第773話 主、これでお揃いだね

 リルの<時空神力パワーオブクロノス>でH島にやって来た藍大達はペレがいるらしい火山に到着した。


『暑~い。ご主人、火山を凍らせちゃ駄目かな?』


「気持ちはわかるけど止めような。ペレ様をさっさと見つけて帰ろう」


『わかった。ご主人、あっちからペレ様の気配がするよ』


 <雪女神罰パニッシュオブスカジ>で凍らせれば快適だと思ったリルだけれど、藍大にそれは駄目だと言われれば強行しようとはしない。


 すぐにペレを見つけて快適なシャングリラに帰る第二のプランに切り替えたようだ。


 リルの案内で火山を急いで進んだところ、藍大と舞も火口からペレの気配を感じ取れるようになった。


「この中に飛び込まなきゃならんのか」


「暑そうだね~」


「主、やっぱり火山ごと凍らせちゃってもいいんじゃない?」


「コラコラ。ここまで来たんだからもうちょっとだけ我慢しよう。な?」


「は~い」


 サクラもリルと同じく火山を凍らせてしまえと過激なことを言うものだから、藍大は早まるんじゃないとサクラを落ち着かせる。


 その代わりに藍大はゲンの力を借りて<可変氷楯バリアブルイージス>を発動し、氷の楯を自分達の近くに設置することで周囲の気温が適温になるようにコントロールした。


「藍大賢~い」


「流石は主。尊敬する」


『ご主人は天才だね!』


 氷の楯だけで大袈裟なと思うかもしれないが、いつも過ごしやすい場所で暮らしていれば火山なんてとてもではないが耐えられないはずだ。


 シャングリラでの生活に慣れてしまったことが原因だろう。


 もっとも、藍大達ならば過ごしにくい環境でもアビリティでどうにかできてしまうのだが。


 気温の調整が済んだところで藍大達はサクラの<十億透腕ビリオンアームズ>に守られながら火口の中に飛び込んだ。


 溶岩に触れるかどうかという瞬間に藍大達の体は光に包み込まれた。


 白い空間の中で花の冠を被って炎のドレスを身に纏うペレの姿はある意味幻想的だが、ペレの表情はとても歓迎しているとは言えないものだった。


 そもそも、火口にダイブなんて人生においてまず起こり得ない事態だろう。


 そんな体験をさせることで自分に気づかずに帰ってしまった藍大達にちょっとした仕返しをしようとしていたペレだったが、藍大達がケロッとした表情で自分の前に現れたことでムッとしていたのだ。


「ちょっとあんた達、どうして平然と火口にダイブできるのよ!」


「その気になれば火山なんてどうとでもできるから?」


「壊そうと思えば壊せるもん」


「運命を操作するまでもなく対処できる」


『いざとなったら凍らせちゃうからだね』


 藍大達の答えを聞いてペレはがっくり来てしまった。


 自分の仕返しが全く通じていなかったとわかればその反応になるのも無理もない。


「なんなのよもう!」


「何と言われれば”魔神”だけど何か?」


「”戦神”だよ?」


「”色欲の女帝”だけど文句ある?」


『”風神獣”だね』


「何よそれ!? とんでもない集団じゃないの!」


 自分の前に現れた藍大達がドリームチームと呼んでも過言ではなかったため、ペレは驚かずにはいられなかった。


「前回H島に来た時は気づけずに帰っちゃったけど、今日はちゃんとペレ様を迎えに来たんだ」


「べ、別に迎えに来てって頼んでなんかないんだからね!」


「ゴルゴンちゃんみたいだね」


「ツンデレキャラは間に合ってる」


『これでペレ様が炎を操ってたらモロ被りだったね』


 ツンデレムーブするペレに対し、舞達がゴルゴンと被っている印象を抱いたのは仕方あるまい。


 リルの言う通り、もしもペレが火山の神ではなく火の神だったら完全にゴルゴンにキャラを喰われていただろう。


「ゴルゴンって誰よ! 私は私よ!」


「ペレ様落ち着いて。弱ってるんだから怒って無駄に力を使ったら不味いって」


「・・・ふぅ。そうね、そうだったわ」


 自分がかなり弱っていることを思い出したため、ペレは大きく息を吸ってから吐いて気持ちを落ち着かせた。


 ペレが落ち着けば藍大達の目的を伝えることも容易になる。


「ペレ様、俺達と一緒に来てくれないか? 力を失った神様達も俺達の地下神域で療養して復活したんだ」


「そんな神域があるのね。でも、私を宿せるような物を持ってるの? 自慢じゃないけど私がこの神域をキープできるのは残り僅かな日にちってところまで力がなくなってるわ」


「そんなこともあろうかと、ドライザーが作ったこれを持って来たんだ」


 心配そうなペレを安心させるべく、藍大は収納リュックからとある物を取り出した。


 それは粘土で作られたフラガールを模ったトロフィーである。


「粘土でできたトロフィーかしら?」


「ただの粘土じゃない。マディヴァルキリーの泥を配合した特別な粘土で作ったトロフィーだ。これに宿れば地下神域に着いた時、肌の荒れが改善されること間違いなしって優れものだ」


「すぐに移動するわよ!」


 藍大の説明を聞いた途端、ペレがトロフィーに宿った。


 今までは誰もいない火山で独りぼっちだったけれど、これから先は他の神々がいる神域に同居させてもらうことになる。


 それならば、自分の容姿が少しでも良くなった状態で同居を始めたいと思うのが女心なのだろう。


 ちなみに、マディヴァルキリーの泥を使ってフラガールのトロフィーを作ったのは藍大の指示ではなくドライザーのフィーリングによるものだ。


 藍大はそれがいずれ役に立つ時が来るかもしれないと思って取っておいたのだが、その機会は思ったよりも早く来たらしい。


 ペレがトロフィーに宿ったことにより、神域が解除されて藍大達は火山の火口の中に放り出されることになる。


 しかし、サクラが<十億透腕ビリオンアームズ>で高度を保っている間にリルが<時空神力パワーオブクロノス>を使うことで藍大達はシャングリラの地下神域に戻って来た。


『おめでとうございます。逢魔藍大は国から忘れ去られた神を保護しました』


『報酬としてリセットスクロールが収納リュックに送られます』


 (リセットスクロールって何?)


 藍大は伊邪那美のアナウンスが告げたリセットスクロールというアイテムがどんな物か気になってすぐに収納リュックから取り出した。


「リル、鑑定してくれ」


『ちょっと待っててね。・・・すごいよご主人。この巻物は使い捨てなんだけど、使い捨ての物や壊れた物、クールタイム中の物を思い浮かべて使えば一度だけ元通りになるんだって』


「何それすごい」


 リルの鑑定結果を聞いて藍大はリセットスクロールをじっと見つめた。


 一体何に使おうかと考えているとサクラがリセットスクロールを持つ藍大の手を握る。


「主、私を神にして」


「なるほど。神化の杯のクールタイムをリセットするのに使えるか」


「うん。私も神になりたい。自己紹介する時に仲間外れは嫌」


 サクラの言い分は藍大も気にしていたことなので頷いた。


「わかった。これは神化の杯に使おう」


 藍大はそう言ってリセットスクロールを神化の杯に使った。


 それによってクールタイムがリセットされ、サクラが手に持つ杯の中に赤ワインのような液体が湧き出た。


「私は神になる」


 サクラが覚悟を決めて杯の中身を一気に飲み干した直後、その体が雷光に包まれる。


 舞の時は雷光を気合の入った言葉で消し飛ばしたが、サクラは静かに雷光を打ち消した。


『逢魔サクラの称号”死生有命の反逆者”が神化の杯によって称号”円満具足の女神”に上書きされました』


 無事に神化を済ませたサクラは満面の笑みを浮かべて藍大に抱き着く。


「主、これでお揃いだね」


「よしよし。愛い奴め」


 藍大はサクラを抱き締め返してからその頭を撫でた。


「サクラ~、おめでと~」


『おめでとう! サクラも僕達と一緒で神様だね!』


「ありがとう」


 サクラは祝ってくれた舞とリルにお礼を言った。


 円満具足の女神になった今、舞とリルに抱いていた嫉妬の感情はきれいさっぱりなくなっており、サクラはとてもスッキリした気分になった。


 もう声をかけても良いだろうと思ったらしく、伊邪那美が姿を現した。


「サクラ、お主も神になれて良かったのじゃ」


「ありがとう、伊邪那美様。今後から神様の会合には私も呼んでね」


「勿論なのじゃ」


「これで主の邪魔をしようとする神様がいたらその場で擂り潰せる」


「藍大、サクラが笑顔でとんでもないことを言っておるぞ!?」


「いつも通りじゃね?」


 慌てる伊邪那美に対して藍大は何を今更と落ち着いたまま応じた。


 よくよく考えたら藍大の敵に対するサクラの姿勢は一貫しているので、伊邪那美も確かにいつも通りだと納得した。


「それはそうとペレはなんでトロフィーから出て来ないのじゃ?」


『私、あんた達に負けない美肌になるまでトロフィーの中で自分を磨くわ!』


「そんな前向きに引き籠られるとは思ってなかったのじゃ」


 ペレの予想外な言い分を聞いて伊邪那美の顔が引き攣った。


 ペレの意思は固かったため、藍大達はトロフィーに憑依したペレを神社の宝物庫に置いて地上に戻った。

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