第774話 サクラさんや、いきなり砲艦外交は飛ばし過ぎじゃないか?

 5月7日の未明、藍大は舞とサクラ、リルと一緒に夢の神域に来ていた。


「良かった。ちゃんとサクラも一緒だな」


「ここが夢の神域。ようやく来れた」


「サクラもちゃんと神になったんじゃから呼ばぬはずがないであろう」


「あっ、伊邪那美様だ」


「家にいる時よりも伊邪那美様は自信満々だね」


「うっ、余計なことに気づかなくても良いのじゃ。とりあえず、妾はこの神域のトップだからいじるのは控えてほしいのじゃ」


 サクラは伊邪那美が家にいる時よりも神っぽく振舞っているのを見て違和感を覚えた。


 それを口に出された伊邪那美は他所の神様の前ではいじらないでくれと頼んだ。


『伊邪那美様、どうせボロが出ちゃうんだし演じなくて良いよ』


「リル君の言う通りだよ。伊邪那美様が食いしん坊なのは隠せないもん」


「リルも舞も止めてほしいのじゃ。妾のできる女神像が崩れてしまうのじゃ」


「できる女神? ・・・どこにいるの?」


「そこまで不思議そうにしなくても良いではないか!」


 サクラができる女神は何処にいるんだと探す素振りを見せたことにに対し、伊邪那美が言外に自分を無視するなと抗議する。


 まだ他の神が来ない内に藍大は少し真面目な話をすることにした。


「伊邪那美様、今日ここに呼ばれたのはサクラの顔見せのため?」


「それもあるがデウス=エクス=マキナ様の話を海外の神々にも共有しておこうと思ってな」


「あぁ、マキナ様と会ったのって昨日だったな」


「昨日もかなり濃密な1日じゃったからのう。でも、それを忘れちゃいかんのじゃ」


「そうだな。悪かった」


 昨日はデウス=エクス=マキナとの邂逅以外にも櫛名田比売が完全復活し、ペレをシャングリラに連れ帰り、サクラは”円満具足の女神”になる等イベントが盛り沢山だった。


 ここまで濃い1日を過ごしたのなら、どれを海外の神々と話すのかわからなくなっても仕方あるまい。


 藍大が伊邪那美と共有事項を確認し終えた辺りで海外の神々が集まって来た。


 オルクスとガネーシャ以外に眼帯にツナギという服装の筋肉質な男神が現れた。


 他の着ぐるみスタイルの神々の中に隻眼のゴリラがいなかったことから、男神はヘパイストスであることがわかった。


 ヘパイストスは藍大達の方を向くとニヤリと笑った。


「よう。この姿で会うのは初めてだな。儂はヘパイストスだ」


「復活おめでとう、ヘパイストス様」


「おう。ありがとな。お前さんとこのドライザーが神器のレプリカを作ってくれたおかげで力の戻りが早かったぜ」


 ドライザーは2ヶ月前に舞と司にそれぞれ神器のレプリカを作った。


 それは<鍛冶神祝ブレスオブヘパイストス>を用いて行われたため、ヘパイストスは一気に力を取り戻せたらしい。


「く、悔しい。俺が次に完全復活すると思ったのに」


『ロキ様の復活はもっと先だよ』


「そんなことを言わないでくれよリル~。お父さんとリルの仲だろう?」


『仲良しじゃないから馴れ馴れしくしないでね』


「塩対応! お父さん悲しい!」


『・・・』


「はい、すみません」


 リルにジト目を向けられたロキは謝っておとなしく席に着いた。


 トールが以前使っていた全ての神器を装備した舞を見れば、引き際をミスした時の自分がどうなるか想像に難くない。


 これ以上ふざけたら舞にお仕置きされると悟っておとなしくなったのだ。


「さて、ロキが黙ったことじゃし会合を始めるのじゃ。まずはサクラから自己紹介するのじゃ」


「逢魔サクラ。主の第二夫人にして”円満具足の女神”。主や家族に余計な真似をしたら天罰が下るから気を付けてね」


 (サクラさんや、いきなり砲艦外交は飛ばし過ぎじゃないか?)


 サクラが微笑みながらとんでもない自己紹介をしたので藍大は心の中で苦笑した。


 参加者一同の視線は真っ先にロキに集まった。


「待ってくれ! 俺は何もやってないぞ!」


ってことは今後やらかすかもしれないんだな」


「そもそもロキですから信用なりません」


「怪しいのニャ」


 ロキは誰からも信用されていなかった。


 どう考えても普段の言動のせいだから自業自得である。


「まあ余計なことをしなければサクラが報復することはないから安心するのじゃ。早速じゃが、今日妾がお主達を呼び出した理由を話すのじゃ。ライトな理由とヘビーな理由のどっちからが良いかのう?」


「ライトな方でよろしくー」


 伊邪那美の問いかけに真っ先に応じたのはセドナだった。


 他の神々もセドナの意見にわざわざ反論しなかったから伊邪那美は頷いた。


「ふむ。ではライトな方じゃが日本の陣営に変化があったのじゃ。昨日、櫛名田比売が完全復活してH島のペレを保護したのじゃ」


「全然ライトじゃないんだな」


「儂等にとっちゃ十分ヘビーなニュースなんだが」


「伊邪那美はライトの定義を辞書で引くべきニャ」


 ガネーシャとヘパイストス、バステトの顔が引きつっていた。


 オルクスとセドナに至っては口をポカンと開けている。


 その一方、ロキは特に驚いていないのかニヤニヤしている。


「なんじゃロキ。お主はそんなに驚いておらぬようじゃの」


「トールの神器を全て集めちゃうような藍大達だぜ? それぐらい1日で成し遂げたっておかしくないだろ」


「ついでに言えば、私が神になったのも昨日」


「・・・驚いてないぞ。うん、驚いてない」


 サクラの補足を聞いてロキはピクッと反応したが、それでもどうにか堪えてみせた。


 ロキはいくつになっても余裕ぶりたい少年生意気なガキの心を忘れていないようだ。


「ふむ、それならヘビーな方を話しても驚かぬかもしれぬな。実は、昨日の未明に藍大と舞、リルが創世神デウス=エクス=マキナ様にお会いしたそうじゃ」


「試されてるんだ! 俺は伊邪那美達に試されてるんだ!」


 伊邪那美がサラッと言った信じ難い事実を聞き、ロキはどうやったのか自分に向けて集中線を出す演出と一緒に大きな声を出した。


 ロキ以外の外国の神々は揃って口をポカンと開けている。


 どの神の頭も伊邪那美の発言を受け入れられていないらしい。


 藍大はデウス=エクス=マキナから聞いた話を口にする。


「サクラが運命を操れるのはマキナ様のおかげだ。その力はマキナ様の力の一部らしい」


「やだー。絶対逆らえないじゃん」


「まだ逆らう気あったんだ。メテオいっとく?」


「逆らわないのでメテオは止めていただきたい!」


 軽いノリでサクラに隕石を落とされては堪ったものではないからロキは素直に謝った。


 もしも自分のせいで国に隕石が落とされたなんて他の北欧神話の神々に知られれば、自分の立場は完全になくなってしまうのでそれはもう必死である。


 なんだかんだで憎めない奴というのが自分の評価だと思っているけれど、自分のせいで隕石を落とされたら完全に悪神扱いされてしまう。


 そんな事態だけは避けたいというのがロキの本音だ。


「マキナ様から聞いた話なんだけど、5月末までに月にあるダンジョンで邪神を倒さないとスタンピードが起きて月が壊れるかもしれないってさ」


「訂正するんだな。さっきの報告は今聞いた話と比べれば全然ライトだったんだな」


「月が壊れたら地球もただじゃ済まねえぞ?」


「時間も地球上の生命も大変なことになるニャ」


「想像を絶する程ヤバいですね」


「マジでヤバいねー」


 ガネーシャ達は藍大が知らせた情報によって顔面が真っ青になった。


 自分達を祀る人間達には月のダンジョンをどうにかする実力がなく、現状で頼れるのは藍大達だけだ。


 今まではスタンピードや”大災厄”、”邪神代行者”から自分の管轄の国を守る手助けをするだけで良かった。


 それが今回は地球全体に大きな影響が出る大勝負を藍大達だけに任せなければならないと知れば、神々の顔面が蒼白になってしまうのも頷ける。


 騒がしいロキがおとなしくしていることがこのままだと本当に不味いのだと強調している。


「デウス=エクス=マキナ様から藍大達にアドバイスがあったのじゃ。時間の許す限り藍大達は神々から力を借りておいた方が良いと言われたらしい」


「勿論力を貸すんだな」


「当然だな。協力は惜しまねえ」


「手伝わないはずないニャ」


「できることがあれば些細なことでも言って下さい」


「同じくー」


「俺もおふざけなしで手伝うぜ」


 (それが一番ありがたいかも)


 ロキは力を持った神だ。


 ロキがふざけることなく力を貸してくれるならば、藍大達に取って間違いなくプラスである。


 神々から協力をしてもらえることが決まると、藍大達は目覚めるまでの間にどうやって神々の協力を得るか相談するのだった。

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