第778話 リルが食材の冷凍保存にガンガン使ってたからなぁ

 探索を再開した藍大達はボス部屋を目指して進むが、ボス部屋が見つかる前に1~9の青いパネルが縦3×横3で宙に浮かび上がっていた。


 しかも、その9つのパネルを無視して進むことができないサイズで展開されているのだ。


「リル、あれはどんなギミック?」


『これはモンスターパネルだね。1~9のどれかを押すと番号に応じたモンスターが出現するんだけど、そのモンスターを倒さないと先に進めないんだって』


「ブラドのことだから”掃除屋”クラスのモンスターを用意してそうだな。何番が良いと思う?」


『お肉だから2か9!』


『何番だろうと問題ない』


『リルに任せるニャ』


『フィアも任せる~』


 リルは2番か9番を推しており、それ以外のメンバーは何番でも構わないからリルに任せるというスタンスだった。


 その時、藍大はふと疑問に思った。


「このパネル、番号を同時押ししたらどうなるんだろう?」


『実際にやってみればわかるよ』


 藍大が自動販売機のボタンを同時押しするような感じなのかと考えている一方で、リルはあくまでも2と9推しのようだ。


『ドライザー、せーので9を押して』


『心得た』


『せーの』


 リルとドライザーはそれぞれ同時に2と9のパネルを押した。


 その直後に押された2つのパネルの色が青から赤へと変わり、ダンジョン内に警告音が鳴り響いた。


 どうやら2つのボタンの同時押しはモンスターパネルにとってイレギュラーな状態らしい。


 警告音だけでなくモンスターパネル全体が点滅し始め、藍大達は何か不味いことが起きそうだとモンスターパネルから距離を取った。


 そして、次の瞬間にボンとモンスターパネルが爆発して雲のような物が生じた。


 その雲らしき物はすぐに消えることはなく、色が黒くなって雷を帯びながら形を変えていく。


 気づけば東洋型の龍を模った黒雲が形成されており、それが藍大達を見下ろしていた。


「ニンバスドレイクLv100。”融合モンスター”だ。モンスターパネルの同時押しで強制的に融合したみたいだぞ」


『ご主人すごい! 新発見だね!』


『むぅ、主君が吾輩の予想の斜め上を行くとは思ってなかったのだ』


 現れたモンスターに関する簡潔な説明を聞いてリルは無邪気に喜んでいるが、ブラドはどうしてこうなったと藍大にテレパシーで困っていると訴えた。


「ゴロォォォォォン!」


 ニンバスドレイクは不機嫌なようで、咆哮と同時に全身に帯びる雷の色が紫色から赤色に変わった。


『今回はフィアも戦うよ!』


 フィアは<火神応援エールオブアグニ>で全体の強化を行った後、<緋炎吐息クリムゾンブレス>をニンバスドレイクに放った。


「ゴロォン!」


 ニンバスドレイクは<紫雷吐息サンダーブレス>で応戦した。


 ところが、強化されたフィアの力には届かなかったせいで押し負け、ニンバスドレイクはフィアの<緋炎吐息クリムゾンブレス>を受けることになった。


『追撃しない手はない』


「同感ニャ!」


 ドライザーとミオはフィアの攻撃で怯んだニンバスドレイクに対し、それぞれ容赦なく<竜鎮魂砲ドラゴンレクイエム>と<水精霊砲ウンディーネキャノン>を放つ。


 いずれも強化された攻撃だったため、ニンバスドレイクのHPは瞬く間に消し飛んでしまい、黒雲が消えて魔石だけがその場に残った。


『お肉のボタンを押したのに魔石しか残らないなんてがっかりモンスターだね』


『素材を残さないとはがっかりだ』


 リルは食いしん坊として、ドライザーは職人目線で魔石しか残さなかったニンバスドレイクにがっかりしていた。


 藍大はそんなリルとドライザーを励ましつつ、ミオとフィアのことも労った。


 ニンバスドレイクの魔石はフィアに与えられることが決まり、藍大の手から与えられた魔石を飲み込んでフィアの羽の色が一段と鮮やかに変化した。


『フィアのアビリティ:<緋炎吐息クリムゾンブレス>がアビリティ:<火精霊砲サラマンダーキャノン>に上書きされました』


「フィアも無事に精霊を冠するアビリティを会得したな」


『やったよパパ!』


「よしよし。良かったな」


 自分に甘えるフィアを藍大は優しく抱き留めてその頭を撫でた。


 フィアを甘やかした後、藍大達は先に進んでボス部屋を見つけた。


 特に誰も休憩を欲していなかったから、そのままボス部屋の中に突入した。


 雲の迷路の終点であるボス部屋は玉座になっており、その中心には二枚の翼と一対の前足、蛇のような長い胴体の黒いドラゴンがいた。


 藍大はすぐにモンスター図鑑を視界に映し出して黒いドラゴンを調べる。



-----------------------------------------

名前:なし 種族:リンドブルム

性別:雄 Lv:100

-----------------------------------------

HP:4,500/4,500

MP:4,000/4,000

STR:3,000

VIT:3,000

DEX:3,000

AGI:3,000

INT:3,500

LUK:3,000

-----------------------------------------

称号:地下19階フロアボス

   到達者

   歩く魔導書

   バトルジャンキー

アビリティ:<深淵吐息アビスブレス><氷結竜巻フリーズトルネード><紫雷突撃サンダーブリッツ

      <死嵐大鎌ストームデスサイズ><百万雨槍ミリオンランス><破壊噛デストロイバイト

      <自動再生オートリジェネ><全激減デシメーションオール

装備:なし

備考:我、強者を求む

-----------------------------------------



 (アビリティがどれも強力だ。強者を相手に使ってみたいって感情がひしひしと伝わって来る)


 ステータスを確認した藍大はリンドブルムが好戦的な笑みを浮かべた理由を察した。


 強い相手がお望みなら自分達で満足してもらおうと藍大も笑みを返す。


「リンドブルムLv100。相手は強者をお望みだ。全力でぶつかってやれ。勿論、リンドブルムは食べれるぞ」


 リンドブルムが食べられると聞いた瞬間、食いしん坊ズがピクッと反応した。


 食べられるドラゴンの肉が不味かったことはない。


 それゆえ、やる気がマシマシになったようだ。


「我を満足させる強者であることを願う」


 そう言ってリンドブルムが<深淵吐息アビスブレス>を放った瞬間、リンドブルムの顔面が爆発した。


「ニャハハ、引っかかったニャ!」


 リンドブルムの自爆を見て笑ったのはミオだ。


 ミオはこっそり<謎神移動ムーブオブメジェド>で接近して<運命神罠トラップオブノルン>でリンドブルムの顔の前に罠を仕掛けていたらしい。


 開戦の一撃を喰らわせようとしたつもりが自分で喰らってしまい、リンドブルムはムッとした表情になっていた。


 <百万雨槍ミリオンランス>で反撃しようとしたが、死角からフィアの<天空神翼ウィングオブホルス>を受けて怯んでしまう。


『耐えてみせよ』


 ドライザーは<英雄神力パワーオブヘラクレス>で強化した状態で<闘仙グレートバトラー>を活かした拳を放つ。


「へぶっ!?」


 ドライザーの拳がクリーンヒットしたことにより、リンドブルムはダウンした。


 ダウンした相手が立ち上がるまで待つような藍大達ではない。


『お肉確保~!』


 リルがそろそろ頃合いだと<雪女神罰パニッシュオブスカジ>でリンドブルムを急速冷凍すれば戦闘は終わった。


『おめでとうございます。リルがアビリティ:<雪女神罰パニッシュオブスカジ>を使い続けたことにより、スカジが完全復活しました』


『報酬としてリルに称号”スカジの感謝”が贈られます』


 (リルが食材の冷凍保存にガンガン使ってたからなぁ)


 藍大は伊邪那美のアナウンスを聞いて納得した。


 折角リル達が頑張ってくれたのに労いの言葉をかけないのは主人としていかがなものかと思い、スカジ復活については一旦置いといてリル達を労う。


「みんなよくやった。リンドブルムもきっと満足したに違いない」


『ワフン、僕達もお肉がゲットできて満足したよ』


「満足したニャ」


『お肉がゲットできてうれしいの』


『拳で戦うのも悪くない』


 食いしん坊ズはリンドブルムの肉を丸々確保できたことに喜び、ドライザーはラストリゾートを使わない戦いもありだとご機嫌な様子だった。


 それから、藍大は改めてリルの頭を撫でる。


「リルのおかげでスカジ様が完全復活したらしいぞ」


『ワフン、”スカジの感謝”のおかげで冷凍技術が向上したよ。冷凍保存は僕にお任せだね』


「よしよし。リルはブレないな」


「クゥ~ン♪」


 藍大にわしゃわしゃと撫でられてリルは嬉しそうに鳴いた。


 ”スカジの感謝”はリルに<雪女神罰パニッシュオブスカジ>の熟練度を上げるだけでなく、氷や雪による一切のダメージがリルに入らなくなる効果があった。


『主君、リンドブルムの解体は我に任せてもらいたいのだ』


 藍大達はブラドが自分で余すところなく解体したいと言い出したため、この場で解体せずにシャングリラダンジョン地下19階を脱出した。

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