第775話 なんかこう、ミオちゃんって感じがしたから手を伸ばしてみたの

 夢から醒めて起きた藍大達は朝食を取りつつ、今後の方針について共有を始めた。


「とりあえず、5月末に月のダンジョンに挑むのは確定だ。それまでに現在存在が確認できてる神々の力を少しでも多く借りておきたい。手始めに四神獣が力を借りてる神々を復活させようと思う」


「質問があるのだ」


「どうしたブラド?」


「吾輩のダンジョンで四神獣が神の名を冠するアビリティを使っても回復は遅いのであるか?」


「Lv100の雑魚モブ相手でも一撃で片付くことはある。神の名を冠するアビリティは強いからどうしても使用頻度が限られるんだ」


 藍大の回答を聞いて少しの間だけ黙って考えた後、ブラドは次のアクションを決めたようだ。


「・・・そうか、吾輩はシャングリラダンジョン地下19階層の増築を進めるのだ。ちょっとやそっとじゃクリアできない難易度に仕上げてみせるから覚悟するのである」


『ワフン、楽しみに待ってるね』


「今度こそ宝箱を守り抜いてみせるのだ」


 リルとブラドが絶対に負けられない戦いがそこにあると言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。


 ブラドの力を借りるのもそうだけれど、藍大も藍大で対策を考えていたので口にすることにした。


「今日は四神獣に地下神域で鬼ごっこをしてもらおうと思う」


「藍大よ、遊んでる時間はなかろう?」


「話は最後まで聞くものだぜ伊邪那美様。この鬼ごっこは致命傷になりかねない攻撃の使用禁止以外なんでもありとする」


「なるほどのう。実力者同士の鬼ごっこならば自然と神の名を冠するアビリティも使用頻度が増えるという考えなのじゃな?」


「正解」


 藍大がその通りだと頷いたところでリルがピクッと反応した。


『ご主人、誰が鬼をやるの? それとどこからどこまでがフィールドか決めないと僕は捕まらない自信があるよ?』


「直方体のゾーンを設けてその中で1時間鬼ごっこをしてもらう。最初の鬼はそうだな、舞にお願いしようか」


「は~い。そうだ、レギンレイヴMk-IIを使っても良いかな?」


「OK」


 舞がパワーアップしたレギンレイヴMk-IIに乗ると聞いて反応が分かれた。


『僕はレギンレイヴMk-IIには負けないよ』


『フィアはママが乗り物に乗っても逃げきってみせるもん』


「ニャア・・・。乗り物は狡いのニャ」


「ミオは逃げるのが得意なアビリティが多いだろ? リルも素早いしドライザーとフィアは空を飛べるんだ。舞にハンデがあっても良いだろ?」


「むぅ、そう言われるとハンデがないと舞がちょっとキツそうニャ。わかったニャ。ハンデを認めるのニャ」


 ミオが納得したので舞はレギンレイヴMk-IIに乗って鬼ごっこに参加することになった。


 食休みを終えてドライザーを呼んでから藍大達は地下神域に移動した。


 鬼ごっこのフィールドは縦×横×高さが50m×50m×10mとして、舞と四神獣が伊邪那美の張った結界の中に閉じ込められた。


 そのすぐ近くに実況と解説、審判が座る席が用意されており、それぞれ伊邪那美と藍大、サクラが座っている。


 伊邪那美が審判席ではなく実況席に座る理由だが、サクラの方が戦闘力で勝るから微妙なラインのジャッジもサクラに任せた方が良いという判断だ。


 ちなみに、審判のサクラは動画撮影も兼任することになっている。


 それでも伊邪那美にただ見ていてもらうのはどうかと思ったため、ノリと勢いで実況を任せるに至った。


 解説は参加者達をよく知る藍大一択だ。


 それはさておき、鬼の舞がフィールドの中央でレギンレイヴMk-IIに跨っている。


 スピリチュアルフレームと合成されたことで変形機能が加わったレギンレイヴMk-IIだが、スレイプニルの姿に変形できるようになった。


 スレイプニル以外にも変形の選択肢はあったけれど、舞がスレイプニルにしてほしいとドライザーに頼んでそのようになったのだ。


 舞ならばフェンリルの姿に変形してほしいと思う者もいるかもしれないが、舞はメカメカしいフェンリルに乗るならば本物のリルに乗ると言った。


 リルは舞の言葉に喜んだし、ドライザーも舞がそれで良いなら自分に異論はないとスレイプニルに変形できるレギンレイヴMk-Ⅱに改良したのである。


「準備は良い?」


「いつでも良いよ~」


『大丈夫!』


『問題ない』


「かかって来いニャ!」


『フィアも良いよ~』


 サクラは準備ができたか確認したところ、参加者全員から準備はばっちりだという回答を得た。


「わかった。よーいドン」


 サクラが開始の合図と同時に録画を始めた。


 真っ先に神の名を冠するアビリティを使ったのはミオだった。


「全力で逃げるのニャ!」


 ミオは<猫神悪戯トリックオブバステト>でフィールド内に迷路の幻影を生み出し、<運命神罠トラップオブノルン>で罠をびっしりと配置したのだ。


 ミオの全力の逃亡に対して舞の戦闘モードのスイッチが入っていた。


「ヒャッハァァァァァッ! 幻影なんて打ち砕いてやるぜぇぇぇぇぇ!」


 舞がミョルニルを投げて罠を次々に破壊し、その爆発で幻影が崩れてできた穴をレギンレイヴMk-Ⅱに乗って進んで行く。


 自分に近づくにつれて罠の数を増やしていたミオの思考を直感で探り当て、舞はどんどんミオとの距離を縮めていく。


「妾、ダイエットしたくても舞だけには追われたくないのじゃ」


「舞の直感って地味に鋭いんだよな。ミオは<謎神移動ムーブオブメジェド>まで使ってるけど距離がまた詰まってる」


「ここだぁ!」


 ミョルニルを投げつけることはせず、舞は一見何もない辺りをガバッと抱き締めた。


「嘘ニャ!? なんでバレたニャ!?」


 ミオが信じられないものを見る表情で姿を現した。


 舞に捕まって<謎神移動ムーブオブメジェド>を解除したから、姿が見えるようになったのだ。


 ミオの疑問に舞はニコニコしながら答える。


「なんかこう、ミオちゃんって感じがしたから手を伸ばしてみたの」


「無茶苦茶なのニャ・・・」


 ミオが落ち込んでいる内に舞はミオを解放してその場から逃げた。


 鬼はミオにチェンジしており、落ち込んでいる場合じゃないと気持ちを切り替えるしかなかった。


「すぐに誰かに鬼になってもらうのニャ!」


 ミオは再び<猫神悪戯トリックオブバステト>と<運命神罠トラップオブノルン>を発動して迷路の幻影の難易度を上げた。


 自分の移動速度や移動できる範囲が他の参加者に劣るならば、ミオは策を練って他の参加者との距離を詰める作戦だ。


「解説の藍大よ、ミオは誰を狙うじゃろうか?」


「実況の伊邪那美様、ミオはフィアを狙うと思うぞ」


「属性の相性の問題かの?」


「それもあるけどミオはフィアと仲良しだから行動パターンを予測しやすいんだ」


「ふむ。どうやらそのようじゃな」


 藍大達が見守る中、ミオは<火神応援エールオブアグニ>で強化して<天空神翼ウィングオブホルス>を使ったフィアを追い詰めていく。


「捕まえたニャ!」


『むぅ。捕まっちゃった』


 <猫神悪戯トリックオブバステト>と<運命神罠トラップオブノルン>でフィアをフィールドの隅に追い詰め、ミオがフィアを捕まえて鬼が代わった。


「ニャハハハハ! さらばニャ!」


 ミオは高笑いしてからその場を去った。


「解説の藍大よ、フィアが狙うなら誰じゃ?」


「実況の伊邪那美様、フィアは意外とドライザーを狙うはずだ」


「どうしてそう考えたのか教えてほしいぞよ」


「ドライザーを確実に捕まえる方法があるんだ。詳しくは実際に見て確かめてくれ」


 そう言われてしまえば伊邪那美はフィアに注目するしかない。


 藍大がネタバレをしない以上、実際に目で見て確かめるしかないからである。


 注目されているフィアは天井スレスレの高さまで上昇してドライザーを呼ぶ。


『ドライザー、フィアと勝負しようよ!』


『受けて立つ』


「・・・なんで鬼ごっこなのにわざわざ自分の居場所を明かして勝負を受けるんじゃ。ドライザーはお馬鹿なのじゃ」


「それは違うぞ伊邪那美様。ドライザーは武人的な一面もあって仕掛けられた勝負から逃げたくないんだ」


「フィアの作戦勝ちってことじゃな」


「そーいうこと」


 フィアと向かい合うドライザーを見て伊邪那美はなんでそうするのかと疑問に思ったが、藍大の解説を聞いて納得した。


 フィアが挑んだ勝負は<火神応援エールオブアグニ>で強化した状態で自分が<天空神翼ウィングオブホルス>で突撃するのをドライザーが受け止められるかどうかだ。


 ぶっちゃけ、フィアがドライザーに触れた瞬間に鬼ごっこのルールでは鬼がドライザーになるからフィアの勝負はただの口実である。


 ドライザーはフィアに触れられて鬼になった。


 鬼になったドライザーは予想外なことにリルを狙った。


 普通に追いかけても追いつけないから、ドライザーは真奈の名前を口にしてリルの足を止めようとした。


 ところが、リルはドライザーが真奈と口にした瞬間に<風神狼魂ソウルオブリル>でドライザーが何を言っているか自分に聞こえないように遮った。


 結局、その攻防をしている最中に時間切れとなり、ドライザーが鬼のまま鬼ごっこは終了となった。


「この1時間だけでも神の名を冠するアビリティが普段よりも使われたのじゃ。藍大の対策はばっちりだったのじゃ」


「ドヤァ」


「ドヤ顔の主、いただきました」


 伊邪那美に褒められてドヤ顔の藍大をちゃっかり撮影していたサクラだった。

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