【Web版】大家さん、従魔士に覚醒したってよ(書籍タイトル:俺のアパートがダンジョンになったので、最強モンスターを従えて楽々攻略 大家さん、従魔士に覚醒したってよ)
第768話 逢魔家の子供になれたらこんな料理が毎日食べられるんですね
第768話 逢魔家の子供になれたらこんな料理が毎日食べられるんですね
雑食帝の出汁巻き卵による布教の次は手巻き寿司のセットが映し出された。
ネタは新鮮な刺身以外にツナマヨ、マヨコーン、胡瓜、干瓢、ローストされた何かの肉等多種多様だった。
出汁巻き卵が雑食帝の作った料理だったことから、誰が何を作ってもおかしくないという雰囲気が食堂を支配している。
その空気の中で立ち上がったのは真奈だった。
「次は私の番です。ご覧の通り、手巻き寿司を紹介をさせていただきます」
雑食帝と同レベル帯の変人である真奈にしては普通の料理じゃないかと参加者達は安堵した。
手巻き寿司は準備や片付けが大変ではあるものの、絶妙な火加減が求められるとかそういったことはない。
用意されたネタを海苔と酢飯と一緒に巻けば完成という点で作るのは難しくないし、家族で一緒に作れば盛り上がれる料理と言えよう。
だがちょっと待ってほしい。
真奈は調教士でその従魔達は基本的に四足歩行だ。
つまり、前脚が手のように繊細に動かせない。
ガルフ達が手巻き寿司を作るにはサクラの<
藍大が知る限り、真奈の従魔達にそのようなアビリティを会得しているものはいない。
そこまで思考が到達した時点で藍大は戦慄した。
(真奈さん、作ってあげた上で自分からあ~んさせてるのか)
手巻き寿司を食べられる状態にできるのが真奈だけである以上、作った手巻き寿司をわざわざ皿の上に置いて食べて良いよと言うなんて真似を真奈がするはずない。
当然、真奈が直接ガルフ達に食べさせるのだから、食事の世話ができてあわよくばモフれる手巻き寿司は彼女にとって自分の欲望を叶える料理なのだろう。
真奈はどうして自分が手巻き寿司を紹介したいのか藍大が悟ったと察してニコリと笑った。
「既にお気づきの方もいらっしゃるようですが、調教士がテイムするモンスターは獣型モンスターです。獣型モンスターは基本的に四足歩行ですので、自分で手巻き寿司を作れません。後はもうおわかりになりますよね?」
「真奈さん、貴女という人は・・・」
「これは少佐。まごうことなき少佐」
『ハッハッハ! SUSHIはモフラーにとって素晴らしい食べ物じゃないか!』
『本家は違いますねぇ』
『一部でモフデモート卿なんて呼ばれてるだけはありますね』
国内外の参加者達から称賛と呆れを含む視線を集めた真奈だった。
「今日はリルがいなくて良かったわねっ」
「その通りです。今の話を聞いたらリルは尻尾を股下にしまい込むに決まってます」
『↓↓↓クゥ(o´・ェ・`o)-ン↓↓↓』
仲良しトリオはこの場にリルがいなくて本当に良かったと言い合っていた。
これだけでも藍大の同行メンバーが1日目と2日目で違って良かったのかもしれない。
藍大がスライドを次のページに進めてみたところ、動画が埋め込まれていたので再生してみた。
その結果、藍大が予想した通りに笑顔でガルフ達に手巻き寿司を食べさせ、隙あらばモフる真奈の動画が放映された。
これには乾いた笑みしか浮かばない。
雑食帝と真奈が続くだけでこれだけ内容がヘビーになるのだから恐ろしい。
真奈の後は普通の料理ばかりであり、強烈なインパクトを残すような参加者はいなかった。
参加者同士の料理紹介が終われば食堂に移動し、藍大が参加者達のレパートリーを増やすべく実演の時間が始まる。
「マスターの料理教室の始まりなんだからねっ」
「メモの準備は良いですか!?」
『(≧∇≦)テレテッテッテッテッテ!』
仲良しトリオは藍大の出番が来たのでテンションが高いようだ。
「最初に注意事項ですが、料理番組あるあるなこちらに○○を用意しておきましたって展開はありませんのでそのつもりでいて下さい」
3分クッキングではないと前置きするのは大事である。
あれはあくまで放映時間が3分間に限られているだけで、実際の調理時間は3分以上かかっている。
うっかり3分でできると思われないように事前に伝えるのは期待値を不用意に挙げないテクニックなのだ。
参加者達が頷いたのを確認してから藍大は話を続ける。
「皆さんは従魔達に料理を作る時、簡単かつ大量に作れればと思ったことはありませんか?」
「「「・・・『『あります』』・・・」」」
藍大の問いかけに参加者達はよくそんなことを考えるとしきりに頷いた。
特に従魔が多い参加者ほど頷き方が必死な傾向にある。
「そうですね。我が家も食いしん坊ズがいっぱい食べるので、凝った料理だけ作ろうとするとどうしても足りなくなってしまうんです。そこで手を出したのが簡単かつ大量に作れる料理という訳です」
その説明を受けて参加者達はそうでしょうねと苦笑しながら頷いた。
逢魔家は大食いが多いから作るのが大変ということは”楽園の守り人”のホームページに投稿される料理の写真のボリュームを見れば明らかだ。
それでも家族を満足させられる藍大の料理の手腕を盗める物なら盗みたいと思うのはテイマー系冒険者として当然の真理だと言えよう。
「今日紹介する料理はマッシュポテトを使ったミートソースグラタンです」
「これ美味しいやつなのよっ」
「私も好きです!」
『(○σ・v・)σみんな好きでFA』
仲良しトリオの相槌が参加者達の興味を引く。
「オーブントースターでもレンジでもできます。我が家ではミスリルレンジを使ってますので、本日はレンジ版を紹介します」
しれっとミスリル製調理器具を使っているという情報が飛び出たのはさておき、レンジでもできると聞いて前向きになった参加者が増えた。
良い傾向だと微笑みながら藍大は手順を実演しながら説明し始める。
参加者達にも同時に作ってもらうから気持ちゆっくりだ。
「じゃがいもは洗って1つづつラップに包み、柔らかくなるまでレンジで3,4分加熱しましょう」
藍大の手際は素早くて無駄がなく、基本的なことしかしていないにもかかわらず注目を浴びた。
「魔神様クオリティ半端ないです」
「毎日食いしん坊ズの食べる分以上に料理を作ってるだけありますね」
「「「・・・『『さすまじ』』・・・」」」
「ありがとうございます。次はじゃがいもの皮をむいてポリ袋の中で潰します。それからオリーブオイルと塩コショウを加えて軽く味付けです。余談ですが、マッシュする作業は協力できる従魔もそこそこいると思いますので一緒にやってみて下さい。一緒に料理をすれば今まで以上に仲良くなれるかもしれません」
手順の後に追加された情報を聞いてしっかりメモする者達は従魔と仲良くなるタイミングは逃さないとやる気満々なようだ。
「耐熱皿にマッシュポテトを敷き詰めてミートソースをかけます。逢魔家は自家製ですが、市販の缶詰でもOKです。それから溶けるチーズをかけ、表面がこんがりするまで温めます」
良い匂いが厨房に広がってからチンと音が鳴り、藍大はレンジを空けて耐熱皿を取り出した。
「もはや暴力的なまでに美味しそうな匂いです」
「あっ、これ絶対美味しいやつです」
「逢魔家の子供になれたらこんな料理が毎日食べられるんですね」
『うぅ、お腹が空いてきました』
『魔神メシがあれば泣く子も黙るでしょうね』
参加者達は試食する前から匂いで既に美味しいに違いないと評価していた。
そんな中でもやはり藍大の作ったグラタンは一際美味しそうだと感じた。
同じ食材と同じレンジを使ったはずなのにどうして差が出てしまうのだと不思議に思う程である。
実際のところ、藍大が自宅で同じ料理を作ったらもっとレベルの高い物ができる。
今回はDMU本部の厨房にある食材を使わせてもらったが、普段はシャングリラ産の食材やミスリルやユグドラシルの調理器具を使っているのだから当然だ。
「仕上げにはお好みでパセリやバジルをかければ完成です。勿論、かけなくても全く問題ないのでここは皆さんの好み次第です」
マッシュポテトを使ったミートソースグラタンはこれにて完成だ。
食堂に運んだ後、参加者それぞれが従魔を召喚して一緒に食べる。
簡単な調理過程なのに完成度が高かったため、参加者達もその従魔達も全体的に満足のいく結果となった。
午前のプログラムはここで終わり、そのまま昼休憩に突入した。
流石の藍大達も2日目は料理に関する質問希望者が多くて茂の部屋に逃げ込むことはできなかった。
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