』


「そうでござったか。確かに、同じ食いしん坊ズとしては美味しい食材をゲットできない悲しみはそれ以上に美味しい食材でしか消せないでござる」


『ということでご主人、今日も美味しいご飯をお願いね』


「任せろ」


 リルに上手いこと乗せられた感じはするが、藍大はリル達の期待に応えるべく頷いた。


 それはさておき、ノーヘッドドラゴンの魔石はモルガナが貰うことになった。


 パンドラはフロアボスと戦ってその魔石を貰うと言ったからだ。


 モルガナは楽して強くなれるなら全然OKというゲンに次ぐ怠惰な思考の持ち主だから、その辺は特に気にしないようである。


 藍大から魔石を与えられてモルガナはそれを飲み込み、モルガナのぬいぐるみボディのモフみが増した。


『モルガナのアビリティ:<熔解吐息メルトブレス>がアビリティ:<分解吐息デモリッションブレス>に上書きされました』


「神の名を冠するアビリティじゃないでござるか!?」


「モルガナ、楽して力を得ようとするからだよ」


「なんてことでござる。拙者の怠惰な気持ちがそんな風に作用するとは思ってなかったでござる」


『神の力・・・、怠惰・・・、遠い』


 嘆くモルガナを見て憑依中のゲンが珍しく藍大に自分の考えを伝えた。


「ゲン曰く、神の力は怠惰とは遠い位置にあるからこの結果は当然らしいぞ」


「ゲン殿、拙者はそんな割り切り方はできないでござるよぉ」


 藍大はしょんぼりするモルガナの肩を優しく叩いた。


「元気出せよモルガナ。<分解吐息デモリッションブレス>は素材や食材の剥ぎ取りの観点で優秀だぞ。だって熔かしたらなくなっちゃうけど、分解するなら本体から切り取るだけなんだから」


「・・・そうでござるな。拙者、新しく得たスキルを有効に使うでござる」


 藍大に元気づけられてモルガナは気持ちをリセットした。


 その間にリルは広間の壁を<神裂狼爪ラグナロク>で壁を破壊し、そこにある宝箱を見つけてドヤ顔で待っていた。


「リル、宝箱を見つけてくれてたのか」


『霧で見えなかった床と見せかけて壁の奥にあったよ。僕にはお見通しだったけどね』


「流石リルだ。偉いぞ」


「クゥ~ン♪」


 藍大はリルが満足するまで撫でてから宝箱を回収した。


 宝箱を手に入れてしまえば広間にはもう用がないので、藍大達は探索を再開してボス部屋まで進んだ。


 ボス部屋の中には成金趣味な全身甲冑に身を包み、悪魔が待ち構えていた。


 藍大は趣味の悪い甲冑を装備した者の正体を知るべく、モンスター図鑑を視界に映し出した。



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名前:なし 種族:ルキフグス

性別:雄 Lv:100

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HP:3,000/3,000

MP:3,000/3,000

STR:3,500

VIT:3,000(+500)

DEX:2,500

AGI:2,500

INT:3,000

LUK:3,000

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称号:14階フロアボス

   到達者

   希少種

アビリティ:<棍術メイスアーツ><不運打撃アンラッキーストライク><深淵支配アビスイズマイン

      <破壊突撃デストロイブリッツ><不幸爆弾バッドラックボム><魔力半球マジックドーム

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:ゴージャスアーマー

   リッチモーニングスター

備考:どうだ明るくなっただろう

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 (まごうことなき成金じゃん)


 ルキフグスのステータスを確認して藍大は苦笑した。


 最近クリアしたシャングリラダンジョンの階層にいたフロアボスや”掃除屋”と比べてルキフグスの能力値は低い。


 ただし、無駄に豪華な鎧とモーニングスターが輝いていて眩しい。


「チカチカする。こいつは僕とモルガナだけで戦っても良い?」


「そうでござるな。先程は何もしてなかったから拙者も戦うでござる」


「わかった。ルキフグスはパンドラとモルガナに任せる。モルガナのために教えると、あいつはLv100で近接攻撃と一部だけ深淵系統やLUK依存のサクラに近いアビリティを使う」


「情報かたじけないでござる。パンドラ殿、奴の動きを止めてほしいでござる。新しく会得したアビリティを試したいでござるよ」


「良いよ」


 簡単な作戦会議が終わってパンドラが<停止ストップ>を発動すれば、<全半減ディバインオール>で効果時間は短縮されるがルキフグスの動きが止まる。


「やるでござる!」


 気合十分なモルガナは<分解吐息デモリッションブレス>を止まったルキフグスに浴びせる。


 それによってルキフグスのゴージャスアーマーとリッチモーニングスターが金塊とアダマンタイトのインゴットに分解され、ただのスリムで老いた悪魔にされる。


『回収するぐらい手伝わせてね』


 リルは金塊とアダマンタイトのインゴットを<仙術ウィザードリィ>で回収して藍大の収納リュックにしまった。


 戦闘に手を出すつもりはないけれど、モルガナが分解してくれた素材は回収しないと勿体ないのでこれに文句を言う者はいなかった。


「我の富をよくも奪ってくれたなぁ・・・」


 <停止ストップ>が解けて自分の状況を理解したルキフグスは<深淵支配アビスイズマイン>で深淵のレーザーを放とうとする。


 ところが、パンドラの<憂鬱メランコリー>が発動してルキフグスの士気が下がって動作が遅れた。


「モルガナ、完封するよ」


「合点承知でござる」


 隙だらけのルキフグスにパンドラとモルガナがそれぞれ<負呪破裂ネガティブバースト>と<百万雨槍ミリオンランス>を命中させれば、ルキフグスは力尽きた。


「パンドラもモルガナもお疲れ様。弱体化してから倒すまで安心して見ていられたぞ」


「これぐらい当然だよ」


「そうでござる。拙者達が本気を出せば楽勝でござる」


「よしよし。愛い奴等め」


 藍大はドヤ顔のパンドラとモルガナの頭を撫でて労った。


 司達のパーティーに同行する時は自分が出過ぎないように気を付けているため、思う存分戦えてパンドラは満足したようだ。


 ルキフグスはモルガナの<分解吐息デモリッションブレス>で解体して回収し、その魔石はパンドラに与えられた。


「パンドラ、おあがり」


「いただきます」


 魔石を飲み込んだことにより、パンドラから感じられる力が強まった。


『パンドラのアビリティ:<熔解刃メルトエッジ>がアビリティ:<迦具土刃エッジオブカグツチ>に上書きされました』


『迦具土・・・、お主は何処にいるんじゃ?』


 パンドラが新たに会得したアビリティがアナウンスされた直後、寂しそうな伊邪那美の声が藍大の頭に直接響いた。


 アビリティが上書きされたパンドラはそれを知る由がないから、神の名を冠するアビリティを会得できてご機嫌そうに尻尾を揺らした。


「パンドラ、良かったな」


「うん。ありがとう」


 帰ってから伊邪那美の話を聞こうと思ったけれど、藍大はとりあえず自分に甘えるパンドラの頭を撫でることに集中した。

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