第781話 見掛け倒しのゴリアテさんじゃないですか

 戦利品の回収を終えた藍大達は通路を進んでいる内にリュカとルナがピクッと反応した。


「リュカとルナは何か見つけたのか?」


「向こうの方から何か来る」


『羽ばたく音がするよ』


「戦闘準備だ」


 藍大がリュカ達に指示を出してすぐに通路の奥から綺麗な翼のハーピーが現れた。


 そのハーピーは通常のハーピーよりもゴージャスな雰囲気が出ており、頭の上には小さい王冠を乗せていた。


「余の住処で暴れてるのは貴様等か。余がクイーンと知っての狼藉か?」


「ハーピークイーン、女王なのに見回りご苦労様。エル、って良し」


『承知しました』


 エルは大剣形態に変えたDDキラーで斬撃を乱れ撃ち始めた。


「下々の民の攻撃など当たらぬよ」


『先程までの攻撃はただの様子見です』


「何ぃ!?」


 エルの飛ばした斬撃を躱して油断していたハーピークイーンに対し、エルは<格闘術マーシャルアーツ>の体捌きも駆使して接近しており、至近距離から<氷河時代アイスエイジ>でハーピークイーンを氷漬けにした。


 AGIやDEXは高めでもHPやVITはそれらに比べて低かったため、ハーピークイーンは氷漬けにされただけでHPの大半を失った。


 ハーピークイーンを覆う氷塊はエルが地面に投げつけたことで割れ、落下ダメージがとどめとなってハーピークイーンはそのまま力尽きた。


『ルナがLv99になりました』


 Lv100の”掃除屋”だったハーピークイーンを倒したことにより、ルナは同一パーティー内なので見ていただけでもレベルアップした。


 ハーピークイーンを倒して戻って来たから藍大はエルを労う。


「エル、お疲れ様。エルにかかればチョロかったか?」


『あの程度でクイーンを語るとはハーピーは駄目ですね』


「クイーンがエンプレスでもエルなら余裕だったかもな。さて、こいつの魔石はエルのものだ。早速取り出そう」


『ありがとうございます』


 サクサク解体して魔石以外は収納リュックにしまい、藍大はハーピークイーンの魔石をエルに与えた。


『エルのアビリティ:<破裂光線バーストレーザー>がアビリティ:<光神罰パニッシュオブルー>に上書きされました』


『おめでとうございます。聖獣以外の従魔が神の名を冠するアビリティを会得しました』


『初回特典としてマグニの力が40%まで回復しました』


 (やった! ラッキー!)


 ハーピークイーンの魔石でエルが強力なアビリティを会得できれば良いなと思っていたら、光神ルーの名を冠するアビリティを会得してマグニの回復率が上昇した。


 これには藍大の心も弾まないはずがなかった。


「エル、やったじゃん! ケルト神話の神様に興味を持たれたぞ」


『これもボスのご支援があったからこそです。ありがとうございます』


 エルが恭しく藍大にお辞儀をした。


 <光神罰パニッシュオブルー>を会得できたことが相当嬉しかったようだ。


 いつも一緒にシャングリラを警備しているドライザーは”土神獣”であり、神の名を冠するアビリティを3つも会得しているのだから、エルだって1つぐらい会得しないと全然ドライザーとの差が埋まらないと気にしていた。


 それがハーピークイーンの魔石を取り込んだおかげで一歩前進できたため、エルは藍大に魔石を貰えて良かったと思った訳である。


「羨ましい」


『ルナも~』


「よしよし。リュカもルナもきっと会得できるさ」


 藍大がエルを羨ましがるリュカとルナの頭を撫でたから、リュカもルナも自分だってエルみたいに会得するんだと次の魔石でどんなアビリティを会得したいかイメージするのに気合が入った。


 それから先に進んで行くと、ボス部屋の扉はそこまで遠くではなかった。


「今思えばハーピーの癖に”掃除屋”だったな。フロアボスは別にいるんだった」


『ご主人、この扉をよく見て! 宝箱が埋まってる!』


「えっ、マジ? あっ、マジだこれ」


 ルナに言われてボス部屋の扉をじっくり見てみたところ、扉の模様にカモフラージュされていたがうっすらと宝箱が嵌め込まれてできた窪みが見えた。


 リュカとエルが協力して宝箱を回収して藍大の収納リュックへとしまった。


「ルナ、偉いぞ。流石はリルの娘だな」


「クゥ~ン♪」


 藍大に褒められてルナは嬉しそうに鳴いた。


 気持ちを切り替えてボス部屋の扉を開いて中に入ってみれば、ダンスホールに身長が3mはあるだろう武装した巨人がいた。


 巨人型のモンスターに複数心当たりがあったため、藍大はモンスター図鑑を視界に映し出して答え合わせをする。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:ゴリアテ

性別:雄 Lv:100

-----------------------------------------

HP:4,000/4,000

MP:3,000/3,000

STR:3,500

VIT:3,500

DEX:2,000

AGI:1,500

INT:3,000

LUK:3,000

-----------------------------------------

称号:8階フロアボス

   到達者

   悪食

アビリティ:<双剣術デュアルブレードアーツ><破壊震撃デストロイクエイク><震撼体潰クエイクプレス

      <麻痺咆哮パラライズロア><魔力半球マジックドーム><闘気鎧オーラアーマー

      <自動再生オートリジェネ><全半減ディバインオール

装備:アダマントファルシオン×2

   バーバリアンレザー

備考:羽虫みたいに踏み潰してやる

-----------------------------------------



 (見掛け倒しのゴリアテさんじゃないですか)


 藍大は目の前の巨人型モンスターがダビデに倒されたとされるゴリアテだと知り、踏み潰してやるとはイキっているじゃないかと鼻で笑った。


「フロアボスはゴリアテLv100。鈍重な巨人だからスピードで攪乱すれば問題ない」


『ルナの出番だよ!』


 スピードと聞いてルナが飛び出し、<音速移動ソニックムーブ>でゴリアテの周りを音速で移動する。


 ゴリアテはキョロキョロとするが、ルナの速度を目で追えないのでどうすれば良いのかわからなくて混乱状態に陥った。


「隙あり!」


 リュカは混乱したまま立ち往生しているゴリアテの鳩尾目掛けて<深淵武術アビスアーツ>で正拳を放った。


「へぐぉ!?」


 その攻撃がクリーンヒットしたことにより、ゴリアテは両手に持ったアダマントファルシオンを落としてその場に蹲った。


『首、貰いますね』


 エルがDDキラーをデスサイズ形態に変形させて接近し、蹲っているゴリアテの首を刎ねた。


『ルナがLv100になりました』


『ルナがアビリティ:<月女神矢アローオブアルテミス>を会得しました』


『ご主人、やったよ! ルナも会得したの!』


「おぉ、良かったな!」


 ルナは自分も神の名を冠するアビリティを会得したことで尻尾をブンブン振りながら藍大に甘えた。


 藍大は甘えるルナを受け止めてその頭を撫でた。


 そんなルナを羨ましそうに見るリュカの姿があったため、藍大はルナを満足させてからゴリアテの解体を速やかに済ませてその魔石をリュカに与える。


「これでリュカもお揃いになれたら良いな」


「ご主人、ありがとう。期待に応えてみせる」


 リュカは藍大からゴリアテの魔石を与えられて飲み込んだ。


 リュカのケモ耳と尻尾のモフ度が増すと共に藍大の耳にアナウンスが聞こえて来た。


『リュカがアビリティ:<死犬神触タッチオブアヌビス>を会得しました』


「良かったな、リュカ。ちゃんと会得できたぞ」


「良かった。ご主人、ありがとう」


 リュカは派手に喜びこそしなかったけれど、静かに藍大に抱き着いて甘えた。


 ルナの<月女神矢アローオブアルテミス>が攻撃特化なのに対し、リュカの<死犬神触タッチオブアヌビス>は攻撃と回復を同時に行う。


 正確には触れた者のHPを吸収して自身のHPを回復すると言った方が良いだろう。


 触れる部位は何処でも良いから、熟練度を上げれば使い勝手が良くなるのは間違いない。


 藍大達は八王子ダンジョン8階でやるべきことを終えて帰宅した。


 家族の帰りを待っていたリルはリュカとルナがパワーアップしたことを自分のことのように喜んだ。


『リュカ、それにルナも神様のアビリティを会得したんだね!』


「リルと一緒!」


『一緒だよ!』


 リルがリュカとルナと甘えられて両者に頬擦りして良かったねと労う。


 そのすぐ後にサクラがやって来た。


「主、今日も宝箱ある?」


「勿論だ。今日はパイナップルの種が欲しい。メロから頼まれたんだ」


「わかった。・・・はい、パイナップルの種だよ」


 サクラはサラッとパイナップルの種を宝箱から取り出して藍大に渡した。


 藍大が櫛名田比売に貰った力で調べたところ、神鳳梨しんほうりの種だった。


 メロがいつの間にかニコニコしながら両手を差し出していたので、藍大はメロにその種をあげた。


「マスター、ありがとです!」


 藍大から種を貰ったメロはとても嬉しそうに地下神域へと向かった。


 モルガナが増築したダンジョン8階の探索は従魔達のパワーアップだけでなく、マグニの力を取り戻し、将来的に食卓に出る果物が増えたことから大成功だった。

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