第780話 不届きな視線を感じる
翌日、藍大はモルガナが増築した八王子ダンジョンの8階にやって来た。
ブラドがシャングリラダンジョンを増築して藍大達の助けになったように、モルガナも藍大達の助けになればと八王子ダンジョンを増築したのだ。
神々の力を借りるならば四神獣をダンジョンに連れて行き、神の名を冠するアビリティをガンガン使って神を復活させるという方法が取れる。
実際、ヘパイストスやスカジはその方法で復活した。
しかし、四神獣だけ強ければ良いかと問われればYesとは言えまい。
何故なら、藍大の従魔は四神獣以外にもいるからである。
それゆえ、藍大は普段は留守番していることが多いメンバーの強化を目的として八王子ダンジョンの8階に連れて来た。
具体的にはリュカとルナ、エルを連れてきている。
ちなみに、ゲンは<
『ワフン、今日こそルナはLv100になるよ!』
「そうね。モルガナの話ではこの階層は
ルナが気合十分な様子でいる隣で獣人形態のリュカがルナの頭を撫で、その調子で頑張りなさいと優しくエールを送る。
『私も戦闘の勘を衰えさせぬよう頑張ります』
「よし、早速行こうか」
エルもやる気満々であり、憑依しているゲンを除く従魔の士気は高い。
藍大は士気が高い内に先に進もうと宣言した。
八王子ダンジョンの8階は洋風の城と呼ぶべき内装だった。
どんなモンスターが出て来るだろうと思っていたタイミングで8階で初めての
「あれってオーカスじゃね? ごつい武装してるけど」
藍大はまだモンスター図鑑で確認していないが、藍大達の前方に姿を見せたのはオークの上半身と地龍の下半身を持つオーカスの軍団だった。
ただし、日曜日のシャングリラダンジョン地下1階に出てくるようなノーマルなオーカスではなく、上半身には立派な兜と鎧を身に着けており、両手にはそれぞれ
「オーカスカタフラクトLv100。STRとVITは高いけどAGIとDEXは低い」
「まずは私が様子を見る」
藍大の戦力分析を聞いた後、リュカが<
見た目は頑丈そうだけれど、リュカには<
リュカの戦闘スタイルはヒット&アウェイなので、彼女はすぐに藍大達の所まで戻って来た。
「ご主人の言う通りAGIが低くて鈍いから大したことない」
『ルナも戦うよ!』
「行っておいで」
『うん!』
ルナは<
その攻撃を至近距離で受けた者達は<
しかし、最後列にいるオーカスカタフラクト達は鎧のおかげでどうにか生き残った。
『後片付けの時間です』
ルナが打ち漏らした分については、エルがDDキラーをデスサイズ形態に変形させて首を刈り取って始末した。
『ルナがLv96になりました』
「お疲れ様。上手く戦えてたな」
藍大はリュカ達がダメージを負うことなくオーカスカタフラクト軍団を倒せたので褒めた。
リュカが先手を取ってオーカスカタフラクトを怯ませ、その隙にルナが広範囲を巻き込む攻撃を放ち、撃ち漏らしはエルが1体も残さずに倒してみせた。
即席ではあるがちゃんとチームプレーになっており、藍大はハラハラせずに見守ることができた。
戦利品を回収して探索を再開した後、中隊規模のオーカスカタフラクトが3回現れたがリュカ達がサクサクと倒した。
オーカスカタフラクト達の動きが鈍いことが原因で、モルガナはそれらが現れるエリアでは罠を仕掛けていなかった。
だからこそ、藍大達は苦戦することなく
『ご主人、オーカスカタフラクトって食べられるんでしょ? 今日もお肉いっぱいだね』
「そうだな。モルガナもどうやら食べられるモンスターを少なくとも1種類は配置するって縛りで増築したのかもしれん」
『ダンジョンの管理のことはよくわからないけど、美味しいお肉が手に入るのは良いことだよね』
「その通り。リルも喜んでくれる」
『うん! パパが喜んでくれるね!』
リュカもルナも食べられるモンスターの肉を持ち帰ったらリルに喜んでもらえるので、オーカスカタフラクトが現れてくれたことに感謝した。
リルに喜んでもらいたいと頑張るリュカとルナは愛らしく映り、藍大は気づいたらリュカとルナの頭を撫でていた。
少し進んでオーカスカタフラクトが出現しなくなったが、その代わりに今度は罠が仕掛けられていた。
落とし穴や釣り天井が順番に仕掛けられていたが、リュカとルナがそれらを察知してくれたおかげで藍大達は罠に引っかかることなく罠ゾーンを突破できた。
そのように油断させておいて、最後の釣り天井を突破した直後に藍大達の前方から巨大な鉄球が転がって来た。
「モルガナも少しは狡猾な罠を仕掛けるようになったか。エル、壊せるか?」
『問題ありません』
エルは<
その直後に藍大の耳に伊邪那美のアナウンスが届く。
『ルナがLv97になりました』
「ん? 鉄球の奥に何かモンスターがいたのか。ナイスだエル」
『お褒めいただき恐縮です』
エルは狙ってモンスターを倒した訳ではなく、偶然倒してしまっただけだからそれを自慢したりしなかった。
ドライザーだったらお見通しだとか言ったかもしれないが、エルはこういったところで真面目である。
鉄球が転がって来た場所を通過して藍大達が見つけたのは焼け焦げたナーガの死体だった。
そのナーガは華美とは無縁な仙人らしき服装をしており、手には飾り気のないスタッフとも呼ぶべき棍棒に近い杖を握っていた。
「ナーガハーミットLv100。魔法系のアビリティの攻撃が主体で、姿をくらましてから不意打ちするのが常套手段らしい」
『ルナ達が鉄球を躱して油断したところを狙おうとしてたんだね』
「そうみたいだな。まあ、不意打ちはエルが<
『面映ゆいですね』
偶然なのでそこまで褒めないで下さいとエルは照れ臭そうに言った。
藍大はエルを褒めた後、戦利品を回収してからリュカとルナに訊ねる。
「リュカとルナはこの付近に他のナーガハーミットの存在を感じられるか?」
「不届きな視線を感じる」
『ワフン、ルナの察知能力を誤魔化せるはずないよ』
リュカとルナは目に見えなくともナーガハーミットの不意打ちする気が漏れた視線を感じるするようで、その視線をどうにかするべく行動に移る。
「動きを止めてアビリティを解除しろ」
リュカは藍大には何も見えない方向に向かって<
そして、動きを封じたまま<
(リュカの<
サクラの<
自分の方が強くなければ言った通りの結果になる確率は落ちるが、それでも言った通りの結果になること自体が脅威である。
藍大はその脅威について改めて実感した。
その一方、ルナは距離の離れた場所に潜んでいるらしいナーガハーミットを察知して<
『見~つけた!』
ルナは<
「ぎょえ!?」
距離を一瞬で詰められたせいで防御が遅れてしまい、潜伏していたナーガハーミットはガードできずにルナの攻撃で吹き飛ばされた。
「まだまだ隠れてる」
『全部倒すよ!』
リュカとルナが最初に倒した以外にも藍大達の行く手を阻むようにナーガハーミット達は潜伏していたらしい。
優れた索敵能力を持つ母娘に見つけられては吹き飛ばされ、5分後には隠れていた全てのナーガハーミットが物言わぬ死体となった。
『ルナがLv98になりました』
「良いね。ルナは順調にレベルアップできてるじゃん」
「クゥ~ン♪」
「よしよし。愛い奴め」
藍大は甘えて自分の体に頭を押し付けるルナをたっぷり甘やかしてから戦利品を回収した。
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